井口健二のOn the Production
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2002年09月01日(日) 第22回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 最初は、第19回の“Batman vs.Superman”、第20回の
“Alien vs. Predator”に続いて、またもやシリーズ合体
の話題で、今回はニューラインから“Freddy vs.Jason”の
計画が正式に発表された。                  
 この作品は題名の通り、『エルム街の悪夢』のフレディ・
クルーガーと、『13日の金曜日』のジェイソン・ボーヒーズ
が対決するというものだが、実は元々はパラマウントでスタ
ートした『13金』シリーズが、89年の“Part VIII”の後で
第1作を手掛けたショーン・S・カニンガムに企画が買い戻
され、製作会社が『エルム街』を抱えるニューラインに移さ
れてからずっと噂されていたものだ。従って今まで紹介した
各作品の中では最も古くから計画されていたことになる。 
 因に、それぞれのシリーズの歴史を辿っておくと:   
 先にスタートしたのは『13日の金曜日』で、まず80年にカ
ニンガム監督による“Friday the 13th”が登場、81年、82
年にスティーヴ・マイナー監督による“Part 2”(Part
2)、“Part 3”(Part3)が続き、84年にジョセフ・
ジトー監督による“The Final Chapter”(完結編)が登場
する。しかし85年にダニー・スタインマン監督による“Part
V: A New Begining”(新・13日の金曜日)が公開され、さ
らに86年にトム・マクローリン監督による“Part VI: Jason
Lives”(Part6ジェイソンは生きていた)、88年にジ
ョン・カール・ビークラー監督による“Part VII: The New
Blood”(Part7新しい恐怖)、89年にロブ・ヘダン監
督による“Part VII: Jason Takes Manhattan”(Part
8ジェイソンNYへ)が公開される。ここまではパラマウン
トが製作した。                    
 そして製作権がニューラインに移り、93年にアダム・マー
カス監督による“Jason Gose to Hell: The Final Friday”
(ジェイソンの命日)が公開され、日本では今年公開された
01年製作の“Jason X”(ジェイソンX)で9年ぶりにジェ
イソンが復活したものだ。なお、ニューラインに移ってから
は、題名から“Friday the 13th”が取れている。     
 一方、『エルム街の悪夢』は、84年ウェス・クレイヴン監
督による“A Nightmare on Elm Street”でスタートした。
そして85年ジャック・ショルダー監督の“Part 2: Freddy's
Revenge”(フレディの復讐)、87年チャック・ラッセル監
督の“Part 3: A Dream Warriors”(惨劇の館)、88年レ
ニー・ハーリン監督の“Part 4: The Dream Master”(ザ
・ドリームマスター最後の反撃)、89年スティーヴン・ホプ
キンス監督の“Part 5: The Dream Child”(ザ・ドリーム
チャイルド)と続き、90年にレイチェル・ターラレイ監督に
よる“Freddy's Dead: The Final Nightmare”(ザ・ファ
イナルナイトメア)が公開されてシリーズは完結した。     
 ところが、94年再びクレイヴン監督による“Wes Craven's
New Nightmare”(ザ・リアルナイトメア)が登場。しかし
この作品は第1作の撮影を再現しつつ、現実の世界とフィク
ションの世界とを交錯させたもの。長年のファンへのプレゼ
ントのような感じで、ある意味ではクレイヴンによる作品へ
の鎮魂歌のようなものだと思われた。          
 つまりこの時点では、すでにニューラインによる『13金』
の新シリーズが始まっていた訳で、多分今回の“Freddy vs.
