井口健二のOn the Production
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2002年11月16日(土) Sweet Sixteen、エルミタージュ幻想、トランスポーター、24アワー・パーティ・ピープル、ボーン・アイデンティティー

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介します。       ※
※一部はアルク社のメールマガジンにも転載してもらって※
※いますので、併せてご覧ください。         ※
※(http://www.alc.co.jp/mlng/wnew/mmg/movie/) ※
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『Sweet Sixteen』“Sweet Sixteen”    
『ブレッド&ローズ』『ナビゲーター』に続いて今年3本目
のケン・ローチ監督作品。00年、01年ときて、本作は02年の
作品だ。                       
スコットランドの小さな町に住むリアムは15歳。天文観測と
サッカーの好きな少年だが、学校は自主退学し、親友のピン
ボールと共に町で煙草を売って金を稼いでいる。母親は刑務
所に収監中で、2カ月後の彼の16歳の誕生日の前日に出所す
る予定だ。                      
彼の夢は、母親と平穏な暮らしをすること。そのために彼は
いろいろな手立てで資金を集めようとする。そして狙ったの
が母親の愛人で粗暴な男スタンの隠し持つドラッグ。リアム
とピンボールはまんまとそれを盗みだし、売り捌いて母と住
む家の購入の頭金を作る。               
しかし、勝手に商売を始めた少年たちに町のボスが目を付け
る。ところがボスの前に引き出されたリアムは、逆にボスに
気に入られ、やがてピザ配達を隠蓑にしたドラッグ商売で売
り上げを伸ばして、2カ月の間に大金を稼ぐ身分になるのだ
が…。                        
社会の底辺で暮らす人々を好んで描くローチ監督だが、この
少年の壮絶な生き方、そして母親に捧げる愛情の深さ、しか
しそれを裏切る母親の姿。また聡明でありながらシングルマ
ザーの主人公の姉と母親との確執、ピンボールの屈折した友
情など、キャラクターも鮮明で、これこそドラマという感じ
がした。                       
成り上がりのちんぴらが、結局、馬鹿をやって破滅して行く
のは、この手のドラマの定石ではあるが、本作では主人公の
心情が痛いほど理解できて、さすがカンヌで脚本賞を受賞し
ただけのことはあると感じた。             
なお、台詞は強いスコットランド訛りで、英語のはずなのに
聴いていてもほとんど理解できない。カンヌで上映されたと
きにはイギリス映画に英語の字幕が付いたということで、本
国での上映の際にも、字幕を付けるかどうかで論議がされた
そうだ。                       
                           
『エルミタージュ幻想』“Russian Ark”         
サンクト・ペテルブルグのエルミタージュ美術館を舞台に、
そこで起きたいろいろな歴史的な出来事を再現した映像オデ
ッセイ。しかもこれを90分ワンカットという荒技で作り上げ
ている。                       
全く予備知識なしで観てしまったのだが、最初はロシア語の
なんとも気怠い感じのナレーション(監督のソクーロフが入
れたもので、カメラも彼の目となっており、全ては一人称で
語られる。)が、ちょっとうっとうしい感じだった。しかし
徐々に作品の意図しているところが判り始めてからは、結構
面白く見られた。                   
といってもロシアの歴史をよく知らないので、そこで起きて
いる出来事の意味が全部理解できている訳ではないのだが、
それでもエカテリーナ大帝や、ピョートル大帝などという名
前が出て来ると、なるほどと思ってしまう。       
そして再現された舞踏会など、出演者は総勢2,000人。これ
が全員コスチュームを着け、90分ワンカットの中で入れ替わ
り立ち替わり演技をするのだから、そのなんと言うか壮大さ
みたいなものは良く感じられた。            
ライトのせいで、せっかくの絵画がよく見えないのがちょっ
と残念だったが、本当の一発勝負でこれをやり遂げた人々の
意気は感じられるし、巨大な実験映画としては評価したいと
思った。結末もちょっと面白かったし。         
                           
