井口健二のOn the Production
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2002年10月01日(火) 第24回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 またまた続報で、前回報告したウォルフガング・ペーター
ゼン監督の“Troy”に関連してワーナーでは、先に発表され
ていたペーターゼン監督の“Batman vs.Superman”の計画
を断念、替えて「スーパーマン」復活の物語を製作すること
が報告された。                     
 しかもこの監督を、当初予定されていた『チャーリーズ・
エンジェル』のMcGではなく、ユニヴァーサルで『レッド・
ドラゴン』を撮り終えたばかりのブレット・ラトナーが行う
というものだ。前回報告した“Troy”の製作発表では、元々
ペーターゼンのスケジュールが無理ではないかという話もあ
ったが、裏ではちゃんと根回しが進んでいたようだ。   
 そしてラトナーは、「子供の頃に見た映画の第1作の思い
出を大事にして、その思い出を今の子供たちにも持ってもら
えるような作品にしたい」と抱負を語っている。因に、ラト
ナーは『ラッシュアワー』に関しても、「昔のエディ・マー
フィのイメージでクリス・タッカーに演じてもらった」とい
うことで、そういう言回しの好きな人のようだ。     
 なお脚本は、J・J・エイブラムスによるものがすでに完
成しているということで、そこにはスーパーマンの父親ジョ
ー=エルも登場していると言われている。そしてその配役を
ラトナーは、『レッド・ドラゴン』の主演アンソニー・ホプ
キンスに交渉しているという噂もあるようだ。      
 この役は、前の第1作ではマーロン・ブランドが、1週間
程度の撮影で当時の史上最高の出演料を取り、しかも同時に
撮影したシーンを、契約を盾に第2作に使用させなかったな
どの話題を撒いたものだが、ホプキンスならそんな駄々を捏
ねることはないだろう。                
 となると、残る問題はクラーク・ケントとロイス・レーン
の配役だが、ラトナーの発言ではそれらは今のところ未定。
ただし主演にニコラス・ケイジを使うつもりはないとしてい
る。またこれによって、『ラッシュアワー』の続編の計画は
ちょっと先に延ばすしかないということだ。       
        *         *        
 次もスーパーヒーローの話題で、今年度の最大のヒット作
となりそうな『スパイダーマン』の関連で、来年1月の撮影
開始が予定されている続編の脚本を、ピュリツァー賞受賞作
家のマイクル・シェイボンが担当することが発表された。 
 この続編は“The Amazing Spider-Man”という題名で製
作されることが決まったようだが、この脚本については第1
作を手掛けたデイヴィッド・コープが最初のドラフトは書い
たものの自らの監督デビューのスケジュールが決まって脚本
は断念。その後、『シャンハイ・ヌーン』などを手掛けるア
ルフレッド・ゴーズとマイルズ・ミラーが引き継ぐことが発
表されていた。しかしこのほど、その脚本をシェイボンが担
当することが公式に発表されたものだ。ただしシェイボンは、
今回の脚本の執筆に当って他人のドラフトは使用せず、自分
の物語で執筆するとしているそうだ。          
 なおシェイボンは、上にも書いたようにピュリツァー賞の
受賞作家だが、その作品“Amazing Adventures of Kavalier
& Clay”は、ユダヤ人の画家が自らの夢を託したスーパー
ヒーローのコミックスで成功を納めるというもので、コミッ
クスの事情には精通している。また96年には当時フォックス
が製作していた『X−メン』の脚本に招請されたが、この時
は彼が提案したアイデアは採用されなかったということだ。
 しかしコミックスをこよなく愛する作家であることは間違
いないようで、しかもピュリツァー賞受賞作家が次の“The
Amazing Spider-Man”の脚本を手掛けるという訳だ。   
 この続編には、主演のトビー・マクガイアとキルスティン
・ダンスト、それに監督のスティーヴン・マイナーが再び顔
を揃え、来年1月の撮影開始で、公開は04年の5月7日に決
定されている。                    
 因に、上記のシェイボンの受賞作は、すでにスコット・ル
ーディンの製作で映画化が進められており、また彼が執筆し
た子供向けの小説の“Summerland”という作品は、最近のユ
ースファンタシーの映画化ブームの1本として、ミラマック
スでの映画化が計画されている。            
