井口健二のOn the Production
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2002年04月01日(月) 第12回+光の旅人、コラテラル・ダメージ、フィスト・オブ・フューリー、E.T.、パコダテ人

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 まずは予告した情報から。              
 前回紹介の“T3: The Rise of the Machines”の配役で、
未定だったジョン・コナー役に、ニック・ストールという俳
優の抜擢が発表された。                
 ストールは22歳、先日のアカデミー賞で作品賞などの候補
に上がっていた“In the Bedroom”に、主人公の病気の息子
の役で出演している俳優ということだが、それ以前の作品で
は、98年の『シン・レッド・ライン』に出演、この作品の紹
介では、17人の出演者リストの16番目に名前が載っていた。
 “T3”では前作の10数年後が舞台ということで、22歳の俳
優はちょっと若い感じもするが、ジョナサン・モストウ監督
の下、アーノルド・シュワルツェネッガー、エドワード・ノ
ートン、ヴィン・ディーゼルを相手に、シシー・スペイセク
やマリサ・トメイのオスカー俳優と共演した演技力を見せて
もらいたいものだ。                  
 なお撮影は、前回の情報より少し遅れて、4月15日にロサ
ンゼルスで開始と発表されている。公開は03年7月4日。そ
れから原題ついては、最近送られてくるアメリカの報道では
“Terminator 3”ではなく“T3”に統一されているようだ。
        *         *        
 続けてシュワルツェネッガーの情報で、“T3”のアメリカ
配給を行うワーナーとの間で立て続けにリメイクの計画が発
表されている。                    
 その1本目は、73年にリチャード・ベンジャミン、ユル・
ブリナー主演で映画化された“Westworld ”(邦題:ウェス
トワールド)のリメイク。この映画は、今や大ベストセラー
作家のマイクル・クライトンが自らの脚本で監督デビューを
果たした作品で、ロボット技術を駆使して西部劇の世界を再
現したアミューズメントパークを舞台に、ロボットが暴走し
て観客を襲い始める恐怖を描いたもの。ブリナーが演じたロ
ボットガンマンが無気味で、またその視覚を表現したシーン
には初期のCGIが商業映画で初めて使用されるなど話題の
豊富な作品だ。                    
 そして今回のリメイク計画では、シュワルツェネッガーが
ブリナーが演じたロボットガンマン役を再現するというもの
で、ターミネーターの元祖とも言われるガンマン役をシュワ
ルツェネッガーがどのように演じてみせるか楽しみだ。なお
オリジナルには、76年製作でブリナーがゲスト出演している
“Futureworld ”という続編もある。          
 2本目は、リメイクと呼ぶのにはちょっと違うかも知れな
いが、シュワルツェネッガーが82年に主演した“Conan the
Barbarian”(コナン・ザ・グレート)の再映画化が計画さ
れている。この作品はロバート・E・ハワードの原作から、
ジョン・ミリウスがオリヴァ・ストーンと共に脚色し、ロン
・コブらのデザインを駆使してミリウスが監督、ヒロイック
ファンタシーの世界を見事に再現したもので、シュワルツェ
ネッガーにとっては『ターミネーター』と並ぶ出世作といえ
る作品だ。そして今回の計画は、ミリウスが再び脚本を手掛
けるもので、『マトリックス』のウォシャウスキー兄弟も製
作に協力していると言われている。           
 そして3本目は、リチャード・マシスン原作の“I Am Le
gend”の映画化だが、この計画は今年のオスカー候補にもな
ったウィル・スミスの主演で進められることになった。この
原作はすでに57年にヴィンセント・プライスの主演作と、71
年にチャールトン・ヘストン主演の『オメガマン』の2度の
映画化があり、今回が3度目となる作品だが、ワーナーでは
長年シュワルツェネッガーの主演で映画化を希望していた。
しかし“T3”に加えて上記の2本を先行させるということで
シュワルツェネッガーの主演は断念され、替って当初から共
演者として発表されていたスミスの主演が決まったものだ。
なお、シュワルツェネッガーは製作者として残ることになっ
ている。またこの結果、製作が早まることになり、マイクル
・ベイの監督で03年夏の公開を目指して製作されることにな
るということだ。                   
        *         *        
 お次は続報で、第9回で紹介したクェンティン・タランテ
ィーノ監督、ユマ・サーマン主演の“Kill Bill”で、報告
されていた共演のダリル・ハナとルーシー・リューの役柄が
発表された。                     
 それによると、ハナの役柄は、前回紹介した通り主人公に
協力する女殺し屋(報道ではネメシス=復讐の女神と紹介さ
れている)ということだが、面白いのはリューの役柄で、役
名がOren Ishi:Queen of Tokyo Yakuza だということだ。
Queen というのは、ただの姉御か、それとも女親分か。それ
から名前(?)の「おれん」は、多分「お恋」か「お蓮」と
