2002年03月15日(金) |
第11回+Versus、グラスハウス、友へ チング、ドメスティック・フィアー |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※ ※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※ ※キネ旬の記事も併せてお読みください。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 今回は、ちょっと嬉しくなったこの話題から紹介すること にしよう。 昨年9月に『Versus』(紹介文を後のページに再録 してあります)を公開した北村龍平監督が、アメリカのミラ マックス社と優先契約を結んだことが発表された。 北村監督は紹介文にも書いたように、オーストラリアの映 画学校卒業という経歴の持ち主で、僕は直接に面識はないの だが、個人的にその経歴を活かし切れない日本映画界に不満 を感じていた。だから今回、その監督が直接アメリカの映画 会社と契約を結んだことには諸手を挙げて賛成したいし、ぜ ひとも成功してもらいたいものだと思っている。 最近のアメリカ映画界では、『リング』がドリームワーク スでリメイクされるなど、特に日本のホラー映画に注目が集 まっているということだが。作品だけでなく、作り手の人材 が進出するというのは、条件的にもいろいろ難しい点もある ことで、それを乗り越えての今回の契約は本当に素晴らしい ことだ。もっとも監督の経歴からすれば、条件のいくつかは 緩和されそうな感じではあるが…。 契約の条件や、この後の計画がどうなっているかは判らな いが、とにかく今後が楽しみなニュースと言えそうだ。 * * 後は製作情報を紹介しよう。 まずは、先日『コラテラル・ダメージ』のキャンペーンで 来日したアーノルド・シュワルツェネッガーの記者会見の中 でも、「今度は恐い(frighten)作品になる」と言っていた “Terminator 3: The Rise of the Machines”の製作準 備が着々と進んでいる。 この製作では、当初はカナダのヴァンクーヴァとロサンゼ ルスで撮影を行う予定で、計画では 100日間の撮影の60%を カナダで行うということだったが、ハリウッド映画が経費の 安い海外撮影に逃げる傾向に歯止めを掛けようという意見の 中で、この作品は最終的に 100%ロサンゼルスで撮影するこ とが決断された。もっともカナダとアメリカでは、経費の面 ではそれほど大きな開きがある訳ではなく、逆に監督のジョ ナサン・モストウは、これで両国を移動しながら撮影すると いう頭の痛い思いをする必要がなくなったということだ。 なお撮影は、セット撮影が、最近ではティム・バートン版 の『猿の惑星』の撮影にも使われたL.A.センタースタジオ。 このスタジオはダウンタウンにあって、1920年に設立された という由緒正しい撮影所だそうだ。またロケーションは、ロ サンゼルス市内全域を使って行われるということで、撮影開 始は4月2日の予定になっている。『ターミネーター』も、 『T2』も、元々舞台はロサンゼルスだったのだから、これ は良い傾向と言えるだろう。 物語は、『T2』の10年後が舞台で、20数歳に成長した未 来の指導者ジョン・コナーと、シュワルツェネッガー扮する T-800が、新たに登場する女性形のターミネーター(ターミ ナトリックス=略称TX)と闘うというもの。そして出演者 には、シュワルツェネッガーの他に、『ファイト・クラブ』 のエドワード・ノートンと、『ワイルド・スピード』のヴィ ン・ディーゼルがすでに発表されているが、肝心のジョン・ コナーとTXの配役が遅れていた。 しかしこの内のTX役には、クリスターナ・ロケンという 女優の抜擢が発表されている。彼女は22歳、芸歴はTVシリ ーズの出演と、映画では“Panic ”という作品があるという ことだ。そこでこの題名をガイドブックで調べてみると、ア メリカではケーブルで初公開された2000年製作の作品がある が、この出演者には、ドナルド・サザーランドやネーヴ・キ ャンベルの名前があるだけで彼女の名前はない。従ってこの 作品が当りかどうかは不明だが、いずれにしても本当に無名 の新人の大抜擢のようだ。 