2002年09月02日(月) |
サイン、8人の女たち、ドールズ、トリプルX、スパイキッズ2、記憶のはばたき、ダウン |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介します。 ※ ※一部はアルク社のメールマガジンにも転載してもらって※ ※いますので、併せてご覧ください。 ※ ※(http://www.alc.co.jp/mlng/wnew/mmg/movie/) ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『サイン』“Signs” ミステリーサークルの謎を描いた『6センス』『アンブレイ カブル』のM・ナイト・シャマラン監督作品。 主人公は、妻を不慮の事故でなくして信仰を捨てた元牧師。 元マイナーリーグのホームラン王だった弟と、喘息が持病の 息子と、水について異常に神経を使う幼い娘と共に農場で暮 らしている。 そんな主人公のトウモロコシ畑にミステリーサークルが出現 する。それは誰かの悪戯か、それとも何かが起る予兆なのだ ろうか。 物語については、映画を見ていただくのが一番良いが、『6 センス』がオカルトを逆手にとった作品、『アンブレ…』が ヒーローコミックスを逆手にとったオタク映画だったとする と、本作はSFの1ジャンルをある意味で逆手にとった作品 と言える。 出だしの音楽から、ちょっとレトロっぽく来るのだが、後半 はモロに50年代のその手のSF映画そのものという感じがし た。 主人公が元牧師だったり、信仰の問題が絡むのがちょっと気 になる人もいるようだが、僕はシャマランが初めてSFを意 識してくれたことを素直に歓迎したい。 『8人の女たち』“8 femmes ” 1917年生まれのダニエル・ダリューから、43年生まれのカト リーヌ・ドヌーヴ、65年生まれのエマニュエル・ベアール、 79年生まれのリュディヴィーヌ・サニエまで、フランス映画 の各時代を代表する女優8人が織りなす舞台劇を思わせるダ ークコメディ。 時代は1950年代、雪に閉ざされた郊外の大邸宅に、ロンドン に留学していた長女がクリスマス休暇で戻ってくる。 その家は企業家の主人のもので、普段家には、妻と次女、妻 の母親、妻の妹、2人のメイドが暮らしていた。しかし長女 の帰宅直後に、主人が書斎で背中を刺されて死んでいるのが 発見される。やがて主人の妹も現れ、8人による犯人捜しが 始まるのだが…。 邸宅に他人が出入りした気配はなく、電話回線は故意に切断 され、自家用車も動かない。さらに門も雪で開かなくなり、 塀を越えることもの不可能になる。そして8人の告発の仕合 いから、一家を巡るいろいろな問題が明らかにされて行く。 この物語に、8人の女優それぞれに1曲ずつの歌と踊りが添 えられ、時代を写したファッションと共に、華麗に且つダー クに進行するというものだ。 最後にはグランドフィナーレも用意されているし、構成は舞 台劇そのもの。その中で大女優たちが大演技を繰り広げる。 僕としてはダリューのカクシャクとした姿や、ドヌーヴが久 しぶりに歌って踊る姿を見られただけでも大満足といった作 品だった。 『Dolls[ドールズ]』 いろいろな意味で1作ごとに話題を提供する北野武監督の第 10作。 僕がこの映画が好きかどうかと問われれば、多分好きと答え るだろう。しかしどこが良いかと問われたら、かなり答えに 苦しむことになりそうだ。 映画は、3つの物語が錯綜するちょっと変形のオムニバス形 式になっている。 その一つ目は、近松の「冥土の飛脚」を下敷きにして、婚約 者を捨てて社長令嬢との結婚に走った男と、それを聞いて自 殺未遂の末に精神に異常をきたした女が、互いを赤い紐で結 び合わせて四季の中を彷徨う姿を描いている。これはかなり 前衛芸術映画風だ。 これに、事故で顔面に傷を負って引退したアイドルと、自ら 眼を潰し相手の顔が見えないようにして彼女に会いに行く男 の物語。それにやくざの親分になった男と、毎週土曜日に一 緒に弁当を食べた彼を待ち続ける女の物語を絡ませる。 3つの物語は、どれも壮絶な愛の物語で、それはそれで良い のだが、最初の前衛映画風の部分に比べると、他の2つの物 語がかなりシンプルで、そのギャップが何とも不思議な感覚 になる。多分狙いなのだろう。しかしこの構成自体は過去に あるような気がする。 今までの北野作品は、僕の見た範囲では常に暴力の匂いがつ きまとって、僕にはそれが苦痛だった。