井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2002年05月15日(水) 第15回+ローラーボール、パニックルーム

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 まずは訂正というか、その後に情勢が変化した関係の続報
で、第13回の記事で紹介した『ブレイド2』ギレルモ・デル
=トロ監督の次回作が、“At the Mountains of Madness”
ではなく“Hellboy”になるようだ。
 “Hellboy”は、最近のアメリカンコミックスをリードす
るダークホース・コミックスが発行する同名の作品を原作に
するもので、実は『ブレイド2』の撮影に当ってもこの作品
のイメージを参考にしたと言うほどデル=トロ監督が惚れ込
んだ作品。そしてこの映画化については、前回の記事でも紹
介したように、ユニヴァーサルで準備が進められていたもの
だったが、最近になって会社側の希望だった『ワイルド・ス
ピード』ヴィン・ディーゼルの主演が叶わないことになり、
計画の白紙撤回が発表されていた。
 ところが『ブレイド2』が、公開第1週の興行収入で3300
万ドルという大ヒットを記録したことから、各社が一斉に計
画の買い取りに動き出し、その中からリヴォルーション・ス
タディオが、デル=トロとの間で製作資金提供の契約を結ん
だということだ。因に“Hellboy”の製作は、デル=トロと
ローレンス・ゴードン、それにダークホース・コミックスの
マイク・リチャードスンが務めているということで、元々ユ
ニヴァーサルが中心の計画ではなかったようだ。
 物語は、オカルトに取り憑かれたナチスが地獄の呪縛を開
放することによって生み出した究極の人間兵器ヘルボーイ。
しかし実戦には使われなかったこのヘルボーイの生き残りの
主人公が、今は善行のために力を活用し、政府の超自然現象
の研究開発部門に所属して、狼男や吸血鬼と闘いを繰り広げ
るというものだそうだ。
 そしてこの褐色の肌を持ち、左腕は金属性で、悪魔のよう
な風貌というヘルボーイの主人公を、ディーゼルに替ってロ
ン・パールマンが演じるという情報が流れている。パールマ
ンは『ブレイド2』ではヴァンパイア側の警備隊長ラインハ
ルトを演じていたが、デル=トロ監督とは『クロノス』以来
のつき合いという、言わばデル=トロ組の俳優。ちょっと個
性的な顔つきのベテランで、アメリカでは今秋公開の“Star
Trek: Nemesis”にも敵ロミュラン人の役で出演している。
 なお第13回の記事は、『ブレイド2』の大ヒットの直後に
ドリームワークスがいち早く動き“At the Mountains…”の
計画を打ち出したものだったが、その後にリヴォルーション
・スタディオとの契約がまとまり、デル=トロとしては自ら
の企画である“Hellboy”を先行させることにしたようだ。
また“Hellboy”の計画では、ユニヴァーサルで進められて
いた当時にはいろいろな脚本家による原案が挙がっていたよ
うだが、今回の発表ではデル=トロが自分で脚本を執筆する
ということで、この辺は“At the Mountains…”と同様の計
画になっている。
 それから第13回の記事で紹介した『童夢』の映画化はその
後挫折したようだ。また、デル=トロ監督に対するオファー
では、前回紹介した作品以外にも、ジェーム・キャメロンの
製作で“Coffin”というホラー映画の計画もあるようだ。 
        *          *
 “Hellboy”に続いては“Helldorado”という、ちょっと
似た題名の計画が、ユニヴァーサルで進められている。
 この作品は、昨年『ハムナプトラ2』でスクリーンデビュ
ーし、新作のスピンオフ作品“The Scorpion King”(スコ
ーピオン・キング)も大ヒット中のプロレスラーThe Rockこ
とドウェイン・ジョンスンの主演が発表されているもので、
アマゾン川を舞台にした現代アクション。賞金の懸かったお
尋ね者を追ってアマゾン奥地にやってきた賞金稼ぎの主人公
が何者かに捕えられ、そこで実は追っていた男が本当の悪人
ではないことが判り、今度は彼とチームを組んでアマゾン脱
出を図るというもの。その間には貴金属の眠る鉱脈を発見し
たり、という冒険映画のようだ。
 そしてこの計画は、元々はR・J・スチュワートのオリジ
ナル脚本でソニーで進められていたものが頓挫。この権利を
ユニヴァーサルが買い取ってジョンスンを主演に据えた作品
として進めているもので、新たにジョン・トラヴォルタ、サ
ミュエル・L・ジャクスン共演、ジョン・マクティアナン監
督の新作“Basic”を手掛けたジェームズ・ヴァンダービル
トをリライターに契約して、『リーサル・ウェポン』のよう