Jason”の計画も企画がスタートしていたと考えられる。そ
こでそれらのことも踏まえて、クレイヴンが自ら生み出した
シリーズに最後の鼻向けをしたのではないかと思えるのだ。
また、その後クレイヴン監督は、『スクリーム』シリーズに
向かうことになる。                  
 そしてついに長年の企画が実現されることになったという
訳だ。なお“Freddy vs.Jason”の製作は『ジェイソンX』
に続いてカニンガムが当る。ここで敢えてフレディの名前を
前にしている辺りに、カニンガムの思いやりが感じられると
ころだ。脚本はマーク・スイフトとダミアン・シャノン、監
督には香港出身のロニー・ユが起用され、9月9日にカナダ
のヴァンクーヴァで撮影開始となっている。       
 という新作だが、さらにこの作品にブラッド・レンフロの
主演が発表された。『依頼人』などではナイーブな演技が売
りのレンフロだが、2大殺人鬼に挟まれて、果たして彼はエ
ンドクレジットまで生き延びられるのだろうか…、というと
ころだ。なお、フレディ役はシリーズ全作でこの役を演じ、
今度で8回目になるロバート・イングランドだが、ジェイソ
ン役については8月中旬の発表では未定となっていた。9月
9日の撮影開始ではそろそろ決まっているはずだが、何か隠
し玉が用意されているのかも知れない。         
 なお新作のストーリーについては全く明らかにされていな
いようだが、まさか『ジェイソンX』の続きという訳には行
かないだろう。しかしカニンガムが一体どんな仕掛けをして
くることか、あの『ジェイソンX』の後だけに期待が膨らむ
ところだ。                      
        *         *
 お次は、リメイクというか、71年に発表されたサム・ペキ
ンパー監督の問題作『わらの犬』(Straw Dog)に基づく 
“Fear Itself”という作品を、『サイアム・サンセット』
のジョン・ポルスン監督で製作する計画がミラマックスから
発表された。                     
 この作品では、元々はゴードン・ウィリアムスという作家
による“Siege at Trenchers Farm”という原作があるよう
だが、71年の映画化では、ダスティン・ホフマンとスーザン
・ジョージ扮するアメリカ人の学者の夫妻がイギリスの片田
舎に引っ越してくる。しかし村人とのちょっとした行き違い
から対立が始まり、最初は嫌がらせ程度から、最後には集団
暴行に至るというもの。特にその中での妻に対するレイプシ
ーンのリアルさで物議を醸したが、実は村人側を描くことを
ほとんど排したことで、恐怖感を見事に高めた脚本と演出も
高く評価されたものだ。                
 なお、オリジナルの撮影はイギリスで行われたが、物語か
らお判りのように、イギリスでは特に問題となり、実はアメ
リカ公開から30年経った最近になって、ようやくヴィデオで
の初リリースが行われたということだ。         
 そしてこの作品に基づく新作が計画されている訳だが、今
回のストーリーでは、主人公のカップルはニューヨークから
メイン州に引っ越してくることになるようだ。またこの脚本
をスチュアート・ブラムバーグが執筆している。なおブラム
バーグは、『僕たちのアナ・バナナ』などのエドワード・ノ
ートンが監督主演する“Keeping the Faith”の脚本も手掛
けているが、この作品の製作を担当したホーク・コッチと、
ブランバーグ、それにノートンが今回の“Fear Itself”の
製作を担当するようだ。                
 また、今回の作品について製作者のコッチは、「独自性の
ある作品だが、恐怖を題材にした作品であることは認める。
フィンチャーの『パニック・ルーム』や、シャマランの『サ
イン』の観客に受け入れられる作品になるだろう。その方面
でのポルスンの手腕に期待する」としている。      
 因に、ブラムバーグとノートン、それに監督のポルスンは
同じエージェントに所属しているようだ。また『サイアム・
サンセット』は、今年の9月6日にようやくアメリカ公開が
行われるそうだ。                   
        *         *        
 続いては、『ハリー・ポッター』の脚本家スティーヴ・ク
ローヴスと、ブラッド・ピットが手を組んでヤングアダルト
向けの冒険映画を撮る計画がワーナーから発表されている。
 この計画は、マーク・ハッドンという人の原作で、来年6
月に出版が予定されている“The Curious Incident of the
Dog in the Night-Time”という小説を映画化するもの。物
語中心は、「シャーロック・ホームズ」が大好きな15歳の少
年が、隣家の犬が庭仕事の道具で殺された事件の犯人を捜し
出すというものだが、同時に少年の大人への成長が見事に描
かれているということだ。               
