2002年10月02日(水) |
ガール・フロム・リオ、K-19、ショウ・タイム、マイ・ラブリー・フィアンセ、夜を賭けて |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介します。 ※ ※一部はアルク社のメールマガジンにも転載してもらって※ ※いますので、併せてご覧ください。 ※ ※(http://www.alc.co.jp/mlng/wnew/mmg/movie/) ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『ガール・フロム・リオ』“Girl from Rio” ロンドンとリオデジャネイロを舞台にしたイギリス、スペイ ン合作のコメディ。 主人公はシティの銀行マン。彼は支店次長の地位には居るも のの支店長昇進の望みはなく、唯一の楽しみはと言えば、妻 に内緒で主宰するカルチャーセンターのサンバ教室。そして 夢は、サンバ雑誌の表紙を飾る女性と一緒に踊ること。 しかしクリスマスを3日後に控えた日、彼は妻の裏切りを知 り、傷心のままクリスマス休暇前の閉店の確認をして金庫室 に入った彼は、思わず目の前の札束の山をゴミ袋につめ、持 ち出してしまう。そして大金をつかんだ彼が目指すのは、リ オデジャネイロ。 リオに着いた主人公は、最高級ホテルのスウィートに宿泊、 憧れの女性探しを始める。そして女性は意外と簡単に見つか るのだが…。これに怪しげなタクシー運転手やスラム街の顏 役らが絡んで、てんやわんやの騒動が巻き起こる。 夢と言えば夢物語で、こんなに話が上手く行けば…という感 じだが、日本もイギリスも不況から抜け出す道も見つからず どん詰まりで、たまにはこんな景気の良い話も良いじゃない かという感じ。他愛もない話だが、見る方もこんな夢物語を 期待しているのだ。 主演のヒュー・ローリーは『ステュアート・リトル』のお父 さん役で知られるが、同作のアメリカンファミリーのパパ振 りに対する本作のイギリスの銀行マンらしさは見事だし、ち ゃんとサンバのステップを踏んで見せるあたりはさすがのも のだ。 リオのスラム街でサンバというと、何といっても『黒いオル フェ』が印象に残るが、それにも登場する路面電車がちゃん と写るあたりは、監督も良く判っている感じがした。 『K−19』“K-19: The Widowmaker” ドキュメンタリー作品では実績を築いているナショナルジェ オグラフィックが、初めて劇映画に進出した実録ドラマ。 1961年。冷戦下のソ連が就航させた最初の原子力潜水艦は、 建造中から数多くの事故死亡者を出し、ウイドウメーカーと いう異名をとっていた。 そのK−19号潜水艦の初航海は、テスト航海であると同時に 実戦配備で、北極海でミサイルの発射実験を行った後は、そ のままアメリカ東海岸のワシントンとニューヨークをミサイ ルの射程に納められる場所を目指すことになっていた。 しかし大西洋北部を航行中に原子炉の冷却水循環パイプに亀 裂が発生、原子炉は暴走を始める。そしてそのパイプを原子 炉の中に入って修理しなければ、やがて原子炉は爆発し、そ れは、一触即発の緊張状態にある米ソの直接対決の引き金と なる可能性をも孕んでいた。 この事態の中で乗組員たちは、高放射能レベルの原子炉の中 でパイプの交換修理を実行、多数の死者を出しながらもつい にそれをやり遂げる。しかしこの英雄的行為に対して当時の ソ連政府は事故そのものを隠蔽し、ましてや艦長を査問にま で掛けたという物語だ。 この出来事自体は、ソ連崩壊後に公にされ、ナショナルジェ オグラフィック製作のテレビ番組としても先に公開されてい るが、今回はハリスン・フォードとリーアム・ニースンを主 役に迎えて、よりドラマティックに劇映画として製作されて いる。 アメリカでは7月に公開されあまり芳しい成績を残せなかっ た作品だが、作品の出来はかなり良い。僕は元の実話の方も 知っていたので、余計に判り易かったのかも知れないが、放 射能の恐ろしさと、その中での乗組員たちの献身的な行為が 判り易く描かれていた。 もちろん人間ドラマが中心になる劇映画だが、事実に基づい たものだけに、そこに描かれた内容の重さには大きなものが ある。実は、試写の翌日に、東京電力が福島第2原子力発電 所で冷却水循環パイプの亀裂を隠していたことが報道され、 そのタイミングの良さにも驚いた。 『ショウタイム』“Showtime” エディ・マーフィとロバート・デ=ニーロの初共演による警 官コメディ。 デ=ニーロ扮する堅物刑事とマーフィ扮する軽薄警官が、実 物の警官を主人公にしたセミドキュメンタリー番組で主人公 コンビを組まされることになる。しかも彼らが追う事件は、 麻薬取り引きを発端に、劣化ウラン弾装填の超強力武器を扱 う組織が絡んで、LAPD開設以来の大アクションに発展し てしまう。 アメリカでは残念ながら芳しい成績を残せなかった作品だ。 その理由は多分マーフィのミスキャストだろう。『ビバリー ヒルズ・コップ』で大人気となったマーフィだが、いまさら 軽薄な警官という年代ではないし、観客はその辺に敏感だっ たというところだ。 実際、僕も見るかどうかはスケジュール次第だった。そして そのスケジュールが合って見た訳だが、確かに最初にマーフ ィが登場するシーンではちょっと引いてしまう。しかしそん なことは、ものの1分もしないで映画に引き込まれてしまう のは大したものだ。 映画自体は間違いなく面白い。 この2人にレネ・ルッソ扮する番組プロデューサーとウィリ アム・シャトナーが絡むのだが、特にシャトナーは、元警官 ものの主人公を演じた俳優で監督という役柄、中では“T.J. Hooker”(パトカー・アダム30)という言葉が頻出して、 つまりシャトナー本人の役なのだ。