2002年12月16日(月) |
ゴーストシップ、アウトライブ、カルマ、オズワルド、テープ、ラスムス、おばあちゃんの家、六月の蛇 |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介します。 ※ ※一部はアルク社のメールマガジンにも転載してもらって※ ※いますので、併せてご覧ください。 ※ ※(http://www.alc.co.jp/mlng/wnew/mmg/movie/) ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『ゴーストシップ』“Ghost Ship” 『TATARI』『13ゴースト』に続くダークキャッスル製 作のホラー映画第3弾。 ダークキャッスルは、『ローズマリーの赤ちゃん』も製作し た監督/製作者ウィリアム・キャッスルの思想を受け継ぐこ とを主旨として、ジョール・シルヴァとロバート・ゼメキス が設立したプロダクションで、ホラー専門に毎年1作ずつ製 作している。 そして前の2作はいずれも60年代に製作されたキャッスル作 品のリメイクだったが、本作でついにオリジナル作品に進出 となったものだ。 物語の舞台は、1962年に行方不明となったイタリア船籍の豪 華客船。その船が40年振りにべーリング海で発見される。 物語の主人公は、1隻のタグボートで大型船も回収するサル ヴェージチーム。公海上で発見された無人船の所有権は発見 者のものになるという国際条約に基づいて、彼らは危ない回 収作業に命を張っている。 そんな彼らにうまい話が持ち込まれる。べーリング海の公海 上で船影を見たという話を、気象観測用飛行機のパイロット が持ちかけたのだ。彼らは、回収で得た儲けは山分けという ことで、2つ返事で船の目撃現場へと向かう。 そして発見した船にタグボートを横付けにした彼らは、客船 に乗り込み、そこで大量の金塊を発見するのだが…。 一方、チームの紅一点エップス(『ER』ハサウェイ看護婦 役のジュリアナ・マグリースが主演)は、船内で不思議な少 女の姿を目撃する。そして少女は、40年前から続く恐ろしい 真実を語り始める。 リメイクされた前の2作は、VFXを凝らしたり、いろいろ 工夫はしていたが、話自体の古さは否めなかった。それでオ リジナル作品となったのだろうが、わざわざテーマを60年代 に行方不明になった幽霊船にする辺りは、よく判っていると いう感じだ。 物語自体は、典型的な幽霊船もので、最近だとここに宇宙か らの怪物が出て来たりするのだが、本作はそういうことはな く正統派で進む。しかし大掛かりなスプラッターシーンを描 く辺りは、60年代の映画とはちょっと違った雰囲気にもなっ ている。 とは言うものの、正直に言ってあまり恐くはない。実はキャ ッスルの作品も、恐さよりは仕掛けで楽しませていたという ことで、この作品も恐さよりは見事なVFXを見せようとい う意識が高いと言えそうだ。特にスプラッターシーンの出来 は見事だ。 『アウトライブ』“飛天舞” 韓国の女性漫画家キム・ヘリンの同名の原作コミックスの映 画化。 元朝末期の中国を舞台に、「飛天神記」を名付けられた武術 の秘伝書を巡って、漢民族とモンゴル族、それに高麗族が壮 大な争奪戦を繰り広げる。 主人公は、高麗族の男ジナとモンゴル族の女ソルリ。この2 人の波乱万丈の恋物語がメインテーマだが、彼らに絡む主な 登場人物だけでも10人以上という物語で、プレスシートに掲 載された相関図もかなり複雑。ここで簡単に纏めて紹介でき るようなものではない。 原作は3年に渡って連載されたということで、かなり壮大な 物語なのだろう。これを1時間57分に纏めたのだから、纏め る方も大変だったろうが、見る方も予備知識を入れておかな いと、物語が理解できなくなってしまいそうだ。 実際プレスに掛かれたストーリーも、それだけだと分かり難 かったが、映画を見ているうちになるほどと納得できるとい う感じで、原作(翻訳は出ているようだ)を読んでいる人は 別として、読んでいない人は事前にストーリーを読んでおく ことをお勧めする。 韓国のこの種の作品(武侠物と呼ばれるようだ)では、先に 『燃ゆる月』が公開されているが、この作品も負けず劣らず の壮大さで面白かった。 