いうことになりそうだが、苗字(?)の「いし」というのは
「石」なのだろうか。                 
 そういえば、ドイツで発行されている超長編SFシリーズ
『ペリー・ローダン』には、昔「イシ・マツ」という日本人
女性がいたが、その流れだろうか。それに昨年アメリカで放
送開始された『スター・トレック』の新作でも、「ホシ・サ
ト」という日本人の役名があるが、こういう名前が西欧人に
とって判りやすい日本人女性の名前のようだ。      
 なお、撮影はカリフォルニアと、中国、日本、それにメキ
シコで行われる予定ということで、前回紹介したトム・クル
ーズの前に、タランティーノ監督とサーマン、リューらが来
日することになりそうだ。また、追加のキャスティングで、
ジャクリーヌ・ビセットの出演も発表されている。    
        *         *        
 続いてはまたもやテレビシリーズからの映画化の計画で、
49年の放送開始というから最も古い連続テレビドラマの一つ
で、50年から記録されている視聴率のランキングでは、最初
の50−51年シーズンに連続ドラマでは唯一ベスト10入りを果
たした30分西部劇シリーズ“The Lone Ranger”(ローン・
レンジャー)を映画化する計画が、『チャーリズ・エンジェ
ル』のコロムビアから発表されている。         
 ロッシーニ作曲の『ウイリアム・テル序曲』をテーマ音楽
にするこのシリーズは、先に映画化が進められている“The
Green Hornet”と同様、元々はラジオシリーズで始まり、そ
の後、連続活劇を経てテレビ化されたものだが、50−51年の
視聴率は平均で41.2%を記録するなど、大変な人気を誇って
いた。なおテレビシリーズの主演は、57年に終了するまで途
中2シーズンを除いてクレイトン・ムーアが勤め、このムー
アの主演で50年代に2本の劇場映画も製作されている。  
 物語はテキサスが合衆国に併合された頃、人々の生活を守
るため6人の男たちがテキサスレンジャーを組織した。しか
しある日、彼らは悪人たちの待ち伏せにあって倒されてしま
う。だがその内の一人ジョン・リードは、インディアンのト
ントに助けられ、その後はマスクを付けて顔を隠し、仲間を
襲った悪人たちを追いながら、トントと共に、ただ一人のレ
ンジャーとして人々を守り続けたのだ。         
 ということで、半分実話半分フィクションのような物語だ
が、テキサスレンジャー自体は今も組織されており、その精
神は現在も生き続けている。そこでこの映画化も、その組織
の支援の下に行われるということで、映画化に漕ぎ着けるま
でには、結構根回しが大変だったようだ。なお同テーマの映
画化では、81年にユニヴァーサルから“The Legend of the
Lone Ranger”という作品が発表されているが日本未公開に
終っている。                     
 また今回の映画化では、98年『マスク・オブ・ゾロ』で、
西部劇での女性の活躍を上手く描けたことに味を締めたコロ
ムビアが、トントに当るキャラクターを女性にするというア
イデアも検討しているということだ。          
        *         *        
 後半は短いニュースをまとめておこう。        
 00年の『グリンチ』に続くDrスースの原作で“The Cat
in the Hat”の映画化が、イマジン、ユニヴァーサル、ドリ
ームワークスの共同製作で進められることになった。そして
その主演にマイク・マイヤーズが発表されている。なお、マ
イヤーズとイマジン、ユニヴァーサルは、以前にマイヤーズ
が企画したコメディ映画“Dieter”の製作を巡ってトラブル
が発生、長らく絶縁状態にあったが、その関係がこれで修復
されたようだ。                     
 9月11日の事件以降、製作が中断していたコロムビア映画
“Dreadnought”について、問題のジェット旅客機の墜落シ
ーンを書き直して映画化を進める計画が報告されている。こ
のため『アリ』『ニクソン』の脚本家のクリストファー・ウ
ィルキンスンとスティーヴン・J・ライヴルが新たに契約し
ており、彼らはウィル・スミスの主演を前提にリライトを進
めるということだ。一方、当初計画を進めていた監督のMcG
は、ニューヨークの現状を考えて計画には戻らない意向とい
うことで、別の監督を検討する必要があるようだが、会社側
は時が傷を癒してくれるのを待って再び監督を要請すること
もあるとして、現在“Charlie's Angels 2: Halo”を準備
中の監督に対してそのタイミングを計っているようだ。   
        *         *        
 最後にまたもや訂正で、前回の“The Last Samurai”の
記事でトム・クルーズの計画としてアンソニー・ミンゲラ監
督の“Cold Mountain”を挙げたのは誤りだった。実際に
は、クルーズがミンゲラ作品からの降板を決め、そのためス
ケジュールが空白になって、そこにこの作品が入るというも
のだった。なお“Cold Mountain”のクルーズの後にはジョ
ニー・デップの出演が発表されており、また共演は、(『ザ
・エージェント』に抜擢した)ルネ・ゼルウィガーと、ニコ
ール・キッドマンということなので、これはクルーズは出演
する訳に行かなかったようだ。               
                           
