井口健二のOn the Production
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2002年09月15日(日) 第23回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 今回は最初に続報を2つ紹介しよう。         
 まずは、前回紹介したウォルフガング・ペーターゼン監督
の“Troy”で、この大作の主人公アキレス役を、ブラッド・
ピットが演じることが発表された。ピットは、98年の『ジョ
ー・ブラックをよろしく』では死神の役を演じたが、今度は
神の子という訳だ。なお、アキレスは女神テティスの子で、
トロイア戦争ではギリシア軍随一の英雄として、原作「イリ
アス」の中心人物の一人とされている。しかし最後はアポロ
ンの放った矢によって、不死身の身体の唯一の弱点だった踵
のアキレス腱を射られ死亡したというものだ。      
 まあピットの風貌なら、神の子でも問題なく演じられると
は思うが、ギリシャ神話というと、あの短いスカートのよう
な衣装が思い浮かぶ訳で、ピットはあれを着るのだろうか。
それとアキレスは不死身の英雄と言われる人物だが、いずれ
にしてもかなりのアクションシーンはありそうで、特に剣戟
シーンはかなり激しくなりそうだ。それをどのように演じる
か、ピットのアクションシーンも早く見てみたいものだ。 
 ということで、ペーターゼン監督の新作の準備は着々と進
んでいるようだが、ピットとワーナーでは、別に第18回で紹
介したダーレン・アロノフスキー監督、ケイト・ブランシェ
ット共演のSF大作“The Fountain”の計画も進んでいた。
この計画は、前回にも紹介したように、元々は昨年の秋に撮
影開始の予定だったものが、1年近く遅れてようやく動き出
したものだったが、実はこの計画に対しては、ワーナーから
の公式発表で製作延期が報告されたようだ。       
 ただし今回の発表では、ワーナーから「“The Fountain”
の計画を進められなくなったことを非常に残念に思う。アロ
ノフスキーは非常にユニークな視点と優れた才能を持った監
督であり、我々は彼との共同作業を今後も続けて行く」とい
うコメントが付けられており、同時にピットからも、「1年
半に亘ってこの計画を一緒に進めてきたので、今回のことは
私自身も非常に残念に思っている。ダレンには友情と尊敬の
気持ちを持っており、何時か“The Fountain”をやれる日が
来るまで、彼を励ましていきたい。」というコメントが発表
されている。                     
 つまり、計画は中止という訳ではないようだが、すでに進
んでいた計画を一度中断して再開するのは、最初から始める
よりも大変だという説もあり、前途は多難なようだ。しかし
この計画はピットも気に入っているようなので、アロノフス
キーには再三の延期にめげずに頑張ってもらいたいものだ。
 因に、アロノフスキーとワーナーの間では、バットマンの
誕生を描いた“Batman Year One”という計画もあり、当面
アロノフスキーはその計画を進めることになりそうだ。しか
しそうなると、前回でも紹介したようにペーターゼン監督の
“Batman vs.Superman”が04年の公開で、“Year One”の
公開がその翌年としても、“The Fountain”をやれるのは、
早くて05〜06年ということになりそうだ。         
        *         *        
 続報のもう1本は、これも前回紹介したニューライン製作
“Freddy vs.Jason”の計画で、主演に予定されていたブラ
ッド・レンフロの降板が報告され、その後任にジェイソン・
リッターという俳優の抜擢が発表された。        
 リッターは、この9月の第2週に全米公開されて、No.1ヒ
ットを記録したハイスクールスリラー“Swimfan”にも出演
しているが、このときはクレジットで6番目の配役だったか
ら、それが主演はかなりの抜擢と言えそうだ。なおアメリカ
では、後任者の名前の影響で、一部でレンフロがジェイソン
役だったという報道もあったようだが、前回も紹介したよう
にレンフロ→リッターは、「2大殺人鬼に挟まれて、果たし
て彼はエンドクレジットまで生き延びられるのだろうか…」
