2002年06月03日(月) |
プレッジ、燃ゆる月、少林サッカー、ボーンズ、スコーピオン・キング、金魚のしずく、月のひつじ、ピンポン、海辺の家、モンスーンW |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介します。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『プレッジ』“The Pledge” 今年のアカデミー賞では、俳優として主演男優賞候補にもな っていたショーン・ペンの監督第3作。前作『クロッシング ・ガード』に続いてジャック・ニコルスンを主演に置いて、 ちょっと不思議な犯罪捜査ドラマを造り出した。 主人公は警察退職の当日に、幼女を対象にしたレイプ殺人事 件に遭遇し、被害者の両親に事件を告げる役を任される。し かしそこで母親から犯人を捕えることを十字架に誓わされた ことから、その後の人生が狂い始める。 事件は、知的障害を持つインディアンの男が連行され、自白 により解決するのだが、主人公はそれに納得できない。彼は 引退生活をあきらめて真相究明に邁進して行く。そしてそれ は、自分を慕ってくれる少女を囮に使う究極の捜査へと向か ってしまう。 頑固な主人公による犯罪の再捜査という映画は何本も見た記 憶があるが、それにまだこういう切り口が残されていたとは 思わなかった。フリードリッヒ・デュレンマットの原作はあ るようだが、映画の特性を活かした脚色も上手い。 相手役は監督夫人のロビン・ライト=ペンが演じるが、その 他に逮捕されるインディアン役のベネチオ・デル=トロに始 まり、捜査の間に出会う人々の役で、ヴァネッサ・レッドグ レーヴ、ミッキ・ローク、ハリー・ディーン・スタントン、 ヘレン・ミレン、警察関係者役で、サム・シェパード、アー ロン・エッカートと、オールスター映画かというキャスティ ングも面白かった。実際はペンを慕って集まった仲間たちと いうことのようだが。 それにしても、何かに取り憑かれた男を演じるニコルスンは 上手すぎる。 題名のPledgeは辞書を引くと「固い約束」とあるが、映画の 中の台詞ではPromiseの方が使われていて、この言葉は出て こなかったように思う。イメージとして宗教的な意味がある ようにも感じたが、どうなのだろうか。
『燃ゆる月』(韓国映画) 『銀杏のベッド』の背景になっている伝説を描いたアクショ ンドラマ。 英題名は“The Legend of Gingko”つまり「銀杏の伝説」。 因に、原題はハングルで表記できないが、読みは“タン・ジ ョク・ピ・ヨン・ス”、これは登場する5人の主人公の名前 を繋いだものになっている。 太古の時代。神山の麓に暮らすメ族とファサン族。あるとき メ族はファサン族を襲い、神山の怒りに触れて住む土地は荒 野とされる。ファサン族が神山の怒りを解く方法は、両族の 血を継ぐ娘を生け贄にして天剣を作り上げ、神山を倒すしか なかった。 それから500年、メ族の女族長スはファサン族の男ハンの 子を身籠もり、その娘を生け贄にして月食の夜、天剣を生み 出す儀式を行う。しかし娘に剣を突き立てようとした瞬間に ハンが現れ、娘を奪還されてしまう。 そして15年後、ハンはピと名付けられた娘を連れてファサン 族の元に帰るが、自らは追放の身であるハンは部族に戻るこ とは許されない。しかしピは迎えられ、そこで部族の指導者 になることを期待される2人の若者タン、ジョク、そして族 長の娘ヨンと共に成長して行くのだが…。そこへ再び、スの 魔の手が伸びてくる。 典型的なヒロイックファンタシーとしか言いようのない作品 で、これに4人の若者の青春ドラマと、ディジタルエフェク トや剣戟シーンを交えて、1時間57分の堂々たる作品に作り 上げている。 実は一昨年の東京国際映画祭で招待上映されているのだが、 そのときは最後に唐突に銀杏の樹が出てくる辺りで意味が判 らず困ってしまった記憶がある。しかし今回は先に前作を見 ているので、その辺はよく理解できた。映画はやはり順番通 りに見なくてはいけない。 前作の監督で、その後に大ヒット作『シュリ』を作ったカン ・ジェギュが、製作者として思いのままに作ったということ で、見ていて納得できる作品。中国映画のアクションファン タシーとはまた違った感性で面白かった。 『銀杏のベッド』の所でも書いたが、日本では2本同時期の 上映になる。本作の方が見応えは充分だが、見るなら順番通 りに見ることをお勧めする。