        *         *        
 続いては『オースティン・パワーズ』のジェイ・ローチ監
督の計画で、マニア的なファンの多いSFの中でも、特に熱
狂的なファンが多いと言われる“The Hitchhikers Guide
to the Galaxy”の映画化を進めることが正式に発表された。
 この作品のオリジナルは、ダグラス・アダムスというイギ
リスの放送作家が78−80年にBBCで発表したラジオドラマ
で、物語は、宇宙航路建設のために地球が破壊され、その唯
一人の生き残りの主人公が、変な異星人やロボットと共に、
銀河中を旅して歩くというもの。            
 これにSFの常套句などのパロディが満載されたコメディ
シリーズで、ちょうど『スター・ウォーズ』の第1作や『未
知との遭遇』の公開で巻き起こったSFブームの中で大人気
となり、その後にアダムス自身による小説化が行われた他、
テレビ化や最近ではヴィデオゲームにもなっているというも
のだ。                        
 そしてこの映画化についても80年代から計画され、当初か
らBBCとディズニーによる契約が結ばれて、ローチもかな
り早い時点から監督として参加することが発表されていた。
ところが、脚本を執筆していた原作者のアダムスが昨年5月
に他界、その時点で脚本はドラフト完成という段階だったそ
うだが、その後を引き継ぐものが居なくなっていた。   
 今回は、その後を『チキン・ラン』や『ジャイアント・ピ
ーチ』などの脚本家ケアリー・カークパトリックが引き継ぐ
ことが発表されたもので、同時にローチは監督だけでなく、
製作も担当することが発表されている。なお実際の製作業務
は、ディズニーとの関係が深く、『シックスセンス』や『シ
ャンハイ・ヌーン』を手掛けたスパイグラスが行うようだ。
 ということで“The Hitchhikers Guide to the Galaxy”
の映画化が実現されることになった訳だが、実はこの発表が
あったのが9月12日で、僕は17日付のDaily Variety紙で確
認したものだが、その時点でインターネット上では一斉に、
このニュースを伝えるサイトが立ち上がっており、その関心
の高さを裏付けている感じだった。ローチとしてはプレッシ
ャーも大きいことになるとは思うが、頑張って良い作品を完
成させてもらいたいものだ。              
 なおローチ監督は、『オースティン・パワーズ』だけでな
く、『ミート・ザ・ペアレンツ』の成功で、ストレートなコ
メディの手腕も高く評価されている。          
        *         *        
 ブライアン・デ・パルマが87年に監督し、ショーン・コネ
リーにアカデミー賞助演男優賞をもたらした『アンタッチャ
ブル』の脚本を手掛けたデイヴィッド・マメットが、再びギ
ャングを描く映画の脚本を手掛けることが発表された。  
 今回の作品の主人公は、John Dillinger。1930年代にア
メリカ中西部を荒らし回り、FBI指定の「公衆の敵No.1」
と呼ばれた男の生涯を描くものだ。            
 なおデリンジャーは1903年6月22日の生まれ、21歳の時に
働いた強盗事件で逮捕されて9年の刑に服している。しかし
出所後には拳銃を使った銀行強盗のやり方を考案。犯行を重
ねて、その間に2度逮捕されるがいずれも脱獄。そして1934
年7月22日、映画館を出たところを、密告により待ち伏せし
ていたFBIによって、31歳で射殺されている。     
 つまり、出所してから1年ほどの間に「公衆の敵No.1」と
呼ばれるほどの犯罪を犯している訳で、その犯罪の激しさが
判るというものだ。また、最後は射殺されたことになってい
るが、このときそこに居たのは別人で、デリンジャー本人は
逃走したという説もあるようだ。            
 そして今回の映画化は、元々は『ボーイズ・ドント・クラ
イ』のキンバリー・ピアース監督が長年企画していたものだ
が、なかなか製作会社が見つからないでいた。それをジョー
ジ・クルーニーとスティーヴン・ソダーバーグが主宰するプ
ロダクションのセクション8が取り上げ、ワーナーに持ち込
んだもので、ワーナーの意向でマメットとの契約が結ばれた
ということだ。                    
 ただしマメットは、現在は『ジキル博士とハイド氏』を下
敷きにした自作脚本による“Dairy of a Young London Phy-
sician”という映画を、ジュウド・ロウ、ペネロペ・クルス
共演で監督するなど、近年は監督業に忙しく。一方のピアー
スも、現在はアーサー・C・クラーク原作の“Childhood's
