井口健二のOn the Production
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2002年04月15日(月) 第13回+スパイダー、ノット・ア・ガール、アトランティスのこころ、ザ・ワン、ナショナル7

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 最初に記者会見の報告から。             
 4月5日に5月公開の『スパイダーマン』“Spider-Man”
のプロモーションで、サム・ライミ監督と主演の3人及び製
作者2人の記者会見が開かれた。実は、当初の予定ではその
前日に本編の完成披露試写が行われるはずだったが、映像が
完成していないという理由で特別映像のみの上映となった。
従って記者会見といっても本編を見ないでは質問もし辛い訳
で、僕はいつものように聞いていただけになってしまった。
 そんな中で、今回は製作者にビル街を跳び回るシーンの撮
影方法について質問した人がいて、僕はこの質問に興味を曳
かれた。この質問に対して製作者はグリーンスクリーンの合
成とか何とか、常識的なことを話していたのだが…。すると
突然監督のサム・ライミが、「スチル写真とムーヴィのプレ
ートをCG化して使っている」と発言したのだ。     
 確かに質問者の意図もそこにあって、それぞれに付いてい
た通訳の問題もあったのかも知れないが、監督が相手の意図
を汲んで技術的な質問にずばり答えたのには驚いた。実際、
映像が完成していないのに監督が日本に来てしまっていると
いうことに危惧を感じていた面もあったのだが、こういう発
言のできる監督がやっているなら、このシリーズも安心して
見ていられそうだという感じがしたものだ。映像の完成云々
というのは、多分純粋に技術的な問題だけなのだろう。  
 前日に上映された特別映像の出来も良かったし、これは好
い線に行けるかも知れないという感じがした。      
        *          *        
 後は製作情報を紹介しよう。             
 まずは続報で、前回紹介したクェンティン・タランティー
ノ監督の“Kill Bill”で、当初から報告されていたウォレ
ン・ベイティの配役が、デイヴィッド・キャラダインに変更
されることになった。                 
 この作品でベイティが演じる予定だったのは、タイトルロ
ールのビル。実はタランティーノは、ユマ・サーマンの主人
公と共に、このビル役も最初からベイティを念頭に置いて脚
本を書いていたというのだが、最終的に出来上がった脚本の
イメージがベイティと合わなくなってしまっていたそうだ。
 そこでタランティーノとベイティが会食して方針を検討、
その席でベイティから「何故、デイヴィッド・キャラダイン
を使わないんだ?」という発言が飛び出し、元々タランティ
ーノがキャラダインのファンだったこともあって直ちに交渉
の結果、キャラダインの出演が決定したということだ。  
 因にキャラダインは、70年代に放送されたテレビシリーズ
『燃えよ!カンフー』の主演で知られ、タランティーノはそ
の頃からのファンだったそうだ。            
 またビルという役柄は、サーマンが演じる主人公を裏切る
敵役ということだが、今回の情報では、このビルが刺客とし
てダリル・ハナとルーシー・リューをサーマンに差し向ける
のだそうだ。ということは、以前からの情報と総合すると、
少なくともこの内のハナは寝返るということになりそうだ。
 撮影は6月の開始の予定で、具体的にロサンゼルスと、メ
キシコと、東京、北京で撮影されることになっている。  
        *         *        
 ついでにもう1本続報で、4月15日撮影開始の“T3: The
Rise of the Machines”の配役で、新たにソフィア・ブッ
シュという女優の出演が発表されている。彼女の役柄はケイ
ト・ミラーという名前で、職業は病院の職員、ジョン・コナ
ーとT−800に協力して、未来から送られたT−Xに対抗
するということだが、恋人役という紹介もある。その相手は
コナー(?)、まさかT−800ではないだろう。    
        *         *        
 続いては新しい情報で、『ブレイド2』の全米公開では初
登場No.1のヒットを記録したギレルモ・デル=トロ監督が、
ドリームワークスで“At the Mountains of Madness ”と
いう作品を手掛けることが発表された。          
 この作品は、20〜30年代に活躍したアメリカのホラーファ
ンタシー作家、H・P・ラヴクラフトが創造したクトゥルー
神話の一部を成すもので、彼の著作の中では最長の作品とい
われる同名の小説(邦訳題・狂気の山にて)に基づく。物語
は、北極圏の地図もない地域を探検していた冒険家が、古代
のままの生活を続ける人々の集落を発見し、そこで誤って危
険な古代の生物を復活させてしまうというもの。     
 ラヴクラフト原作では、すでに“Re-animator”や“From
Beyond”などの作品がB級ホラー映画として映画化されてい
るが、元々はアメリカ文学史でエドガー・アラン・ポーの後
継者ともいわれる作家で、もっと本格的な映画化が期待され
ていた。これを受けて、今回の映画化に当るデル=トロは、
「私のホラー映画の代表作となる作品にしたい」と意気込み
を語っているそうだ。                 
