井口健二のOn the Production
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2003年01月01日(水) 第30回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 新年、明けましておめでとうございます。       
 何とか2回目の正月を迎えることができました。というか
自分の気力が持つかどうかだけの問題なのですが、何とか月
2回のペースを保てるようになりました。今後ともよろしく
お願いします。                    
        *         *        
 ということで新年最初の情報は、待望シリーズの復活で、
ジョージ・ミラー監督、メル・ギブスン主演による『マッド
・マックス』の第4作が製作されるという話題から。   
 このシリーズは、1979年に第1作の“Mad Max”(マッド
・マックス)がオーストラリアで公開され、この作品は80年
のアヴォリアッツ国際ファンタスティック映画祭で審査員特
別賞を受賞。アメリカでは同年にアメリカン・インターナシ
ョナル(AIP)の配給で公開されている。ただしこの第1
作のアメリカ公開は、配給体制の弱さもあって、興行成績は
あまり上がらなかったようだ。             
 しかしこのキャラクターに注目したのがワーナー・ブラザ
ース。同社はシリーズ化の権利を獲得し、81年に製作された
第2作“Mad Max 2: The Road Warrior”(マッド・マック
ス2)のアメリカ配給を手掛ける。さらに83年には、ミラー
監督をアメリカに呼び寄せて“Twilight Zone- The Movie”
の1エピソードを担当させ、次いで第3作“Mad Max Beyond
Thunderdome”(マッド・マックス サンダードーム)の製
作を発表した。                    
 ところが、第3作の準備を開始した直後の83年6月に、ミ
ラー監督の盟友で製作者のバイロン・ケネディがヘリコプタ
ーの事故で死亡、その後に第3作は製作されたものの、シリ
ーズの継続は難しいと言われていた。しかし数年前に、ワー
ナーとミラー監督との間で第4作が計画進行中と発表され、
俄然期待を集めたこともあったが、このときは企画のみで終
ってしまった。                    
 その計画がようやく実現されることになった訳だが、監督
はもちろんミラー、主演はギブスンで、製作はフォックスが
行うことになっている。なお、ミラーは97年にワーナーから
シリーズの権利を買い戻しており、その後、独自に準備を進
めてきたと言うことで、この程、ギブスン主宰のイコン・プ
ロが現在の本拠を置いているフォックスとの間で契約が成立
したものだ。                     
 因に、ミラーとフォックスの関係では、過去に95年と98年
に製作された『ベイブ』の実績がある。このシリーズでは、
第1作の“Babe”はミラーは製作のみ担当しアカデミー賞の
作品賞候補になったが、この受賞式で『ブレイブハート』で
監督賞を受けたギブスンが、ミラーにオスカーを掲げてみせ
たのが印象的だった。                 
 なお、第4作は“Fury Road”の題名で製作され、準備状
況は、すでにミラーの手になる脚本は完成しており、撮影は
2003年5月にオーストラリアで開始の予定。製作費には1億
400万USドルが計上されているということだ。       
        *         *        
 続いては、またまたコミックスの映画化で、DCコミック
ス発行の“Shazam !”を映画化する計画がニューラインから
発表されている。                   
 Shazamというのは、古代エジプトから3000年を生きてきた
魔術師の名前。ソロモンの知恵とヘラクレスの強さ、アトラ
スのスタミナとゼウスの力、アキレスの勇気とマーキュリー
のスピード(名前は彼らの頭文字を集めたもの)を合わせた
神秘のパワー駆使して世界の悪と戦ってきたが、その魔術師
がついに引退を決意する。               
 そして選ばれたのがビリー・バットスン。彼は幼くして両
親を亡くし、今で言うストリートチルドレンのようにして、
新聞の売り子をしながら地下鉄の駅で暮らしていた。ところ
がある日、不思議な人物の手引きで神秘の洞窟に導かれ、そ
こで魔術師から使命を継ぐことを依頼される。魔術師は彼の
正義感を見抜いていたのだ。              
 こうしてビリーは、新聞の売り子から後にラジオ、テレビ
のニュースキャスターを本職とし、緊急の時にはスーパーヒ
ーロー、キャプテン・マーヴェルに変身して活躍するという
ものだ。前半はともかく、後半はどこかで聞いたような設定
だが、実はこのシリーズは、初めは1940年に別の出版社で誕
生したものだったが、53年にDCがスーパーマンの模倣だと
して訴訟を起こし、結局DCはこの裁判には負けたのだが、
72年に権利を買い取って現在に至っている。       
 また、このシリーズは41年に連続活劇になっている他、テ
レビの子供向け実写番組やテレビアニメーションでも放送さ
れた。なお、アニメーションでは、ビリーと幽霊になった魔
術師の関係が、『スター・ウォーズ』のルークとオビ=ワン
の関係を思わせるそうだ。因に、主人公のキャラクターは、
60年製作のオリジナル版『フラバァ』などに主演した俳優フ
レッド・マクマレイをモティーフにしたとも言われている。
 そして今回の計画は、ニューライン及びDCの親会社でも
