井口健二のOn the Production
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2002年08月01日(木) 第20回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 まずは、ビディングウォー(bidding war)と呼ばれるオ
ークションの話題から。                
 エージェントの力が強いアメリカでは、予め脚本と監督、
場合によっては出演者までをセットにして組み上げた企画を
各社に提示して、その企画の買い取り価格を競らせることが
行われる。このやり方が製作費の高騰に繋がっているとも言
われるが、逆に言えば買い手側は先に内容を吟味してからオ
ークションに参加する訳だから、企画自体の完成度も高くな
ってくる。そして売り手側は如何にアピールするかをまず考
える訳で、この相乗効果で話題作が次々生まれ、業界全体が
活況になっているとも言えるものだ。          
 そんなビディングウォーの話題で、まずは『スパイダー・
マン』のサム・ライミが発表した“30 Days of Night”と
いう企画に、オークションで100万ドル台の契約が成立して
いる。                         
 この企画は、“Hellspawn”や“Fused!”などのコミック
スのライターで、最近“Savage Membrane”というグラフィ
ックノヴェルも発表し、準備中の“Spawn 2”の脚本もトッ
ド・マクファーレンと共同で手掛けているスティーヴ・ナイ
ルズという作家が発表した、同名の3巻本のコミックスを映
画化するもので、内容はヴァンパイアもの。       
 といっても舞台はアラスカの北極圏に近い町バロー。そし
て季節は冬。つまり『インソムニア』で描かれた白夜とは反
対に、ほとんど1カ月に亘って夜が続く状況の中で、町を守
る保安官の夫妻がヴァンパイアの襲撃に対峙し、彼らの活動
が止まる30日後の夜明けを待つというお話。ヴァンパイアも
ので夜明けを待つというのは定番だが、それが30日も続くと
いう訳だ。                      
 そしてこのコミックスに目を留めたライミが、たまたまナ
イルズとエージェントが同じだったこともあって製作に名乗
りを上げ、一気にビディングウォーの状況になったものだ。
ただしこの計画で、ライミは『スパイダー・マン』の準備に
忙しいために監督はせず、製作の形でしかタッチしないとい
うことだが、それでもライミ+コミックス=期待作というこ
とでこの価格になったようだ。             
 なおオークションには、ドリームワークスとMGM、それ
にドイツに本拠を置く独立系のセネター社が参加。ドリーム
ワークスはニュー・ラインで『ブレイド』を手掛けたマイク
ル・デ=ルッカが代表して獲得を切望したようだが、結局セ
ネターが契約を結ぶことになった。因にセネターは、5月に
ライミが企画を立上げた際に海外配給の交渉を受けており、
その時から企画に興味を示していたということだが、最終的
に映画の製作そのものも行うことになって、全世界の配給権
を得ることになった。                 
 契約の付帯条件で、脚本はナイルズが執筆するということ
だが、これから出演者や監督も選考する訳で、仮に今度の冬
に現地ロケとなると準備はかなり急ピッチになりそうだ。そ
れと日本配給はセネターとの契約になるようだが、これもこ
れからオークションということになるのだろうか。    
        *         *        
 ビディングウォーの話題もう1本は、00年の東京国際映画
祭でグランプリを獲得した『アモーレス・ペロス』の監督ア
レハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥと、脚本ギジェルモ
・アリアガ・ホルダンによる初めての英語作品“21 Grams”
に対してオークションが行われ、こちらは総製作費2,00万ド
ルという作品の世界配給権をユニヴァーサル傘下のフォーカ
ス・フューチャーズが獲得することになった。      
 映画の内容は、一人の女性の精神的、肉体的な存在価値の
