井口健二のOn the Production
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2002年06月15日(土) 第17回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 まずはSF小説の映画化の話題で、またまたフィリップ・
K・ディック作品の映画化の情報が伝わってきた。    
 ディック作品の映画化では、第6回の記事で53年9月発表
の“The King of the Elves”の情報をお伝えしているが、
今回の作品も53年の6月に発表されたもので、“Paycheck”
という13,000語の小説の映画化の計画が報道されている。 
 原作の物語の背景は、政府と企業との対立が深まった未来
社会。2年間企業への潜入調査を行っていた政府の諜報機関
のエージェントが、その2年間の記憶を消去されて戻ってく
る。政府機関としては当然、その記憶を取り戻させようとす
るのだが…。そこにタイムトラヴェラーの存在が絡んで物語
が展開するというもの。因に、生前のディックの言葉による
と、「今日は25¢の価値だったコインロッカーの鍵が、次の
日には数千ドルの価値になるような、ちょっとしたことで起
こる価値の変化を、全てを見通すタイムトラヴェラーの存在
を絡めて描いた」ということだ。            
 記憶を消去されたエージェントというと、同じくディック
原作の『トータル・リコール』を思い出させるが、あの映画
の元になった“We Can Remember It For You Wholesale”
の発表は66年4月だから、今回の作品の方が古いことになる。
もっとも今回の作品は、これにタイムトラヴェラーが絡むと
いうのだから、お話はかなり違ったものになりそうだが…。
それでも、同じようなアクション映画になるのかな?   
 なおこの映画化については、元々はタッチストーンとキャ
ラヴァン・ピクチャーズが96年に権利を獲得したものだった
が製作には至らず。その後パラマウントに権利が移り、今回
は同社から発表されたものだ。             
 そして一緒に紹介された製作状況によると、ディーン・ゲ
オルガリスという脚本家による脚色がすでに完成していると
いうことだ。因にこの脚本家は、パラマウントでは、リチャ
ード・ドナー監督、メル・ギブスン主演の『リーサル・ウェ
ポン』コンビによる“Sam and George”という作品が進んで
いる他、ヤン・デ=ボンが監督するという情報もある“Lara
Croft: Tomb Raider”の第2作の脚本も担当している。ま
たミラマックスで“Fig Eater”という作品も手掛けている
ということで、ちょっと期待の脚本家のようだ。     
 一方、監督について、パラマウントでは、『ラッシュアワ
ー』とその続編でスマッシュヒットを飛ばし、現在はユニヴ
ァーサルで、10月4日公開予定の『羊たちの沈黙』の前日譚
“Red Dragon”の2度目の映画化を進めているブレット・ラ
トナーに交渉中だということだ。ただしラトナー監督に関し
ては、すでに“Rush Hour 3,4”という情報もあり、この内
“3”の公開は04年を目指すということなので、その間隙を
縫っての監督が可能か否かということになりそうだ。   
        *         *        
 お次はちょっと気になる情報で、ユニヴァーサルと、傘下
で数多くの大作を手掛けているイマジン・エンターテインメ
ントが、男性雑誌のプレイボーイ誌との間で、同誌に掲載さ
れた記事を題材にした映画を製作することについて、包括的
な契約を結んだことが発表された。           
 53年に創刊されたプレイボーイ誌は、日本ではヌードグラ
ビアで有名だが、それ以外にも同誌にはいろいろな事象を扱
った記事や、著名作家の短編小説などが掲載され、その中か
らはすでに61年にポール・ニューマンの主演で映画化された
『ハスラー』や、82年の『ガープの世界』『初体験リッジモ
ンド・ハイ』などの映画化が行われている。また数多くのテ
レビ番組や舞台劇の題材にもなっているそうだ。     
 しかしイマジンを主宰する製作者のブライアン・グレイザ
ーは、「50年近い歴史を持つ同誌には、まだまだ映画の元に
なる数多くのアイデアの金脈が残されている」と考え、1年
以上も前からプレイボーイ誌の創刊者のヒュー・M・ヘフナ
ーと過去の記事の利用に関する交渉を続けていたということ
で、ついにその契約がまとまり、これからそれらの金脈の掘
り起こしに掛かるということだ。            
 00年にラッセル・クロウとメグ・ライアンの共演で映画化
された『プルーフ・オブ・ライフ』は、ヴァニティ・フェア
誌の特集記事を元にした作品ということで話題になったが、
最近のハリウッド映画の動向として、ニューヨーク・タイム
ズやヴァニティ・フェア誌の記事からの映画化という計画が
