井口健二のOn the Production
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2002年07月16日(火) スクービー…、ブレッド&ローズ、ジョンQ、阿弥陀堂だより、アバウト・ア・ボーイ、13ゴースト、スチュアート・リトル2、タイムマシン

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介します。       ※
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『スクービー・ドゥー』“Scooby Doo”         
日本では『弱虫クルッパー』の題名で放送されたハナ=バー
ベラ製作テレビアニメーションの映画化。        
オリジナルのアニメーションは日本ではほとんど放送されて
おらず、僕も最近、この映画化が決まった後で数回、参考の
ためにカートゥーンチャンネルで見ただけなのだが。アメリ
カでは69年から91年まで22年間も続いた人気番組。その人気
番組の映画化とあって、アメリカでは封切2週間で1億ドル
突破の大ヒットになっている。             
シャギー、ダフネ、ヴェルマ、フレッドの男女4人と、人語
を喋るグレートデンのスクービーをメムバーとする「ミステ
リー社」は、アメリカ中の幽霊騒動を解決する人気会社。今
日もおもちゃ工場に出没する幽霊の謎を解いて大喝采を浴び
たのだが、その直後に意見の対立から4人は別れ別れになっ
てしまう。                      
そして2年後、スクービーと共にヒッピー生活のシャギーの
元へ、若者向けリゾート「スプーキー・アイランド」のオー
ナーから仕事の依頼が来る。本当は臆病で幽霊退治なんて真
っ平のシャギーとスクービーだが、食事が食べ放題の条件に
釣られてOK。島へ向かう飛行場に来てみると、そこには他
の3人もいて「ミステリー社」の再結成となる。     
テレビシリーズでの幽霊騒動は、どれも結局は人間の仕業、
というものだったのだが…。島に来てみると、本当に何かが
起こっているらしい。こうしてアミューズメントパークのよ
うな島を舞台に、「ミステリー社」の活躍が始まる。   
ハナ=バーベラのアニメーションの実写化もすでに『フリン
トストーン』などの成功作があるが、正直なところアニメキ
ャラを人間が演じるのには抵抗がある。どうしてもアニメの
動きを真似ると演技が大げさになるし、表情の作り方なども
不自然さを否めない。                 
実はこの映画でも、最初はそんな違和感があったのだが、島
に着いて、表情の作り方ではアニメに輪を掛けたようなミス
ター・ビーンことローワン・アトキンソンが登場した辺りか
ら、そんな感じは吹っ飛んでしまった。         
それに人間のメムバー4人を演じるのが、『スクリーム』や
『ラスト・サマー』などのティーンズホラーの常連の若手俳
優たち。そんな彼らが結構のって演技をしていることもあっ
て、この雰囲気の中では、何かそういう演技も不自然に見え
なくなってしまったという感じもある。これはある意味作戦
だったのだろう。                   
なお、犬のスクービーはオールCGIの合成で描かれている
ので、これはもうアニメーションそのままという感じだ。 
若年向けの作品であることは間違いないが、いろいろなギミ
ックも一杯で結構楽しめた。              
                           
『ブレッド&ローズ』“Bread and Roses”        
イギリスのケン・ローチ監督が、初めてアメリカを舞台に撮
ったイギリス=ドイツ=スペイン合作の00年の作品。   
主人公のマヤは、ロサンゼルスで暮らす実姉を頼って、メキ
シコから不法入国する。しかし姉はその手引きの代金を用意
できず、マヤは男たちにホテルに連れ込まれるが、機転を利
かして脱出。こうしてマヤのアメリカでの生活が始まる。 
ところが姉と一緒に働き始めたビルの清掃員の仕事では、ピ
ン跳ねや不等解雇が横行し、医療保険も満足に得られない状
態。そんなマヤと姉の基に組合のオルグが接近してくる。そ
してロサンゼルス最大の高層ビルで働く彼女らに組合活動の
手解きを始めるが…。                 
ローチは、社会の底辺で生きる人たちを描いて多くの秀作を
発表しているが、本作では、メキシコからの不法移民を主人
公に、ジャニターと呼ばれるほとんどが不法滞在者からなる
ビル清掃員の生活の実態が描かれている。        
しかも組合活動や、会社からの制裁、そして裏切りなど、か
なり重たいテーマなのだが、そこに多くのユーモアや感動の
シーンを入れることで、秀作と呼ぶにふさわしい作品になっ
ている。見終って本当に上手いとしか言いようがなかった。
僕自身、ハリウッドを抱えるロサンゼルスは大好きな街で、
不法移民の問題もいろいろな映画などで見聞きしているが、
この問題をこんな風に温かく優しく描けるのは、ローチ監督
の素晴らしさだろう。                 
因に題名は、1912年にマサチューセッツ州で起きた1万人の
移民労働者、特に低所得の女性たちによる労働争議の時に掲
げられたスローガンの‘We want bread but roses too’
に由来している。バラは生きて行くための尊厳と夢の象徴だ
そうだ。                        
                           