探究を巡る物語で、元詐欺師の男と女のだまし合いの恋が描
かれるということだ。それにしても、題名の「21グラム」と
いうのは一体何の重さなのだろう。           
 なおこの計画では、先に映画の製作は独立系の会社で行わ
れることが決定されており、配給権のオークションでその製
作費の調達が行われたものだ。因にオークションには、他に
ミラマックスとニュー・リジェンシーが参加したようだ。 
 そしてこの契約が成立したことを受けて、今年の12月に予
定されている撮影開始に向けた出演者の交渉が進めれられて
いる。その交渉相手は、ベネチオ・デル=トロ、ショーン・
ペン、ナオミ・ワッツということで、一応事前の下交渉は進
められていたようだが、最終的にどうなるか。もちろん配給
権の判断にはこの配役も考慮されているはずだが、今のとこ
ろフォーカス側はノーコメントだそうだ。
 デル=トロとペンは『プレッジ』でも仲が良さそうだが、
ワッツとの関係はどうなのだろうか。          
        *         *        
 次はまたまたユースファンタシーの映画化の計画で、イギ
リスの作家ジョナサン・ストラウドが執筆する“Bartimaeus
Trilogy”という新シリーズのアメリカ出版権と映画化権に
ついて、出版部門も所有するミラマックスが300万ドルで契
約したことが発表された。              
 この契約は、元児童書編集者というストラウドが執筆した
シリーズ第1作の“The Amulet of Samarkand”の中から
120ページの抜粋と概要が提示されて行われたもので、物語
は、反抗的な若い魔法使いの弟子が、偉大な力を持つ魔法使
いから魔法のアミュレットを盗み出し、バーティミュウスと
名乗る古代の魔神を呼び出してしまうというもの。      
 原作者のストラウドは、「この時期『ハリー・ポッター』
のような物語を出すのは、亜流と見られるリスクが大きいこ
とは意識している」そうだが、同時に「自分の成長期に読ん
だC・S・ルイスの『ナルニア物語』のように、子供たちは
常にこのような物語を必要としている」とのことだ。また本
作は、若者の側からだけでなく魔神の側からも物語が語られ
ているということで、その点で『ハリー・ポッター』とは大
きく異なっているそうだ。               
 なおミラマックスでは、先にエオイン・コルファー原作の
“Artemis Fowl”の映画化権と続編4冊のアメリカ出版権を
獲得、その最初の続編“The Arctic Incident”は先頃出版
されたが、このシリーズ第1作の映画化についても、ロバー
ト・デ=ニーロ主宰のトライベカとの共同で、この秋から撮
影開始されることが正式に発表されている。       
 またミラマックスでは、製作前の経緯から『ロード・オブ
・ザ・リング』の権利の一部を所有し、配給収入からの分け
前を得ているが、それより自前の作品での大きな利益を目指
し、この分野への進出に期待を寄せているそうだ。    
        *         *        
 続いてはテレビシリーズからの映画化の情報で、ソニーで
長年企画されていた“S.W.A.T.”の映画化がついに実現する
ことになった。                    
 この原作は、75〜76年にABCで放送されたもので、シリ
ーズはロサンゼルス市警所属の特殊部隊の活躍を描いている
が、実際には60年代から活動していたという全米各地の大都
市の警察に所属する部隊の公式記録や隊員の実生活に基づい
て描かれており、放送当時には、かなりの反響を呼んだ作品
だった。因に、題名は‘Special Weapons And Tactics’
の頭文字を取ったものとされている。           
 そしてこの映画化は、元々は90年代の後半にトライスター
で立上げられたもので、一時はオリヴァ・ストーン製作で、
主演はアーノルド・シュワルツェネッガーなどという情報も
あったものだが実現はできなかった。          
 その計画が、ついにコロムビア映画として実現されること
になったもので、今回の主演には、サミュエル・L・ジャク
スンと『ジャスティス』のコリン・ファレル、それに『バイ