『少林サッカー』“少林足球” 香港で昨年公開され、『ハリー・ポッター』を上回る成績を 残したというサッカー+クンフー・コメディ映画。 スポーツを題材にしたコメディというのはいろいろ有るけれ ど、試合そのものを題材にするのはこれが結構難しい。第一 にルールそのものを蔑ろにすることは出来ない訳だし、その 制約の中でコメディを作るというのは至難の技とも言える。 僕自身、サッカーは年間20試合以上をスタジアムで観戦して いる身で、ルールはそれなりに心得ているつもりだし、サッ カーの試合の流れみたいなものも実感している立場からする と、映画を見るまではその辺が一番気になっていたところだ った。 それで映画を見た感想は、これが実に上手くできている。ル ール上はちょっと疑問な点もない訳ではないが、末節的な部 分だし、手直しも効くものだから問題にするほどではない。 それより、クンフーを駆使して試合を展開して行く様が結構 セオリーに適っていて、よくサッカーを理解している印象だ った。 物語は、少林寺拳法の普及を願う6人の兄弟弟子たちが、そ のアピールの手段としてサッカーの全国大会に参加する。し かしそこには当然汚い手を使う敵もいて、決勝戦の相手は薬 物で体力を増強して対抗してくる、というものだ。 そして両者の過激な対決ぶりが、少林寺やその他の拳法を駆 使したという設定で描き出される訳だが、結局のところは、 マンガでしか描けなかったような突拍子もない攻撃パターン を、実写(VFX)映像で見事に描き出している訳で、今の 時代はこれが全部出来てしまうのだというところに、驚きと 言うか感動。そして涙が出るほど大笑いしてしまった。
『ボーンズ』“Bones” 『ロード・オブ・ザ・リング』のニューラインが製作した01 年の作品。元々低予算ホラーで成長したニューラインだが、 超大作を作る一方で、こういう作品もこつこつ作っていると いうのが、ファンには嬉しいところだ。 発端は70年代、黒人街の顔役のボーンズは、自分なりの規律 で街を支配していた。しかしあるとき麻薬の取り引きを持ち かけられ、それを断ったために仲間の裏切りもあって殺され てしまう。そして自分の屋敷の地下に埋められて白骨となっ ていたのだが…。 舞台は現在に移り、ボーンズの死後に財を成した裏切り者の 一人は、白人の街に住んでいる。しかしその息子が、父親に 認められる事業を興そうと、黒人街の廃屋を買ってクラブを 計画。父親の反対を押し切ってのオープンする。そしてその オープニングのさ中、謎の黒犬の働きでついにボーンズが甦 り、自分を裏切ったものたちへの殺戮を開始する。 西海岸で人気のラッッパー、スヌープ・ドッグが初主演(ボ ーンズ役)した作品ということで、半分はウィル・スミス主 演映画のようなノリの作品を期待していたのだが、劇中では ドッグのラップは披露されない。 従って半分は期待外れだった訳だが、映画が結構まともなホ ラー作品だったのに逆に驚いてしまった。といっても、低予 算ホラーだから、好きな人にしか推薦は出来ないが、その手 の作品の水準には達していると思う。 なお70年代ということで69年公開の『ジャワの東』という映 画に言及するシーンが有り、字幕ではシネスコとなっていた ようだが、この作品はシネラマ社が製作したれっきとしたシ ネラマ作品。この辺はちゃんと押さえて欲しかった。