それはヴェネチアで 受賞した『HANABI』にしても、『菊次郎の夏』にして も同じで、明らかにそういうシーンが続くであろう前作は、 僕は見に行かなかった。 しかし本作では、皆無ではないが、今までのように、ただ描 写のためだけの殴り合いというようなシーンはない。多分そ ういうシーンに頼らなくて良いという監督の自信の現れだと 思うが、それを僕自身は好ましく感じた。 ただし前衛映画風の部分は、多分北野なりの芸術映画を目指 したのだと思うのだが、四季を写した画面はただ美しいだけ で芸術にまでは至っていない。簡単に言ってしまえば、自然 の美しさと山本耀司が担当した衣装の凄さに明らかに負けて しまっている。 他の物語の部分では、映像や音声にいろいろ工夫の凝らされ たシーンもあって、それはそれなりに楽しめたのだから、肝 心の前衛映画風の部分でもっと何かやっても良かったのでは ないかと感じた。 『トリプルX』“XXX” 『ワイルド・スピード』のヴィン・ディーゼル主演、ロブ・ コーエン監督によるアクション作品。ディーゼルは本作の製 作総指揮も務めている。 このホームページで最初に取り上げた話題がディーゼルのこ とだったから、何となく愛着を感じる俳優だが、本作は2作 連続での同じ監督の作品ということで、息が合っているとい うか、前作のイメージをうまく引き継いでキャラクターを作 っている。 今回の主人公はX−スポーツ、つまり過激な裏スポーツの達 人ということで、主人公の最初の登場シーンは、保守派議員 の車を盗んでカーチェイスの末に車ごと橋からダイヴ、その ままベースジャンプの要領で逃走するというもの。 つまり前作のストリートレーサーのイメージからうまく本作 につながるという仕組みだ。しかもその模様をヴィデオ撮影 し、ネットで販売するというしたたかぶりが本作の主人公の キャラクターという訳で、若者狙いという線ははっきりして いる。 この主人公が、冷戦崩壊後、まともなスパイだけでは任務が 果たせないと悟ったアメリカ国家安全保障局の、毒には毒を という戦略の下、カリフォルニア州の三振法の適用から免れ ることと引き換えにスパイのテストを受けることになる。 そして主人公は合格し、チェコのプラハでアナーキー99と自 称する悪たちの様子を探る任務に着くのだが、その任務はそ れほど簡単なものではなかった…、というものだ。 ある種の巻き込まれ型のスパイ物だが、正直言って物語の方 はスパイ物の定番だし、それほど重要ではない。それよりも 最初と最後に設えられたアクションシーンの見事さが、アメ リカでのこの映画の大ヒットの要因だろう。 最初には上に書いたカーアクションとテストでの戦闘アクシ ョン、そして後半には大雪崩を背景にしたスノーボードと、 さらに・・・という具合だ。しかもこれらが、一旦始まると それこそ息を継がせぬ感じで次々に打ち出されてくる。 『ワイルド…』は、言ってみればカーアクションだけだった から、そこにCGを入れたりいろいろ工夫していたが、今回 は手を変え品を変えいろいろなアクションのオンパレードで ストレートに楽しめる。アクションだけなら『007』の2 倍はありそうだ。 なおヒロイン役に、イタリアのホラー監督ダリオ・アルジェ ントの娘で、自身も監督でもあるアーシアが共演している。 『スパイキッズ2/失われた夢の島』 “Spy Kids 2: The Island of Lost Dreams” ロベルト・ロドリゲスの監督で昨年大ヒットした作品の第2 弾。前作で大活躍した姉弟が再び登場するが、何せ子供が主 人公だから来年第3弾、再来年には第4弾の公開が予定され ているということだ。 物語は、前作の活躍でOSSの正式部門となったスパイキッ ズ。そのナンバー1はカルメンとジュニのコルテス姉弟だっ たが、彼らにライヴァルが登場する。 それは父グレゴリオと次期局長の座を争うギグルスの子供の ゲイリーとガーティ。試作ツールを駆使した彼らの働きは顕 著で、ついにジュニは切れてミスを犯し、OSSをくびにな ってしまう。 そこに謎の島の秘密を探るという最高級の指令がギグルス兄 妹に下り、カルメンの策略でその任務を横取りした姉弟は潜 水艇でその島に向かったが…。その島は奇怪な生物が棲む恐 怖の島だった。 前作は、アントニオ・バンデラスらの両親も多少活躍してい たと思うが、本作では完全に子供たちだけが主人公になって いる。