井口健二のOn the Production
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2002年12月15日(日) 第29回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 最初に訂正。前回の“Where's Waldo?”(ウォーリーを
探せ!)の記事で、「原作ではウォルド、日本版ではウォー
リーとなっており」と書いたが、大元の原作がイギリスで出
たときの主人公はWallyで、それがアメリカで出版されたと
きにWaldoに変えられたのだそうだ。それならこれは『ハリ
ー・ポッターと賢者の石』の場合と同じだから、日本ではイ
ギリス版を公開すれば問題はないことになる。ということで、
とりあえず訂正。林さん情報をありがとうございました。 
 続いて言い訳、実は11月半ば頃からアメリカからの郵便物
が大遅配になっている。これは多分クリスマスメールのせい
で、昨年は9月11日と炭素菌事件の為にほとんどクリスマス
メールが送られなかった分が、今年に倍加しているようだ。
 そんな訳で、キネマ旬報の記事の方はインターネットで凌
いでいるが、ヘッドラインのインデックスからだけだと記事
も見落とし易い。実際、後から対応する号が届いてみると、
別に興味を曳かれる記事があったりという具合で、紙媒体の
重要性を再認識している感じだ。            
 ということで、ここでは後から届いた記事なども含めて紹
介させてもらうことにするが、全体的にニュースがちょっと
古くなっている面もあるので、ご了承ください。     
        *         *        
 まずは、ロバート・デニーロの『ブロンクス物語』以来の
監督第2作として計画されている“The Good Shepherd”と
いう作品に、レオナルド・ディカプリオの主演が期待されて
いる。                        
 この作品は、『フォレスト・ガンプ』や『アリ』などのエ
リック・ロスの脚本で、アメリカ中央情報局CIAを作り上
げたジェイムズ・ウィルスンの40年に亙る半生を描くもの。
といってもこの主人公は架空の人物で、何人かの人物をモデ
ルにして冷戦時代を通してのCIAの歴史を描き出すという
ものだ。                       
 因に本作は、アメリカン・ゾイトロープで10年近く前から
企画されていたもので、以前にはMGMやソニーなどでも検
討されたが、ようやくユニヴァーサルとデニーロが主宰する
トライベカの協力で実現の目処が付いたということだ。従っ
てアメリカ配給はユニヴァーサルが担当する。      
 ただし、本作の撮影は03年秋からの予定だが、02年クリス
マスにはアメリカで、『ギャング・オブ・ニューヨーク』と
“Catch Me If You Can”の2作品が同時公開されている人
気者のディカプリオの03年の予定では、マイクル・マン監督
によるハワード・ヒューズ伝記映画“The Aviator”がすで
にスタートしており、さらにテッド・タリー脚本、バズ・ラ
ーマン監督でアレクサンダー大王を描く歴史大作や、『ギル
バート・グレイプ』のラッセ・ハルストロームの監督で小型
核兵器を巡るスリラー“Bombshell”など計画が目白押し。
 特に、ハルストローム作品は、ディカプリオ自身が製作を
買って出ているということで、これらの企画を掻い潜って、
秋までにディカプリオのスケジュールが空けられるかどうか
が、デニーロ作品への出演の鍵になりそうだ。      
 なお、ディカプリオとデニーロは、93年の『ボーイズ・ラ
イフ』と、96年の『マイ・ルーム』で共演しているが、今回
のデニーロの出演は、ちょい役だけの予定だそうだ。   
        *         *        
 お次は、02年夏公開の『トータル・フィアーズ』では、主
演がベン・アフレックに交替して再出発したジャック・ライ
アンシリーズの傍系で、『トータル…』や『今そこにある危
機』にも登場したエージェントのジョン・クラークを主人公
にした作品の映画化が計画されている。         
 この人物は、『今そこにある危機』ではウィレム・デフォ
ー、『トータル…』ではレーヴ・シュライバーが演じている
ものだが、原作者のトム・クランシー自身が彼を主人公にし
た2冊の原作“Rainbow Six”と“Without Remorse”を発
