井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2002年11月02日(土) イナフ、ピーター・パン2、スコルピオンの恋まじない、Jam Films

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介します。       ※
※一部はアルク社のメールマガジンにも転載してもらって※
※いますので、併せてご覧ください。         ※
※(http://www.alc.co.jp/mlng/wnew/mmg/movie/) ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『イナフ』“Enough”                 
全米No.1ヒットを記録した女優で、同時に全米No.1ヒットを
記録した歌手でもあるジェニファー・ロペス主演のサスペン
ス映画。                       
軽食レストランで働く主人公は、ある日、1輪のバラを持っ
た魅力的な男性客に声を掛けられる。しかしそれは彼女を賭
けの対象にした悪戯で、それを見破った別の客に救われる。
そしてその危機を救ってくれた男性と結婚、その男は彼女が
気に入ったという家を、大金を払って強引に買い取るなど、
彼女のために最高に尽くしてくれたのだが…。      
子供が産まれ、その子に物心が着いた頃に男の浮気が発覚。
それを責めた彼女に、男は突如暴力を振るいだす。    
この事態に、友人たちは警察に行くことを進めるが、子供の
父親を犯罪者にできないと我慢をしてしまう。しかしエスカ
レートする男の暴力に、遂に彼女は子供を連れて家を出、名
前を変えて全米を転々とするのだが、男の手は執拗に彼女を
追いかけてくる。                   
そこでようやく法律事務所に駆け込んだ彼女に弁護士は、す
でに何度もチャンスを逸した彼女に最早打つ手はないと宣言
される。そして恐らくは親権裁判にも勝てないと言われた彼
女は、裁判までの残された1カ月に、昔からの友人と新たな
知人の力を借りて最後の勝負に出る。          
何しろ前半は恐怖映画として中々の出来映えだ。物語を知っ
て見ていると、いつ男が豹変するかという恐怖と、その後は
あの手この手を尽くす男の執拗さなど、物語も演出も良くで
きている。                      
それが後半になると一変、救鼠猫を噛むの展開は、最後に思
わず「やったね」と言いたくなるエンディングで、甘いと言
われれば確かに甘いが、娯楽として見るにはこれでも良いの
ではないかと思えた。                 
                           
『ピーター・パン2 ネバーランドの秘密』       
         “Peter Pan in Return to Neverland”
1953年製作の『ピーター・パン』の続編。        
前作から何年も後の話。ナチスドイツの空襲に怯えるロンド
ンの町でウェンディは暮らしていた。結婚して男女2人の子
供のいる家庭、しかし夫は兵役に取られ、暗く沈みがちな生
活の中で、彼女の語るネバーランドでの冒険の物語は、幼い
男の子の心は捕えるが、年頃になりかかった長女ジェーンの
心には響かない。                   
そんなある日、沈んだ心で窓辺で寝てしまったジェーンは、
突然現れたフック船長と海賊たちに捕えられ、無理矢理ネバ
ーランドへ連れていかれてしまう。そこではピーターとフッ
ク船長が昔通りの戦いを繰り広げており、船長はウェンディ
を囮にピーターをおびき寄せ、海の怪物に始末させようとし
ていたのだが…。                   
一応、ウェンディが後に結婚し、ジェーンという女の子が産
まれ、そこにピーターが現れるという物語は、原作のエピロ
ーグに語られているようだ。しかし今回の映画の物語は原作
とは関係なくオリジナルのもの。            
というより、前半では海賊船がロンドンを飛行する際にビッ
グベンの前を掠めたり、後半では死にかかったティンカー・
ベルを心の力で復活させたりと、原作の物語を巧妙に再話し
ているという感じの作品だ。特にフック船長のワニに代わる
新たな敵、海の怪物のリズミカルな音の出し方は笑えた。 
                           
