井口健二のOn the Production
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2002年11月04日(月) 東京国際映画祭(後)

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※このページでは、東京国際映画祭の上映映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介します。       ※
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(コンペティション部門)               
『恋人』(中国)“天上的恋人”            
中国南部の山岳地帯を舞台にした恋愛映画。       
大きな赤いバルーンが飛来し、それに驚いた老人が銃を暴発
させて失明してしまう。そしてたまたまそこに居合わせたヒ
ロインが犯人呼ばわりされるが、彼女は口が利けないために
言い訳ができない。                  
ところが老人の息子は村人の意見は意に解さず、彼女を妹と
して家に引き入れる。実は彼は耳が聞こえず、こうして目の
見えない老人と、口の聞けない女性と、耳の聞こえない男性
という奇妙な一家の生活が始まる。           
と書くと、かなり不思議な物語に聞こえるが、物語自体は、
これに村の人気者の女性と、ちょっと不埒な青年医者が絡ん
で、どちらかというと真っ当な恋愛ドラマが展開する。  
それにしても、中国の山岳地帯というのは、以前に『山の郵
便配達』という作品もあったが、その風景だけで何か心洗わ
れるような雰囲気があり、それを見ているだけで充分という
感じがする。                     
そんな風景の中での素朴な恋愛ドラマ。殺伐とした不況日本
に暮らすものにとっては、憧れ以外の何物でもない。   
                           
『荒野の絆』(アメリカ)“Skins”           
第11回の東京国際映画祭に『スモーク・シグナル』が出品さ
れたクリス・エア監督の第2作。今回も前作と同様、現代に
生きるインディアンの生活を扱った物語だ。       
主人公は2人兄弟の弟。兄はヴェトナム戦争に従軍し、帰国
後は酒浸りの生活になっている。しかし酒浸りは兄だけでな
く、インディアンに共通する問題のようだ。そして弟は、警
官で、兄の様子を心配しながらの勤務を続けている。   
そんなある日、一人の酔っ払いが暴漢に襲われて死亡、その
犯人を追った弟は岩に躓き頭を打つ。しかしその時から、彼
の中で何かが変る。そして偶然犯人を見つけた彼は、犯人を
襲い、彼らが自首せざるを得ないようにしてしまう。   
さらに、テレビの報道で酒屋が悪いと知った彼は、酒屋に放
火。ところがその酒屋に盗みに入ろうとしていた兄が大火傷
を負ってしまう。火傷自体は何とか治療されるが、同時に長
年の酒浸りの生活が、兄の余命をほとんど奪っていることを
知らされる。                     
岩に宿った精霊が彼に犯行を重ねさせているのかどうかは、
実は映画の中では明らかにされていないのだが、まあそう考
えると一番話の辻褄は合う感じがした。         
社会の底辺に暮らす人々のこのような生活は、インディアン
に限られるものではないと思うが、インディアンに保護が行
き届いていないのは事実のようだ。           
なお、今回監督は来日しなかったが、第11回の時のティーチ
インで「自分はインディアンと呼ばれるのが一番しっくりく
る」と発言していたので、この記事でもインディアンという
表記を使った。                    
                           
『ブロークン・ウィング』(イスラエル)        
                  “Knafaim Shburot”
イスラエルのハイファを舞台にした家族再生ドラマ。   
主人公は17歳で男女の双子の片割れの女性。兄弟は他に幼い
弟と妹がおり、父親はなく母親は助産婦として働いているが、
生活は豊かではない。双子の男子は登校拒否で閉じ込もりに
近い状態になって、いつもネズミの着ぐるみを着て生活して
いる。
そして彼女は歌手を目指しバンドに参加しているが、そのバ
ンド活動も家事のために思うように行かない。      
ところがある日、彼女が妹を迎えに行かなかったために、代
りに行った幼い弟が大怪我で意識不明の重体になる。これを
きっかけに母親と罵りあった主人公は家出し、彼女の歌に興
味を持っていると連絡のあったテル・アヴィヴのレコード会
社へと向かう。結局、彼女には父親の死について負い目があ
り、それを詩にして歌うことで自分自身に相対することがで
きるようになる。そして家へと帰って行く。       
まあ、ちょっと普通ではない部分もあるが、大体のところは
どこの国にもある家族の危機と、そこからの再生の物語だろ
う。ただ、これがイスラエルの作品だというところがどうし
ても引っ掛かる。何しろ映画の中ではパレスチナのパの字も
出てこないし、全く平和な風景が展開しているのだ。   
もちろんイスラエルだからと言って、いつも戦争の話をして
いる訳ではないし、逆に言えば、そんな環境の中でもこれだ
けの作品を作れるということに感心した。        
                           