という役。                      
 因に、ジェイソン役についてはすでに撮影が始まっている
はずの9月中旬になっても公表されておらず、これはかなり
の隠し玉が用意されている可能性が高くなっているようだ。
そういえばジェイソンは、『ジェイソンX』でも大変な変身
ぶりを見せてくれたが、今度はもっと凄いことになっている
のかも知れない。                   
        *         *        
 お次は、またまたビデオゲームの映画化で、昨年末にアク
ティヴィジョン社から発売された“Return to Castle Wol-
fenstein”をソニー傘下のコロムビアで映画化。その脚本を、
コロムビア傘下のリヴォルーションが製作したこの夏のヒッ
ト作『トリプルX』のリッチ・ウィルクスが担当することが
発表された。                     
 ゲームの内容は、第2次世界大戦下、ナチ親衛隊長ハイン
リッヒ・ヒムラーの野望を阻止するため、アメリカ陸軍レン
ジャー部隊の兵士が秘密の研究施設のあるWolfenstein城に
向かうというもの。元々は92年に発表されたWolfenstein 3D
というゲームをリメイクしたものだが、オリジナルは3Dアク
ションゲームの最高峰と呼ばれ、言ってみれば先に映画化さ
れた『バイオハザード』の元祖のようなものだ。     
 そして物語では、まず兵士が捕虜になった城から脱出(こ
こまでがWolfenstein 3D)。そしてその後に、兵士は機密作
戦部隊に転属して再び城に潜入、研究施設を破壊するという
展開だが、ここで行われている研究というのが、オカルトや
遺伝子工学の集大成といった感じで、立ち向かう敵は、地獄
から蘇ったダークナイトや遺伝子操作による異形の生物たち
という具合。通常の第2次大戦の戦闘ものとはかなり違った
雰囲気の作品のようだ。                
 なおウィルクスは、現在は『トリプルX』の続編“X2”の
脚本を執筆中で、この作業が後2カ月くらい掛かるというこ
と。そしてその作業が終り次第、“Return to Castle Wol-
fenstein”の脚本に取り掛かるということだ。       
 因にゲームは、PS-2とXboxでの発売が年末に決定している
そうだ。                       
        *         *        
 最初の記事でも「イリアス」映画化の話題を紹介したが、
00年の『グラディエーター』の成功以来、歴史大作の映画化
の計画が次々に発表されている。            
 その例は、以前にこのページで紹介した“Alexander the
Great”や“Hannibal”、“King Kamehameha”と言ったと
ころだが、ここに新たに1本が加わってきた。北欧フィンラ
ンド出身のレニー・ハーリン監督から、9世紀のデンマーク
の王子の物語を監督する計画が発表されたのだ。      
 この計画は、ドリームワークスで計画されているコミック
スの映画化“Cowboys & Aliens”や“House of the Dead”
の脚本家クリス・ホウティが執筆した“Land of Legend”と
いう脚本を映画化するもので、舞台は9世紀のスカンディナ
ヴィア、主人公のデンマークの王子は、子供の頃に奴隷とし
て売り飛ばされ、15年経って母国に帰還、自分を過酷な運命
に陥れた者たちに復讐をするという物語だ。       
 そしてこの脚本をハーリンが主宰するミッドナイトサンと
いうプロダクションが入手、立案した企画を設立2年半のク
ルセイダーという製作会社に持ち込んで実現を目指すことに
なってもので、同社では「全ての年代の観客を対象にできる
ドラマとアクションに溢れた作品で、これこそ我社が求めて
いた作品」と紹介している。              
 なおクルセイダー社では、以前に紹介したレイ・ブラッド
ベリ原作“A Sound of Thunder”を、ピーター・ハイアム
ズ監督、エドワード・バーンス、キャサリン・マコーミック、
ベン・キングズレーの共演で、プラハで撮影中で、この作品
はワーナーが全米配給をすることになっている。また10月撮
影開始で、クライヴ・カッスラー原作のアクション・アドヴ
ェンチャーシリーズの第1作“Sahara”の映画化も進めてお