な男2人組の映画(buddy pic)に仕上げているそうだ。  
 なお監督には、テレビ出身で98年にキャメロン・ディアス
主演の『ベリー・バッド・ウェディング』を監督したピータ
ー・バーグが予定され、9月の撮影開始に向けて、2人組の
相手役の男優と、彼らに絡む女優の選考が進められていると
いうことだ。
 ところでジョンスンは、元々は大学フットボールの花形か
らプロレスに転じたということだが、先にテレビの人気番組
『サタディナイト・ライヴ』のホスト役を務めて注目され、
『ハムナプトラ2』の出演で一気に人気が上がったもの。本
人はコメディが好きだと語っていて、今回の作品にはその方
面の期待もあるようだ。そして今回の計画では出演料も1000
万ドルの大台に乗せるということだが、そんな彼には当然ア
クションスターとしてアーノルド・シュワルツェネッガーの
後継者という期待も高まっている。
 そこで“The Scorpion King”のプレミアには、シュワル
ツェネッガーも出席したという情報もあるようだが、ジョン
スンには、そのシュワルツェネッガーの出世作“Conan the
Barbarian”のリメイクへのオファーも噂されている。さら
に第14回で紹介した『ハムナプトラ』の製作チームが進めて
いる「火星」シリーズ“John Carter of Mars”にも主演の
噂があるようだ。しかし彼自身にはプロレスラーのパフォー
マンスにも多くのファンがおり、その合間の映画出演に限ら
れるということで、いろいろ難しい問題があるようだ。
        *         *
 Hell(地獄)の話題はこれくらいにして、お次は『モンス
ターズ・インク』が大ヒットしたCGIアニメーションのピ
クサーから今後の製作計画が発表されているので、その作品
を紹介しておこう。
 ディズニーに配給委託しているピクサーでは、03年以降、
3年連続で新作を発表する計画で、その1本目は03年夏の公
開が決定されている“Finding Nemo”。
 この作品は、『バグズ・ライフ』の共同脚本家で共同監督
でもあるアンドリュー・スタントンが手掛けている作品で、
オーストラリアのグレイトバリアリーフを舞台に、離れ離れ
になった魚の父子が繰り広げる冒険物語だそうだ。そしてこ
の作品には、アルバート・フィニー、エレン・デジニレス、
ウィレム・デフォー、ジョフリー・ラッシュ、オレアンダー
・グールドらの声の出演が発表されている。
 続いて、04年クリスマスに公開が予定されている作品が、
“The Incredibles”。この作品は、スーパーヒーローの一
家が、普通の生活をしようと試みるアクション・アドヴェン
チャー・コメディだそうで、監督は、『アイアン・ジャイア
ント』のブラッド・バード。
 そして05年の公開予定で、ピクサーの創設者ジョン・ラセ
ターが『トイ・ストーリー2』以来の監督を務める“Cars”
という作品が計画されている。この作品は、アメリカの中西
部のシカゴからロサンゼルスを結ぶルート66号線を舞台に、
自動車たちの冒険旅行を描いたものということだ。
 今までピクサーの作品は、2年に1作というペースだった
が、毎年1作とはいよいよ軌道に乗ってきたということだろ
うか。
        *         *
 ついでにもう少しCGIアニメーションの情報で、第6回
で題名だけ紹介したユニヴァーサルで計画されている99年に
発表されたジョン・ニックル原作“Ant Bully”のCGIア
ニメーション化で、先のアカデミー賞で新設された長編アニ
メーション賞の初の候補の1本に選ばれたパラマウント製作
の“Jimmy Neutron: Boy Genius”で脚本監督を担当したジ
ョン・A・デイヴィスの起用が発表された。
 この作品は、ユニヴァーサルとトム・ハンクスが主宰する
プレイトーンの共同製作で進められているもので、お話は、
水鉄砲を持ったまま昆虫の大きさに縮小されてしまった少年
が、蟻たちの社会での厳しい労働に耐え、敵との闘いに大活
躍をしながら元の大きさに戻るまでの冒険を描いたもの。こ
の作品を、前作と同じくスティーヴ・オーデカークとの共同
脚本で映画化することになるようだ。
 この他、プレイトーン社の計画では、クリス・ヴァン=オ
ールズバーグ原作の“Polar Express” と、モーリス・セン
ダク原作の“Where the Wild Things Are”の映画化も進行
している。
 このうち前者はトム・ハンクスの主演で、CGIアニメー
ションと実写の合成が計画されているもので、この計画には
ハンクスと『キャスト・アウェイ』で組み、88年の『ロジャ
ー・ラビット』で同様の作品の経験のあるロバート・ゼメキ
スの監督が発表されている。脚本は『キャスト・アウェイ』
