井口健二のOn the Production
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2002年10月15日(火) 第25回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 今回はリメイクの話題から紹介しよう。        
 まず1本目は、79年にウォルター・ヒルの脚本、監督で発
表されたアクション映画“The Warriors”(ウォリアーズ)
のリメイクが、『スパイゲーム』などのトニー・スコットの
監督で計画されていることが報告された。        
 オリジナルの物語は、抗争を繰り広げるニューヨークのス
トリートギャング団が、和平を進めていた大ボスが殺された
ことから抗争を激化させる。その中を、主人公たちのグルー
プが自分たちのシマを目指して突破して行くもので、次から
次へと襲ってくる敵ギャング団を、いろいろな策略や正面切
った対決などで打ち倒して行くというものだ。      
 今から考えて見ればこの構成は、アクションゲームそのも
のという感じでもあり、その意味では時代を先取りしていた
というところでもあるが、当時はマンガチックな構成などと
批評されながらも、その見事なアクション演出と過激なヴァ
イオレンス表現で、後のアクション映画の方向付けをしたと
も言われている作品だ。                
 因に、脚本家出身のヒルは、75年に自らの脚本による“St
reetfighter”(ストリートファイター)で監督デビューし
ているが、この作品は同じ名前のヴィデオゲームの基になっ
たとも言えるものだ。それから79年といえば、ヒルが製作を
担当し、トニーの兄のリドリー・スコットが監督した『エイ
リアン』が公開された年でもある。           
 そして今回発表された計画では、79年のヒル作品を、21世
紀にマッチしたものに現代化して再映画化するということだ
が、その準備状況としては、先にジョン・グレンとトラヴィ
ス・ライトという脚本家に脚本が依頼されて、香港製マーシ
ャルアート映画のような脚本の第1稿がすでに完成している
そうだ。またスコット自身はこの計画について、「自分の最
も好きな映画の舞台を再訪できることを楽しみにしている」
と語っている。製作はパラマウント。          
 ただしスコットは、その前に、来年早々にリジェンシーで
“Man on Fire”という作品が予定されており、さらにユニ
ヴァーサルで“American Caesar”と、インターメディアで
“Pancho Villa”という作品の予定もあり、今回のリメイク
がいつ実現するかは予断を許さないようだ。       
        *         *        
 お次は往年のテレビシリーズからで、アメリカでは75〜79
年にABCで放送された“Starsky & Hutch”(刑事スタス
キー&ハッチ)の劇場版リメイクが計画されている。   
 このシリーズは、日本でも『スタ・ハチ』の愛称で人気の
あったものだが、型破り刑事2人組が活躍するアクションコ
メディ・シリーズで、オリジナルは、後に『バトル・ランナ
ー』などの監督となるポール・マイクル・グレイザーと、デ
イヴィッド・ソウルが主演。ジーパンに皮ジャンという当時
としては斬新なスタイルと、2人の絶妙のコンビネーション
で、特に若い世代に絶大な人気を博していた。      
 そして今回発表されたのは、このシリーズを、『ズーラン
ダー』『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』と共演作の続くベ
ン・スティラーとオーウェン・ウィルスンのコンビで劇場版
リメイクしようという計画だ。なお、スティラーとウィルス
ンは『ミート・ザ・ペアレンツ』でも顔を合わせているが、
特に『ズランダー』での掛け合いは、日頃でも付き合いの深
いことを伺わせていた。その2人が、いよいよ本格的なコン
ビで主演するという訳だ。               
 因に、この計画は、今年度オスカーを受賞した脚本家のア
キヴァ・ゴールズマンの製作で進められ、以前からスティラ
ーの主演は決まっていたが、今回その相手役にウィルスンの
参加が発表されたものだ。なお配役は、スティラーがグレイ
ザーの演じていたスタスキー役、ウィルスンがソウルの演じ
ていたハッチ役となっている。             
 監督はトッド・フィリップス。フィリップスはパートナー