クレジットもHimselfと ある。 シャトナーは『スター・トレック』のカーク船長役で有名だ が、その役に関しては、他社ではそれを思わせる役柄は演じ ないという契約が、数100万ドルでパラマウントと結ばれて いるという噂もある。しかし警官役は問題ないらしく、パロ ディとも付かない珍妙な役を楽しそうに演じている。 また、主人公の車のダッシュボードにCCDカメラが仕掛け られていたり、カーチェイスにカメラマンが同乗したり、そ れを中継車が追走したりと、ある意味で技術スタッフの夢み たいな所もあって、僕は結構楽しめた。 しかし観客が付かなかったのは、やはりマーフィのミスキャ ストだろう。これは演技の問題ではなくイメージの問題だ。 本来なら、製作総指揮を務めるウィル・スミスが演じるべき だろうが、彼は『MIB2』で忙しかったのだろうか。 それなら、ルッソも出ているということで、同じワーナーの 『リーサル・ウェポン4』で売り出したクリス・ロック辺り が適役だったような気もしたのだが…。 警官もののパロディというか、業界の内幕ばらしというか、 その辺りは映画ファンやテレビの警官ものファンには絶対に 面白い作品だと思う。 『マイ・ラブリー・フィアンセ』“Just Visiting” 93年製作の“Les Visiteurs”(おかしなおかしな訪問者) のアメリカ版リメイク。 と言っても、共同製作としてハリウッド・ピクチャーズの名 前は入っているが、製作主体はフランスの映画会社のゴーモ ンで、コピーライトもゴーモンになっていたから、これはれ っきとしたフランス映画だろう。 主演はオリジナルと同じジャン・レノとクリスチャン・クラ ヴィエ。監督はオリジナルのジャン=マレー・ポアレからジ ャン=マレー・ゴーベールに代っているが、実はゴーベール はクラヴィエと共にオリジナルの脚本を手掛けた人物だ。な お今回のアメリカ版の脚本には『ホーム・アローン』などの ジョン・ヒューズも参加しているようだ。 物語は12世紀のイギリスから始まる。そのとある領地にフラ ンス人伯爵の主人公が到着、その地の姫と結婚することにな っていたのだが、それを良しとしないイギリス人伯爵の奸計 で、主人公は婚礼の席上で姫を刺殺、捕えられた主人公は魔 術によって時間を遡り、姫を救うはずだったのだが…、手違 いで従者と共に現代のシカゴに来てしまう。 そこではちょうど12世紀のヨーロッパ展が開かれており、そ こにイギリス貴族の血を引く女性が祖先の遺品を展示してい たのだ。現場に居合わせた女性は、現れた主人公のただなら ぬ様子に、彼を自宅につれて行くのだが…。 一方、彼女は婚約者と共同で祖先伝来の土地を売る計画を立 てていたが、その婚約者は詐欺で彼女の土地を奪おうとして いたのだった。 今年の春には19世紀のイギリス貴族が現代のニューヨークに 現れるロマンティック・コメディがあったばかりだが、本作 は01年の製作で先に作られたものだ。しかも相手の女性は子 孫なのだから男女の関係とは行かず、それだけ健全と言えば 健全な物語だ。 従って主眼はコメディということになるが、その点はクラヴ ィエ、ゴーベールのコンビということで、実に健全に楽しめ る作品になっている。特に伝統に生きる主人公と、どんどん 現代に順応して行く従者との対比は上手く描かれている。し かも追ってきたイギリス人魔術師がもっと順応してしまうの は笑える所だ。 クライマックスには、乗馬のまま環状線に乗り込んだり、シ カゴの町を走り抜けるシーンが有ったりして、かなり爽快。 タイムパラドックスは、まあこんなのも有りかな、というと ころで、楽しめる作品だった。 『夜を賭けて』 梁石日原作の映画化。 一応日本映画の扱いになるが、在日韓国人の監督の手によっ て、韓国に壮大なオープンセットを建設して撮影された。製 作資金も日韓で折半ということなので、実際には日韓共同製 作の作品と言える。 SFファンには小松左京の『日本アパッチ族』でお馴染みの 大阪の鉄屑窃盗団を描いた物語だが、実はその真の姿はその 地域に住んでいた在日韓国人であり、彼らの青春を賭けた物 語が群像劇のように描かれる。 舞台は1958年。大阪城の近くに作られた大阪造兵廠は36万坪 の敷地を有し、戦時中は東洋一の兵器廠と呼ばれていた。し かし終戦の前日の大空襲で破壊、戦後は米軍が管理した後、 日本国に返還されたが、長く廃虚のままだった。 その廃虚から平野川を挟んで在日韓国人が住むスラム街が在 った。そして彼らは夜になると廃虚に忍び込み、屑鉄を回収 しては業者に売り捌くことで現金を得ていた。しかしそれは 国家財産の窃盗であり、警察の取り締まるところとなったの だが。 監督は、劇団・新宿梁山泊を率いる金守珍。今回が初監督だ が、多少のアクシデントも乗り越えて演出する力強さは舞台 で培った賜物と言えそうだ。特にクライマックスのスラム街 の炎上シーンは一発勝負の迫力に溢れている。 途中の日本警察の描き方には、日本人としてはかなり辛い部 分もあるが、戦前の警察機構を引き継ぐ当時の警察が、多分 こうだっただろうというのは想像される範囲だ。 それにしても、映画は最近の韓国映画の良さをそのまま受け 継いでいる感じで、そのエネルギーに溢れた描き方がすばら しい。ちょっと暴力過多という意見はあるだろうが、一部の 日本映画の無意味な暴力よりはずっと理が通っているし、何 より主人公たちが常に前向きなのが良かった。
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