井口健二のOn the Production
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2002年05月01日(水) 第14回+スパイダーマン

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 まずは、僕としては待望だったこの情報から。     
 第9回のトム・クルーズの話題でもタイトルだけ紹介した
エドガー・ライス・バローズ原作「火星」シリーズの映画化
がついに発表された。                 
 この原作は、『ターザン』の原作者として知られるバロー
ズが12年に発表したデビュー作“A Princess of Mars”
(邦訳題・火星のプリンセス)に始まる長編10巻及び短編集
1巻からなる全11巻のシリーズで、特に最初の3巻(“The
Gods of Mars”(火星の女神イサス)、“The Warlord of
Mars”(火星の大元帥カーター)を含む)は、ファンタシー
冒険小説の原点として高く評価されている。          
 物語は、南北戦争に参戦した南軍の大尉ジョン・カーター
を主人公にしたもの。因に、『ER』でノア・ワイリーが演
じる医師の名前がこれに由来することは間違いない。   
 このカーターが、北軍に追われて身を潜めたアリゾナの洞
窟から、不思議な力によって火星に飛ばされる。そこは、当
時の地球を超える科学力を持ちながら、6本腕の緑の巨人の
支配する国や、地球人とそっくりの人種の国などが群雄割拠
する世界だった。この世界でカーターは、美しいプリンセス
と巡り合い、持前の精神力と地球より少ない重力の恩恵を駆
使して、火星全土を平和へと導いて行くというものだ。  
 とまあ、見事に願望充足型の夢物語が綴られたシリーズだ
が、明解な物語と、その一方で、火星の科学力や生物の姿な
どにいろいろなアイデアが盛り込まれて、現実逃避の文学と
しては最高の部類に入る作品と言えるだろう。      
 そしてこのシリーズの映画化については、ディズニーが長
年計画を進めていた。というのもディズニーでは、何と長編
アニメーションの第1作『白雪姫』を公開する前年の36年に
は、後にワーナー・カートゥーンで活躍するボブ・クランペ
ットをアニメーターに起用して「火星」シリーズの長編アニ
メーション化を計画していたということだ。結局、この計画
は実現しなかった訳だが、50年代から放送されたテレビシリ
ーズ“Disneyland”の中の“Mars and Beyond”というエ
ピソードでは、この「火星」シリーズを取り上げ、アニメー
ションで登場キャラクターを紹介するなどしていた。    
 さらに99年には、50年に死去したバローズの没後50年で著
作権が切れる直前に、バローズ原作の『ターザン』を劇場ア
ニメーションで製作するなど、遺族とのつながりを尊重し、
遺族を含めた映画化の計画を進めていたのだ。その中では、
『T2』などのマリオ・カサールとアンディ・ヴァイナが一
時期設立したシェナジーとの共同で、『アラジン』のテリー
・ロッソとテッド・エリオットの脚本、ジョン・マクティア
ナン監督、トム・クルーズ主演という計画もあったのだが、
これも実現はしなかった。               
 そして今回、ついにこの計画が実現に向けて動き出したも
のだが、実は計画を発表したのはディズニーではなくて、パ
ラマウントだった。パラマウントでは、傘下のジム・ジャッ
クスとショーン・ダニエルスが主宰するアルファヴィル・プ
ロダクションに対して、同社が提出した映画化の計画にGoサ
インを出したものだ。因にこのプロダクションは、先にユニ
ヴァーサルの大ヒット作『ハムナプトラ』も手掛けており、
その勢いを買っての今回のGoサインになったようだ。   
 なお、製作を担当するジャックスは、「少なくとも最初の
3部作は、『ロード・オブ・ザ・リング』や『スター・ウォ
ーズ』に匹敵する作品になる。これらはCGI技術が発達し
た今日になって初めて映画化が可能になったものだ。」と抱
負を語っている。                   
 また、上述の経緯を踏まえて、最終的に北米地区と、フラ
ンス、ドイツを含むいくつかの地域では、ディズニーが配給
を担当することになるかもしれないということだ。    
        *         *        
 お次は、傘下のディメンションが製作公開した『スパイ・
キッズ』の大ヒットに沸くミラマックスから、一気にファミ
リー路線を構築しようという製作計画が発表された。   
 元々ミラマックスはインディーズの映画会社として発足し
たものだが、数年前にディズニーの傘下に入り、その後はち
ょっと大人向けのアート系に近い作品を手掛けていた。しか
しインディーズ時代に培ったジャンル映画の実績を活かすべ
く、さらに傘下にディメンションを設立。ティーズホラーで
実績を上げる中から、今回のロベルト・ロドリゲス+アント
ニオ・バンデラス=『スパイ・キッズ』の大ヒットが誕生し