り、この作品の全米配給はパラマウントが担当するようだ。
 この他に同社では、リス・アイファンズ、ミランダ・オッ
トー共演の“Danny Deck Chair”と、ラッセル・マルケイ
監督で、ジェフリー・ラッシュ、ジュディ・デイヴィス共演
による“Swimming Upstream”という作品がポストプロダク
ション中。さらに86年の『愛は静けさの中に』でアカデミー
賞の脚本賞候補にもなった劇作家のマーク・メドフが監督デ
ビューするトルーマン・カポーティ原作“Children on Their
Birthdays”の映画化を今秋撮影開始で準備中だそうだ。  
        *         *        
 続いてはSF映画の計画をいくつか紹介しておこう。  
 まずは『インソムニア』を製作したアルコンから、SFの
要素もあるロマンティック・スリラーで、“Hindsight”と
いう作品の計画が発表された。この計画は、アレキサンダー
・トレスという脚本家のオリジナルに基づくもので、その内
容は秘密とされているが、情報ではタイムトラヴェルと低温
学を中心にした物語だということだ。低温学、つまり人工冬
眠とタイムトラヴェルの組み合わせというと、SFではロバ
ート・A・ハインラインの名作『夏への扉』を思い出すが、
映画はどのような物語が展開されるのだろうか。     
 因にトレスは、すでに“Hit the Misses”というアクショ
ン・コメディ作品をソニー傘下のコンラッドと契約している
他、超常現象を扱ったスリラーの“Indigo”という作品をミ
リアッドと、さらに“Mercury Effect”という脚本をワーナ
ーと契約しているということだ。また今回の作品は、アルコ
ンとワーナーとの5年間に10本の契約に従って、アメリカで
はワーナーが配給することになっている。        
 お次は、新人のスコット・スワンと、Webの映画ニュース
の執筆者としても知られるドリュー・マックィニーが提案し
た“Post Human”というアイデアが、リヴォルーション・ス
タジオで取り上げられ、映画化に向けて動き出すことが発表
された。このアイデアは、軍事研究所が兵士の新陳代謝を高
める技術を開発したことから始まるSFアクションで、リヴ
ォルーションでは彼らから口頭でアイデアの説明を受けるな
り、直ちに映画化の契約を進めることにしたということだ。
 そしてマックィニーは自らのWebページで、「これから脚
本の執筆を始めるが、自分は契約した会社がどのように作家
と接するかも心得ているし、この会社と一緒に仕事をできる
ことに興奮している」と心情を発表している。とは言えマク
ィニーは、すでに“The Ring”の内部試写にも立ち会って批
評を載せるほどの業界内部に通じた人物で、同時に映画作品
についても過去にはいろいろな発言をしているということな
ので、これから彼が作り上げる作品には、いろいろな意味で
の注目が集まりそうだ。                
 もう1本はフェニックス社で進められている“Warrior”
という計画を、ソニー傘下のコロムビアが取り上げ、共同製
作と配給を担当することになった。この計画は、W・D・リ
ッチャーという脚本家が執筆したもので、内容はこれも公表
されていないが、情報によると、ハイテクを搭載した無人の
戦闘機が機能不全を起こし、エリートパイロットで構成され
る有人の戦闘機部隊の主力を全滅させてしまう。そして生き
残った一人のパイロットに、そのハイテク機破壊の任務が任
されるが…、というものだそうだ。           
 なお、脚本のリッチャーは、78年のリメイク版“Invasion
of the Body Snatchers”や、スティーヴン・キング原作の
“The Needful Things”、それにジョディ・フォスターが監
督した“Home for the Holidays”などの脚本で知られてい
るということだ。                   
        *         *        
 後半は短いニュースをまとめておこう。        
 『トリプルX』でヴィン・ディーゼルの相手役を務めたイ
タリア女優アーシア・アルジェントがアメリカのエージェン
トと契約。本格的なハリウッド進出を果たすことになった。
アーシアは、イタリアンホラー監督ダリオ・アルジェントの