表しており、映画化権を持つパラマウントでは以前から映画
化を期待していたものだ。しかしいろいろな状況で実現が遅
れていた。                       
 その計画がようやく進み始めたもので、まず映画化される
のは“Rainbow Six”。この作品は、元ネイヴィSEALの
クラークがCIAから独立して多国籍の対テロリスト組織を
作り上げるまでの話で、シリーズの最初としては好適な作品
ということだ。                    
 因に、以前の計画は“Without Remorse”を映画化するも
のだったが、この原作は先に発表されてはいるが物語は組織
ができてからの話で、映画シリーズのスタートには不向きだ
った。しかしその後にクランシーが、発端となる“Rainbow
Six”を発表。晴れて映画化開始となったもので、当然シリ
ーズ化が目指されるが、そうなるとジャック・ライアンと並
行で物語が進むことになりそうだ。           
 そしてこの映画化の脚色と監督に、パラマウントで製作さ
れるマイクル・クライトン原作“Timeline”の脚色を終えた
ばかりのフランク・カペロの起用が発表されている。   
 なおカペロは、キアヌ・リーヴス主演、ワーナー製作で計
画されているコミックスの映画化“Constantine”の脚本を
手掛けている他、93年製作の“American Yakuza”や、95年
にラッセル・クロウと豊川悦司が共演した『No Way Back/
逃走遊戯』という作品の監督歴がある。         
        *         *        
 久しぶりにスティーヴン・セガールの話題で、75年にシド
ニー・ポラック監督、ロバート・ミッチャム、高倉健共演で
映画化された“The Yakuza”(ザ・ヤクザ)をリメイクする
計画が発表された。                  
 オリジナルの物語は、ミッチャム扮する主人公が、誘拐さ
れた友人の娘を救出するために、数年前まで住んでいた日本
を再訪する。そして以前に親交のあった高倉扮するやくざの
男と協力して事件を解決するというもの。        
 この作品は、日本通で知られ“Mishima”などの監督作品
もあるポール・シュレーダーと、74年の『チャイナタウン』
でアカデミー賞を受賞したロバート・タウンの脚本で、アク
ションもあるが、かなり様式美みたいなものを追求していた
ようにも記憶している。といっても、高倉健が賭場で刀を抜
いて見栄を切ったり、確かエンドクレジットは英語だが、黒
地に朱で縦書きされていたような、いろいろな勘違いが笑え
る作品でもあった。                  
 その作品を、さらに日本通のセガール主演でのリメイクと
いうことで、勘違いを修正してくれることも期待したいが、
オリジナルはそれで評価されている面もある訳だし、セガー
ル自身もその手の勘違いは好きそうな感じでもあるから、ど
うなることか。それにしても、多分セガールがミッチャムの
役だろうが、さて健さんは誰が演じるのだろう。     
 なお、セガールの主演ではもう1本、アダム・グリーンマ
ンの脚本で“The Rescue”という作品も企画されている。こ
の作品は、ヴェトナム帰還兵を主人公に、彼のペンパルで資
金の援助もしていた少年の音信が跡絶えたことから、少年の
住んでいた東ヨーロッパを訪れ、少年に何が起こったか、そ
の消息を探すというもの。2作とも異国の地で事件を解決す
るお話になりそうだ。                 
        *         *        
 ディズニーアニメーションでは02年度最高のヒット作とな
った“Lilo & Stitch”の脚本、監督を共同で手掛けたクリ
ス・サンダースとディーン・デュボアが、新たにディズニー
傘下にプロダクションを設立、アニメーションと実写映画の
製作を行うことが発表された。             
 なお、設立されたプロダクションでは、2人は共同または
個々に計画を進めるということで、すでにサンダースは題名
未定のCGIを使った作品の監督を単独で開始しており、デ
ュボアは“The Gunshoe Chronicles”という題名のネッシ
ーのような怪獣の登場するキー・ウェストを舞台にした実写
作品を、単独で監督する予定で脚本の執筆に入っているとい