のスコット・アームストロングと共に脚本も手掛けており、
すでに第1稿が完成しているそうだ。なお、フィリップス=
アームストロングのコンビでは、00年製作の“Road Trip”
という作品の評価が高いようだ。製作はワーナー。    
        *         *        
 もう1本は、アレック・ギネスの主演で55年に製作された
イギリス映画“The Ladykillers”(マダムと泥棒)を、ジ
ョエル&イーサン・コーエン兄弟の監督、トム・ハンクスの
主演でリメイクする計画が発表されている。       
 オリジナルのお話は、ロンドンのキングズ・クロス駅近く
で下宿屋を営む老婦人のもとに教授と名乗る男が現れ、男は
絃楽五重奏を練習すると称して4人の仲間を引き入れるが、
実は彼らは現金輸送車強奪を計画していた、というもの。レ
コードを掛けて絃楽五重奏の練習をしているように見せかけ
て、その陰で計画を進めるなど、ちょっとブラックなコメデ
ィ仕立ての作品で、オリジナルには、ピーター・セラーズや
ハーバート・ロム、セシル・パーカーらが共演していた。
 そして今回のリメイクは、バリー・ソネンフェルドの製作
でタッチストーンでの映画化が進められているが、すでにコ
ーエン兄弟が舞台をアメリカ南部に移した脚本を書き上げて
いるようだ。しかしリメイクでは、兄弟の作品らしくブラッ
クの度合いも高まっているようで、老婦人の純真さに振り回
される男たちが、遂には老婦人を始末しようと試みるが…、
という展開になっているそうだ。            
 なおハンクスは、以前から紹介しているロバート・ゼメキ
ス監督のCGI+実写合成作品“Poler Express”に主演の
後に、この作品に取りかかる予定。一方のコーエン兄弟は、
ジョージ・クルーニー、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ共演
の“Intolerable Cruelty”という作品が先に予定されてい
るということで、このリメイクは来年のことになりそうだ。
        *         *        
 この他のリメイクの計画では、            
 イギリスで1950年代後半に「怒れる若者たち」と呼ばれた
作家の一人、キングズレー・エイミス原作の“Lucky Jim”
のリメイクがユニヴァーサルで計画されている。この原作は
エイミスが54年に発表した処女長編小説だが、既成の秩序や
風習を強烈に風刺し、彼の名前を一躍有名にしたもの。そし
てこの原作は57年にイギリスのジョン・ボールティング監督
によって映画化(日本未公開)されており、今回はそのリメ
イクがユニヴァーサル傘下のストライク・エンターテインメ
ントと契約されたものだ。因にストライク社は、現在ザ・ロ
ック主演の“Helldorado”を製作中の会社だ。      
 66年に俳優監督のコーネル・ワイルドの監督主演で製作さ
れた“The Naked Prey”(裸のジャングル)のリメイクが、
パラマウントで計画されている。オリジナルは、19世紀のア
フリカを舞台に、ジャングルに迷い込んだ主人公がズールー
族の襲撃の中を生き延びるというものだったが、計画されて
いるリメイクでは、陸軍士官学校の生徒たちが春休みに訪れ
たニカラグアのジャングルで地元民との抗争に巻き込まれる
というものになるようだ。つまり机上の作戦しか知らない生
徒たちがいきなり実戦に立ち向かわなくてはならなくなると
いうもので、『ブラック・ホーク・ダウン』と『脱出』を合
わせたような作品と紹介されていた。なお脚本は、ワーナー
でクライヴ・バーカーのために“Damnation Game”の脚色
なども手掛けているジョン・ヘファーナンが担当している。 
 99年に『グロリア』のリメイクを監督したシドニー・ルメ
ットが、今度は49年のRKO作品“The Set-Up”(罠)のリ
メイクを脚色し、自ら監督する計画が発表された。オリジナ
ルはロバート・ワイズ監督、ロバート・ライアンの主演で、
35歳の全盛期を過ぎたプロボクサーが金のために再びリング
に立つ。しかし八百長を指示されて…、というもの。リメイ
クでは、この主人公を『デンジャラス・ビューティー』のベ
ンジャミン・ブラットが演じ、彼の長年のガールフレンド役
にハル・ベリー、また彼女に思いを寄せるホテルマネージャ
ーに『ザ・メキシカン』のジェームズ・ガンドルフィーニと
いう顔ぶれが発表されている。なお、ブラットはすでにボク