数多く発表されている。つまり一般的な小説でない記事から
の映画化が増えているということだが、そういった記事の宝
庫ともいえるプレイボーイ誌から、この先どのような映画が
生まれるのか、楽しみに注目していきたい。       
 なおプレイボーイ誌には、SF作家のレイ・ブラッドベリ
や、『ガープの世界』『サイダーハウス・ルール』のジョン
・アーヴィング、映画化された『ラスト・ショー』の原作者
のラリー・マクマトリーらの小説も発表されているが、これ
らの作家が発表した作品についても今回の契約の対象になっ
ているようだ。といっても著作権に基づく映画化権は別に設
定されるはずだから、今回の契約はあくまでもプレイボーイ
誌を利用するという点に関してのものと思われる。    
        *         *        
 続いては、またもや往年のテレビシリーズからの映画化の
話題で、アメリカでは81年の3月から放送された“The Grea
test American Hero”(邦題:アメリカン・ヒーロー)を
映画化する計画がディズニーから発表されている。     
 この作品は、さえない高校の先生が、ふとしたことからエ
イリアンのスーパースーツを手に入れ、FBIの捜査官の協
力の下、スーパーヒーローとして活躍するというものだが、
このスーツが真赤な上に胸には漢字の「中」としか読めない
マークが付いていたり、しかも主人公はスーツの使用法の説
明書を無くして、毎回使い方を試行錯誤しながら話が進むと
いう、コメディ仕立ての作品だ。            
 つまり普通の人間がスーパーヒーローになるという点では
大ヒット中の『スパイダー・マン』と同系列ということ、ま
たオリジナルのテレビシリーズを放送したのが、現在はディ
ズニー傘下のABCだったこともあって、ディズニーが一気
に実現を許可したということのようだが、そうは言ってもオ
リジナルは、主演したウィリアム・カッツの人気もあって、
3月という中途半端な時期のスタートながら、その後3年に
渡って放送されるほどのヒットを記録した作品だ。    
 なお今回の計画は、ポール・ヘルナンデスという脚本家が
中心になって進めているものだが、彼はディズニー社内のラ
イティングプログラムというのに参加2年目という人物で、
すでに“Sky High”という脚本が取り上げられて現在この作
品は監督を選考中だそうだ。その他にも“Instant Karma”
という脚本が、ドリームワークス傘下で『シュレック』を手
掛けたテッド・エリオットとテリー・ロッソの製作者コンビ
に売られているということだ。             
 実はこのライティングプログラムというのが良く判らない
のだが、確か以前にも同様の肩書きを見た記憶がある。最近
のディズニー作品を見ているとエンディング・クレジットに
大量のライターの名前が出てくることがあるが、そういう仕
事をしている人たちなのだろうか。また今回、発表の席に登
場したヘルナンデスは、テレビシリーズの撮影でカッツが着
用したスーツを着込んで意気込みを語ったということだが、
今回の企画に当っては、当時のコスチュームデザイナーとも
交渉してデザインの使用許可を受けているそうだ。    
        *         *        
 ということで、お次は『スパイダー・マン』の大ヒットを
生み出したサム・ライミ監督の情報を紹介しよう。    
 『スパイダー・マン』の第2作の撮影は03年の初めからに
予定されているが、その前にライミと彼の長年のパートナー
の製作者ロブ・ターペットがファンタシー、ホラー、SF専
門のプロダクションを設立。中規模予算でこれらのジャンル
の作品を継続的に製作する計画が発表された。因にこのプロ
ダクションは、ドイツの大手エンターテインメント企業セネ
ターの協力の下に設立されたもので、今後は同社から100%
の出資を受けて映画製作に当り、製作された作品の全世界配
給権をドイツの会社が得るということだ。        
 そしてその第1作の計画が早くも発表されている。この第
1作の題名は“The Boogeyman”、見るからに中規模予算の
ホラーという感じの題名だが、脚本はエリック・クリプケと
いう脚本家が手掛けている。内容は、子供の頃の寝室での恐
怖体験がトラウマになっている若者が、父親の死後に生家に
戻り、自分のトラウマが想像によるものか、実際に恐怖の怪
物がいたのか調べるというもの。            
 何だか『モンスターズ・インク』の続きのような感じもす
るが、ライミは「自分が観客として映画館の座席に着いたと
きに、はらわたを締め上げられるような恐怖を体験できる映
画を目指したい」としている。また「最近はなかなかそうい
う作品を作れる環境になくなっているが、自分たちの会社を
持つことで創意に満ちたホラー作品を発表する場にしたい」
ということだ。                    
 情報から見てライミが自分で監督するものではないようだ