うことだ。                       
 一方、2人は共同で、ヴィデオで発表される計画の“Lilo
& Stitch”の続編と、テレビシリーズ化の計画も進めてお
り、これらはすでに作業に入っているようだ。      
 因に、ディズニー傘下の同様のプロダクションではヤコブ
スンとクックのチームがあり、ここでは外部の才能を招請す
る方針で『オールド・ルーキー』や『ロイヤル・テネンバウ
ムス』、それに『サイン』を成功させている。      
        *         *        
 アニメーションの話題が出たついでに、第2回を迎えるア
カデミー賞長編アニメーション作品賞の話題を紹介しておこ
う。                         
 アカデミー賞の最終候補は、今年度に付いても来年の2月
11日に発表されることになっているが、その前の予備候補が
発表されている。この予備候補として昨年度は、第7回で紹
介したように9本が選ばれたものだが、今年度は17本がアカ
デミーの事前の審査をパスしたようだ。         
 その17本は、“Adam Sandler's Eight Crazy Nights”  
“Alibaba & the Forty Thieves”“Eden" “El bosque  
animado(The Living Forest)”“Hey Arnold! The Movie”
“Ice Age”“Jonah -- A Veggie Tales Movie”“Lilo & 
Stitch”“Mutant Aliens”“The Powerpuff Girls Movie”
“The Princess and the Pea”“Return to Never Land” 
“Spirit: Stallion of the Cimarron”“Spirited Away”
“Stuart Little 2”“Treasure Planet”“The Wild
Thornberrys Movie”。                    
 因に選定の条件は、年度内にアメリカ国内で初公開された
作品で、且つ一般上映されていること。また長編アニメーシ
ョンの基準は、上映時間70分以上で、アニメーションシーン
が75%以上を占める作品となっている。さらに、昨年度は予
備候補が9本だったために最終候補は3本だったが、事前審
査段階で候補が16作品以上の場合には最終候補は5作品に拡
大され、候補が8作品未満の場合には最終候補は選出しない
という規約があるということで、予備候補が17本の今年は、
5本が最終候補に選ばれることになりそうだ。      
 そこで注目は、その5本にどの作品が選ばれるかというこ
とになる訳だが、大ヒットを記録した“Ice Age”と“Lilo
& Stitch”はまず間違いないところだろう。従って残る数は
3本。その中に日本人としての期待は、“Spirited Away”
(千と千尋の神隠し)が選ばれるかどうか。前回は、最終候
補が3本ということで“Final Fantsy”は涙を呑んだが、今
回はどうなるだろう。                 
 また、アメリカでは“Stuart Little 2”が予備候補に選
ばれたことが話題になっているようだ。なお、この審査は製
作者の申請の基づいて行われるもので、製作者のコメントに
よると、アニメーションシーンが75%以上を占めるという条
件をクリアしているのだそうだ。確かにスチュアートは、リ
アルに見えてもCGIキャラクターだった訳で、それを考え
ると製作者のコメントも理解できる。しかしそうなると、デ
ィジタルエフェクトの多用された作品はどうなるかというこ
とにもなってくる訳で、これは今後の課題になりそうだ。 
        *         *        
 またまた各国映画からのハリウッドリメイクで、今回は日
本、スウェーデンの作品のリメイクの情報が1本ずつ届いて
いる。                        
 まずは日本から、97年製作、黒沢清監督の『CURE』の
リメイク権がユナイテッド・アーチスツと契約されている。
この作品は、同じ手口の連続殺人が発生するが、犯人がすべ
て別人という事件を発端にしたホラー作品で、97年の東京国
際映画祭のコンペティション部門に出品され、役所広司が男
優賞を受賞している。僕は、『リング』より恐かったと記憶