シングのトレーニングを始めているそうだ。製作はRKO。
       *         *         
 リメイクに続いては、これもリメイクと言えば全部そうな
ってしまうが、歴史ものの計画を2本紹介しよう。    
 まず最初は、メル・ギブスンの監督で、イエス・キリスト
が処刑されるまでの12時間を描く“The Passion”という作
品が準備されている。                 
 この作品は、ギブスンがオスカーを受賞した95年の『ブレ
イブハート』以来の監督に復帰するもので、前の2作の監督
作品では主演も兼ねたが、今回は監督に専念する計画。そし
てこの計画では、全台詞をラテン語とキリストが用いたとさ
れる古代アラム語で行い、しかもギブスンはこの作品を字幕
なしで公開したいとしている。             
 このことについてはギブスン自身が、「周りからは頭がお
かしくなったんじゃないかと言われているが、自分でもそう
かもしれないと思う。でも僕は天才かもしれないから…」と
語っているそうで、出来るだけ映像のみで理解できる作品に
したいということだ。ただし本人も、「うまく行かなかった
ら、字幕をつけることもある」とは言っているようだ。  
 なお脚本は、ギブスンとベン・フィッツジェラルドという
脚本家がいろいろな文献を参考にして書き上げたもので、こ
れをロサンゼルスに本拠のあるイエズス会の語学研究者ビル
・フルコ教授が、ラテン語と古代アラム語に翻訳。教授は撮
影にも立ち会ってダイアローグコーチを勤めるそうだ。撮影
は11月4日から10週間のスケジュールで、イタリアのチネチ
ッタスタジオで行われることになっている。       
 配役は、キリストに『シン・レッド・ライン』のジム・カ
ヴィエゼルを起用。またマグダラのマリア役は、モニカ・ベ
ルッチが演じることになっている。この他、脇役のほとんど
はイタリア人で固められているようだ。なお、カヴィエゼル
はアメリカ人だが、デビュー作ではイタリア人と偽って役を
得たというエピソードも伝えられており、これは適役という
ところだろう。それにしても台詞が古代語というのは大変な
ことになりそうだ。                  
 製作費はギブスン主宰のイコン・プロが全額出資し、アメ
リカ配給は未定。イコン・プロは、現在は本拠をフォックス
に置いているがどうなるのだろうか。          
 因に、キリストを描いた作品では、マーチン・スコセッシ
監督、ウイレム・デフォー主演の“The Last Temptation
of Christ”(最後の誘惑)や、ジョージ・スティーヴンス
監督、マックス・フォン=シドー主演の“The Greatest
Story Ever Told”(偉大な生涯の物語)などが作られてい
るが、今回の製作に当ってギブスンは、カソリックの総本山
ヴァチカンの高位の担当者と入念な打ち合わせをし、充分な
コンサルティングを受けているということで、宗教的な裏づ
けのある本格的な作品が作られるようだ。           
        *         *        
 もう1本は、ロン・ハワードの監督で、メキシコのアズテ
カ文明の最後を描く計画が発表されている。       
 計画されているのは“The Serpent and the Eagle”とい
う題名で、ハンス・ベイムラーとロバート・ウォルフという
脚本家が執筆した作品。アズテカ文明は、15世紀に侵略した
スペインの軍人ヘルナンド・コルテスによって滅亡させられ
たが、この脚本では、アズテカの王女から奴隷にされた女性
を主人公に、その全貌を描いているということだ。    
 なおこの女性は、最初はコルテスのもとへ平和の使者とし
て送られたが奴隷にされてしまう。しかし彼女がスペイン語
とアズテカ語を喋ることができたために、やがてコルテスの
通訳となり、恋人、そしてパートナーとなって、コルテスの
富の略奪を助けたということだ。            
 コルテスのアズテカ侵略は、富の略奪や人々の虐殺など、
残虐な面の印象が強く、なかなか映画になりにくい雰囲気が
ある。しかし今回は女性を主人公にすることで、それなりに
ドラマティックなものになっているようだが、結局のところ
彼女が略奪に手を貸したということは、かなり強烈な物語に
なりそうだ。                     
 因にハワードは、先にメキシコとアメリカとの対決を描い
た“The Alamo”からの降板が発表されたばかりで、それで