特に、今回はオープンセットの撮影を上海で行ったり、アク ションシーンの演出には香港のチームを招き、さらにVFX はILMが担当するという力の入れようで、製作者たちの意 気込みが感じられるし、またそれに相当する物語でもある。 『カルマ』“異度空間” 『男たちの挽歌』などのレスリー・チャン主演の香港製作の 幽霊映画。 一方の主人公は作家志望の女性。彼女が訪れたアパートは、 設備は古いが、広さは充分、その割には安い家賃に彼女は引 っ越しを決めるのだったが…。引っ越したその日から怪しい 物音や、居るはずのない人影が見え始める。 彼女は医者に相談するが、彼女自身に自殺未遂などの過去が あり、周りには中々信じてもらえない。そんな中で、実は以 前にその部屋に住んでいた大家の妻と息子が、事故で死んで いたことが判明する。 もう一人の主人公は新進の精神科医。大学の講師も努める彼 は、幽霊など頭から否定する考えで、たまたま同僚の妻の従 兄弟だった女性を診察することになる。そして治療が進み、 彼女の前から幽霊が消え始めた頃、今度は彼の行動が異様に なり始める。 『シックス・センス』以降の作品という感じだが、本当に幽 霊だったのか、それとも幻覚だったのかは、結局明らかにさ れない。それでも構成にちょっと捻りがあって、そこそこ面 白かった。 チャンは、日本でもかなりの人気スターだと思うが、後半ぼ ろぼろになって行く辺りは、結構良くやっているという感じ もした。 『Hello! オズワルド』“Oswald” アメリカCBSネットワーク他で2001年8月から放送され、 大人にも異例の人気を博したという子供向けアニメーション シリーズ。1本12分で全52話あるそうだが、その内の4本を 日本で劇場公開するというもの。 主人公は青くて丸いタコのオズワルド。それにペットのホッ トドックのウィニー。さらにペンギンのヘンリーや、花のデ イジーなどが、ビッグシティという町を舞台にいろいろな物 語を展開する。 といっても、本当にお子様向だから、話は単純、繰り返しも 多い。ということで、これだけ聞くと退屈そうな感じだが、 これが実にうまい。単純な繰り返しの中に見事なリズムがあ って、大人が見ていても感心するくらいに面白いのだ。 ゆったりとした時間の中で、童心に帰って見るには本当に良 くできた作品だと思う。正直言って、日本では子供より大人 に受けるのではないかという感じだ。 『テープ』“Tape” 舞台は、モーテルの1室。登場人物は、ヤクの売人、映画監 督、女性検事補の3人だけという心理ドラマ。 ある町で映画祭が開かれ、そこで映画監督ジョンの作品が上 映されることになり、高校時代の仲間だったヤクの売人ヴィ ンセントも祝いに駆けつけている。しかしその町には、高校 時代のヴィンセントのガールフレンドだった女性検事補エイ ミーが暮らしていた。 ヴィンセントの部屋にジョンが現れ、最初は他愛もない話に 興じているが、やがてヴィンセントはジョンとエイミーとの 関係と追求し始める。高校時代の終りの頃にジョンはエイミ ーと寝て、その後エイミーとヴィンセントの仲が切れてしま ったのだ。 執拗な追求に、ついにジョンはエイミーを暴力的に襲ったこ とを告白する。それを聞くやヴィンセントは小型テープレコ ーダーを取り出し、今までのジョンの言葉を録音していたこ とを告げる。そしてすぐにやってくるエイミーに謝罪するこ とを要求する。 そこへエイミーが登場し、3人の葛藤が始まる。 元は舞台劇だそうだが、何しろ会話が面白い。ヴィンセント の巧みな誘導にジョンが思わず真実を語ってしまう辺りは、 かなりの長台詞の応酬で見応えがあった。 演出は、舞台の雰囲気を出そうというつもりか、ちょっとカ メラを振り回し過ぎという感じの部分もあったが、全体的に は問題ないし、舞台を尊重しようという感じが見ていて好ま しい。 ただし、撮影にはPAL方式のデジカメが使われていて、は っきり言って良い画質ではない。まあ、NTSCではなく、 PAL方式を使っているだけましというところだろうが…。 『ラスムスくんの幸せをさがして』“Rasmus På Luffen” 今年1月に亡くなったスウェーデンの女性児童文学者アスト リッド・リンドグレーンの原作の映画化。 孤児院で暮らすラスムスはお金持ちの里子になることを期待 しているが、、里子になって孤児院を出て行くのは巻毛の女 の子ばかりだということに気付き、厳しい先生にも嫌気がさ して孤児院を出て行くことを決心する。 