のウィリアム・ボイル。
 また後者はオールCGIアニメーションでの製作が計画さ
れているもので、この監督に、95年のディズニー作品『ポカ
ホンタス』を共同で手掛けたエリック・ゴールドバーグと、
脚本には00年の『ラマになった王様』のデイヴィッド・レイ
ノルズの起用が発表されている。
 なお、第6回の記事では、“Curious George”の映画化が
先行されると報告したが、この作品はユニヴァーサルが独自
に進めているもの。これに対して、今回紹介した3作はプレ
イトーン社側の企画ということで、直接関係はないようだ。
ただしこれらの作品のCGIアニメーションの製作は、いず
れもILMが担当することになっている。
        *         *
 続いては、第4回で紹介した『ジュマンジ』の続編“Juma
nji 2”について新しい動きができたようだ。
 前回の記事では、脚本家のドン・ライマーが手掛けた脚本
と、原作者のクリス・ヴァン=オールズバーグが新たに執筆
した続編が登場したことを報告したが、今回の発表では、こ
の続編の監督に、99年に『ビッグ・ダディー』の大ヒットを
生み出したデニス・デュガンが契約したということだ。
 デュガン監督は、ここ4作ほどはソニー傘下のコロムビア
でプログラム・ピクチャーを作り続けていて、その内の『ビ
ッグ・ダディー』が大ヒットを記録したということだが。今
回の契約では、自身のストーリーアイデアで“Jumanji 2”
を描き出すというもの。実は彼自身、“Jumanji 2”を巡る
動きは横目で見ていたようだが、最近になって良いアイデア
を思いつき、これを提出したところ幹部たちに気に入られ、
このアイデアを活かすために、先にCGIアニメーションの
“Ice Age”をヒットさせた脚本家のピーター・アッカーマ
ンや、元ユナイトで脚本部門のトップを務めたリゼイ・ドラ
ンらを起用して脚本化を行うことになったものだ。
 なおデュガンのアイデアでは、彼自身が前作で感じた驚き
や感動をそのまま踏襲した作品にしたいということで、前作
よりも進んだf/xを駆使して、前作よりもコメディの要素
を増やした作品にするということだが、その前提が前作に主
演したロビン・ウィリアムスを再び主演に起用するというこ
とで、ウィリアムスが再び出演してくれるか否かに勝負が懸
かっているようだ。しかしデュガンは、「絶対にロビンの興
味を引く作品になる」ということで、コロムビア側も彼の意
見に賛同して今回の契約を結んだ訳で、それなりの賞賛は有
りということなのだろう。
 一方、ヴァン=オールズバーグが執筆した“Zathura”に
ついては、前回紹介したようにエリック・フォーゲルによる
脚本化が進められており、デュガンの“Jumanji 2”が成功
すれば、さらに“Jumanji 3”として進められることになる
ということだ。なお、映画の製作者にはヴァン=オールズバ
ーグ自身も名を連ねている。
        *         *
 後半は短いニュースをまとめておこう。
 まずは、新作“K-19: The Widowmaker”がアメリカでは
7月に公開されるハリスン・フォードの情報で、新作の計画
が2本発表されている。 
 その1本目は、『さよならゲーム』や『ティン・カップ』
などのロン・シェルトンの脚本、監督によるもので、題名は
未定だが、内容は、ハリウッドのミュージックビジネスの裏
側で起こった事件を追う2人の警官を主人 公にした物語と
いうことで、相手役にはジョッシュ・ハートネットが期待さ
れている。またこの作品では、シェルトンがスポーツ分野以
外でどんな手腕を見せるかにも期待が集まっているようだ。
製作会社はリヴォルーション・スタディオ。秋からの撮影で、
03年の公開が予定されている。 
 もう1本は、ローレンス・ブロック原作で、76年からすで
に15巻が発行されているマシュー・スカダーシリーズの第12
巻“A Walk Among the Tombstone”(獣たちの墓)を映画
化するもの。原作では、元警官で今はアル中の私立探偵とい
う主人公が、麻薬組織の大物の妻の誘拐事件に関わって行く
という内容だそうだ。製作会社はユニヴァーサル。ただしこ
ちらは監督が未定で、製作開始はシェルトン作品の後になる。
また脚色は、スコット・フランクが担当しているが、フォー
ドは出演の条件として、『トラフィック』でオスカーを受賞
したスティーヴン・ギャグハンの参加を求めているそうだ。
 最後はちょっと残念な情報で、10月からの撮影が予定され
ているユニヴァーサル製作、『ワイルド・スピード』の続編
“The Fast and the Furious 2”で、期待されていたヴィ
ン・ディーゼルの出演がキャンセルになった。この続編は、
前作と同じロブ・コーエンの監督で進められており、コーエ