オハザード』の映画化にも出ていたミシェル・ロドリゲスが
紅一点の部隊員として出演することになっている。    
 また監督は、テレビシリーズ『ホミサイド』などの俳優出
身で、TVムーヴィの監督では実績のあるクラーク・ジョン
スンが長編監督デビューを飾る。そして脚本は、『ワイルド
・スピード』や、デンゼル・ワシントンにオスカーを導いた
『トレーニング・デイ』のデイヴィッド・エイヤーが担当。
つまり警察ものに実績豊かな顔ぶれが揃ったということだ。
 なお物語は、前の作戦に失敗して窮地にいるジャクスン扮
する隊長が、もはや失敗の許されない状況の中で、隊員を率
いて犯罪目撃者の警護の任務に就くというもの。スワットを
呼ばなければならないほどの警護というのが、一体どんなも
のか想像もつかないが、恐らくは組織絡みの犯罪の目撃者と
いうことなのだろうか。                
        *         *        
 もう1本、テレビシリーズからの映画化は、これも長年企
画されていたイギリス製人形劇シリーズ“Thunderbirds”
の実写版映画化が、03年初めの撮影開始を目指して進められ
ることになった。                    
 この原作は、65〜66年にイギリスで各60分の全32話が放送
されたものだが、元宇宙パイロットで巨万の富を築き上げた
ジェフ・トレイシーが、自らの財力と科学力で南海の孤島に
秘密基地を作り、国際救助隊と称して人々を災害から守ると
いうお話。日本でも66年にNHKで初放送がされているが、
そのミニチュアワークの素晴らしさは今再放送を見ても遜色
がないといえるものだ。                
 そしてこの計画も、イギリスのワーキングタイトル社の計
画として数年前から報告され、一時はピーター・ヒューイッ
ト監督、クリスティン・スコット=トーマスのレディ・ペネ
ロピー役ということで話題になったこともあったが、実現さ
れないまま今に至っていた。しかし、最近になってこの計画
の監督としてジョナサン・フレイクスが参加、これに対して
ワーキングタイトルの提携先のユニヴァーサルから製作承認
が出て、ついに映画化が実現することになったものだ。  
 なお、監督のフレイクスは、テレビシリーズ『新・スター
トレック』のライカー副長役で知られているが、その映画化
の『ファーストコンタクト』『叛乱』の監督を務めた他、最
近ではパラマウントとニッケルオディオン共同製作のファン
タシー映画“Clockstoppers”の監督も手掛けている。そし
て今回の映画化では、一時はかなり観客の年齢層を高く設定
した計画も検討されたが、最終的にテレビ放送当時の対象年
齢層(10歳以下)を中心にしたファミリーピクチャーとして
製作される予定だということで、フレイクスにはその方面の
手腕が買われているようだ。脚本はウィル・オズボーン。 
 それにしても、スコット=トーマスのレディ・ペネロピー
役というのは填りだと思っていたが、それは今回実現するの
だろうか。因に、同シリーズの映画化としては、オリジナル
そのままの人形劇によるものが、67年の『サンダーバード』
と、68年の『サンダーバード6号』の2作公開されている。
        *         *        
 前回は、ちょっと期待の計画としてワーナーの2大シリー
ズが合体する“Batman vs.Superman”の計画を紹介したが、
その後を追うように今度はフォックスから、こちらも2大シ
リーズ合体の計画が発表された。            
 発表された作品の題名は“Alien vs.Predator”。79年の
第1作以降、86年、92年、97年にそれぞれ続編が製作された
『エイリアン』シリーズと、87年と90年に製作された『プレ
デター』を合体させるという計画だ。と言っても、実はこの
合体は、すでにフォックスが99年と01年に発表しているヴィ
デオゲームで実現しているもので、今回の計画はそのヴィデ
オゲームを映画化しようというもの。          
 そこで監督には、『モータル・コンバット』や『バイオハ
ザード』でヴィデオゲームの映画化には実績のあるポール・
アンダースンが招請され、ゲームに基づいて彼自身が執筆し