                           
                           
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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを公開に合わせて紹介します。※
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<4月13日封切り>                  
『光の旅人』“K-PAX”                 
ケヴィン・スペイシー、ジェフ・ブリッジス共演のヒューマ
ンドラマ。                      
ある日、ニューヨークのグランド・セントラル駅が不思議な
光に包まれ、その中から一人の男(スペイシー)が現れる。
プロートと名乗るその男は、1000光年の彼方にある K-PAX星
から光に乗ってやってきたと主張し、警察に逮捕されてパウ
エル博士(ブリッジス)のいる精神病院へと送られてくる。
その男は、バナナを皮ごと食べるといった以外には特段の異
状は見られないが、やがて男の存在が他の患者たちに影響を
与え始める。それはいずれも良い方向に見えたのだが…。 
その一方で、男はまだ一握りの天文学者しか知らない星の謎
を解き明かし、 K-PAX星では常識だと言い切る。     
やがて男は K-PAX星に帰る日が近いと言い出す。そしてその
日付からパウエル博士は、男の過去を探り当てるのだが…。
果たして男は本当に異星人なのだろうか。        
精神病院に限らず病院を描いたヒューマンドラマは名作を作
りやすいが、これが異星人を自称しているとなると、SFフ
ァンとしては微妙な感覚になってくる。つまり結末がSFフ
ァンとして納得できるか否かということなる訳だが、この作
品はその点が実に巧みで、なるほどアメリカでも高く評価さ
れた理由が判る気がした。               
物語の中で、子供たちが主人公を「データだ、データだ」と
囃すシーンがあって、『新スター・トレック』のデータ少佐
はアンドロイドであって異星人ではないのだが、いまだにア
メリカの子供にはこれで通るということに驚いた。    
それにしてもブリッジスも以前に『スターマン』で異星人を
演じていたが、それが巡ってこういう映画にこの役柄で出演
するというのも面白い。確か『スターマン』もテレビ化され
て、それなりに人気もあったはずだが、それはもう子供は覚
えていないのだろうか。                
                           
<4月20日封切り>                  
『コラテラル・ダメージ』“Collateral Damage”     
9月11日の事件のために公開延期になっていたアーノルド・
シュワルツェネッガー主演のアクション大作。      
消防隊長のブルーアは、日夜火災から市民を守るために活躍
していた。そのブルーアの妻子が、コロムビア領事館前で起
きた爆弾テロ事件に巻き込まれて死亡。しかしコロムビア政
府の和平交渉を支援する合衆国は、犯行声明をしたテロリス
トに対するCIAの捜査活動を禁止してしまう。Collateral
Damage=「目的のための犠牲」             
この事態にブルーアは、単身コロムビアのゲリラ支配地域に
潜入し、妻子の復讐を遂げようとするのだが…。     
確かに爆弾テロを克明に描いたシーンは、事件の直後には刺
激的過ぎたかも知れない。しかしそのテロリズムになりふり
構わず復讐を遂げようとする主人公の姿が、当時の世論を必
要以上に煽る恐れがあったとも言える作品で、当時公開した
らそういう受け入れ方がされていたかも知れない。結局、当
時公開しなかったことは正解だったのだろう。決して復讐を
肯定している作品ではないのだから。          
それにしても主人公が消防士というのは…。       
                           