『ジョンQ』“John Q.”                
今年のアカデミー賞で、アフリカ系の俳優としては38年ぶり
に主演男優賞を獲得したデンゼル・ワシントンが主演し、ア
メリカでは今年の2月、ちょうどその本投票の行われていた
時期に公開されて、受賞の後押しになったのではないかと言
われた作品。                     
主人公のジョンQは製鋼所で働いて17年間、しかしリストラ
のために半日労働のパートタイマーとされて賃金は減り、普
段の生活もままならない。そんな主人公の一人息子が心臓疾
患で倒れ、生き続けるためには心臓移植しか手段がないと宣
告される。                      
ところが会社が加入していた健康保険は、経費節減のために
保障内容が変更され、家族への適用条項が削除されていた。
このため心臓移植を受けるには、25万ドルの現金が必要とさ
れ、しかも前金で7万5000ドルを用意しなければならなかっ
た。                         
この事態に、父親はマスコミにまで協力を求めて資金集めに
奔走するが、金は集まらない。そして心臓移植の権威が在籍
する病院から退去が要求された日、遂にジョンQは最後の手
段に出る。移植の権威の医師を人質に病院の救急病棟に立て
こもったのだ。                    
映画はプロローグで衝撃的な交通事故から始まる。従って物
語の結末はもう見えているのだが、そこからの話の展開が上
手い。いったんそれを忘れらせてしまう、演出力、演技力、
そして構成の上手さの勝利だろう。           
ワシントンは、受賞作とは打って変って見るからに善良そう
な父親役で、その父親が一人息子のために採る行動は、もし
自分がその立場だったらやってしまうのではないか、と思う
ほど迫るものがあった。                
警察の対応や病院側の葛藤など、もう少し描いても良いよう
な気もするが、主人公の行動をはっきりさせるためには余分
の部分だったのだろう。                
エピローグの本物のニュースショウのコメンテーターたちが
意見を述べるシーンで、1月に急逝したテッド・デミの姿が
あるが、宣伝には使われないようだ。。         
                           
『阿弥陀堂だより』                  
元黒澤明監督の助監督だった小泉堯史監督の第2作。前作は
黒澤監督の遺稿を映画化した『雨あがる』だったが、今回は
南木佳士の原作を自らの脚色で映画化した。       
主人公は、売れない作家と女医の夫妻。妻は東京で最先端の
医療に携わっていたが、精神的な圧迫による病で夫の故郷の
無医村だった村にやってくる。そして村立の保育所に間借り
して週3日の診察を始める。              
その村には、亡くなった人々を祀る阿弥陀堂があり、その堂
は96歳の老女が守っていた。そして村の広報誌に「阿弥陀堂
だより」というコラムがあり、そのコラムは、一人の口の利
けない女性による老女からの聞き書きで綴られていた。  
その女性は喉にできる肉腫で声を奪われていたが、女医はそ
の肉腫が転移し、危険な状態になっていることを診断する。
そして彼女を救うためには、自分自身が最先端の医療の現場
に立ち返らなければならないということも。       
一人の女医の、そして女性の再生の物語だが、決してお涙頂
戴に陥るようなこともなく、淡々と描き切る。そのすがすが
しさが素晴らしい。                  
長野県で1年をかけて撮影され、季節の移り変わりの中で営
まれる人々の生活が見事に描かれる。それにしてもすごいの
は老女を演じた北林谷栄だろう。91歳の現役俳優は、特に女
優では奇跡に近い。                  
                           
『アバウト・ア・ボーイ』“About a Boy”        
ヒュー・グラント主演のイギリス製コメディ。      
父親の残した遺産のおかげで、38歳になっても働いたことも
なく。当然独身で女漁りに明け暮れている男が、12歳にして
欝病の母親を抱え人生に悩み続けている少年と出会ったこと
から、人生の転機を迎える。              
『ブリジット・ジョーンズの日記』の製作会社が手掛けた作
品ということで、グラントは前作の脇キャラ同様のグウタラ
男を上手く演じている。グラントは一見真面目そうなところ
が、特にこの手の役柄に填るようだ。          
ただし映画は、グラントの主人公と同時に、12歳の少年も対
等に描いており、その辺の交錯が見ていて納得できる作品に
なっている。この少年の扱い方を考えると、どちらかと言う
と女性向けの作品だろう。               
なお、プロローグでイギリス版の『ミリオネア』が見られ、
日本版と全く同じなのが面白い。また、『フランケンシュタ
インの花嫁』がかなり長くフューチャーされているのも僕と
しては嬉しかった。それから少年の顔つきが何となく『スタ
ー・トレック』のロミュラン人的で、態度もそんな感じなの
も笑えた。                      
                           