あるワーナーで、“Batman”などの総指揮も担当しているマ
イクル・ウスランという製作者が発表したもので、ニューラ
インの製作で、実写またはアニメーションによる映画化が進
められるということだ。                
        *         *        
 次は続編で、ミラマックス傘下のディメンションが製作す
るホラーパロディシリーズ“Scary Movie”の第3作の計画
が発表された。                    
 このシリーズでは、2000年の第1作“Scary Movie”(最
終絶叫計画)が全米で1億5000万ドルの大ヒットを記録した
のに続いて、01年に製作された“Scary Movie 2”は7130万
ドルを記録。そして“Lord of the Brooms”と題された第3
作の準備も進んでいたというのだが…。         
 02年11月半ばに突然、前2作を手掛けたキーナン・アイヴ
ォリーと、ショウン、マーロンのウェイアンス一家が他社へ
の移籍を表明。ドリームワークス、フォックス、ユニヴァー
サルなどとの争奪戦の結果、リヴォルーションへ移籍が発表
された。まあ、その理由はいろいろありそうだが、一つには
ウェイアンス一家がシリーズ以外の作品の製作を希望したの
に対し、ディメンション側がシリーズ第3作の03年秋公開を
主張したことが原因のようだ。             
 で、第3作はどうなるかというと、実は今回の計画は、ベ
ン・アフレック、マット・デイモン共演の『ドグマ』などの
脚本家、監督で、親会社のミラマックスとのつながりも深い
ケヴィン・スミスが発表したもので、これに1988年『裸の銃
を持つ男』などのコメディ監督デイヴィッド・ズッカーが加
わって、シリーズを再出発させるということだ。     
 なお脚本は、スミスと、パット・プロフト、ブライアン・
リンチ、クレイグ・マーツィンというチームが契約してすで
に執筆を進めており、03年2月の撮影開始で、秋に公開の予
定ということだ。ウェイアンス一家のパロディは、あまり上
品とは言えないネタが多くて、かなり参ることがあったが、
新しいチームではどうなることか。           
 一方、リヴォルーションに移籍したウェイアンス一家は、
2本の計画を発表している。その1本目は、『インディペン
デンス・デイ』や『サイン』などを題材にしたSF映画のパ
ロディ作品。2本目は、麻薬組織に潜入捜査に入った2人の
FBI捜査官を主人公にした作品だということだ。この2作
ともキーナンの監督で、ショウンとマーロンが主演すること
になっている。                    
        *         *        
 またもや日本製ホラーのハリウッドリメイクで、今度は別
ページで新作『アカルイミライ』を紹介している黒沢清監督
の97年作品『CURE−キュア−』のリメイクの計画が、ユ
ナイトから発表された。                
 オリジナルは同年の東京国際映画祭のコンペティション部
門で上映されて、役所広司が男優賞を受賞しているが、異な
る犯人による同じ手口の連続殺人という発端で、僕は『リン
グ』より恐かったという印象を持っている。リメイク版『ザ
・リング』は、結局オリジナルと同じストーリーになってし
まったが、今回の作品はどうなるか。黒沢監督の『回路』の
リメイクの方はちょっと頓挫しているようなので、それに代
って期待したい。                   
 なお、『ザ・リング』の続編も、前作と同じゴア・ヴァビ
ンスキー監督、アーレン・クルーガー脚本で計画が発表され
たが、こちらは日本の続編とは別の作品を作れるか。僕は個
人的には、日本では映画化されなかった原作の第3作『ルー
プ』の映画化も期待したいのだが。           
 ところで、今回『ザ・リング』の続編の話題に関連して、
テレビの情報番組などで、「日本映画のハリウッドリメイク
初の大ヒット」というコメントが放送されていたが、それは
間違いだと言うことを、ここではっきりさせておきたい。そ
れは、言うまでもなく98年の『Godzilla』があるか
らで、この作品の全米興行収入は1億3600万ドル、この年の
興行成績第10位に食い込んでいるのだ。         
 では、『ザ・リング』はどうかというと、12月最終週の時
点で全米興行収入は1億2600万ドルあまり。ここでの1000万
ドルの開きはもはや追いつく可能性はほとんどない。つまり
『ザ・リング』は『Godzilla』に勝ってはいないと
いうことだ。確かに『Godzilla』は、日本では一部
人たちの思い込みによる批判で評判が悪かったが、その実体
は興行的には決して失敗作ではなかった。        
 もちろん、ここで僕は、『ザ・リング』がヒットしなかっ
たと言っているのではない。全米で1億ドルを超えるという
のは大ヒットに間違いはない。しかし『Godzilla』
は、アメリカでは評価に値する充分な大ヒットを記録したと
いうことをはっきりさせておきたいのだ。        
 日本のマスコミというのは、どうも思い込みの発言が多す
ぎる。僕も思い込みや勘違いで間違うことはあるが、間接的
にせよ他人や他の作品の批判につながるような発言は慎重に
してもらいたい。仮にも普段から映画の情報を伝えている人
物が、よもや『Godzilla』の存在を忘れているはず
はないと思うが、覚えているのであればちょっと調べれば上
の事実は判明するはずで、そうでなければ『Godzill
a』に対して悪意のある発言としか取れないところだ。  
        *         *        
 ちょっと口直しで、アレックス・プロイアス監督、ウィル