娘で、父親の新作『Sleepless』ではテーマとなる
歌の作詞も担当していたが、今まではロンドンのエージェン
トと契約して、その関係で何本かの英語圏の作品への出演も
していたようだ。その一方で、00年には自ら脚本、監督、主
演による『スカーレット・ディーバ』という作品も発表して
いる才女。従って今回の契約も、俳優だけでなく全ての分野
を網羅したものになるということだ。なおアーシアは現在、
監督第2作となる“The Heart Is Deceitful Above All
Things”という作品を準備中で、この作品は22歳のカルト作
家J・T・リーロイの短編集を映画化するもの。アーシアは
この作品でも、脚本と主演も務めることになっている。   
 『トータル・フィアーズ』ではベン・アフレックの相手役
を務めたモーガン・フリーマンが、ジム・キャリー、オーウ
ェン・ウィルスンの相手役を次々に務めることが発表されて
いる。まずキャリーとの共演は8月6日撮影開始の“Bruce
Almighty”で、キャリー扮するテレビのレポーターが神の怒
りを買ったことから飛んでもないことになるというコメディ
の神様役。トム・シディアック監督で、キャリーのガールフ
レンド役でジェニファー・アニストンも出演する。一方、ウ
ィルスンとの共演は“The Big Bounce”という作品で、ウィ
ルスン扮する流れ者がとある町で理想の美女に巡り会うが、
その前に地元の大立者が立ちはだかるという大立者の役。ジ
ョージ・アーミテイジ監督で、撮影は10月28日開始の予定に
なっている。                     
 ハーヴェイ・カイテルが製作、主演した『季節の中で』の
トニー・ブイ監督が、ワーナーで“Lazarus”という作品の
脚本、監督を手掛けることが発表された。この作品は、超常
現象を背景とした物語で、不良仲間の2人の若者が、古代ア
ジアの呪いによって互いに不倶戴天の敵になって行くという
お話。元々は“The Crow”シリーズの第4作として計画され
たものだったが、現在はシリーズからは独立して進められて
いるということだ。製作はエドワード・プレスマン。ただし
現状ではブイ以外のスタッフ、キャストは未定のようだ。 
 ジョン・マクティアナン監督で“The Booster”という作
品がインターメディアで計画されている。この作品は伝説的
な2人の盗賊が、冬の嵐の中でシカゴのシアーズタワー・ビ
ルの91階に外部から侵入しようとするもの。何か聞いただけ
でも壮絶な物語のようだが、ユージン・アイズィの原作で、
シェルドン・ターナーという脚本家が脚色を進めている。な
おターナーはもう1本、ワーナーでアリス・ブランチャード
原作の“The Breathtaker”という作品の脚色も手掛けてお
り、こちらは竜巻のときにだけ犯行を繰り返す連続殺人鬼を
追う、オクラホマの小さな町の警察署長の物語だそうだ。 
 トム・クルーズが主宰するクルーズ/ワグナーとインター
メディアの共同製作で“Suspect Zero”という作品が製作さ
れている。この作品のジャンルはファンタシー・スリラーと
いうことだが、内容は連続殺人の犯人を追うFBIのエージ
ェントが、同僚に疑惑を感じ始めるというもの。これでファ
ンタシーとはどういうことなのだろうか。E・イライアス・
マーヒッジ監督で、アーロン・エッカート、ベン・キングス
レー、キャリー・アン=モースが出演している。配給はパラ
マウント。因に、この作品の撮影はニューメキシコ州で行わ
れているが、この地での撮影は州政府の便宜が図られ、カナ
ダに行くより製作費が削減できるということだ。     
 最後に続編の話題で、97年にギレルモ・デル=トロがアメ
リカでのデビュー作として発表した『ミミック』の続編が、
インディ系の監督J・T・ピティの脚本、監督で作られるこ
とになった。この続編は“Mimic Sentinel”という題名で、
物語は狭いアパートに住む24歳の喘息持ちの若者が、自分を
蔑ろにするアパートの住人たちへの復讐のために、前作のモ
ンスターを蘇らせてしまうというもの。配役等は不明だが、
10月に撮影開始の予定で、ルーマニアで4週間の撮影が行わ
れることになっている。製作配給はディメンション。   


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