たものだ。                      
 ということで、グループの最上位にはファミリー映画の老
舗ディズニーがある訳だが、今回の動きについてディズニー
側は、「手掛ける映画の範囲を広げる意味で重要」と位置づ
けており、ディズニー・ブランドでは実現出来ない、多様な
ファミリーピクチャーの製作を望んでいるそうだ。    
 そしてミラマックスでは、今回の計画全体を「the Teddy
Projects」と命名して、8本の製作計画を発表している。 
 その作品を紹介すると:               
“The Firework-Maker's Daughter”は、第10回で紹介し
た“His Dark Material”の原作者フィリップ・プルマンの
同名の作品を映画化するもので、花火師を父親に持つ少女が、
男寡婦で仕事一途の父の技を継ごうと必死になる姿を描いた
コミックアドヴェンチャー(!)だそうだ。なおこの計画は、
“His Dark Material”の当初の計画にも関わっていたアン
ソニー・ミンゲラの製作で進められている。       
“Ella Enchanted”は、アメリカの優れた児童文学に与え
られるニューべリー賞で、98年に銀メダルを受賞したゲイル・
カースン・レヴィンの同名の原作を映画化するもの。『シン
デレラ』を下敷きにしたファンタシーということで、映画化
の主演には『プリティ・プリンセス』のアン・ハサウェイが
発表されている。脚色は、『キューティ・ブロンド』のケレ
ン・ルッツとキルスティン・スミスが担当。       
“Slugger”は、CBSの人気番組“King of Queens”に主
演しているケヴィン・ジェームズの主演が発表されている作
品で、10歳の少年が、野球を通じて父親の死を乗り越えて行
く姿を描いた物語。これにベイブ・ルースの幽霊が絡むとい
うお話だそうだ。『ゴースト/ニューヨークの幻』の女優の
デミ・モーアが製作を担当している。          
“Pinocchio”は、言わずと知れたカルロ・コロディの古典
を、『ライフ・イズ・ビューティフル』のロベルト・ベニー
ニの脚色、監督、主演で映画化したもの。なおこの映画の宣
伝では、本来はディズニーと提携しているハンバーガーチェ
ーンのマクドナルドが、ミラマックスと直接契約してワール
ドワイドのキャペーンを展開するそうだ。        
“Artemis Fowl”は、オーエン・コルファーの原作を映画化
するもので、製作はロバート・デ=ニーロが主宰するトライ
ベカ・フィルムスが担当する。原作は、僕も最近読み終えた
ところだが、代々泥棒の家系の少年が、祖先が残した財力と
インターネットを駆使した自分の知力で、地中深くに存在す
る妖精の世界に戦いを挑むというもの。ちょっと御都合主義
なところもあるが、近代化された妖精世界(科学力は人間よ
り進んでいる)の様子や、クライマックスの活劇などは子供
が喜びそうな展開の物語だった。10月製作開始予定。なお、
原作の続編を、関連のトーク・ミラマックス社が出版するこ
とになっているそうだ。                
“The Magic Brush”は、中国の伝説に基づくアニメーショ
ン作品で、孤児の少年が画家として大成するまでを描いたも
の。デイヴィッド・ヘンリー・ホンの脚色で、ジェームズ・
チョウが監督する。アニメーション製作は、最近の香港映画
のVFXで実績を上げているセントロ・ディジタル・ピクチ
ャーズが担当し、製作者にはチョウと共に、『シュレック』
の総指揮を手掛けたペニー・コックスとサンディ・ロビンス
が名を連ねている。                  
“A Cricket in Times Square”は、第6回で少し紹介した
が、ジョージ・セルデン原作の全6巻の児童文学を映画化す
るもので、ニューヨークの地下鉄を住処にする昆虫たちと人
間との関わりを描いた物語。前の紹介ではオールCGIのア
ニメーションということだったが、今回の発表では実写との
合成という計画に戻っているようだ。          
“Neverland”は、『ピーター・パン』の原作者ジェームズ
・バリーを主人公にした作品で、19世紀末のロンドンを舞台
に、母子家庭の4人の少年と彼らの母親との交流を通じて、
バリーが如何にして『ピーター・パン』の舞台劇を完成させ
たかが綴られているということだ。デイヴィッド・マギーの
脚色、『チョコレート』のマーク・フォスターの監督、『シ
ョコラ』のジョニー・デップの主演で今年後半の製作開始が
予定されている。                   
 というのが今回「the Teddy Projects」として発表された
計画だが、内の何本かはすでに計画が発表されていたり進行
しているもので、無理矢理でっち上げたという感じはなく、
これらの作品は多分1、2年以内に見ることができそうだ。
それにしても“Pinocchio”や“Neverland”はディズニー
とも関連の深い作品で、その辺の関係も気になるところだ。 
        *         *        
