井口健二のOn the Production
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2002年06月01日(土) 第16回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 今回はリメイクの話題から紹介しよう。        
 旧作と同じ物語を再度映画化するのがリメイク(remake)
の定義だと思うが、最近では旧作のキャラクターで新しい物
語を造り出すという形式の作品が増えている。これで物語に
一貫性があればシリーズということになるが、間隔が開いた
り、出演者や製作スタッフが違ってくると、シリーズとは呼
び難いこともある。                  
 これに対して最近アメリカの報道でリドゥー(redo)とい
う言葉が目立つようになってきた。これなら、旧来のリメイ
クから、シリーズの再開、さらにテレビシリーズからの劇場
版映画化まで全てを対象にすることが出来るようだ。しかし
上記のようにカタカナ書きにすると何となく落ち着かないの
で、僕は当面リメイクという言葉で続けることにしたい。 
 ということで1本目は、僕は典型的なリメイクだと思うの
だが、アメリカの報道ではそうは呼ばれていないこの計画か
ら紹介しよう。                    
 H・G・ウェルズ原作の“The War of the Worlds”(宇
宙戦争)をトム・クルーズの製作主演で映画化する計画が、
パラマウントから発表されている。『宇宙戦争』の映画化で
は、53年に公開されたジョージ・パル製作の作品が有名で、
このパル作品の製作会社もパラマウントだった。従って今回
の映画化は、このパル作品の正統なリメイクと言えるはずだ
が。今回の発表では、敢えてリメイクとは報告されていない
ようだ。                       
 と言うのも、46年に亡くなったウェルズの死後50年以上が
経過して原作の著作権はすでになく、パル作品についても、
新作の製作が開始される予定の03年には、公開から50年が経
過して著作権が消滅するということで、敢えてリメイクを主
張する必要はなくなっている。とは言っても、マニアにとっ
てはリメイクであることは間違いない訳だが、実は今回の報
道では、パル作品に言及する替りに、38年のオースン・ウェ
ルズ演出のラジオドラマが紹介されていてちょっと奇異に感
じたものだ。                     
 そこでちょっと穿って考えると、実はパル作品は映画の製
作当時を背景にした脚色になっており、これはある意味では
ラジオドラマのリメイクとも言えるものだった。そして今回
の発表で敢えてパル作品に触れないということは、もしかす
ると新作は、原作に描かれた通りの19世紀末ヴィクトリア朝
時代を背景にしたものになるのではないかという期待が沸い
てくる。                       
 蒸気船が行き交うテムズ川を三本脚のウォーマシンが進ん
でくる、そんなパルの時代には不可能だった映像も、現代の
CGI技術を使えば可能になる訳で、新作にはそんな映画化
を期待したいものだ。そうでもしないと、単なる現代化では
先に『インディペンデンス・デイ(ID4)』もある。因に
『ID4』の結末で侵略者がコンピュータウィルスによって
倒されるのは、ウェルズの原作で風邪によって倒されること
を踏まえたものに他ならない。なお『ID4』の公開は96年
でウェルズの死後50年が経過していたものだ。      
 それから同じ原作の映画化では、昨年イギリスで企画が進
んでいたという情報もある。情報ではいろいろ準備も進んで
一部撮影も行われていたようだが、実は01年9月11日の事件
に絡んで、製作を自粛することが発表されてしまった。その
後この計画はどうなっているのだろうか。        
        *         *        
 この他、最近発表されたリメイクの計画で:      
 “The Reincarnation of Peter Proud”は、75年製作
J・リー・トムプスン監督のホラー・サスペンス(邦題:リ
ーインカーネーション)のリメイク。この計画がパラマウン
トから発表され、この計画にデイヴィッド・フィンチャー監
督の参加が報告されている。パラマウント=フィンチャーの
計画では、先にトム・クルーズ製作“Mission: Impossible
3”を契約したことが日本のマスコミでも報道されたが、今
回の計画はその次の作品とされている。オリジナルの物語は、
主人公の大学教授が美しい女性と出会う夢を繰り返し見る内、
現実の世界で夢の中とそっくりの女性が現れる。そして彼自
身が、その女性の亡き夫の生まれ変わり(reincarnation)
だと知るのだが…、というもの。新作『パニック・ルーム』
では華麗な撮影テクニックを駆使して、全米興行成績で1億
ドルに迫る大ヒットを記録したフィンチャーが、今度はどの
ような映像を見せてくれることか。           
 “The Texas Chainsaw Massacre”は、74年にトビー・
フーパー監督によってスタートしたスプラッターホラーの元
祖とも呼べる作品(邦題:悪魔のいけにえ)のリメイク。こ
の作品は、その後86年、90年に続編が作られ、97年にはブレ
イク直前のルネー・ゼルウィガー、マシュー・マコノヒー主
演で“Texas Chainsaw Massacre: The Next Generation”
という作品も作られている。お話は、テキサスの片田舎に遊
