井口健二のOn the Production
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2003年02月01日(土) 第32回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 今回は、最初に2つの記者会見の報告から。      
 まず、『ボーン・アイデンティティー』の日本公開に合せ
て主演のマット・デイモンの来日記者会見が行われた。例に
よって、ここでは完成した映画に関する話題は扱わないが、
一応、会見の中で続編についての質問が出ていたので報告し
ておこう。                      
 といってもデイモンの答えは、「契約は1本だけなので、
続編に関しては未定だ」というものだったのだが…。実は、
今回映画化されたロバート・ラドラムの原作『暗殺者』には
2作の続編がある。それぞれ『殺戮のオデッセイ』『最後の
暗殺者』の題名で翻訳もあるようだが、今回の映画化を製作
したユニヴァーサルでは、すでにこれらの続編の映画化権も
契約しており、さらに監督のダグ・リーマンとも、2本の続
編映画化の契約を結んだということだ。そしてもちろん主演
にはマット・デイモンが期待されている。        
 因に、デイモンとリーマンは共にニューヨーク在住という
ことで、その点では共通する部分も持っている感じだが、本
作公開時の監督インタヴューでは、デイモンを絶賛している
部分もあり、デイモンも今回の会見で、最初に「自分が誇れ
る作品」と述べているのだから、これはぜひとも続編を作っ
てもらいたいものだ。                 
        *         *        
 もう一つは、『レッド・ドラゴン』の主演のエドワード・
ノートンと監督のブレット・ラトナー、それにディノ&マー
サ・デ・ラウレンティスのプロデューサー夫妻による記者会
見も行われた。                    
 この会見には、僕は続編のことが聞きたくて、他から質問
が出なければ自分ででもと思って出席したのだが、各人が質
問に丁寧に答えてくれたおかげで、機会を逸してしまった。
ところが、会見の終り近くなって突然ラトナーがアンソニー
・ホプキンスから託されたというメッセージを披露、その中
でホプキンスは、「“Hannibal vs.Godzilla”になら出て
もいい」という意向なのだそうだ。            
 このメッセージは、これだけ聞くとジョークのようにも聞
こえるが、実は前回、ホプキンスも同席して同じ場所で行わ
れた『ハンニバル』の記者会見で、ディノ・デ・ラウレンテ
ィスは、はっきりと「『ハンニバル』の結末でレクターは東
京行きの飛行機に乗っており、東京を舞台にした続編を作り
たい」と言っていたのだ。その際には、「トマス・ハリスの
原作を待っていたら自分の寿命がもたないからオリジナルで
作る」とまで言っていた。               
 ということを考えると、このホプキンスのメッセージは、
日本が舞台の『ハンニバル』の続編になら出演するというメ
ッセージにも聞こえてくる。今回の記者会見では、ノートン
もラトナーも日本びいきであることを強調していたし、これ
はひょっとして、クラリス+グレアムvsハンニバルというの
も面白そうに思えてきた。               
 因にノートンは、自身の監督作品の『僕たちのアナ・バナ
ナ』が出品された2000年の東京国際映画祭の舞台挨拶で、流
暢な日本語を披露して驚かせてくれたが、今回の会見による
と、実は俳優になる以前の12年ほど前に大阪で仕事をしてい
たことがあり、その時には天保山ハーバービレッジの「海遊
館」を作っていたのだそうだ。確か「海遊館」は、アメリカ
のコンサルタント会社に依頼した演出された構成が人気を呼
んだものだが、その関係なのだろうか。         
        *         *        
 さて、ここからはいつもの製作ニュースを紹介しよう。 
 まずは、前回最後に紹介したジョージ・クルーニー製作、
主演、スティーヴン・ソダーバーグ監督による『オーシャン
ズ11』の続編“Ocean's Twelve”の情報で、この続編の撮
影を04年3月に開始して、同年のクリスマスに公開するとい