 続いては、キャスティングの情報をまとめて紹介しておこ
う。                         
 まずは前回紹介した“The Italian Job”のリメイクで、
主演にマーク・ウォルバーグの契約が発表された。    
 オリジナルは前回も紹介したように小型車ミニクーパーの
機動性を駆使して金塊奪取を成功させるものだが、実はミニ
クーパーの製造会社は現在はBMWに買収されており、その
BMWでは03年を目指してニューモデルの投入を計画中。そ
こで今回のリメイクは、その戦略にもマッチしているという
ことで、これはかなり面白くなりそうだ。        
 なお、リメイクの物語はイタリアで開幕するが、その後は
舞台をロサンゼルスに移して、金塊の奪取後には、ロサンゼ
ルス市内に史上最悪の交通渋滞を引き起こし、その中を歩道
や地下鉄路線を縦横に走り回ってミニクーパーで逃走するも
のになるということだ。脚本はドナ&ウェイン・パワーズ。
製作はパラマウントで、撮影開始は8月3日の予定。   
 因にウォルバーグは、現在、ジョナサン・デミ監督で、サ
ンディ・ニュートン共演の『シャレード』のリメイク“The
Truth About Charlie”に出演中だが、Daily Variety紙の
記事によると、“The Italian Job”は彼がヨーロッパで主
演する2本目(!)の大型リメイク作品だそうだ。      
 お次は来年の5月と11月に連続して公開が予定されている
『マトリックス』の2本の続編“The Matrix Reloaded”と
“The Matrix Revolutions”の製作で、“Reloaded”に出
演していながら“Revolutions”の撮影前に事故死したアー
リアの代役に、『アリ』の2度目の妻役で注目されたノナ・
ゲイの出演が発表された。                
 ノナは60、70年代に活躍した作曲家・歌手のマーヴィン・
ゲイの娘で、本人も歌手として活躍しているが、『アリ』で
スクリーンデビューを飾ったもの。“The Matrix”での役柄
はズィーという名前で、“Reloaded”では顔見せ程度だが、
“Revolutions”から本格的に登場するということだ。なお
“Reloaded”についても、アリーアは全部のシーンを撮影し
ていた訳ではなかったようで、従って今回、ノナによって全
シーンが撮影されることになるようだ。撮影は4月中旬にシ
ドニーで開始されている。               
 もう1本は、アメリカでは今年の秋に公開予定の劇場版シ
リーズ第10作“Star Trek: Nemesis”で、『ダブル・ジョ
パディー』などのアシュレー・ジャドがゲスト出演するとい
う情報が流れてきた。実はジャドは、『新スター・トレック』
のテレビシリーズでは第5シーズンの始まりの部分で放送さ
れた、“Darmok”(謎のタマリアン星人)と、“The Game”
(エイリアン・ゲーム)のエピソードにロビン少尉という役
名で2度出演しており、この出演が彼女自身のブレイクの切
っ掛けになったとも言われているそうだ。        
 そして“The Game”のエピソードでは、ウィル・ウェザー
トン扮するウェズリー・クラッシャーとの関係がかなり親密
に描かれていた。ということで、今回のゲスト出演の役名は
ロビン・クラッシャー、つまりクラッシャーがその後に結婚
した妻の役だということだ。しかし一方で、すでに撮影され
たウェザートンの出演シーンがすべてカットされたという情
報もあるようで、一体どうなっているのだろうか。    
 なお、アシュレー・ジャドに関しては、ワーナーから92年
に公開された『バットマン・リターンズ』でミシェル・ファ
イファーが演じたキャットウーマンを主人公にした新シリー
ズに主演するという計画も発表されている。       
        *         *        
 最後は、短いニュースをまとめておこう。       
 まずは、『M:I−2』のジョン・ウー監督が、香港映画
時代の盟友チョウ・ユンファと再び組む計画が発表された。
といっても『男たちの挽歌』をリメイクするのではなくて、
題名は“Men of Destiny”というもの。19世紀のアメリカで
大陸横断鉄道の建設に夢を賭けた男たちの姿を描いた歴史物
語だそうだ。共演者には、ウー監督の『フェイス/オフ』、
それに近作の“Windtalkers”にも主演しているニコラス・
ケイジが発表されている。               
 なおケイジは現在、自身の監督デビュー作“Sonny”を制
作中だが、その後に予定されていたスーパーヒーローものの
“Constantine”と“Ghost Rider”の2作が共に監督の降
板で頓挫。一方、ウー監督作品についても以前からオファー
はあったものの、製作資金が集まらずにペンディングになっ
ていた。しかしここに来て本作品のディズニー配給が決定し、
一気に実現に向けて動き出したようだ。         
 もう一つは、今年のアカデミー賞で助演女優賞を獲得した