もメキシコを離れることはできなかったようだ。なお“The
Alamo”については、ジョン・リー・ハンコックが監督を引
き継いで映画化が進められている。           
 “The Serpent and the Eagle”と“The Alamo”に2
作は共に、イマジン=ユニヴァーサルで製作される。    
        *         *        
 お次は、女性が主人公のアクション映画の話題を、これも
2本まとめて紹介しよう。               
 まず1本目は、ディズニー製作で“Fate of the Blade”
というアクション・コメディの計画が発表されている。この
作品は、ドリームウェイヴから出版されているコミックスを
原作とするもので、この原作から脚色されたアナリサ・ラビ
アーノのシナリオが6桁($)で契約されたということだ。
 物語は、日本の侍一族の血を引く唯一人の末裔で、アメリ
カの中流階級の一家に引き取られて西海岸で成長した10代の
少女が、自分が古代の悪魔に命を狙われていることを知り、
自らの能力に目覚めて行くというもの。監督や出演者は未定
だが、特に主人公となる女優には注目したいところだ。女性
のアクションということで、『グリーン・デスティニー』の
線が考えられているようで、報道でもアジア系アメリカ人の
少女と書かれていたが、ここはやはり日本の女優にも頑張っ
てもらいたいものだ。                 
 もう1本は、これもコミックスから映像化される作品がユ
ニヴァーサルから発表されている。こちらの題名は“Beauti
ful Killer”で、原作の出版はブラックブル・コミックス。
 物語は、若い女性がスパイ戦に巻き込まれて殺された両親
の復讐のために駆り立てられるというもの。そしてこの主人
公に、テレビの『ダーク・エンジェル』でブレイクしたジェ
シカ・アルバの起用が発表されている。物語の展開には『ニ
キータ』との共通点が指摘されているようだが、これをアル
ダを主演とすることで、彼女のテレビでの実績が重なるよう
な作品にしたいということだ。またアルダ自身も「このよう
な物語と主人公に出会えることは、女優としてすばらしいこ
と」と抱負を語っている。計画はアルダの次の作品として脚
本を依頼中ということだ。               
        *         *        
 後半は短いニュースをまとめておこう。        
 まずは続報で、前回セットで火災が発生したことを紹介し
た“Pirates of the Caribbean”は、幸い大事には至らな
かったようで、撮影は10月9日に開始されている。公開は来
年の秋に予定されているようだ。             
 また、ブラッド・ピット主演の“Troy”では、敵役のトロ
イアの王子ヘクター役にエリック・バナの起用が発表されて
いる。なおバナは、ユニヴァーサルで製作中の“Hulk”の主
演に抜擢されて話題になったが、変身したハルクはCGIで
描かれるということで、彼自身は普通の体型の持ち主だ。 
 69年に公開された“Easy Rider”(イージー・ライダー)
の続編が計画されている。この計画は、オリジナルを製作し
たコロムビア=ソニーに本拠を置くロイド・エンターテイン
メントという製作プロダクションが進めているもので、題名
は“Easy Rider A.D.”。物語は、前作でピーター・フォン
ダが扮した主人公キャプテン・アメリカが、前作での殺人の
罪で服役しているところから始まる。やがて彼は出所し、新
たな登場人物と共に、アメリカを探す旅に再び出発するとい
うものだ。製作費3,000万ドルで来年春の撮影が予定されて
いる。                        
 最後に新しい情報で、人間クローンの実験を巡るスリラー
を、ロバート・デ=ニーロの主演で映画化する計画が発表さ
れた。題名は“Godsend”。マーク・ボンベックという脚本
家の作品で、グレッグ・キニアとレベッカ・ロミジン=ステ
イモス扮する夫婦が、8歳で死んだ息子を取り戻すために、
デ=ニーロ扮する細胞クローンの権威の元を訪ねるというも
の。ニック・ハムの監督で、撮影は11月の半ばにトロントで
開始の予定だが、デ=ニーロが扮する科学者というのは、か
なり迫力があって恐そうだ。製作はライオンズ・ゲート。 


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