う計画が発表された。                  
 もちろん製作はクルーニー、監督はソダーバーグで、出演
者には、クルーニーは当然のことブラッド・ピットの参加も
決定、その他の共演者も全員が前作と同じ顔ぶれで揃い、さ
らに新しい12番目の共演者も登場するということだ。
 あのオールスターキャストがまた見られるというのも楽し
みなことだが、実はこの計画、元々の脚本は“Honor Among
Thieves”という題名で、ジョン・ウーの監督作品として2
年程前にワーナーが購入したもの。しかしその後、ウーのス
ケジュールの関係などで実現の可能性が低くなり、それなら
再利用ということで今回の計画になったようだ。     
 なお、ウー監督関係のサイトによると、この作品は、当初
は“King's Ransom”という題名で、ラリー・オニールとい
う脚本家と、『マスク』のミルゼ・ワーブ、『フェイス・オ
フ』のマイクル・コレアリーらが脚本を執筆しており、元々
はチョウ・ユン・ファの主演が予定されていたようだ。  
 そして00年6月に、ワーナーが“Honor Among Thieves”
の題名で映画化権を契約して製作準備を開始、その準備期間
中、共演者にはブラッド・ピットの名前も公表されていた。
しかし昨年の6月、『ウインド・トーカーズ』に続くウー監
督の次回作が“Men in Destiny”に決まったために、ウー
は自分で監督することを諦め、他の監督に任せることになっ
たと発表していた。                   
 ということで、ピットはクルーニーらより先に参加してい
たようで、それなら今回の共演者に名を連ねるのは当然とい
う感じもするが、いずれにしても今回は『オーシャンズ11』
の続編に衣更えということで、脚本にはかなり手が入れられ
ることになりそうだ。そしてその脚本家として“Timeline”
などのジョージ・ノルフィの契約が発表されている。   
 なお、オリジナルの物語は、2人の泥棒が1人の女性に恋
してしまったことから展開するロマンティック・コメディだ
そうで、これをユン・ファとピットの共演でというのは面白
そうだが、さて『オーシャン』の顔ぶれではどのような展開
になるのだろうか。それに12番目の共演者は誰かというのも
気になるところだ。                  
        *         *        
 お次は、製作ニュースとはちょっと違うが、04年、05年の
tentpoleと呼ばれる夏の超大作の公開予定が紹介されていた
の報告しておこう。なお、今回報告するのは04年、05年の作
品で、03年の公開予定ではないのでご注意。       
 まずは04年5月7日の公開予定で、“The Amazing Spider
-Man”。ソニーの昨年の記録的ヒット作の続編は、今年の4
月から撮影開始の予定だ。               
 続いて5月21日にユニヴァーサルの“Van Helsing”。元
祖ヴァンパイアキラーの活躍が、『ハムナプトラ』の監督の
手で甦る。                      
 さらに5月28日にフォックスの“Tomorrow”。『インディ
ペンデス・デイ』のローランド・エメリッヒ監督が、地球温
暖化をテーマに再び地球を壊滅の危機に追い込む。    
 この他、5月最終週のメモリアルデイを含む週末に、パラ
マウントの“Mission: Impossible 3”。トム・クルーズは
今年の年末のワーナー作品“The Last Samurai”に続いての
tentpoleだ。                     
 また、6月中には半年遅れでワーナーの“Harry Potter
and the Prisoner of Azkaban”と、6月18日にドリームワ
ークスの“Shrek 2”も予定されている。         
 一応、学生の休み中の動員を目指す夏向け公開作品だが、
その封切りのタイミングは年々早まって、最近ではほとんど
が5月、6月からの公開になってしまった。それに、特に最
近は5月公開に大ヒット作が生まれる可能性が高いようだ。
 そして05年の予定では、5月のメモリアルデイ前週に、フ
ォックスの“Star Wars: Episode III”。ついにシリーズ
最終作となるのか?                   