ンとディーゼルはリヴォルーション・スタディオ製作“XXX”
でも協力しているので、それに続けての主演が期待されてい
たものだったが、先に『ピッチ・ブラック』の続編“The Ch
ronicles of Riddick”が決まるなどで、スケジュールの調
整ができなくなったというのが公式の理由のようだ。
 なお、ディーゼルが抜けた後の続編は、ポール・ウォーカ
ー扮する捜査官ブライアン・オコーナーを中心に物語が再構
築されるということで、今回の舞台はマイアミのストリート
レーシングになるようだ。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを公開に合わせて紹介します。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
<5月11日封切り>                  
『ローラーボール』“Rollerball”           
75年にノーマン・ジュイスンの監督で作られたウィリアム・
ハリスン原作の未来SF映画を、ジョン・マクティアナンの
監督でリメイクした作品。               
オリジナルは社会派監督による、ある意味デストピアを描い
た作品だったが、今回はローラーボールの試合そのものを中
心に据えたアクション映画になっている。このため映画の上
映時間も2時間2分から1時間37分と短くなっている。  
ここでSFファンとしては、未来ドラマからアクション映画
になってしまったリメイクには当然反対したいところだが、
実はマクティアナンの隠れファンである僕としては、結構楽
しんでしまった。                   
中でも、試合がワールドツアーということで、カザフスタン
からアゼルバイジャン、モンゴルと転戦して行く場面で、そ
れぞれの国の言葉が飛び交う辺りは、『レッド・オクトーバ
ーを追え!』や『13ウォリアーズ』で言葉フェチぶりを見せ
てくれた監督の面目躍如という感じで嬉しくなった。   
また、試合の途中で、ロックの音楽に合わせてプレーヤーが
1列になって滑るシーンは、実はゲームの元になっているロ
ーラーダービーのプレーぶりを髣髴とさせて、これも、監督
は判っているな、という感じを抱かせてくれたものだ。  
オリジナルの映画では、大型スクリーンでマルチ画面のテレ
ビ中継が未来のテレビの在り方を予言して注目されたが、す
でにそれが実現してしまった今回は、逆にシンプルなテレビ
画面でありながら、その裏でいろいろな手が加えられている
といった辺りで、テレビの現実が程よく描かれている。ゲー
ム以外にも、ど派手なアクションシーンがあったりして、気
軽に楽しむ分にはこんなもので良いのではないかという感じ
もした。                       
                           
<5月18日封切り>                  
『パニック・ルーム』“Panic Room”          
『セブン』『ファイト・クラブ』のデイヴィッド・フィンチ
ャー監督とジョディ・フォスターが組んだサスペンス作品。
マンハッタンに所在する古い邸宅。その邸宅には暴徒から家
人を守る退避室“パニック・ルーム”がしつらえられ、そこ
には、瞬時に開閉する重厚な扉や、邸内を監視するヴィデオ
システムが備えられていた。              
夫の浮気が原因で離婚した主人公は、その邸宅にティーンエ
イジャーの娘と引っ越してくる。ところがその当夜、3人の
男が邸宅に侵入してくる。男たちは邸宅を空き家だと思い込
み、前の持ち主が隠した遺産を盗みに来たのだったが…。気
付いた母子はパニックルームに退避。しかし、そこに備えら
れていた非常電話はまだ回線が接続されておらず、しかも娘
には定期的な注射を必要とする持病があった。      
フィンチャーの上に書いた2作は、かなり過激な描写が売り
だったが、オスカー女優を迎えた今回はそのような描写は多
少影を潜め、どちらかというとマイルドな仕上がりになって
いる。従ってフィンチャーのその手の描写を期待する向きに
は物足りないかも知れないが、僕は、正直に言ってその手の
描写には食傷気味だったので、かえって心地よく見られた。
試写会では、『ホームアローン』かという声も聞かれたが、
僕は『暗くなるまで待って』の方を思い出していた。女性の
強さが中心に描かれるし、上に書いたように過激な描写も少
ないので、特に女性の観客に見てもらいたい作品と言える。
巻頭のタイトルの出し方から、その後に続くCGIを駆使し
た連続撮影など、MTV出身のフィンチャーの映像感覚と遊
び心も存分に楽しめる作品になっていた。



 < 過去  INDEX  未来 >


井口健二