が、脚本のクリプケは、“Truly Committed”や“Battle
of the Sexes”といった受賞歴のある短編作品の脚本監督で
知られているということだ。また製作費には、1800〜2000万
ドルの「リーズナブルな予算」が予定されているそうだ。  
        *         *        
 もう1本、監督の情報で、『パーフェクト・ストーム』の
ウォルフガング・ペーターゼンがワーナーで、オースン・ス
コット・カード原作のヒューゴ・ネビュラ同時受賞シリーズ
“Ender”シリーズの映画化に乗り出すことが発表された。
 このシリーズは、今までに“Ender's Game”と“Ender's
Shadow”の2作が発表されているようだが、原作者のカード
自身が脚本の第1稿を手掛けることになっている。また同時
にゲームソフトの契約もされているということだ。    
 物語は、2種類のエイリアンの戦闘に巻き込まれて地球上
の人類のほとんどが消えてしまった世界を舞台に、残された
政府が子供たちを戦争のために訓練するといもので、子供た
ちに戦闘ゲームをさせ、その勝者の中からエイリアンとの戦
いの指導者を求めて行くというお話。オリジナルは77年に短
編小説で発表され、その後に長編化シリーズとなっている。
97年にポール・ヴァーホーヴェンが監督したロバート・A・
ハインライン原作の『スターシップ・トゥルーパーズ』を思
い出させる内容だが、アメリカの報道では、『ハリー・ポッ
ター』と『スター・ウォーズ』を合わせたような内容と紹介
されていた。                     
 この作品を、『Uボート』のペーターゼンが映画化する訳
だが、ペーターゼン自身は「小さな少年が世界を救うという
テーマは、『ネバーエンディング・ストーリー』で経験済み
だ」と語っており、一方、原作者のカードは「監督は私の物
語の意味を良く理解してくれている。私の子供は『ネバーエ
ンディング…』を見て育ったので、私自身が監督の手腕は良
く判っているし、彼に期待している」と語っているそうだ。
        *         *        
 後は短いニュースをまとめておこう。         
 まずは『スパイダー・マン』のソニーから、マーヴル・コ
ミックスの映画化の第2弾が発表されている。作品の題名は
“Ghost Rider”。実はこの作品、以前はディメンションで
企画が進められていたものだが、製作費の高騰が予想される
などの理由でキャンセルとなり、その後をソニーが引き継ぐ
ことになったもの。物語は、恋人の命を救うために悪魔と契
約した主人公が、悪魔に騙されて恋人を失った上に、自らも
悪魔の化身ゴーストライダーの姿にされてしまう。しかしそ
の姿になっても、彼は恋人のため、そして自らの魂のために
戦い続けるというものだ。なおソニーでは、ジョン・シング
ルトン監督の00年版『シャフト』のリメイクにも参加したシ
ェーン・サレルノと脚本の交渉をしているそうだ。因にディ
メンションでの計画では、主人公をニコラス・ケイジが演じ
ることになっていたが、こちらはどうなるのだろうか。  
 またまたヴィデオゲームからの映画化で、日本では3月に
発売された『Zero〜零』というプレイステーションゲー
ムの映画化の計画が発表されている。このゲームはアメリカ
では“Fatal Frame”のタイトルでゲームショウで発表され
たばかりのようだが、ストーリーは、幽霊屋敷の調査に行っ
たまま帰らない兄を捜して、妹がその屋敷を冒険するもの。
彼女の使える武器が幽霊を写して退治できる古い写真機とい
う設定がユニークな作品だ。そしてこの作品の映画化を、す
でにジャパニーズホラー『リング』のアメリカ版リメイクを
進めているドリームワークスが契約したということだ。内容
的にはすでに映画化された『バイオハザード』などの系統の
ようだが、あれほど過激ではなさそうで、比較的万人向けの
作品が期待できそうだ。                
 最後に、久しぶりにこの作品の話題で、アーサー・C・ク
ラーク原作“Rendezvous With Rama”(宇宙のランデブー)
の情報が入ってきた。この映画化はモーガン・フリーマンの
製作主演で企画され、監督にはデイヴィッド・フィンチャー
が予定されているものだが、製作のバックアップに半導体メ
ーカーのテキサスインスツルメンツが入るなど、ユニークな
体制が注目されているものだ。そして今回の情報は、この映
画化の脚本を、wowowからこの夏放送される『バンド・オブ
・ブラザース』でいくつかのエピソードを脚本を担当したブ
ルース・C・マッケナが担当しているというもので、当初の
予定では2年くらい前に作られているはずの計画だが、何と
か早く完成してもらいたいものだ。           
                           


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井口健二