これに対してコナー役は、一時は前作と同じエドワード・ ファーロングが契約したという情報もあったのだが、結局彼 は出演しないことになり、3月上旬現在の情報では、20歳台 の俳優をまだ選考中のようだ。しかし撮影開始の4月2日ま でには決定するはずなので、次回には報告できるだろう。 一方、この作品のf/xは、ILMが再び手掛けることが 決まっているが、さらにスタン・ウィンストンの再登板も発 表された。ウィンストンは前2作にも関わり、第2作ではア カデミー賞を受賞しているが、今回彼の参加が決まったこと についてモストウ監督は、「スタンのような伝説的な人と、 それに彼の驚くようなチームと一緒に仕事が出来ることは最 高の喜びだ」と語っており、いよいよ“T3”は最高の体制 で製作が進むことになったようだ。 * * お次はまたまたトム・クルーズの情報で、今度は何と日本 を舞台にした作品の計画がワーナーから発表されている。 この作品は“The Last Samurai”と題されているもので、 19世紀の日本を舞台に、天皇の軍隊を指導するために招かれ た主人公が、国体を守るためにその障害となる侍社会を終焉 させようとする施策の進む中。体面と現実との板挟みになる 武士の姿を目の当りにするというもの。 正に題名通りの作品になりそうだが、しかも監督は『グロ ーリー』のエド・ズウィック、脚本は『グラディエーター』 のジョン・ローガンだから、これはかなり骨太の作品になり そうだ。もちろんクルーズは、時代の目撃者となる主人公を 演じることになっている。 なお時代背景から言うと、岡本喜八脚本・監督、三船敏郎 主演で69年に映画化された『赤毛』という作品があり、この 作品も幕末の激動の時代を見事に描いた作品で、比較すると 面白い比較論ができそうだ。 それにしても突然大変な計画が発表されたものだが、実は この計画は元々ワーナーで準備されていたもので、その計画 にクルーズが出演者として参加することを表明したものだ。 なお、クルーズの次の公開作品はスティーヴン・スピルバー グ監督の『マイノリティ・リポート』で、その次にはアンソ ニー・ミンゲラ監督の“Cold Mountain”という南北戦争を 題材にした作品が決定しているが、その後が空白だったとい うことで、今回はその空白を埋める作品ということになる。 ただし今回の計画に関しては、全く同じ題名の作品(もち ろん内容も共通する)が、『ウインドトーカー』のジョー・ バティーアとジョン・ライスの脚本でニュー・リジェンシー でも計画されているということで、題名を確保する必要性か らも、その計画に先んじて進められることにはなるようだ。 と言うことで、前々回紹介した“The Lost Regiment”の 計画の方は、まだ原作の映画化権が契約されただけなので実 際の映画化は先のことになりそうだ。それともう1本、この ページでは報告しなかったが、スピルバーグ監督とのコラボ レーションで“Ghost Soldiers”という計画が1月に発表さ れており、この作品も日本がらみの内容のようだったが、一 体どうなっているのだろう。 * * 続いても競作の話題で、紀元前4世紀に当時の世界の半分 を支配したと言われるアレキサンダー大王の生涯を映画化す る計画が各社から発表されている。そしてその先陣を切って オリヴァ・ストーン監督の計画が進み始めたようだ。 20歳でマケドニアの王に即位してギリシャからペルシャま での広大な帝国を築き上げ、さらにインドにまで攻め入った 翌年に33歳で亡くなったアレキサンダー大王を描く計画は、 以前から何度も報告されていたものだが、その壮大な生涯を 描き切るためには膨大な製作費が掛かることは必至で、今ま では実現されることのない幻の企画だった。 しかし先にケーブル向けの番組を提供するHBO社から、 メル・ギブスン主宰のイコンプロで、04年の放映を目指して 10パートのシリーズ“Alexander the Great”を製作する 計画が発表され、今回のストーンの計画は、そのシリーズの 放映の前の映画館上映を目指すとして発表されたものだ。 なおストーンの計画では、題名は“Alexander ”とされ、 脚本は“K-19: The Widowmaker”を手掛けたクリストファ ー・カイルが担当、主演には『パトリオット』でギブスンの 息子役を演じたヒース・レジャーが発表されている。