 この他、6〜7月に、パラマウントから“Indiana Jones
4”。この作品は、前3作のDVDの発売に合せて公開され
るということで、可能性はかなり高くなっているようだ。 
 さらに夏の予定で、ユニヴァーサルから“Jurassic Park
IV”。“Indiana Jones”と重なるとなると、今回もスピル
バーグの監督はなさそうだ。              
 また、ワーナーから往年のコメディ・チームを復活させる
“The Three Stooges”と、ディズニー/ピクサーからCG
Iアニメーション“Cars”の公開も予定されている。   
 それにしても相変わらずシリーズものが目に付くが、中で
も05年には第4作が並ぶようだ。順調に行けば“Harry
Potter and the Goblet of Fire”もこの時期になるはず
だが、どうなるのだろうか。                 
        *         *        
 ついでと言っては何だが、今年夏の期待作“The Matrix:
Reloaded”と、その続きの“The Matrix: Revolutions”
について状況が報告されていたので紹介しておこう。    
 製作者ジョール・シルヴァの報告によると、この2作の総
撮影期間は294日で、総製作費は3億ドル。また、VFXの
総カット数は3000カットで、そのために1億ドルが使われた
ということだ。                    
 ただし今回のVFXに関しては、99年の前作『マトリック
ス』を手掛けたマネックスが、その後に内部分裂を起こし、
このため今回は、旧マネックスの一部スタッフによる新会社
を設立したために、その設立費用の一部も1億ドルの中から
拠出されているようだ。なお、これによってワーナーでは、
96年に廃止した社内の視覚効果部門を再び持つことになった
とも報告されている。                 
 また、今回の2作を手掛けるに当って新会社には、ILM
やディジタル・ドメイン、ソニー・イメージワークスなどか
らスタッフが集められたそうだ。そして今回のVFXでは、
前作に勝るスピードと、特に予告編にも出ているキアヌ・リ
ーヴスと敵役のエージェントのコピー100人と壮絶な戦いの
シーンに注目してもらいたい、とシルヴァは語っている。 
 とは言うものの、半年を開けずに2作を公開するというこ
とはかなりの冒険(メイジャーでは『バック・トゥ・ザ・フ
ューチャー2、3』以来のこと)のようで、しかも3億ドル
もの費用を掛けていることに不安はあるようだ。しかし、前
作が6500万ドルの製作費で全世界で4億5800万ドルの興行収
入を稼ぎ出したこと、また10万ドル以下の費用で製作したメ
イキングのDVDが2000万ドルの売り上げを記録したことな
どで、今回の成功を信じているそうだ。         
 また、今回のプロモーションのために“The Animatrix”
と題された9本の短編アニメーションが製作されており、そ
の内の4本が2月からインターネット上で公開される他、上
映時間9分の“Flight of the Osiris”という作品は、日
本ではゴールデン・ウィーク公開予定、スティーヴン・キン
グ原作のワーナー作品“Dreamcatcher”の前に、併映として
上映されることになっている。              
 なお、“Reloaded”と“Revolutions”は、全くの1つの
物語として製作されており、全米5月15日、日本では6月7
日に公開される“Reloaded”の最後は、完璧なクリフハンガ
ーとなる。そしてその続きの“Revolutions”の公開は、全
世界一斉、同時刻の封切りを目指すということだ。    
 一般的に日本の映画の封切りは土曜日、アメリカは金曜日
だが、日本のワーナーから発表されている予定では“Revolu
tions”の公開日は11月22日の土曜日となっており、これは
アメリカでは11月21日金曜日となる訳で、この日に全世界一
斉、同時刻の公開となるのだろうか。          
        *         *        
 再び製作ニュースで、別ページでテリー・ギリアム監督の
“The Man Who Killed Don Quixote”が、撮影開始6日間
で製作中止に至るまでを記録したドキュメンタリー“Lost
in La Mancha”を紹介しているが、この作品に主演予定だっ
たジョニー・デップの新作の計画が発表されている。    
 この計画は、以前にこのページの第18回で紹介したスティ
ーヴン・キング原作“Two Past Midnight: Secret Window,
Secret Garden”の映画化で、『スパイダー・マン』などの
デイヴィッド・コープが脚本、監督を手掛けるコロムビア作
品。これにデップの主演が契約されたものだ。      