そしてある夜、孤児院を抜け出したラスムスは、一夜を明か した干草小屋で、神様に選ばれた風来坊と自称するオスカル と巡り会う。 オスカルはアコーディオンを手に、道端や軒先で唄ってはお 金や食べ物を恵んでもらうという風来坊。その暮らしに興味 を引かれたラスムスは、子供にはきつい暮らしだと言われな がらも、オスカルと行動を共にすることになる。 ところが町で強盗事件が発生し、風来坊たちが取り調べられ る。そして最初は釈放されたオスカルだったが、次に老婦人 が襲われ、オスカルとラスムスが近くにいたのを目撃された ことから、嫌疑はオスカルに掛かる。 そしてその場をなんとか逃げ出したオスカルとラスムスは、 隠れた廃屋で強盗の一味と遭遇してしまう。 製作は1981年だから、20年以上も前の作品ということになる のだが、古臭さを余り感じないのは、まあ、原作がリンドグ レーンだからということになるのだろう。それでもテンポや 演出などにも、古さを感じさせないのだから大したものだ。 監督は、リンドグレーン作品の映画化を数多く手掛けている オル・ヘルボム。手慣れているということもあるだろうが、 主人公たちの演技のバランスも良く、児童文学らしい柔らか な雰囲気で、見事な作品だ。 『おばあちゃんの家』(韓国映画) 韓国では観客400万人を動員したという少年と老女の一夏の 生活を描いた作品。 7歳のサンウは母子家庭で育ってきたが、ある年の夏、母親 が職捜しをする間を、山村の祖母の家に預けられる。その家 はテレビはあるが故障で映らず、退屈を持て余すサンウは祖 母に当たり散らす。しかし祖母は、口が利けないこともあっ てそれを耐えているというか、大きな愛情でそれを包み込ん でいる。 最初サンウは持参した缶詰めばかり食べているが、それも尽 きてしまったある日、手話で食べたい物を訊かれてフライド チキンを要求する。しかし祖母は鶏を一羽丸茹でにする。一 旦はそれを拒否したサンウだったが、空腹で食べてしまう。 そして雨の中を鶏を買いに行くなどして寝込んでしまった祖 母を、サンウは看病し始める。 都会から来たサンウの荒れた生活態度と、祖母を筆頭に山村 に住む人々の愛情豊かなサンウへの接し方が対比され、自然 に包まれた山村の良さが描かれる。 と書くと、かなりあざとい作品のように読めてしまうが、何 と言うか、祖母の描き方が上手く、一方、サンウの我儘振り の描き方もユーモアに包まれているので、悪い印象を与えな い。 なお、サンウを演じているのはCM出演もある子役だが、祖 母はロケ地の山村に住む素人だそうだ。このおばあさんが、 口が利けないという設定の上手さもあるが、実に絵になって いる。この辺の企画の上手さも、韓国では受賞の対象になっ ているようだ。 『六月の蛇』 『鉄男』などの塚本晋也の監督で、02年のヴェネチア国際映 画祭で審査員特別大賞を受賞した作品。 企業の重役を夫と暮らす主人公は、心の電話相談室でカウン セラーをして優秀な実績を上げているが、夫婦生活はセック スレスで本人の心は満たされていない。 そんな彼女のところへ一束の写真が送られてくる。それは彼 女が自慰にふける姿を写したもので、同封された携帯電話で 写真のネガがほしければ命令に従うように脅迫される。 脅迫者は彼女に電話相談をした男で、男は、彼女が自分の本 当にしたいことをしなさいと言って自分を救ったように、彼 女自身に本当にしたいことをさせるのだと言う。 そしてミニスカートで、下着を着けずに町を歩かされた彼女 は、ポルノショップでリモコン式の大人のおもちゃを買わさ れる。 願望充足型のポルノ作品と言ってしまえばそれまでだが、モ ノクロ(カラーポジフィルムを使って青くプリントされてい る)の画面に篠突くような雨が降り続け、極めて濃密な映像 が展開する。 ヴェネチアでの受賞の他、シッチェス国際映画祭でも美術監 督賞を受賞しているだけのことはある。映画の前半は彼女の 側を描き、後半は彼女の行動に疑問を持った夫を描き、最後 に電話の男と交錯する、そんな構成も登場人物たちの心理を 際立たせて見事だった。 なお、日本公開は一般映画の扱いで行われるようだ。
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