 脚本は、デル=トロと『ミミック』を手掛けたマシュー・
ロビンスが共同で執筆する。              
 ただしデル=トロは、すでにユニヴァーサルで“Hellboy"
という作品が進行中の他、タッチストーンでは大友克洋原作
の和製コミックス『童夢』の映画化にも参加しており、さら
にはデイヴィッド・ゴイヤーが執筆中の“Blade 3”(『2』
の20年後が舞台のお話だそうだ)の監督にも再び招請されて
いるということだ。しかし先に紹介した本人の意気込みから
も伺えるように、デル=トロは今回の作品を重要と考えてお
り、今後は最優先で進める可能性もあるようだ。     
        *         *        
 お次は、またまたリメイクの話題がいくつか届いている。
 その1本目は“The Italian Job”。日本では『ミニミニ
大作戦』の邦題で公開された69年のイギリス映画を、現代化
してリメイクする計画が発表されている。        
 オリジナルは、99年のオスカーを受賞したマイクル・ケイ
ンの主演で、舞台はイタリアのトリノ。その地にある自動車
会社フィアットの本社に、中国から密かに金塊が届くという
情報を察知したイギリスの窃盗団が、マフィアの鼻先で、イ
ギリスの誇る小型車ミニクーパーを駆使してその金塊を盗み
出すというもの。その逃走経路にトリノの下水道網が利用さ
れ、丸い下水道の中を小型のミニクーパーが縦横に走り回る
カーチェイスが話題になった作品だ。          
 この作品を今回は、舞台を現代のロサンゼルスに移してリ
メイクするということだが、この作品の監督に、98年にサミ
ュエル・L・ジャクスンとケヴィン・スペイシー主演の『交
渉人』を撮ったF・ゲイリー・グレイが発表されている。キ
ャスティングは未発表だが、6月撮影開始の予定だ。   
        *         *        
 続いてもオリジナルはイギリス映画で、『ロード・オブ・
ザ・リング』のクリストファー・リーの主演で73年に発表さ
れたカルトホラー作品“The Wicker Man”の再映画化が、
ニコラス・ケイジの主演で計画されている。        
 オリジナルは、エドワード・ウッドワード扮する警官が、
若い女性ばかりの失踪事件を追う内に、スコットランド西岸
の小さな島にたどり着き、そこでリーが主宰する怪しげなコ
ミュニティーの謎に迫るというもの。この作品のカルト人気
については、今年の7月19−20日にも映画の撮影が行われた
場所で「ウィッカーマン・フェスティヴァル」が開かれてい
るほどだということだ。                
 なおリメイクは、ニール・ラビュートの脚本監督で、現代
のアメリカ西海岸に舞台を移して行うということだが、実は
オリジナルを撮ったロビン・ハーディ監督も、リーの再演で
別ヴァージョンの“The Riding of the Laddie”という作
品を計画(共演はショーン・オースティン)しているという
ことで、この競作はちょっと面白いことになりそうだ。   
        *         *        
 もう1本は、今年のオスカー特別賞を受けた黒人スター、
シドニー・ポアティエの監督、主演で74年に製作された“Up
town Saturday Night”を、今年のオスカー主演男優賞候補
に挙がっていたウィル・スミスの製作主演でリメイクする計
画が発表されている。                 
 オリジナルは、ポアティエとビル・コスビーの共演で、物
語は、下町に住む黒人の若者2人が、盗まれたロトの当りく
じを奪い返すために、山の手の高級住宅街に向かうというも
の。『ゴッドファーザー』のパロディなどもあるコメディ作
品で、“Let's Do It Again”と“A Piece of the Action”
という続編もあるそうだ。               
 そしてこの作品は、実は史上初の黒人同士による主演の映
画作品として意味のある作品だということで、その意義をス
ミスが引き継ぐというもの。なお、スミスは自らリメイクの
脚本も手掛けており、監督と共演には、95年『バッド・ボー
イズ』のマーティン・ローレンスとマイクル・ベイを希望し
ているということだ。そして前回紹介の“I Am Legend ”
でスミスとベイが再会し、今回の発表となったものだ。   
        *         *        
 最後にちょっとびっくりの情報で、昨年の夏に公開された
アンジェリーナ・ジョリー主演の『トゥームレイダー』の続
編を、『12モンキーズ』のテリー・ギリアムが手掛けるかも
しれないという話が伝わってきた。           
 ギリアムは、先に手掛けていた“Don Quixote ”がトラブ
ルに見舞われて頓挫し、現在はこの秋に撮影を開始する予定
の“Good Omens”という作品を準備中だが、パラマウントの
要請で前作を見たところ、「映像や技術は素晴らしいが、物
語の展開が面白くない」と感じ、「この技術を使って自分も
やってみたいと思った」ということだ。         
 今後どうなるかは判らないが、準備中の“Good Omens”も
コミックス原作で、この手の作品に抵抗感はないとのこと。
有り得ないとは言えないようだ。それにしてもギリアムは一
体どんな“Tomb Raider 2 ”を構想しているのだろうか。こ
れは実現したら大変な話題作になりそうだ。       
                           