 なお、前回の記事で、本作をコープの監督デビューと書い
たが、コープは、どちらも日本では劇場未公開の作品で96年
にエリザベス・シュー主演“The Trigger Effect”と、99
年にケヴィン・ベーコン主演“Stir of Echoes”の2作の
監督を手掛けており、本作が3作目になるということだ。   
 そして今回の計画は、以前にも紹介したように、コープが
“The Amazing Spider-Man”の脚本を降板してまで進めて
いるもので、かなり気合いの入った作品になりそうだ。   
 なお物語は、離婚したばかりの作家が、アイデアを盗まれ
たと主張するストーカーに付き纏われるというもの、キング
原作で作家が主人公というと、キャシー・ベイツがオスカー
を受賞した90年の『ミザリー』を思い出すが、さて今回はど
うなるだろうか。                   
 ただし、ここでちょっと心配なのは、この作品の撮影時期
がいつになるかということだ。別ページでも書いたように、
テリー・ギリアムは“The Man Who Killed Don Quixote”
を今年9月に再開する意向で、その時期にデップの身体が空
くと言っているのだが、ひょっとして、その時期のデップの
スケジュールがこれで塞がってしまった可能性もある。   
 実は、別情報ではギリアムがプラハの撮影所で“Brothers
Grimm”という作品の準備に入ったという話もあり、そうな
ると、“The Man Who Killed Don Quixote”の計画は、さ
らに先伸ばしということになるのだろうか。        
 因に、コープはアメリカNBCテレビで、デニス・ホッパ
ーがホストを務める30分の短編ドラマシリーズを製作する計
画も進めており、そのパイロット版をコープ自身が監督する
契約もあるということなので、その辺のスケジュールがやや
こしくなっているようだ。               
        *         *        
 後半は短いニュースをまとめておこう。        
 まずはリメイクの情報からで、65年イタリア製作のSF映
画“La Decima Vittima”(華麗なる殺人)のリメイクに、
ブレンダン・フレイザーの主演が発表されている。オリジナ
ルは、殺人が公認されたゲームとして行われている未来社会
を舞台にしたロバート・シェクリーの原作を、マルチェロ・
マスロトヤンニとウルスラ・アンドレスの主演で映画化した
もので、お互いが賞金が懸かる10番目の標的となった男女の
挑戦者を巡る物語。オリジナルでは、マストロヤンニのイタ
リア男の雰囲気が良かったが、フレイザーではどうなるか。
監督はドミニク・セナ。                
        *         *        
 もう1本、オリジナルは73年の製作で2本の続編やテレビ
シリーズ化もされた“Walking Tall”(ウォーキング・トー
ル)のリメイクが、ザ・ロックことドウェイン・ジョンスン
の主演で計画されている。オリジナルは、ジョー・ドン・ベ
イカーの主演で、リンチを行おうとする群集にただ一人で立
ち向かったシェリフを主人公にしたかなり硬派な物語。ジョ
ンスンの演技力が試されることになりそうだ。監督はデイヴ
ィッド・クラス。                
        *         *        
 以前から紹介しているトライベカ、ミラマックス製作、オ
ーエン・コルファー原作“Artemis Fowl”の映画化でようや
く監督が決定、製作準備が正式にスタートするようだ。今回
監督に決まったのは、01年公開の『キャッツ&ドッグス』を
手掛けたローレンス・グーターマン。前作は、犬と猫が秘密
の地下組織を持って対決しているというものだったが、今度
は最先端兵器で武装化されて組織化された妖精を相手にする
お話となる。グーターマンは、多分VFXにも馴れているだ
ろうし的を得た人選といえそうだが、他にニュー・ラインで
計画中の“Son of the Mask”にも関わっているということ
で、その辺がちょっと気がかりなところだ。       
        *         *        
 最後に、20数年前、僕自身も関わったSF映画『さよなら
ジュピター』のDVDが3月21日に発売されることになり、
付録のメイキングディスク用のオーディオ・コメンタリーに
出演させてもらった。今にして思うと、かなり先走ってしま
った作品だったとも言えるが、メイキングには、当時は若手
スタッフだった02年版『ゴジラ×メカゴジラ』の手塚昌明監
督など意外な顔も見えて、いろいろ感じさせてくれるものに
なっていますので、よろしくお願いします。       


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