井口健二のOn the Production
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2002年09月16日(月) ラストシーン、キスキスバンバン、ゴスフォードパーク、ズーランダー、容疑者

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介します。       ※
※一部はアルク社のメールマガジンにも転載してもらって※
※いますので、併せてご覧ください。         ※
※(http://www.alc.co.jp/mlng/wnew/mmg/movie/)   ※
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『ラストシーン』                   
『リング』の中田秀夫監督が、1965年の映画が斜陽になり始
めていた頃を背景に、映画へのオマージュを捧げた作品。 
主人公は、子役から上がってきた二枚目男優。大部屋時代に
結婚し、その後一人の女優とのコンビでヒット作を連発する
が、女優は仕事に見切りを付けて引退。残された男優にはも
はや若手の引き立て役の仕事しか残されていない。    
そんなときに槽糠の妻が交通事故で死亡し、男優は映画界か
ら姿を消す。                     
そして35年。撮影所は『The Movie』と称するテレビドラマ
の劇場版の撮影の真っ最中。そこにちょい役の俳優が出演不
能になり、その代役として元二枚目の男優が帰ってくる。そ
んな彼を覚えているのは、ほんの一握りの人達だけだったの
だが…。                       
『リング』のイメージからすると全く違う話で戸惑うが、僕
自身1965年頃の映画の観客としては、映画へのオマージュと
いうその気持ちは良く解る。しかしこれを今の映画の観客が
どう受けとめるか。特に中田監督ファンの意見を聞きたいも
のだ。                        
もちろん中田監督らしいテーマが無い訳ではないし、その点
での主人公の動きも理解はするが、それをメインテーマとす
るにはドラマが足りないと思う。            
特に小橋賢児が演じたアイドルの役は、多分主人公と同じよ
うな経緯でスターになっている訳だし、ちょうど彼に相対す
るものとして、その関係をもっと際立たせた方が面白かった
のではないか。そしてそのアイドルが最後は主人公が乗り移
ったような演技を見せる。そんな展開でも良かったのではな
いかとも思った。                   
実際OKカットになるシーンの小橋は、それまでと違う演技
をしていたように感じたし、その辺をもっと活かしたものに
して欲しかった。                   
まあ、オマージュという点を優先させると難しいのだが…。
実際オマージュは65年のシーンだけでも充分伝わるような感
じがしたし、後半はもっと現代のドラマが見たかったという
ところだ。                      
それから最後の「映画を絶対やめない」という台詞は、中田
監督の本人の言葉として受け取って良いのか、念を押して置
きたい。                       
なお本作の撮影は2000年に行われたもので、撮影は『SWエ
ピソード2』と同じHD-24Pで行われているが、これで全編を
撮影した最初の作品ということになるようだ。画質が多少気
になるが、初期の実験段階ということで了承したい。それよ
りこのような新機材に挑戦した監督の勇気をたたえたい。 
                           
『キス★キス★バン★バン』“Kiss Kiss (Bang Bang)”  
初老の元殺し屋の男と、33歳まで子供部屋を出たことの無か
った男が織りなすイギリス製のアクションコメディ。   
男は、テムズ側の川底に巨大な秘密基地を持つ殺し屋組織の
創設者の一人。創設時の仲間はすでに皆死亡し、腕が落ちた
と自覚した男は育て上げた弟子に後を任せて、引退を宣言す
る。しかし組織はそれを許さず、弟子に彼を消すことを命じ
るのだが…。                     
一方、引退した男は初めての堅気の仕事として密輸業者が海
外に買い付けに行く間の息子の面倒を見ることになる。とこ
ろがその息子は、父親の溺愛によって33歳まで子供部屋を出
たことが無かった。そして持て余した男は彼を町に連れ出し
てしまう。                      
ところがそこに組織の暗殺団が襲いかかる。大量の銃弾の飛
び交う中、彼らは危機を脱することができるのか。    
題名は、言うまでもなく「007」のこと。しかし物語は直
接は関係なくて、パロディになっている訳でもない。   
それより物語はもっとストレートに、多分まともな生活を送
ったことの無かった元殺し屋の男が、少年の心を持った男と
共に、自分を見付け出して行く姿を描いている。それは初老
の男が束の間取り戻す青春であったりもして、ちょっと甘酸
っぱい気分にさせられた。               
結末は、イギリス映画にしてはちょっと甘いかなという感じ
もするが、これはこれでほっとする結末ではあった。   
なお題名に付いては、イギリスでは「007」のこととして
辞書にも載っているらしく、かなり広く認知されているよう
だ。従ってイギリスでは、映画の題名にはおいそれと使える
ものではない訳で、原題に括弧が付いているのは、その辺で
「007」側から注文が付いたか何か、そのような理由があ
るのだろう。                     
                           