『フィスト・オブ・フューリー』“重振精武門”     
ブルース・リー生誕60周年記念と銘打たれた香港映画。  
リーが創設した拳法ジークンドーを独学で、ということは、
つまり映画から学んで会得し、中国国際ジークンドー連盟ま
で設立してしまったという石天竜が主演している。    
こう書くと何だか怪しげな人物だが、元は北京警察の特殊部
隊に所属して、その間の84年には、ミャンマー国境でヴィエ
トナムの特殊部工作員4人を素手のカンフーで拘束したこと
もあるというのだから、その経歴が詐称でなければこれは本
物といえそうだ。                   
物語は、リーの主演作品『ドラゴン怒りの鉄拳』の後日談を
描いたもので、20世紀初頭の上海で武術道場・精武門の創始
者・元甲の仇を討った弟子陳真は、追求を逃れて故郷・雲南
省に身を隠すが、遂に追手に発見されて闘わざるを得なくな
るというもの。                    
お話はブルース・リー全盛期のカンフー映画そのものという
感じで、最近のジャッキー・チェンやジェット・リーの作品
とは一味違ったレトロなものだが、それに合わせて演じられ
るカンフーも、特撮やワイアーワークを極力廃して生身で闘
っているのは、それなりの意気込みというところだろう。 
なお共演に、午馬や林威といった香港映画でお馴染みの顔ぶ
れが登場するのは、見ていて安心感があった。      
                           
<4月27日封切り>                  
『E.T.』“E.T. The Extra-Terrestrial”       
<20周年アニバーサリー特別版>と題されたスペシャルエデ
ィション。                      
シリーズものや、妙な勢いで実力以上に大ヒットしてしまっ
た作品を除けば、真の意味でのハリウッド映画最大のヒット
作だと呼びたいこの名作が、最新のデジタル技術を駆使して
見事に甦った。スピルバーグ本人がこれが決定版だと言い切
る作品の登場だ。                   
オリジナルの上映時間は1時間55分だったが、復活したシー
ンなどもあって、今回は2時間になっている。      
加えられた主なシーンは、ETがエリオットの家に来てから
直ぐの部分で、2人がお風呂で遊ぶというもの。今回はET
の表情がCGIによって多彩になっているが、このシーンで
のETの活き活きとした表情は、その効果が最も活かされた
シーンと言えるだろう。                
これ以外にも、喜びの笑顔や悲しげな表情が随所にあって、
その効果は素晴らしい。                
この他、スピルバーグが一番拘わったという拳銃の消去は、
「ウォーキートーキーをそんな風には持たないだろう」と、
突っ込みを入れたくなるような場面もあったが、逆にスピル
バーグの気持ちが伝わってくるシーンになっていた。   
なお、当初計画されていた小学校の校長室のシーン(校長は
ハリスン・フォードの特別出演)は、結局復活しなかった。
                           
『パコダテ人』                    
1999年に開催された第4回函館港イルミナリオン映画祭のシ
ナリオ部門で準グランプリを受賞した作品の映画化。   
函館に住むごく普通の女子高生に、ある朝突然しっぽが生え
る。思いを寄せる男子もいる彼女はそれを隠そうとするが、
地元紙のカメラマンに偶然発見され、廃刊寸前で発行部数倍
増を目指す彼らに追い回されることに…。        
追いつめられた彼女はTVの生番組でカミングアウト。パコ
ダテ人を自称して一躍地元のアイドルになるのだが…。しっ
ぽの形がキタキツネに似ていたために、エキノコックス感染
の噂が広まり、今度は一気に排斥される羽目に陥る。   
シナリオ段階で準グランプリということは、それなりに他人
の目を通っている訳で、日本映画に良くあるような独り善が
りのようなこともなく、実際『ET』と対比してもいいよう
な、若年向けの可愛らしい作品になっている。      
特に後半、政府が動き出して、少女の住む家を自衛隊(陸自
が撮影協力している)が包囲する辺りは、『ET』の後半を
髣髴とさせる。他にも類似点はいろいろあり、『ET』と同
様に脚本家は女性だが、感性が似ているのか、皮肉でなく本
当に良く勉強しているのだとも感じた。         
アイドルを勝手に作り上げて、一気に落とし込むと言うよう
なマスコミ批判的な部分も程よく効いているし、風評被害と
いったニュアンスもある。解決の部分もそれなりにカタルシ
スめいたものもあるし、今井雅子というこの脚本家にはちょ
っと注目しておきたい。                


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井口健二