びに来た若者たちが、アイスホッケーのゴールキーパーが付
けるマスクを被り、電動のこぎりを持った殺人鬼に追われる
というもので、物語は変わりようがないので毎回がリメイク
とも言えるものだが、今回は正式にリメイクとして発表され
ている。一時『パールハーバー』のマイクル・ベイが監督す
るという情報もあったが、その後ベイは製作を担当し、監督
にはコカコーラのコマーシャルやミュージックヴィデオで実
績を上げているマーカス・ニスペルが抜擢されている。アメ
リカ配給はニューラインシネマで、7月に撮影開始の予定。  
 “Foxy Brown”は、74年に、当時の黒人向け娯楽映画の女
王と呼ばれたパム・グリアの主演で製作された作品(日本未
公開)。この作品を、今年のオスカー主演女優賞を獲得した
ハル・ベリーの主演でリメイクする計画がMGMから発表さ
れている。ベリーはMGMで製作中の007の新作にも出演
しているが、それに続いての契約が結ばれたということだ。
なおベリーはリメイクの製作も担当することになっている。
オリジナルの物語は、看護婦の主人公が、殺された恋人の復
讐のために麻薬組織に挑んで行くというもので、かなりの強
力なヴァイオレンスが注目された作品のようだ。一方、オリ
ジナルに主演したグリアは、近作の『ボーンズ』にも出演す
るなど、最近復活が目覚ましいが、本作は、そのグリアが演
じた役をベリーが演じるということでも注目されている。 
 “Billy Jack”は、67年製作の“Born Losers”(邦題:
地獄の天使)を第1作として71年に発表された作品(邦題:
明日の壁をぶち破れ)をリメイクするもの。このシリーズは
トム・ローリンの製作監督主演で、74年、77年にも続編が作
られている。物語は、カリフォルニアの田舎町を舞台に暴力
に立ち向かう若者ビリー・ジャックの姿を描いたもので、ア
メリカでは草の根的なヒットを記録したということだが、そ
の対決の仕方が暴力を容認しているということで、内容には
疑問を挟む向きもあるようだ。そしてこの作品のリメイクが
ドリームワークスで計画されているもので、主演にはキアヌ
・リーヴスが予定されている。             
        *         *        
 さらにテレビシリーズからの劇場版リメイクでは、これも
ドリームワークスから“Hawaii Five-O”の計画が発表され
ている。この作品(邦題:ハワイ5−0)は、題名通りハワ
イのホノルルを舞台に、州政府所属の特別捜査班のメムバー
を主人公にした犯罪捜査もの。放送は68年から80年まで13年
も続いた人気シリーズで、この映画化はかなり以前から期待
されていたものだ。ということでドリームワークスでは、シ
リーズ創案者の遺族との間で数100万ドルの権利金を用意し
て交渉を続け、すでにロジャー・タウンの手になる脚本も提
示していたというのだが…。実はこの計画がここに来てちょ
っとトラブっているようだ。というのも遺族側のエージェン
トが独自に製作チームを作って、そのチームを採用するよう
にドリームワークス側に迫っているというのだが、先に紹介
した“Billy Jack”でも同様の経緯があり、結局ドリームワ
ークスが再契約しているということで、新興の会社がちょっ
と甘く見られているのかも知れない。          
 もう1本テレビシリーズから“Miam Vice”の劇場版の計
画がユニヴァーサルから発表されている。この作品(邦題:
マイアミ・バイス)は、85年から89年まで放送されたものだ
が、このシリーズの製作総指揮を担当したのが、『アリ』の
マイクル・マン監督。そして今回の計画で、マンは映画化用
の脚本をすでに書き上げている他、製作と監督も手掛ける意
向だということだ。因にテレビシリーズは、マンの感性が存
分に活かされたスタイリッシュな作品ということで、その延
長線で86年にマンが監督したトマス・ハリス原作ハンニバル
・レクター・シリーズ第1作の『レッドドラゴン』の映画化
“Manhunter”(邦題:刑事グラハム)が生まれたとも言わ
れている。今回のリメイクでは、さらに磨きの掛ったマンの
感性に期待が持たれているようだ。なおこのテレビシリーズ
にはパム・グリアもレギュラー出演していた。      
        *         *        
 一方、キネマ旬報6月上旬号の特集でも紹介した日本映画
のハリウッドリメイクだが、その後も同様の計画が続々と発
表されている。                    
 まず“Chaos”は、『リング』の中田秀夫監督が00年に発
表した『カオス』をリメイクするもの。オリジナルは萩原聖
人と中谷美紀の主演だが、この内の荻原が演じた役を、リメ
イクでは昨年のオスカー受賞者ベネチオ・デル=トロが演じ
ることになっている。製作はユニヴァーサルとロバート・デ
=ニーロが主宰するトライベカ。デ=ニーロにはヒロインの
夫役での出演も期待されているようだ。また、このリメイク
の監督と脚本には、ベン・キングズレーが今年のオスカー候
補になった“Sexy Beast”のジョナサン・グレイザーとアン
ドリュー・ボーヴェルの起用が決まったようだ。     
 もう1本“Turn”は、00年の東京国際映画祭で上映され、
01年に公開された平山秀幸監督の『ターン』をリメイクする
もので、こちらはすでにファンリー・フィリップスによる脚
本が出来上がっているようだ。製作はディメンションフィル
ムス傘下のプロダクションで、キャスティングは未定。因に
オリジナルは、『恋はデジャ・ブ』と『アザーズ』をクーブ