                           
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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを公開に合わせて紹介します。※
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<5月11日封切り>                  
『スパイダー』“Along Came a Spider”         
ジェイムズ・パタースン原作“アレックス・クロス”シリー
ズ第1作の映画化。                  
同シリーズでは、97年に『コレクター』“Kiss the Girls”
が先に映画化されているが、本作では前作に主演したモーガ
ン・フリーマンが、同じ役は2度と演じないという自分に科
した禁を破って、自らの製作総指揮で映画化、さらに第3作
も計画されているということだ。            
上院議員の娘が、教師として2年間潜伏した男によって、シ
ークレットサーヴィスが監視する学校から誘拐される。そし
て男は、ワシントン市警の犯罪心理捜査官クロス博士を指名
して挑戦を仕掛けるのだが…。             
原題は『マザー・グース』から採られているようだが、リン
ドバーグ愛児誘拐事件が下敷きになっている辺りが実にアメ
リカらしく、以前にその辺の話を読んだことのある僕として
は結構楽しめた。アクションというよりは謎解き中心のお話
なので、その辺をすんなり了解できるかどうかが評価の分れ
目になりそうだ。                   
ただし字幕で、生徒が教師を呼ぶときの Mr.Sonejiを「ソン
ジさん」とするのは誤訳だと思う。この翻訳者はジェームズ
・ヒルトンの名作“Goodbye,Mr.Chips”(チップス先生さよ
うなら)を知らないのだろうか。            
                           
<5月18日封切り>                  
『ノット・ア・ガール』“Crossroads”         
人気アイドル歌手ブリトニー・スピアーズの初主演映画。 
子供時代に一緒にタイムカプセルを埋め、一生親友でいよう
と誓い合いながらも、今ではちょっと疎遠な3人の少女が、
それぞれは別の目的で家を飛び出しロサンゼルスに向かう旅
を、スピアーズの歌満載で描いた青春物語。       
スピアーズの役柄は、田舎町の高校で卒業生総代を務め、医
学部進学を目指す(!)ちょっとオクテの少女というものだ
が、元々スピアーズはミッキーマウスクラブの出身というこ
とで、演技のほどは心配なく、人気歌手である本人をなぞっ
た物語を上手く演じている。              
まあ、僕の年齢からすると取り立ててどうこうと言うような
作品ではないが、自分も昔はこんな作品に憧れていたかな、
というような懐かしさを感じることはできた。      
                           