End”の映画化の準備をユニヴァーサルで進めている最中と
いうことで、今回の計画が実現するのは少し先のことになる
ようだ。                       
 なお、同じ題材では73年に、ジョン・ミリアスが自作の脚
本を初監督した作品“Dillinger”(邦題:デリンジャー)
が発表されている他、数本の作品がある。        
        *         *        
 コネリーがオスカーを受賞したのと同じ年の作品賞に輝い
た『ラスト・エンペラー』に出演し、『ツイン・ピークス』
などへの出演や、『オータム・イン・ニューヨーク』の監督
としても知られる女優ジョアン・チェンの次の監督作品の計
画が発表されている。                 
 この計画は、日本では12月14日からの正月公開が予定され
ている『K−19』(別掲の映画紹介も見てください)を製作
したNational Geographic Feature Films(NGFF)の
新たな製作計画の1本として発表されたもので、題名は“The
Unwanted”。共産主義国家ヴィエトナムで育ったアメリカ系
アジア人の少年カイエン・ヌグエンの自伝に基づいて、幼く
して激動する社会の中を生き抜かなければならなかった子供
の姿を描くもので、チェンの監督デビュー作の『シュウシュ
ウの季節』にも通じる物語だ。             
 そしてこの作品の脚本を、チェンと、『シュウシュウ…』
の原作者で映画化にも協力したヤン・ゲリンが共同で執筆す
ることになっている。彼女自身が文化大革命の中で育ったチ
ェンにとって、この種の題材は特に身近なもののようだが、
チェンは、「いつも前向きに生きるパワフルな少年の物語を
スクリーンに表現したい」と抱負を語っている。     
 また、今回発表されたNGFFの製作計画では、この他に
アメリカ・アイダホ州での野生狼の保護活動を描く“Wolf
B35”という作品も発表されている。この題名は95年に保護
された66頭の群れの中の1匹の雌の狼に由来したもので、こ
の群れを保護地区に移すまでの保護に携わった人たちと、地
元民との確執などが描かれたものだそうだ。        
 元々はNYタイムズ・マガジンに発表されたサラ・コーベ
ットという記者の記事に基づくもので、ドキュメンタリー映
画作家のマーク・ルイスがその記事から脚色し、自らの劇映
画初監督作品として計画されている。なおルイスは、アメリ
カの公共放送PBSで放送された“The National History 
of the Chicken”という作品が、2001年のサンダンス映画
祭で上映された他、この年のNYタイムズが選出した10ベス
トテレビ番組にも選ばれたということだ。         
        *         *        
 ここでキャスティングの情報を3つ紹介しておこう。  
 まずは、第18回で紹介したワーナー製作、ジョー・ダンテ
監督による実写とアニメーション合成作品“Looney Tunes:
Back in Action”の人間側の出演者で、主人公を演じるブレ
ンダン・フレーザーに加えて、ティモシー・ダルトン、ジェ
ナ・エルフマン、ビル・ゴールドバーグ、ヘザー・ロックレ
アの出演が発表された他、カメオ出演で映画プロデューサー
のロジャー・コーマンの名前が挙がっている。今回は実写側
が舞台で、主なストーリーは、フレーザー扮する主人公の行
方不明になっている父親と神秘のブルーダイアモンドを、主
人公とルーニーの面々が捜すということだが、この出演者で
一体どんな展開になるのだろうか。公開は来年の11月の予定
になっている。                    
 前回紹介したオーウェン・ウィルスン、モーガン・フリー
マン共演の“The Big Bounce”で、ゲイリー・シニージと
サラ・フォスターの出演が発表されている。『ミッション・
トゥ・マーズ』などのシニージの役柄はハワイ出身のホテル
デベロッパーということで、物語的には悪役のようだ。一方、
新人のフォスターは前回も紹介した主人公が見初める理想の
女性の役ということだが、彼女はテレビ番組と「バックスト
リートボーイズ」のプロモーションヴィデオなどに出演して
いる程度の本当の新人のようだ。なお本作は、89年にケリー
・マクギリス主演で映画化された『キャット・チェイサー』
などのエルモア・レナード原作の小説の映画化だそうだ。 
 もう1本は、第19回で紹介した“Peter Pan”の実写によ
るリメイクで、ピーター役のジェレミー・サムプター、フッ
ク船長役のジェイスン・アイザックスに加えて、ティンカー
・ベル役に第22回の時に紹介したフランス映画『8人の女た
ち』で末娘を演じていたリュディヴィーヌ・サニエ、またウ