『トランスポーター』“Le Transporteur”        
リュック・ベッソン脚本、製作によるフランス製アクション
映画。                        
主人公は、依頼されたものは何でも確実に運搬する運び屋。
BMWを華麗なドライヴィング・テクニックで疾走させ、銀
行強盗をパトカーの追跡を振り切って逃走させたり、多少や
ばいものでも、中身を見ずに運ぶのが信条だったのだが…。
ある日、依頼されたバッグの運搬で、気になった主人公は中
を見てしまう。そこには若い女が手足を縛られ入っていて、
それを見たことから、彼の運命が変わり始める。     
フランス製のアクション映画が面白くなってきたことは以前
にも書いたが、本作でもカーアクションから、クンフーアク
ション、爆破アクションまで、90分程度の中によくもまあ詰
め込んだと思うくらいに、次から次にいろいろなアクション
が繰り出されてくる。                 
一つ一つを取ってみれば、どこかで見たようなものばかりか
も知れないが、それでもこれだけサーヴィス精神旺盛に見せ
てくれると、それだけで満足できる感じだ。       
なお、映画の台詞は大半が英語で、フランス映画なのにちょ
っと変な感じだが、主人公はフランス在住のイギリス人とい
う設定で、調べに来る刑事はそのために英語を喋っていると
いうこと。またヒロインは中国人で彼女も英語を話すが、刑
事が部下に命令するシーンはフランス語になっているし、ヒ
ロインが父親と話すシーンは中国語という具合で、一応不自
然ではないようだ。                  
                           
『24アワー・パーティ・ピープル』          
               “24 Hour Party People”
70年代後半から90年代に懸けてのマンチェスターの音楽シー
ンを描いたドキュドラマ。               
中心となる登場人物のトニー・ウィルスンは、ぶっつけ本番
のハンググライダー体験などのレポートするマンチェスター
のローカルテレビ局グラナダの体当たりレポーター。   
そのウィルスンが、観客が42人しかいなかったという、76年
6月4日にマンチェスターで行われたセックス・ピストルズ
のデビューライヴに参加したことから、マンチェスターの音
楽シーンに一大ムーヴメントが起きる。         
彼は新しいロックの可能性を追求するために、伝説のライヴ
ハウス・ファクトリーを皮切りとして、ファクトリー・レコ
ードや巨費を投じたライヴハウス・ハシエンダなどを次々に
展開し、マンチェスターの音楽シーンをリードしていったの
だ。                         
映画は、その発端から、91年のハシエンダ閉幕までをドキュ
メンタリータッチで追って行く。夢みたいな物語だが、これ
は全て真実に基づいているということだ。因に、ウィルスン
は現グラナダテレビの社長で、今だにライヴハウスを潰した
りしているようだ。                  
監督は、97年のカンヌでパルムドールに輝いた『ウェルカム
・トゥ・サラエボ』などのマイクル・ウィンターボトム。 
その演出は巧みで、突然ウィルスン役の俳優にカメラに向か
って話させたり、当時のライヴのシーンなどは多分フェイク
なのだろうが、わざと画質を落としたり、ヴィデオからの変
換のように見せたりして、ドキュメンタリーの雰囲気を見事
に演出している。                   
僕は、当時の音楽シーンのことなどは全く知らないが、ライ
ヴのシーンの演奏などはフェイクとは思えない迫力があり、
結構楽しめた。                    
                           
『ボーン・アイデンティティー』“The Bourne Identity”
元脚本家でミステリー作家となり、昨年1月に他界したロバ
ート・ラドラム原作の映画化で、ラドラム自身が製作総指揮
を勤めた作品だ。                   
大荒れの地中海で漁船が背中に銃弾を受け、海を漂流してい
た男を救出する。男は自分の名前を思い出せなかったが、男
の尻にはレーザーでスイス銀行の貸金庫の番号を描き出す装
置が埋め込まれていた。                
男は記憶喪失のままスイス銀行に行き、貸金庫を開く。そこ
には巨額の各国紙幣と名前の違う6通の各国の正規のパスポ
ートが保管されていた。男は次に領事館に向かったが、そこ
に追手が迫り、男は偶然居合わせた女と共に、パスポートに
記載されていたパリの住所へと向かう。         
実は男は、CIAで訓練を受けた暗殺者で、アフリカの独裁
者の暗殺を目論んだが失敗。このため失敗を隠そうとするC
IAに命を狙われることになるが、彼は訓練によって意識せ
ずに動き出す身体能力と知識で窮地を切り抜けて行く。  
この主人公を、『グッド・ウィル・ハンティング』でオスカ
ー脚本賞を獲得した若手俳優のマット・デイモンが演じる。
何しろリアルと言うか、ワイアー・アクションのない格闘シ
ーンを久しぶりに観たという感じだ。こういう格闘シーンは
ちょっと前だとスティーヴン・セガール辺りがやっていたも
のだが、これを若いデイモンがやってみせるというのも見所
といえそうだ。                    
それに、カーチェイスも派手な激突シーンなどはほとんどな
くて、ミニクーパーがパリの狭い路地を巧みに抜けて追手を
捲いて行く面白さ。ハリウッド映画とはかなり違う、ヨーロ
ッパスタイルのスパイドラマという感じだった。     


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井口健二