『スコルピオンの恋まじない』             
          “The Curse of The Jade Scorpion”
ウッディ・アレン監督主演の01年作品。         
舞台は1940年。主人公ブリッグスは損害保険会社のベテラン
調査員。この日も盗まれ絵画を発見して会社に貢献したのだ
が、会社はリストラ計画が進行中で、旧態依然の彼のやり方
は、リストラ担当のキャリアウーマン、ミス・フィッツジェ
ラルドの標的となっている。              
ということで、犬猿の仲の2人だったが、ある日、同僚の誕
生パーティで余興の舞台に上がった2人は、怪しげな催眠術
師によって相思相愛になる術を掛けられてしまう。そしてそ
の催眠術は解かれて舞台を下りたはずなのだが…。    
その夜、ブリッグスに電話が掛り、呪文の言葉を告げられた
ブリッグスは、催眠術師の命じるままに邸宅に忍び込み、宝
石を盗み出してしまう。そして被害の報告を受けた保険会社
は、調査を外部の探偵に発注。ブリッグスは探偵と競って調
査を始めるが。                    
アレンは、この前の『おいしい生活』でも泥棒の話を描いて
いたが、どうやらお気に入りのテーマらしい。そういえば、
監督デビュー作の“Take the Money and Run”(泥棒野郎)
も題名の通り泥棒が主人公だったから、原点回帰と言うとこ
ろだろうか。                     
アレンの主人公は、ちょっと年齢が行き過ぎている感じもす
るが、しょぼくれたバツイチ男を演じられる俳優は、そうた
易く見つかりそうもないし、まあこんなところだろう。  
相手役にヘレン・ハントとシャーリズ・セロン、脇をダン・
エイクロイドが固めており、舞台劇でも行けそうな見ていて
安心感のあるコメディ作品だった。           
                           
『Jam Films』                
日本映画の新鋭と言うか、もうベテランに近い人もいるが、
7人の監督が集まって作ったショートフィルム集。それぞれ
個性あふれる作品ばかりで、それなりに楽しめた。    
北村龍平監督の『the messenger』は、さ迷っている死者に
現実を告げる告知者の話。色調を押さえた映像も、アクショ
ンも、北村らしさが溢れていた。            
篠原哲雄監督の『けん玉』は、偶然手に入ったけん玉に隠さ
れた秘密を巡っての男女の物語。起承転結もしっかりしてい
るし、主演の2人の演技も堅実な感じで面白かった。   
飯田譲治監督の『コールドスリープ』は、人類移住を目指し
た先見隊を巡るSFドラマ。筒井康隆も出ていて、それなり
のものにはなっている。イメージもまずまず。      
望月六郎監督の『Pandora』は、ある女性の秘密と秘密の漢
方薬のお話。結末にもう少し捻りがあっても良かったとは思
うが。麿赤兒の身のこなしや雰囲気が良い。       
堤幸彦監督の『HIJIKI』は、アパートの一室に立て籠った人
質犯と住人一家の物語。セットや出演者の臭い演技も良く。
ブラックコメディとして上手くまとまった作品だ。    
行定勲監督の『JUSTICE』は、高校が舞台の青春ドラマ。教
室では外人教師によるポツダム宣言の朗読が続き、校庭では
女子の体育の授業が行われている。教室の生徒たちは、退屈
な授業を過ごすためにいろいろなことをやっているが…。シ
ョートフィルムとして上手くまとまっていた。      
岩井俊二監督の『ARITA』は、広末涼子を主演にした一人芝
居。いろいろなところに現れるアリタという謎のキャラクタ
ーを巡る物語だが、正直に言って7本の中では一番つまらな
い。テーマもはっきりしないし、だいたい最後に質問するの
はアリタの復活のさせ方だろう。            
この7本に、原田大三郎監督のCGアニメーションによるオ
ープニングがついてる。                
春には、アマチュアと言うか学生さんの短編集を見たが、さ
すがにプロな作品は違うと感じた。まあ中には自分の才能に
溺れた感じの人もいるが。               


 < 過去  INDEX  未来 >


井口健二