『13ゴースト』“Thir13en Ghosts”           
99年に『TATARI』を発表したホラー専門会社ダークキ
ャッスル・エンターテインメントの第2弾。前作と同様50、
60年代に活躍したウィリアム・キャッスルの作品をリメイク
したもので、本作のオリジナルは60年に製作されている。 
火災で家と妻(母親)を亡くした一家に、急死した叔父の遺
産の屋敷が贈られる。そして弁護士の案内でその屋敷を訪れ
た一家は、束の間素晴らしい屋敷に喜ぶが、やがてそこが恐
ろしい儀式のために作られた巨大な装置であることを知る。
叔父は、現世に迷う12人の幽霊を捕獲し、彼らのエネルギー
を利用して未来を覗く装置を作り上げようとしていた。そし
て一家がその屋敷を訪れた時、装置は始動し、屋敷に閉じ込
められた一家を、集められた幽霊たちが襲い始める。   
典型的なお化け屋敷ものということで、それなりに面白かっ
た。まあ物語にちょっと変なところは有るけれど、いろいろ
なVFXを駆使したギミック満載で押し切ってしまうところ
は、最近の映画らしい。                
監督は、ILMなどで視覚効果の美術を担当していた人のデ
ビュー作だが、呪文の刻まれた強化ガラスで仕切られた迷路
と言うかミラーハウスのような屋敷や、不思議な動きを見せ
る機械など、造形の面白さには納得できるものが有った。 
なおオリジナルにはマーティン・ミルナーが出ていたようだ
が、本作には『スクービィ・ドゥー』でシャギー役のマシュ
ー・リラードが出ている。続けて見るとちょっと面白い。60
年作も**1/2の評価を受けているが、そちらもどんなだった
か見てみたい気もした。                
                           
『スチュアート・リトル2』“Stuart Little 2”     
リトル家に養子に来たネズミのスチュアートが活躍する99年
公開の大ヒット作の続編。               
本作では新しいキャラクターの小鳥のマーガロも加わって地
上から空へと大冒険が繰り広げられる。         
前作から3年、リトル家には新たに女の赤ん坊が誕生してい
る。おかげで両親は新しい子に掛かり切りだし、兄のジョー
ジは同級生とプレステ2に夢中、猫のスノーベルも中々相手
にしてくれない。                   
そんな訳であまり楽しい日々とはいえないスチュアートに、
ある日空からガールフレンドが落ちてくる。恐ろしいファル
コンに追われて翼が傷つき、助けを求める小鳥のマーガロを
スチュアートは懸命に介護し、いつしか恋心を抱いたのだが
…。実は彼女は同情を曳いて家に入り込み、悪事を働くファ
ルコンの手先だった。                 
CGIの技術は前作で完成されているので本作で特に言うこ
とはないが、今回はCGIのキャラクターが増えたことでア
ニメーションっぽいシーンが増え、実写との絡みがちょっと
少なくなっている感じがした。             
しかし新たな敵キャラクターの出現で、冒険の範囲は大幅に
広がり、1時間18分の上映時間の割には盛り沢山な感じがし
た。今年の夏の作品は余り見ていないが、お子様向けには、
最も安全で、良い作品だと思う。            
ただし、中で登場するサッカーのシーンは明らかにオフサイ
ドポジションで、アメリカ人のサッカー知らずと言うところ
だった。                       
                           
『タイムマシン』“The Time Machine”         
H・G・ウェルズの名作の2度目の映画化。監督は原作者の
曽孫のサイモン・ウェルズ。因に、前の映画化の邦題は『タ
イム・マシン』。リメイクで「・」が無くなるのは『キング
・コング』と同じだ。                 
リメイク版は舞台をニューヨークに移し、コロムビア大学の
助教授の主人公が、初めてプロポーズし、その直後に亡くな
った女性の命を救うためタイムマシンを完成させるが…。結
局、彼女の死の運命を変えられないことを知る。     
そしてその命題の答えを探るために未来へと旅立つ、という
ことになっている。                  
ほぼ原作通りだった最初の映画化のようにシンプルではない
が、それなりに冒険活劇に仕上げた脚色は合格と言えるだろ
う。過去と未来にそれぞれ女性を配し、過去は変えられない
が未来は…、という結論も判り易くて良い。       
タイムパラドックスも何とかクリアしているようだ。   
登場する装置が80万年も動き続けるとは思えないし、未来社
会の裏に潜む黒幕というのはちょっと無理な感じもするが、
原作では不明瞭な未来の社会形態をそれなりに説明したのは
よく考えたと言うことで評価はしておきたい。      
物語の最初の方で野外スケート場が出てくるのは『ジェニー
の肖像』を意識したのかどうか、しかし旅行者が最初に訪ね
た2030年の世界で、ホログラムの案内人が中指と薬指の間を
開いてV字を作り「長寿と繁栄を」と言ったのには参った。


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井口健二