している作品だ。なおリメイクの脚本は、先にニューライン
で“American Princess”という作品を手掛けているデニス
・バートックとトム・エイブラムのコンビが担当することに
なっている。                     
 一方、スウェーデン作品は、英題名が“The Invisible”
というもので。この作品のリメイク権をスパイグラスが獲得
している。内容は、10代の2人の若者が不可視になる。その
一方は少年で、彼の死によって文字通りの不可視になるが、
もう一人の少女は、彼女の母親の死によって比喩的な不可視
になっているというもの。そして物語は、超自然的な展開を
するということだ。この脚本はミック・デイヴィスという脚
本家が手掛けたものだが、実は元々は英語で書かれたものを
スウェーデン語に翻訳して映画化されたということ。従って
今回のリメイクに当っての脚本はすでにあるということにな
るが、その他のスタッフキャストは未定のようだ。    
 なお、北欧映画からのリメイクでは、『インソムニア』が
すでに公開されているが、今回の作品もあのような雰囲気の
ものなのだろうか。                  
        *         *        
 後半は短いニュースをまとめておこう。        
 まずは、配役の情報を2つ。             
 以前に紹介したパラマウント製作、フィリップ・K・ディ
ック原作“Paycheck”の映画化にベン・アフレックの主演が
期待されている。この作品は、現在ジョン・ウーの監督で準
備が進められており、これで俳優が決ればいよいよ撮影開始
ということになりそうだ。               
 もう1本はワーナー製作の往年のテレビシリーズからのリ
メイク“Starsky & Hutch”に、ラッパーのスヌープ・ドッ
グの出演が発表された。役柄は、テレビではアントニオ・フ
ァーガスが演じた情報屋のハッギー・ベア。オリジナルの物
語では主人公たちに情報を提供すると共に、コメディリリー
フの役割りも果たしていた。ただし、映画版はベン・スティ
ラーとオーウェン・ウィルスンの主演で、コメディ要素は充
分にある訳で、これにさらにコメディリリーフとなるのだろ
うか。なお、ドッグは、デンゼル・ワシントンがオスカーを
受賞した『トレイニング・デイ』にも出演していた。   
        *         *        
 ついでにワシントンの情報で、62年にジョン・フランケン
ハイマーが監督した“The Manchurian Candidate”(影な
き狙撃者)のリメイクの計画が発表されている。この作品は、
リチャード・コンドンの原作をジョージ・アクセルロッドが
脚色したもので、朝鮮戦争を背景にしたスリラー。85年に再
公開されて、カルト的な人気を獲得しているということだ。
またこの作品は、主演のフランク・シナトラを俳優としてブ
レイクさせた作品としても知られている。そして今回は、こ
のシナトラが演じた役をワシントンが演じるもので、パラマ
ウントが製作、リメイクの脚本は『トータル・フィアーズ』
のダン・ぺインが担当している。            
        *         *        
 最後に、注目している人も多いこの情報で、アーサー・C
・クラーク原作“Rendezvous With Rama”(宇宙のランデ
ブー)の映画化に、パラマウントの参加が発表された。これ
は映画化を進めている俳優モーガン・フリーマンのプロダク
ションが、パラマウントとの間で新たに優先契約を結んだこ
とから公表されたもので、この契約では、まずビル・ハーロ
ウ原作のミリタリー小説“Circle Williams”の映画化が予
定されているが、それに併せてクラーク原作の映画化にパラ
マウントが参加することが発表されたものだ。       
 なお、クラークの映画化については、ブルース・マッケナ
の脚本も完成しており、デイヴィッド・フィンチャーの監督
も決っているものだが、極めて大量のCGIが使われること
などで製作費の高騰が予想され、当初進められていたプロパ
ガンダでの製作が断念されていた。しかしここにパラマウン
トの参加が表明されたことで、実現に向けて大きく前進した
と言えそうだ。                    


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