 そしてこの映画化を、先にワーナー傘下にプロダクション
を設立したピットと、『ハリー・ポッター』のデイヴィッド
・ヘイマンが組んで製作することになり、さらにクローヴス
が脚色と監督を担当することになったものだ。因にクローヴ
スは、00年『ワンダー・ボーイズ』の脚本でオスカー候補に
なっているが、その前には『ファビュラス・ベイカーボーイ
ズ』や、『フレッシュ・アンド・ボーン』の脚本監督として
も知られる。また、アルフォンソ・キュアロンが監督する第
3作『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』の脚本はすで
に書き上げてあるそうだ。               
 なお、今回の計画は、ブラッド・ピットと、製作者でロバ
ート・デ=ニーロの新作“City by the Sea”やグウィネス
・パルトロウの“A View From the Top”などを手掛けるブ
ラッド・グレイという、2人のブラッドが設立した新会社と
ワーナーとの3年契約に基づくもの。因にグレイは、パロデ
ィ作品の“Scary Movie”の製作者でもあるようだ。    
 一方、ピットは『ファイト・クラブ』から『オーシャンズ
11』まで製作者として名を連ねているが、いずれも自分の主
演作で、純粋に製作だけという経験はない。従って今回の作
品では、製作者としてのクレジットは間違いないが、今のと
ころ出演があるかどうかは不明のようだ。まあ15歳の主人公
を演じられる訳はないが、カメオでも良いから出てくれるこ
とを期待したいところだ。               
        *         *        
 もう1本、ワーナーから待望久しいテリー・ギリアムの新
しい計画が公表されている。              
 ギリアムの新作は、98年の『ラスベガスをやっつけろ』以
来ということになるが、まああれはちょっとという人には、
95年の『12モンキーズ』以来ということになる。なおこれら
の作品と『未来世紀ブラジル』はいずれもユニヴァーサルで
製作されたものだが、特に『ブラジル』に関しては、いろい
ろなトラブルがあったことは知られるところだ。     
 しかしその後、00年に計画した“The Man Who Killed Don
Quixote”が、撮影開始3週間前にドン・キホーテ役の俳優
の負傷で撮影不能となり、製作中止されるという事態に見舞
われた。この詳細については、ギリアム自身が協力したドキ
ュメンタリー“Lost In La Mancha: The Un-Making of Don
Quixote”が製作されているそうだ。           
 そんなギリアムに関して、今回公表された作品の題名は、
“Scaramouche”。ラファエル・サバティーニが1921年に発
表した古典的剣戟小説で、フランス革命初期を時代背景に、
スカラムーシュと名乗る男の、復讐と決闘に彩られた物語を
描くものだ。なお同じ原作からは、23年に無声映画と、52年
にはジョージ・シドニーの監督で、スチュアート・グレンジ
ャーが主演、エレノア・パーカー、ジャネット・リー、メル
・ファーラー共演という映画化もされている。      
 また、サバティーニの原作では、この他に、35年と40年に
いずれもマイクル・カーティーズ監督、エロール・フリン主
演で映画化された“Captain Blood”(海賊ブラッド)と、
“The Sea Hawk”(シー・ホーク)などがある。まあこの題
名でも解るように、どの作品も剣戟映画の王道という感じの
作品だ。                       
 ただし、今回の発表で、ワーナーは敢えてリメイクではな
く、同じ原作からの新たな映画化としている。脚色はリチャ
ード・クルティとベヴ・ドイル。そしてギリアムの監督で、
果たしてどんな新解釈が生まれるだろうか。なお製作は、こ
れも『ハリー・ポッター』のデイヴィッド・ヘイマンが担当
している。                      
 なおこの公表は、かなり初期の段階ということで、まだ正
式契約が結ばれた訳ではない。ギリアムの計画では、以前に
報告した“Lara Croft 2”はヤン・デ=ボンが監督すること
になったようだが、他に“Good Omens”という作品もあり、
現状はまだ流動的なようだ。              
        *         *        
 続いては女性主演の作品の話題を2本紹介しよう。   
 まずはソニー・ピクチャーズから、キャサリン・ゼタ=ジ
ョーンズの製作主演で“Flint”というスパイスリラーの計
画が発表された。                   
 この作品は、ポール・エディのベストセラー小説を映画化
するものだが、実はソニー傘下の製作会社のレッド・ワゴン
が出版前から権利を獲得していたもので、主人公はイギリス