・スミス主演によるアイザック・アジモフ原作“I,Robot”
(わたしはロボット)の映画化の計画が発表された。   
 この原作は、アジモフが1940年代に発表した9つの短編を
集めたもの。この中で、有名なロボット3原則が生み出され
たが、この流れがずっと下って99年にロビン・ウィリアムス
主演で映画化された“Bicentennial Man”(アンドリュー
NDR114)につながって行く、ロボットものの原点と言
われる作品集だ。                    
 そしてこの映画化権は数年前にフォックスが契約して、同
社では当初、ジェフ・ヴィンター脚本による“Hardwiered”
という作品の計画を進めていた。この作品は、原作短編集の
いろいろな要素を繋ぎ合わせたものだったようだ。しかし監
督にプロイアスの参加が決定したことで、もっと強力な脚本
が必要とされ、まず『インソムニア』のヒラリー・セイツが
参加、さらに『ビューティフル・マインド』のアキヴァ・ゴ
ールズマンが引き継いで脚本を完成させたということだ。 
 なお物語は、すでにロボットやオートメイション無しには
成立しなくなった人類社会の中で、ロボットたちが如何にし
てその権利と地位を確立して行くかを描くものになるという
ことで、この手の物語は、奴隷解放の歴史を持つアメリカに
とっては、ある意味作りやすい作品と言えそうだ。    
 撮影は03年4月開始ということで、スケジュール的には04
年の夏の公開ということになりそうだ。フォックスでは最初
に書いた“Mad Max”の第4作と並べて公開ということにな
るのだろうか。                    
        *         *        
 後半は短いニュースをまとめておこう。        
 1958年にスタンリー・クレイマー製作、監督で発表された
“The Defiant Ones”(手錠のままの脱獄)のリメイクが計
画されている。                    
 オリジナルはトニー・カーティスとシドニー・ポアティエ
の共演で、白と黒の肌の色の違う2人が手錠で繋がれたまま
脱獄し、野を越え山を越えて逃亡する内に、最初は反発して
いた2人が互いを理解し、友情を持ち始めるという、クレイ
マーらしい社会派のドラマだ。なお、オリジナルはアカデミ
ー賞の脚本賞を受賞しているが、その受賞者の一人ネイザン
・E・ダグラスはブラックリストで追放されたネドリック・
ヤングの仮名だった。                 
 そして今回リメイクを計画しているのは、『ラッシュアワ
ー』シリーズを手掛けるアーサー・サーキシアン。かなり趣
の違う作品だが、どのような手腕を見せてくれるのか。なお
サーキシアンは先にMGMと優先契約を結び、その第1作と
してオリジナルがユナイトで製作された本作が上がっている
ようだ。                       
 他にも、サーキシアンの製作で、アンソニー・マン監督に
よる61年製作の歴史大作“El Cid”(エル・シド)のリメイ
クも検討され、こちらは『007/ゴールデンアイ』のマー
ティン・キャンベルの監督が予定されているそうだ。   
        *         *        
 またまたユース・ファンタシーシリーズの映画化で、パラ
マウントとニケロディオンの共同製作による新シリーズの計
画が発表されている。                 
 計画されているのは、ファンタシー作家のホーリー・ブラ
ックと作家で挿絵画家のトニー・ディターリツィーが執筆し
ている全6巻のグラフィックノベル“Arthur Spiderwick's
Guide to the Fantastic World Around You”の映画化。
この原作は、パラマウント、ニケロディオンと同じくヴァイ
アコム傘下の出版社サイモン&シャスターから2003年5月に
最初の2巻が発行されるということだ。          
 物語は、双子の少年と彼らの姉でティーンエイジャーの少
女が、彼らの叔父さんの古びた屋敷で、妖精やゴブリンなど
の棲む異世界を発見するというもの。ちょっと『ナルニア』
などにも似た感じだが、お子様向けには面白いシリーズにな
りそうだ。                      
 なお、ニケロディオンでは他に、スコット・ルーディンと
バリー・ソネンフェルドの製作で、ジム・キャリーが主演す
る“Lemony Snicket: A Series of Unfortunate Events”
という作品の計画も進めているそうだ。          
        *         *        
 もう1本SFもので、ウィズリー・スナイプスの主演によ
る“John Doe”という作品が計画されている。      
 この作品は、フォックス製作『X−メン』の続編“X-Men
2”などを手掛ける脚本家のザック・ペンが、自らの脚本で
監督デビューを予定しているもので、記憶喪失で発見された
男が、記憶を取り戻して過程で徐々に自分がスーパーヒュー
マンであることに気づいて行くという物語。一方、彼の秘密
を知る暗殺者が存在し、しかも主人公の記憶の中にはいつま
でも謎の部分が残されているというものだそうだ。    
 製作はリヴォルーション、撮影は03年中に開始され、04年
の公開を目指すことになっている。ただし“John Doe”とい
う題名は、元々は身元不明の男性死体を示す警察用語だが、
フォックスが同じ題名のテレビシリーズを製作しており、そ
の関係で題名は変更されることになるということだ。   


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