ェンディら子供たちの母親役で『シックス・センス』で主人
公の妻を演じていたオリヴィア・ウィリアムスの出演が発表
されている。なお撮影は9月30日にオーストラリアで開始さ
れ、公開は03年のクリスマスに予定されている。     
        *         *        
 後半は短いニュースをまとめておこう。        
 最初は、ちょっと前の記事にも関連するけれど、以前に紹
介したフィリップ・K・ディック原作“Paycheck”の映画化
について新しい情報が入ってきた。パラマウントで進行中の
この計画は、以前の報道では監督をブレット・ラトナーに交
渉中ということだったが、今回、新たに『K−19』のキャス
リン・ビグロー監督が検討していることが報道されている。
まあラトナーに関しては上の記事でも書いた通りスケジュー
ルは満杯で、とうていできそうもない状況だった訳だが、逆
に前作で骨太の男性ドラマを作り上げた女性監督に期待した
いところだ。なお原作の物語は、政府と企業との対立が深ま
った未来社会を背景に、2年間企業への潜入調査を行ってい
た政府機関のエージェントが、その2年間の記憶を消去され
て戻ってくる。政府機関は当然、その記憶を取り戻させよう
とするのだが…。そこにタイムトラヴェラーが絡むものと紹
介されている。                    
 テレビのミニシリーズで好評を博した『リッチマン・プア
マン』(原題:富めるもの貧しきもの)などの作家、劇作家
として数多くの作品で知られるアーウィン・ショーの短編小
説を映画化する計画がユニヴァーサルから発表されている。
映画化されるのは“Whispers in Bedlam”という作品で、
内容は、その年限りの引退を決意したフットボール選手が実
験的な外科手術を受け、これが予想外の効果を上げて彼の能
力を回復させてしまう。このため彼は一躍スーパースターに
なるのだが、彼の競技場の外での人生も変えていってしまう
というもの。かなり皮肉っぽい物語のようにも感じるが、会
社側の説明ではヒューマニズムに溢れた物語ということで、
今回はファンタスティックコメディとして映画化が考えられ
ているようだ。なお脚色には、先にアーチザンと“The Prom”
というオリジナル作品を契約したばかりのスティーヴン・フ
ォークという脚本家の抜擢が発表されている。      
 『ロード・オブ・ザ・リング』でレゴラスを演じるオーラ
ンド・ブルームが、今度は海賊と戦うことが発表された。こ
れはディズニーが製作する“Pirates of the Caribbean”
への出演が決まったもので、彼が演じるのは、ジョニー・デ
ップ扮する船長と共に、海賊に誘拐された地方長官の娘の救
出に向かうウィル・ターナーという役。映画にはこの他に、
ジェフリー・ラッシュ、トム・ウィルキンスンらの共演が発
表されている。ディズニーランドのアトラクションからイン
スパイアされたこの映画は、ジェイ・ウォルパート脚本、ゴ
ア・ヴァビンスキー監督で、10月9日に撮影開始の予定にな
っているが、先日のバーバンクのディズニー撮影所の火災で
セットの一部が消失、ちょっとどうなるか心配な事態になっ
ているようだ。それから『ロード…』の2本の続編の撮影は、
一度に通しで行われたはずだが、今だに時々追加撮影が行わ
れているようだ。                   
 ジョナサン・モストウの監督で行われていた“T3: Rise
of the Machine”の撮影が、9月9日にビヴァリー・ヒル
ズの繁華街ロディオ・ドライヴでの夜間ロケーションで完了
した。4月から5カ月におよぶ撮影は全てロサンゼルスで行
われ、完全にスケジュール通りに進められたということだが、
実は最後に撮影されたのは、今回の敵役の女性型ターミネー
ターの未来からの登場シーンで、ファンはご承知の通りこの
シーンはオールヌードで現れるというもの。このためか当日
はかなりの観衆が集まったということだが、ターミネーター
役のクリスターナ・ロケンは立派にその演技をして見せたと
いうことだ。これからポストプロダクションが行われて、全
米公開は03年7月2日、日本公開は12日と発表されている。
        *         *        
 最後に訂正を一つ、前回、レニー・ハーリン監督の“Land
of Legend”の記事の中で紹介したマーク・メドフ監督の 
“Children on Their Birthdays”という作品はすでに完
成し、この秋にアーチザンから公開されるというものだった。
情報のチェックが足りなかったので訂正しておきます。  


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井口健二