しかもライヴァル役にもかなり実績のある子役を配す るという念の入れようで、完璧なキッズ映画を目指したよう だ。 なお、ゲストでインディーズ系の映画でお馴染みの怪優ステ ィーヴ・ブシェミが登場するが、彼すらも毒気を完全に抜か れた感じで子供たちの引き立て役に徹している。そしてこの キッズ映画に、文字通りおもちゃ箱をひっくり返したような 大量のVFXを注ぎ込んでいるのだ。 印象として監督、脚本、製作、編集、美術、撮影、音響、作 曲のロドリゲスは、大人の観客など全く眼中にないのではな いかと思う。ひねた大人の視線などを気にすることなく、完 全に子供だけを対象にした作品を作り上げているという感じ がした。 だから観客も、童心に帰って純粋な気持ちで楽しまなくては いけない。それが出来れば本当に楽しい映画なのだから。 因に、副題はH・G・ウェルズの『モロー博士の島』を33年 に映画化した“The Island of Lost Souls”から来ていると 考えられ、従ってブシェミが演じるのはモロー博士というこ とだろう。中の台詞もそれに準えている気がした。 『記憶のはばたき』“Till Human Voices Wake Us” 少年期に負ったトラウマが、不思議な現象を呼び起こすオー ストラリア映画。 主人公のサムは父子家庭に育ち、父親と離れてメルボルンの 学校に通っているが、休暇で故郷に帰ってくる。そこには幼 なじみのシルヴィも待っていた。足に障害のあるシルヴィだ ったが、聡明な彼女とサムは本当に心の通い合う友だった。 ダンス集会の夜、踊れない彼女を湖水の水面に浮かべ、二人 は星空を眺め続ける。しかし流れ星を見たその時、彼の手を 離れたシルヴィは湖水に沈み行方不明になってしまう。遺体 のない葬式、彼女の親も事故だと諭すが、彼には深いトラウ マが残る。 やがてメルボルンで精神科医として大成したサムは、死去し た父親の遺言で遺体を葬るために事故後初めて故郷に戻って くる。その故郷へ向かう列車で、彼はルビーと名乗る不思議 な女性と遭遇する。 次にサムは彼女が鉄道橋から身を投げるのを目撃、救出する が彼女は記憶を失っている。その彼女を生家に連れて行き、 看護を始めたサムは、彼女の奇妙な行動に戸惑わされる。そ して彼女がシルヴィの愛読していたT・S・エリオットの詩 を暗唱し始め…。 結末はいろいろに解釈できるが、配給会社は心の癒しと取り たいようだ。僕にはもっと恐ろしい結末も想像できるが…。 いずれにしても不思議な雰囲気を持った作品だったし、多分 ほとんどの観客の心は癒されそうだ。 『ダウン』“Down” オランダの映画作家ディック・マースがニューヨークを舞台 に監督したアメリカ、オランダ合作のホラー作品。 舞台はNYのランドマークと呼ばれるミレニアムビル。 102階建てのこの近代高層ビルで、エレヴェーターの運行異 常が頻発する。それは最初は、階の中間に停止して扉が開か なくなる程度のことだったが、やがて人の命に関わる事態と なってくる。 主人公のマークは技術者としての腕は確かだが身持ちは…、 という男。その彼が仲間に誘われてエレヴェーター保守の仕 事に就き、現場にやってくる。そして最初は異状を発見でき ないのだが、事態は悪化の一途をたどり、ついには自然では ありえない現象が起こり始める。 ということで、いわゆるオカルトホラーの雰囲気で始まるの だが、後半はマッド・サイエンティストの存在が明らかにな り、テロ事件の疑いから、ついには軍隊まで動員される事態 に発展する。 とまあ、展開はかなり強引なのだが、これが結構テンポ良く 作られていて、その辺の上手さは合格だろう。さすがに処女 作で、過去の受賞者にスピルバーグ、キャメロン、ピーター ・ジャクソンらが並ぶアヴォリアッツ映画祭のグランプリを 獲っただけのことはあるというところだ。 なお、主人公に絡む女性記者のヒロイン役で、今評判のナオ ミ・ワッツが共演。日本ではこれが売りになりそうだが、実 はその脇を、ダン・ヘダヤ、マイクル・アイアンサイド、ロ ン・パールマンという、SF映画やアクション映画ファンに はお馴染みの顔ぶれが固めていて、中盤でこの3人が並んで 登場するシーンには思わず拍手をしたくなった。 01年の作品で、撮影は9/11以前なのだろう。美しいNYの 夜景が何度も登場する。ただし後半にはツインタワーのこと もあるからなどという台詞も出て、ちょっとその辺りは、悪 い意味ではなく不思議な感じに捉らわれた。
|