『シティ・オブ・ゴッド』(ブラジル)“Cidade de Deus”
リオ・デ・ジャネイロ郊外にあるスラム街「神の街」を舞台
にしたドラマ。1960年代から80年代に亙る街のちんぴらギャ
ングたちの抗争の歴史が描かれる。           
最終的に写真家を目指すことになる少年の目を通して、3代
に亙るギャングのボスたちの姿が描かれるが、これらがすべ
て20代に行くか行かないかの若者の話というのが凄い。それ
こそ10歳にも満たないような子供たちが拳銃を持ち、大人を
襲うのだ。                      
「神の街」は平地にあり、『黒いオルフェ』や『ガール・フ
ロム・リオ』に描かれた山側のスラム街とは違うようだが、
原作は、そのスラム街に10歳から9年間暮らした人が書いた
小説だそうで、解説によると全て実話に基づいているという
ことだ。                       
映画は、2時間10分の大作だが、いくつかのエピソードに分
けてストーリーを明確にし、また、ラッシュバックを多用し
た編集も巧みだし、同じシーンを別角度で撮ったり、あるい
は人物の回りをカメラが一周したりといったテクニックを駆
使して、長丁場を飽きさせない。            
出演者たちは、すべてスラム街でオーディションした素人と
いうことだが、かなりドキュメンタリータッチで描かれてい
るので、演技力と言うより演出力でカヴァーしている感じだ
が、それでも拳銃などの使い方が巧みなのは、ちょっと恐ろ
しい感じもした。                   
この作品もアウト・オブ・コンペティションになってしまっ
たが、特にこの作品とイランの作品は、もったいない感じが
した。                        
                           
(特別招待作品)                   
『ゴジラ×メカゴジラ』                
今年も東宝正月怪獣映画の初披露が行われた。      
今回の作品は、2000年度作品を手掛けた手塚監督の下、主演
の闘うヒロイン釈由美子が、バイオメカで建造されたメカゴ
ジラを駆使して、ゴジラに挑む作品だ。         
ゴジラ映画での闘うヒロインというと、00年作品の田中美里
が良かったが、今回の釈も負けてはいない、特にエンディン
グで見せる敬礼の姿は、前作の金子作品でのいい加減さで批
判されたのを受けたのか、見事に決まっている。     
特撮は、生物のゴジラはどうしても動きが緩慢だが、対する
メカゴジラの動きの俊敏さが上手く描かれていた。組打ちは
如何せん腕が短いのでちょっと様にならないが、メカゴジラ
はバックパックのロケット噴射で空中を飛び回るなどアクシ
ョンも心地よく、特に空中から品川の運河に着水するシーン
は、水の描き方と共に良くできていた。         
映画では一瞬しか写っていないが、この運河には水際遊歩道
に彫刻まで配されていたのだそうで、その辺の東宝美術のこ
だわりは昔も今も変っていないということのようだ。   
2000年以降のミレニアムゴジラは、毎作ごとにシリーズ第2
作『ゴジラの逆襲』のリメイクという形を取ってきたようだ
が、メカゴジラと釈由美子の登場で、この先の展開がちょっ
と開けてきたような感じもした。            
                           
『ハリー・ポッターと秘密の部屋』           
      “Harry Potter and the Chamber of Secrets”
東京国際映画祭で初めて行われたスニーク・プレヴューは、
大方の予想通りこの作品だった。            
会場のオーチャードホールに着くと、ワーナーの人たちが出
迎えてくれたから、その時点で決まりという感じではあった
が、前日にロンドンでワールドプレミアがあったばかりだか
ら、これは凄いことだ。前作の時はロンドンからの衛星中継
記者会見をやったし、力の入れようが感じられる。    
物語は紹介するまでもないが、映画を見た感想としては、原
作の暗い部分がかなり消されて、純粋な冒険物語になってい
る感じがした。特に、ホグワーツに向かう前のノクターン横
町の場面などは、ここで原作ではマルフォイ親子の会話を盗
み聴くシーンがあったはずだが、そういったものが全てカッ
トされている。                    
結局、前作では子供向けにしては暗いのではないかという批
評もあったが、今回はその辺が考慮されたのかも知れない。
それと、裏で進む大人側の権力抗争みたいな話をカットする
ことで、子供向けの純粋さを出してきた感じがした。   
それでも上映時間は2時間41分。前作は2時間32分でまた長
くなった訳だが、原作も長くなっているのだからこれは仕方
がない。でもこの調子で、『炎のゴブレット』はどうなって
しまうのだろう。                   


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井口健二