<5月中旬封切り予定>                
『アトランティスのこころ』“Hearts in Atlantis”   
スティーヴン・キングが99年に発表し、いまだに売れ続けて
いるというロングセラーの映画化。           
現在はカメラマンとなって都会に暮らす主人公は、幼なじみ
の葬儀のために故郷に戻ってくる。そこには初恋の女性もい
たはずだったが、葬儀の場所で彼女も既に亡くなっているこ
とを知らされる。                   
そして今は廃屋となった実家を訪れた主人公は、その家で出
会った不思議な老人のことを思い出す。その老人は人の心を
読むことができ、未来を予知する能力を持っていたが、その
能力を利用しようとする謎の組織に追われていた。    
宣伝では『ショーシャンクの空に』と『グリーンマイル』に
続く作品とされているが、舞台は刑務所ではないし、導入部
で現在の主人公が語り始める構成は、『スタンド・バイ・ミ
ー』の手法に似ている。                
といってもそれは本筋とは全く関係なくて、何と言うかちょ
っとノスタルジックな雰囲気の中で、ちょっと不思議な老人
と11歳の少年の交流が、少女との淡い恋心とともに見事に描
かれて、キングとほぼ同世代の僕には堪らない作品だった。
謎の老人を演じたアンソニー・ホプキンスの演技が素晴らし
いのは当然だが、相手役の少年を演じたアントン・イェルチ
ンと、少女役のミカ・ブーレムが本当に上手い。なおこの2
人は、先に紹介した『スパイダー』でも同じような役回りで
共演している。                    
                           
<5月下旬封切り予定>                
『ザ・ワン』“The One”                
98年の『リーサル・ウェポン4』でハリウッドに進出、いき
なりブレイクした中国出身のカンフースター=ジェット・リ
ーと、テレビの『Xファイル』や00年の映画『ファイナル・
デスティネーション』で話題となったジェームズ・ウォン監
督が組んだSFアクション。              
物語は、パラレルワールドの自分自身を殺すとその力が自分
に乗り移り、自分1人だけになれば、その全員の力を集めて
全能になれるというアイデアを基にしたもので、 125あると
いうパラレルワールドで順番に自分を殺してきた男が、ゴア
が大統領に就任した宇宙で 123番目の自分を殺し、 124番目
の自分を求めてブッシュが大統領に就任した宇宙にやってく
るというもの。                    
ところが殺された自分の力というのが、殺した本人だけでな
く、残りの全員に均等に分けられていたことから、最後の2
人には全く同等の力が備わっているというのが味噌で、最後
は60数人分ずつの力を持った善と悪のジェット・リー同士が
闘うという筋書きだ。                 
まあアイデアは面白いし、ワイアーワークをやらせたら当代
一と言われるリーが演じるのだからそのアクションも決まっ
ている。惜しむらくは、最後にリー同士が闘っているところ
で、カメラが二人の周囲を回ってくれないところで、ここに
『マトリックス』ばりの演出があったら申し分なかったと思
えるのが残念ではある。                
しかし脚本も手掛けているウォンの演出は、テレビ出身らし
く90分以内の上映時間にきっちりと落ちまであるお話を収め
ており、これもまたお見事と言いたいところだ。     
                           
<5月中封切り予定>                 
『ナショナル7』“Nationale Sept”          
タイトルはフランスの国道7号線の意味で、その国道沿いに
ある身障者施設を舞台にした実話に基づく物語。     
筋ジストロフィーの男性ルネの介護は、新人女性介護士ジュ
リの役目。しかし病状と共に気難しくなっているルネは、皆
が手を焼く問題の患者だった。そんな彼を、あるときは突き
放しながらも献身的に世話するジュリに、ルネは次第に心を
開いて行く。                     
そしてついに彼は自分の悩みをジュリに打ち明ける。それは
女とセックスをしたいということ。国道沿いにはトレーラー
ハウスを並べた娼婦たちが居り、年金を受けているルネには
娼婦を買う金はあるのだった。             
この告白に施設側は、今までこの問題に見て見ぬ振りをして
きた非を認めるのだが、そこには大きな問題があった。もし
公務員であるジュリが彼を娼婦の元に連れて行くと、それは
売春斡旋の重罪になるというのだ。           
同じようなテーマの作品では、98年にケネス・ブラナー、ヘ
レナ・ボナム=カーター共演の『ヴァージン・フライト』と
いうイギリス映画があった。確かこの作品も実話に基づいて
いたと思うが、フィクションを入れてドラマティックにして
いたイギリス作品に対し、今回の作品はドキュメンタリータ
ッチで、これもまた素晴らしい作品になっている。    
エンディングは、多分こうなるだろうと予想はしていたが、
そこへの持って行き方が洒落ていて、上手く填められてしま
った。                        
                           
 この他、                      
4月27日封切りの『アザーズ』は第4回         
5月11日封切りの『華の愛』は、原題の“遊園驚夢”として
東京国際映画祭の特集                 
5月中旬公開予定の『ノー・マンズ・ランド』は第2回  
にそれぞれ紹介があります。              


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井口健二