ジェニファー・コネリーが、助演男優賞の候補に上がってい
たベン・キングズレーと共演する計画が発表された。作品の
題名は“The House of Sand and Fog”。内容は、元イタリ
ア陸軍の縦隊長でアメリカに移住してきた老人と、彼が競売
で手に入れた屋敷の元の持ち主で屋敷の取り戻しを画策する
アル中気味の女を巡る物語。これをロシア出身で、GMや松
下、ナイキ、マイクロソフトなどのコマーシャル監督、ヴァ
ディム・ペレルマンがデビュー作として撮るものだ。   
 なお原作は、ブッククラブの推薦図書にもなっている小説
だが、ペレルマンはその前から注目して個人で映画化権を獲
得、自ら脚色してコネリーとキングズレーの出演を得、実現
に漕ぎ着けたということだ。製作はドリームワークス。  
                           
                           
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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを公開に合わせて紹介します。※
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<5月11日封切り>                  
『スパイダーマン』“Spider-Man”           
 前回記者会見を報告した作品が、ちょうど2週間遅れて、
ようやく本編の試写が行われた。今回はこの作品について、
ちょっと長めに書かせてもらいたい。          
 まず本編を見た感想はというと、大体予想通りというか、
良い意味で全く期待を裏切られなかった。正直言って僕は、
期待も込めてかなり高いところに予想を置いていたのだが、
その予想が全く裏切られなかったということだ。     
 中でもコミックスで描かれた華麗なスパイダーアクション
を、本当に見事に実写(もちろんVFXではあるけれども)
映像に移し変えているのには感心した。特にこの物語では、
ヒーローは空を飛ぶのではなく、ビルの間を蜘蛛の糸を繰り
出しながらブランコの要領で渡って行く訳だが、そのスピー
ド感が見事に描かれている。              
 基本的なアクションはこれだけなのだが、これを手を変え
品を変え、背景を変え小道具を変え、写し方を変えて全く飽
きさせないのは見事なものだ。まあ原作もこれだけで40年間
やっているのだから、そこにもいろいろなノウハウはあるの
だろうし、映画はそれを見事に映像化しているということか
もしれないが、とにかく満足できる描き方だった。    
 それから生身の若者がスーパーヒーローになって仕舞うこ
との悩みや、真のヒーローに目覚めるまでの過程も、そつな
くそして的確に描かれていて、納得して観ていられた。この
辺が独り善がりになっていないところも素晴らしい。そして
この悩めるヒーローを、『サイダーハウス・ルール』のトビ
ー・マクガイアが見事に演じている。『サイダー…』でも主
人公の若者は自分自身の存在の意味に悩み続けるのだが、そ
のイメージが今回の作品でも見事に活かされている。   
 この他のウィレム・デフォー、キルスティン・ダンスト、
クリフ・ロバートスンらのキャスティングも、決して大げさ
に演じることもなく素晴らしかった。特にデフォーは、敵役
のシーンでも自ら仮面とアーマーを付けて演技しており、ま
た2重人格の演技もさすがという感じがした。      
 またヒロイン役のダンストは、94年の『インタビュー・ウ
イズ・ヴァンパイア』から『ジュマンジ』、『スモール・ソ
ルジャーズ』、それに“The Crow: Salvation”とジャンル
クイーンの座を着実に登ってきている感じだが、94年製作の
『新スター・トレック』の最終シーズンにも12歳でゲスト出
演している彼女の存在感が良い雰囲気を出している。   
 それから『まごころを君に』でオスカーを受賞したロバー
トスンに、人が変って行くことについて語られては…。有名
な‘With great power comes great responsibility’の
台詞も決まっていた。                  
 普通の演技の中から一気にスーパーアクションに切り替わ
って行く、そのギャップみたいなものが、特にこの原作の映
画化には最適の構成だったと言える。この映画の成功は、そ
の構成を編み出した脚本デイヴィッド・コープと、監督サム
・ライミの勝利ともいえるだろう。           
 それからエンディングには、最近の映画らしくラップやハ
ードロックの音楽が添えられているのだが、最後の最後、一
般公開ならほとんどの観客は席を立った後ぐらいに、ファン
には堪らないプレゼントがある。アメリカでは当然大喝采に
なるところだろうし、僕も思わず拍手をしてしまった。最後
まで絶対に席を立たないように。            


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井口健二