『ゴスフォード・パーク』“Gosford Park”       
今年のアカデミー賞脚本賞を獲得したロバート・アルトマン
監督のアンサンブルドラマ。              
1932年、イギリスの貴族が所有するカントリーハウス“ゴス
フォード・パーク”に人々が集まってくる。そこではきじ狩
りのゲームと、贅沢な料理が楽しめるのだが、時代は貴族社
会の終焉の頃、集まる人々にもいろいろな思惑がある。  
集まる貴族のほとんどはメイドや従者を連れており、館は階
上と階下に分けられて、階上では腹の探り合いのような会話
が、そして階下ではゴシップが渦巻いている。そんな中で館
の主が殺されてしまうのだが…。            
この物語を、マギー・スミス、ヘレン・ミレン、クリスティ
・スコット=トーマス、アラン・ベイツを始めとする大ベテ
ランに、若手の俳優を配して、見事なアンサンブルドラマが
展開する。                      
階上で優雅な食前酒や食事が進むとき、階下では戦場のよう
な慌ただしさでその準備や調理が進む。そして階上が食後の
会話の時間になると、ようやく階下での食事が始まる。しか
し会話の時間が終わるとメイドや従者は主人の世話に走り回
る。                         
それでもその間に階上での余興の歌を隠れ聞いたり、ゴシッ
プを告げあうといった楽しみもある。そんな中を新米のメイ
ドを軸に、その仕組みや人々の立場などが手際良く説明され
て、当時の様子が上手く描かれている。         
そして最後の犯人捜しが、これもまた見事なドラマになって
いて全体を締め括る。さすがにアカデミー賞を受賞する脚本
だと思わせた。                    
                           
『ズーランダー』“Zoolander”             
ベン・スティラー製作、原案、脚本、監督、主演のニューヨ
ークの男性モデル界をの実情(?)を描いたコメディ。  
正直に言って、「『オースティ・パワーズ』よりお馬鹿な映
画」という宣伝コピーで、ちょっと見に行く気を無くしてい
た。ああいう類の映画はたまに1本は許すが、続けて見よう
と思うものじゃない。公開は時期がずれるのだろうが、試写
は同時期だったのだ。                 
しかし時間の関係で見てしまった。それで見た感想は、本作
は、比較されている作品よりずっとまともで、良くできたコ
メディだった。                    
主人公はキメ顔でトップ街道を走り続けてきたニューヨーク
の男性モデル。しかし4年連続のトップモデル賞の受賞式の
目前に新人に追い上げられ、ついにトップの座を奪われてし
まう。傷心の彼は引退を決意、故郷の炭坑町に帰るが父親は
彼を冷たく追い返す。                 
そこへ今まで使ってくれなかったトップデザイナーからイメ
ージキャラクターへの出演の依頼が来る。しかしそれは彼を
洗脳して、児童保護法でアパレル界に打撃を与えるマレーシ
ア新首相の暗殺者に仕立てようとする陰謀だった。    
スティラーと共演のオーウェン・ウィルスンは『ザ・ロイヤ
ル・テネンバウムズ』(ウィルスンの原案)にも出ており、
それには乗れなかった僕だが、これはOK、最初から最後ま
でかなり楽しむことができた。             
物語自体はかなり使い古しのものだし、ギャグもそれほど新
しいとも思えないが、比較されている作品のような下品さは
ほとんど無いし、とにかく全体が親しみやすい感じで、好感
が持てた。スティラー一家や仲間たちが総出で支援している
感じも良い。                     
比較されている作品と同様、たくさんのゲストが登場してく
るが、エンディングの配役表で、himself、herselfと延々
と続くのは笑えた。                   
                           
『容疑者』“City by the Sea”             
ロバート・デ・ニーロ主演の警察ものと父子ものを併せたド
ラマ。                        
プロローグで「夕日に赤い帆」の歌と共に往年のロングビー
チの風景が写り、音楽が変ると現在の荒廃した風景になる。
自分の故郷の隣町にその海岸の名を冠したプールリゾートが
あり、この地名には親しみがあったので、その荒廃ぶりはち
ょっとショックだった。                
それはともかく、主人公はこのロングビーチの出身だが、妻
と子を捨てニューヨークで刑事となっている。ある日、麻薬
の密売人の死体が上がり、その住所がロングビーチだったこ
とから町に戻る必要が生まれる。その町には元の妻子が暮ら
している。                      
そしてその殺人犯を追う内に、その容疑者が自分の息子であ
ることを知る。やがて捜査を外された主人公のところに、捜
査に向かった同僚が殺されたという連絡が来る。父親として
何もしていなかった自分が、今できること、それは息子を逮
捕することだった。                  
当然、息子が警官殺しという重罪を犯しているはずはなく、
後半はその嫌疑を晴らすというサスペンスになるのだが、こ
れに主人公の父親も誘拐殺人罪で死刑になっていると云う事
実が加わってくる。                  
ストーリーは実話に基づいているということだが、本当に事
実は小説より奇なりという感じの物語だった。      
映画では、主人公の愛人としてフランシス・マクドーマンド
が出演している。これは多分フィクションの部分なのだろう
が、この役柄が一種のコメディ・リリーフになっていて、実
に巧みな感じがした。                 
大体、マクドーマンドにしてからが、『ファーゴ』の妊娠中
の女性刑事の役でオスカーを受賞しているのだから、何とい
うか警官の主人公の心情を良く理解していそうで、見ていて
安心感があるのも良かった。              
実は、この作品も9月11日の影響を受けて公開が延期された
ものだが、その手の宣伝をした作品が軒並みこけてしまった
ので、今回はそのことは伏せられているようだ。アメリカで
は、逆にこの時期に公開される訳で、その結果が注目されて
いる。                        


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井口健二