リック的にミックスした作品と評されているそうだ。   
        *         *        
 後はその他の情報を紹介しておこう。         
 まずは監督の交替で、前回も紹介した10月からの撮影が予
定されているユニヴァーサル製作『ワイルド・スピード』の
続編“The Fast and the Furious 2”で、前作主演のヴィ
ン・ディーゼルに続いて監督のロブ・コーエンの降板も発表
された。降板の理由は明らかにされていないが、ディーゼル
の降板が引き金になっていることは間違いなさそうだ。しか
しこの計画は、すでにポール・ウォーカーの単独主演で製作
されることが決定されており、もはや中止には出来ない。そ
こでその計画を引き継ぐ監督としてジョン・シングルトンの
名前が挙がってきた。シングルトンについては第6回の『シ
ンドバット』シリーズの再開の情報でも紹介したが、黒人監
督の代表格ともいえる人物で、その監督が黒人スターのディ
ーゼルの降板の後に入ってくるというのも不思議な感じだ。 
 一方、この続編の脚本には2本が用意され、その1つはオ
リジナルを手掛けたゲイリー・スコット・トムプスンが執筆
したもの、もう1つはマイクル・ブラーントとデレク・ハー
スが執筆したものということだっが、この内、ブラーントと
ハースの脚本が映画化されることになったようだ。ただしこ
の脚本は、ディーゼルが演じたドミニクを主人公にしたもの
だということで、一体どういうことになるのだろうか。  
 なお、シングルトンの予定では、『シンドバット』の前に
『ワイルド・スピード2』の順番のようだ。       
        *         *        
 もう1人監督の交替といっても少し先の話だが、現在第2
作の“The Chamber of Secrets”が製作中の『ハリー・ポ
ッター』シリーズの映画化で、04年の公開が予定されている
第3作の“The Prisoner of Azkaban”の監督からクリス・
コロムバスが降板することが発表され、その後任監督が選考
されている。こちらの降板の理由も明らかにされていないが、
シリーズを同じ監督で撮り続けることの弊害は指摘されてい
たようだ。そしてその後任監督に『天国の口、終りの楽園』
のアルフォンソ・キュアロンが取り沙汰されている。   
 キュアロン監督の新作については別掲の試写の紹介でも書
いたように、アメリカではノン・レイティングで公開される
など、かなり際どい描写が話題になっているが、内容的には
優れた青春映画であり、一方、彼自身が95年に『リトル・プ
リンセス 小公女』をハリウッドで撮っていることからも適
任と考えられているようだ。              
        *         *        
 続いても交替劇で、すでに撮影が始まった“T3: The Rise
of the Machines”で、ジョン・コナーの恋人役に配役され
ていたソフィア・ブッシュに替ってクレア・デインズの出演
が発表された。この発表は5月7日に行われたもので、すで
に撮影が開始されてからの交替となったようだが、監督のジ
ョナサン・モストウによるとブッシュの容姿があまりにも幼
すぎ、20歳台半ばとされる設定にあわなかったということだ
しかし彼女自身の演技力などは申し分なく、モストウは次回
作で彼女を使いたいとも語っている。そして交替のデインズ
については改めて書くまでもないだろうが、子役時代からの
人気スターで、日本では94年の『若草物語』、96年『ロミオ
&ジュリエット』などが評判になった。ここ数年は大学に通
うために映画出演を控えていたが、昨年からそれも解禁とな
り本格再始動したところだ。              
 ついでに出演者の情報で、今回もマイクル・ビーンのカメ
オ出演があるようだ、ビーンは第1作の『ターミネーター』
に未来から来た戦士の役で主演、劇場公開時にはカットされ
たが『T2』にもカメオ出演しており、アーノルド・シュワ
ルツェネッガーとともに、3作連続出演ということになる。
        *         *        
 最後にちょっと注目の情報で、ジョージ・ルーカス製作、
スティーヴン・スピルバーグ監督、ハリスン・フォード主演
による“Indiana Jones”シリーズ第4作の計画で、新たに
脚本家として『マジェスティック』などのフランク・ダラボ
ンが呼ばれたことが報道された。この計画に関しては93年頃
から報告され、製作、監督、主演の3人が第4作を作ること
では合意しているものの、その脚本は3人が揃って納得した
物でなければならないとされて、今まで『シックスセンス』
のM・ナイト・シャマランや『恋におちたシェイクスピア』
のトム・ストッパードなどの名前が取り沙汰されていた。 
 その新しい名前としてダラボンが挙がってきた訳だが、実
はダラボンは90年代に製作されたテレビシリーズ『インディ
ー・ジョーンズ/若き日の大冒険』でいくつかのエピソード
の脚本を担当していたということで、ルーカスらの信頼も厚
く、かなり可能性は高くなってきたようだ。なお、配給を担
当するパラマウントの希望では05年7月の公開を目指してい
るということだ。                   
                           
                           
 今回から試写会の報告は別ページにします。      



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