た脚本の映画化が行われるということだ。        
 とは言うもののそれぞれのシリーズの関連作品であること
には変わりはなく、そのため製作者には、ジョン・デイヴィ
ス、デイヴィッド・ギラー、ローレンス・ゴードン、ウォル
ター・ヒル、ジョール・シルヴァという錚々たる顔ぶれが並
んでいる。因に、ギラーとヒルが『エイリアン』で、残りの
3人が『プレデター』の製作者だ。なおゴードンは『トゥー
ムレイダー』、シルヴァは『マトリックス』の製作者である
ことは言うまでもない。                
 ただし、ワーナーと違ってこれらのシリーズが復活すると
いうものではなく。一応、『エイリアン』に関してはリドリ
ー・スコットとシゴニー・ウィヴァーが話し合っているとい
う情報はあるようだが、取り敢えずは今回だけの計画のよう
だ。もっともこの作品のヒットで、この作品の続編が作られ
るという可能性はない訳ではないが。          
        *         *        
 後半は短いニュースをまとめておこう。        
 まずは続報で、前回報告した“Peter Pan”の実写版で、
主演のピーター・パン役にジェレミー・サムプターという13
歳の俳優の抜擢が発表された。これでフック船長役のジョナ
サン・アイザックスの剣戟の相手が決まった訳だが、前回の
発表ではこの剣戟シーンもCGIを駆使したものになるとい
うことで、13歳相手にワイアーワークというのもあまり考え
られないし、一体どんな剣戟シーンになるのだろう。   
 お次は“XXX”の公開が待たれるヴィン・ディーゼルに、
“Hannibal”の主演がオファーされている。と言ってもアン
ソニー・ホプキンスが演じた殺人鬼の話ではなくて、リドリ
ー・スコットが歴史ものを続けてやるのは嫌だと言った紀元
前3世紀の英雄の物語。カルタゴの名将ハンニバルは、象を
連れてアルプスを越え、ローマ軍を撃破したことで有名な人
物だ。なお、映画はロス・レッキーという人の原作によるも
ので、製作会社はリヴォルーション。当初はデンゼル・ワシ
ントンの主演という計画もあったようだが、生きの良い若手
アクションスターの起用が目指されているようだ。    
 これで前回紹介のザ・ロックのカメハメハ大王に続いて、
若手アクションスターによる歴史上の人物の映画化が競作に
なると、面白いことになりそうだ。           
 続いては、最近『スター・ウォーズ』のシリーズなど映画
作品の導入に力を入れているLegoの話題で、日本でも宣伝が
始まっているオリジナルのバイオニクルシリーズの映画化の
計画が、映画製作で提携しているミラマックスから発表され
ている。このシリーズのコンセプトは、邪悪な力に支配され
た島を舞台に、6人のヒーローが戦いを挑んで行くというも
の。すでにウェブサイトやコミックスでもストーリーが展開
され、03年秋にはヴィデオで第1作が発売される予定だが、
その後の04年にオールCGIによる劇場版の公開が計画され
ているということだ。                 
 因に、ミラマックスではマイクル・シェイボン原作による
“Summerland”という作品のCGIアニメーション化を計画
しているが、今回の作品はその試金石にもしたいようだ。 
 最後に、パラマウントに本拠を置くディーン・デヴリン主
宰のエレクトリック・エンターテインメントから、“Noah”
というSF映画の計画が発表されている。この作品は、ジャ
ン・スクレントニーとニール・タバクニックという脚本家に
よるもので、内容は非公開とされているが、若い科学者のサ
ヴァイヴァルへの戦いが描かれているということだ。そして
デヴリンは、この脚本に6桁($)の契約金を支払って映画
化権を確保したもので、「オリジナリティに溢れる作品で、
シリーズ化も目指せる内容を持っている」と高い評価をして
いる。なお、脚本の2人は、シルヴェスター・スタローンの
『ドリブン』にStoryでクレジットされている他、製作中の
“The Italian Job”の脚本のリライトも手掛けているとい
うことだ。                      


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