の諜報機関MI5に所属する女性エージェントのグレイス・
フリント。彼女は整形手術で風貌を変えて組織に潜入、マネ
ーロンダリングの調査に当るという物語だそうだ。そしてこ
の計画にゼタ=ジョーンズが参加して映画化が進められるこ
とになったものだが、劇中かなりのアクションシーンもある
ということで、彼女には『エントラップメント』で見せたよ
うなアクションが期待されているそうだ。        
 そしてもう1本は、パラマウントからハル・ベリー主演に
よる“The Guide”という計画が発表されている。     
 この作品はトーマス・ペリー原作の“Shadow Woman”と 
“Guide”という作品に基づき、元々はJane Whitefieldと
いう主人公のシリーズの一部をなすものだ。そしてこの物語
でベリーが演じるのは、コンピューターの知識とインディア
ンの知恵を兼ね備えたという女性。彼女は問題に巻き込まれ
た人の存在を消して守るという仕事に就いているが、結婚の
ために退職。しかし彼女が最後に手掛けた一家が、その後に
連続殺人鬼に追われることになり、結婚にも破れて仕事に復
帰するというものだそうだ。               
 なお脚色は、ジョナサン・レムキンが手掛けたものから、
“Valley of the Dolls”のリメイクなどを手掛けるシンシ
ア・モートがリライトしている。監督は未定。また、原作の
シリーズでは、今回映画化の対象となった2作の他に“Vani
shing Act”“Dance for the Dead”“The Face-Changers”
“Blood Money”の4作がすでに発表されているそうだ。  
        *         *        
 後半は短いニュースをまとめておこう。        
 まずは、ロバート・ルイス・スティーヴンスンの古典的冒
険小説『宝島』(Treasure Island)を現代化して映画化す
る計画で、ロング・ジョン・シルヴァ船長役に、ピュリッツ
ァー賞を受賞した舞台劇“Topdog/Underdog”でトニー賞候
補にもなったジェフリー・ライトの出演が発表された。この
計画は、ジャッキー・チェン主演の『80日間世界一周』など
も計画しているウォルデンメディアが進めているもので、マ
シュー・ジェイコブスとフランク・ロンバルディの脚色、ス
ティーヴ・マイナーの監督で来年早々にヴァンクーヴァで撮
影の予定になっている。ライトにはブロードウェイ終演後、
いろいろなオファーがあったようだが、敢えてこの脚本が気
に入って出演することにしたそうだ。          
 なお同じ原作からは、ディズニー製作によるIMAXアニメー
ション作品“Treasure Planet”が11月27日公開されること
になっている。                    
 またもや大作史劇の計画で、ホメロス原作と伝えられるギ
リシャの長編叙事詩『イリアス』を元にトロイア戦争を描く
“Troy”を、ウォルフガング・ペーターゼンの監督で映画化
する計画がワーナーから発表されている。トロイア戦争と言
えば、コンピュータ用語にも名を残す「トロイの木馬」を始
め、古代船による大規模な海戦など、いろいろな要素のある
古代の戦いだが、そのスケールの大きさで今までその全貌を
映画化した記録はないようだ。それにペーターゼンが挑む訳
だが、すでに脚本はデイヴィッド・ベニオフの手によるもの
ができあがっており、次の段階は主人公アキレスを演じる俳
優の選考だそうだ。                  
 なお、ペーターゼンとワーナーの計画では、先に“Batman
vs.Superman”を紹介しているが、その計画では04年の公開
を目指すことになっている。しかし今回の計画は03年の撮影
が予定されており、ペーターゼンとしては、先に“Troy”を
撮り上げてから“B vs.S”に進む意向のようだが…。  
 “T3”を製作中のジョナサン・モストウ監督の次回作とし
て、第17回で紹介した『エンダー』シリーズのオースン・ス
コット・カード原作による“Lost Boys”という計画が浮上
してきた。この作品は、郊外の家に引っ越してきた家族が、
その町で続く少年失踪の謎に挑むというもの。しかもそこに
は超自然的な存在が潜んでいたというお話のようだ。そして
この原作の脚色に、カナル+やハイドパーク、ディメンショ
ンといったファンタシー系の作品を手掛けるプロダクション
に、いずれも6桁($)の金額で作品を売り込んでいるブラ
イアン・カーという脚本家の起用が発表されている。ヤング
向けの作品になるかどうかは解らないが、いずれにしても実
績のある人選のようだ。製作会社はユニヴァーサル。   
 そういえば、『エンダー』シリーズの映画化もペーターゼ
ンとワーナーだったが、その後どうなっているのだろう。 


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井口健二