『スコーピオン・キング』“The Scorpion King” 『ハムナプトラ2』に登場したキャラクターの誕生の物語を 描いた古代アクション。前作で本格的な映画デビューをした プロレスラーのザ・ロックが主役を務める。 良い意味でも、悪い意味でも典型的なプログラムピクチャー なのだが、これが全米公開で4月の歴代1位の記録となった のは、一重にザ・ロックのお陰。そのザ・ロックが今回試写 に合わせて来日し、試写会での舞台挨拶もあったのだが、日 本では1回しか試合をしたことはないはずなのに、会場は男 女を合わせたファンで一杯で、その人気に驚かされた。 作品自体は、上にも書いたようにプログラムピクチャーで、 多分製作費もあまり掛っていないのだろうが、こんな作品で もVFXが満載なのには驚いてしまう。 ザ・ロックの演技はそこそこだが、それより共演者の元ミス ・アメリカ・ハワイ代表というケリー・ヒューに注目、空手 黒帯保持者ということだが、次はその腕も披露して貰いたい ものだ。
『金魚のしずく』“玻璃、少女。” 反抗的な16歳の少女Pと、大陸出身の元刑事ウーの交流を描 いた香港映画。 家出した孫娘を探すために街にやってきたウーは、孫娘の携 帯電話の着信から友人Pを突き止め、彼女のボーイフレンド のトーフと共に孫娘の捜索を始めるのだが…。 物語は多感な少女Pの行動を中心に描かれるのだが、これが 万国共通というか、僕自身ついこの間までこの年代だった娘 を持つ親として頷けるところが多々あった。その意味では、 良くできた風俗映画ということなのだろう。 構成は、中心の3人だけでなく、孫娘の両親などのエピソー ドが羅列され、そこにカットバックが在ったりして結構トリ ッキーなのだが、その繋ぎ方が上手いのか、見ていて違和感 はない。映像もしっかりしていて見ていて心地良かった。 それと、少女Pを演じたこの作品がデビュー作のゼニー・ク ォックが素晴らしく、またウーを演じた元クンフースター、 ロー・リエの存在感も良かった。
『月のひつじ』“The Dish” アポロ11号の月面からのテレビ中継を受信したオーストラリ アの電波天文台の奮闘を描いた史実に基づくコメディ作品。 この中継は、当初はカリフォルニアの電波天文台が行うこと になっていたが、スケジュールの変更により、バックアップ 用だったオーストラリアの片田舎の天文台に主要な中継が任 せられる。 その名誉に沸き立つ地元だったが、停電などのアクシデント が続出。そして中継の当日には、パラボラの安全基準を越え る強風が吹き荒れる。しかしその苦難を克服し、ついに月面 からの中継に成功するという物語だ。 確かに中継がアメリカ以外の国を経由して行われたというの は、うっすらと記憶していたが、それがこんな場所で、しか も強風の中、生命の危険を冒してまで行われたものとは知ら なかった。 映画全体は、基本的に悪人は出てこないし、心暖まるコメデ ィで、科学的な啓蒙の意味も考えれば文部科学省の推薦を取 ってもいいのではないかというような作品。当時を知るもの としては、ノスタルジーも重なって面白かった。
『ピンポン』 松本大洋の人気コミックスの映画化。 主人公の天才ピンポンプレーヤー、ペコ役を、昨年『GO』 で主演賞を総嘗めにし、テレビの『漂流教室』にも主演した 窪塚洋介が演じる。 個人的には『少林サッカー』に続けてCGI利用のスポーツ 映画ということになったが、香港作品が常人には不可能な技 をCGIで実現して見せたのに対して、こちらはスポーツは 素人の俳優にプロ級の腕前をCGIで演じさせるということ で、なるほどこういう使い方もあったのかということでは、 日本人の発想も捨てたものではないと感じた。 つまり卓球の壮絶なラリーを、多分俳優はポーズを決めるだ けで、その間をCGIの球が行き交うという訳だが、以前な ら俳優を猛特訓して演じさせたような苦労がない訳で、その 分落ち着いて見ていられるのは気持ちが良い。 なお監督の曽利文彦は『タイタニック』にも参加したという CGIアーティスト、これに『チャーリーズ・エンジェル』 のミサイルのシーンなどを手掛けたという松野忠雄がCGI ディレクターとして加わって、ハリウッド仕込の映像を見せ ているという訳だ。 それから、巻頭に一発CGIでかましてくれる映像の感覚も 素晴らしい。この1シーンで映画に引き摺り込まれ、映画全 体の流れを決定する。こういう感覚も並の日本映画と違う感 じを与えてくれた。 『GO』は見ていないし、『漂流教室』も熱心な視聴者だっ た訳ではないので、窪塚にどのくらいの実力が在るか判らな かったが、本作でコミックスのキャラクターを苦もなく演じ ているのには感心した。 元々コッミクス原作だから臭い演技が気にならないとえばそ れまでだが、概して本作の配役は填っていたように思う。主 な配役の最年長が夏木マリと竹中直人というのも、良かった のかも知れない。竹中はそこそこ臭いけれども。
『海辺の家』“Life as a House” 『ワイルド・ウエスト』のケヴィン・クライン主演のヒュー マンドラマ。 主人公は42歳、20年間勤め上げた会社をリストラされ、しか もその直後に癌が発見されて余命3カ月を宣告される。主人 公には離婚歴があり、すでに16歳の息子は妻が引き取ってい るが、周囲の全てに反発する問題児になっている。 その主人公が、余命の全てを費やして海辺の断崖に建つ自宅 を建て直そうとし始める。それは病気の彼一人に出来ること ではなく、彼は病気は隠して元の妻や夏休みの息子に協力を 求めるのだが、やがて周囲の住民も巻き込んだ騒動へと発展 して行く。 主人公の仕事は、建築会社のプレゼン用の模型制作者で、こ れがコンピュータグラフィックスにとって替られるという辺 りは、今横行しているリストラの大半がこれに通じるという 点で現代を象徴している。 物語は、特に前半は父親と問題児の息子の関係を中心に描か れるが、僕自身が同じ年代の息子を持つ父親としては(別に 自分の息子は問題児ではないが)、こんなに上手く行くのか なという感じは否めない。多分今の子供たちはもっと複雑な はずだ。 しかし家を建てることといい、元妻や周囲の人たちとの関係 といい、元々が男の夢物語なのだからこれも良いだろうとい う感じだ。逆にそれをよしとするだけの魅力がこの作品には ある。それが男の夢物語という点だ。 父親の思いを息子が受け継ぐ、そんな理想論でしかないかも しれない物語が見事に描かれている。僕は父親の世代として このように見たが、逆に息子の世代にも見て理解して欲しい という風にも感じた。
『モンスーン・ウェディング』“Monsoon Wedding” 2001年ヴェネチア映画祭で金獅子賞を獲得したインドの女性 監督による作品。 舞台はニューデリーのとあるお屋敷、といっても飛び切りの 大金持ちという訳ではない父親が、一人娘のために一世一代 の結婚式を催そうとする。それは伝統に則ったもので、マリ ーゴールドの花に飾られた華やかなものになるはずだった。 しかし準備の途中で資金は底をつきはじめ、一方、娘は不倫 相手との別れをきっかけに親の決めた婚約者との結婚をOK したものの、まだ元の相手に未練があるようだ。そしてアメ リカやオーストラリアからやってきた一族勢揃いの招待客の 中には、幼い少女に手を伸ばす良からぬ性癖の者もいたりし て…。 そんなこんなの諸々が、結婚式を目前にして一気に噴き出し てくる。果たして父親は無事に結婚式を行うことが出来るの か? ニューデリーを中心としたパンジャブ地方の人々は普段から お祭り好きで、結婚式はその際たるものということのようだ が、こんな大掛かりな式ではやるだけで大仕事だ。そんな中 で次々起こるトラブルが、映画の中では結構手際良く、判り 易く描かれている。 監督は、生まれも育ちもニューデリー、といってもハーヴァ ード大学で映像学を学んだ才媛ということで、感覚的にはア メリカ映画に近い雰囲気がある。しかし歌がふんだんに出て くる辺りはインド映画特有の雰囲気も持っていて、ハリウッ ド映画とインド映画の見事な融合と言うところだろうか。 上映時間は1時間54分。大抵が3時間を越えるインド映画に しては短い方で、観客には見易い作品だ。
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