そして 撮影は、10月16日にインドで開始される予定ということだ。 またこの作品の全世界向けの配給は、“T3”も手掛けた インターメディア社が扱うことになっているが、同社の首脳 の発言では、「公開は03年のクリスマス。製作費については ヒースの出演料はシュワルツェネッガーより安い」そうだ。 この他のアレキサンダー大王の計画では、クリストファー ・マカリーの脚本を、マーティン・スコセッシ監督がレオナ ルド・ディカプリオ主演で映画化する計画や、ディノ・デ= ラウレンティスの製作で、ヴァレリオ・マンフェディの原作 からテッド・タリーの脚色、リドリー・スコットの監督で映 画化する計画も発表されているが、その中からまずストーン の計画が一歩先に踏み出したということのようだ。 * * 最後に訂正で、前回紹介したメグ・ライアン主演、チャー ルズ・ダントン監督の“Against the Rope”は3月に撮影が 開始されている。従って7月に開始されるジェーン・カンピ オン監督の“In the Cut”よりも先になるということだ。 また前回、エンゾ・フェラーリの伝記映画の計画について 「フォーミュラー1の自動車レースを作り上げた人物」とし たのは誤りのようだ。これは米紙の記事の内容をそのまま紹 介したものだったが、SF作家クラブの先輩でレース事情に 詳しい高齋正氏に伺ったところ、そうではないと言うことだ った。当然スポーツカー製作者としてのレースとの関わりは ある訳だが、自動車レースそのものを作り上げたとするのは 間違いだということで、訂正させていただきます。 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを公開に合わせて紹介します。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 最初に情報ページで書いた『Versus』の紹介文を載せ ておきます。この文章は昨年の7月11日に試写を見たすぐ後 に書いたもので、ちょっと辛口ですが、僕としては監督にエ ールを贈っているつもりです。 <9月8日封切り> 『Versus』 『マッドマックス2』に魅せられて17歳で単身オーストラリ アに渡り、彼の地の映画学校を卒業したという北村龍平監督 の長編第2作。 世界中に666箇所あるという異界との門の開放を巡って、 400年以上戦い続けている2人の男の物語。この2人がゾ ンビを操れるという設定で、「黄泉返りの森」という場所を 舞台に殺りくが続けられる。ゾンビ物であるから、そういう 目で見ていれば殺りくシーンも気にならず、それなりに一生 懸命やっている感じで面白かった。 ただし、主演からゾンビに至るまでの俳優の演技力の無さが 致命的で、主演の若者たちはまだ許容するとしても、脇を演 じた少し年上の連中の、吉本新喜劇を連想する大仰な演技に は、多分監督も絶望的な気分だっただろう。 こういう連中の演技力が上がらないことには、日本映画はい つまでも良くならないというところだが、監督にそういう演 技をやらせないようにするだけの力が無いことも、この映画 の問題点だ。この点は監督に経験を積んで貰うしかない。 それから、物語が独り善がりで、特に「異界との門の開放」 という結末が一体どういうことなのかよく判らないところな ども、もう少しストーリーテリングの勉強をしてもらいたい と感じた。 一般的な日本映画よりは良いと思うが、まだまだ習作の感じ で、今後の作品に注目したい。それにしても、帰国してから この作品まで10年以上掛かり、結局インディペンデントでし か映画作りができない日本映画界の閉鎖性にも問題を感じて しまった。 後は3月と4月封切りの作品から紹介します。 <3月16日封切り> 『グラスハウス』“The Glass House” Shocking Movie Projectと名付けられたシリーズ興行の第 1弾。 3作連続上映の内の残りの2作はスケジュールの都合で見て いないが、本作以外はR−12指定になっているし、タイトル も『ヴァンパイア・ハンター』に『アナトミー』ということ で、多分その手の作品なのだろう。 しかし本作には、実はショックシーンは余りなくて、僕とし てはリリー・ソビエスキーとダイアン・レインという新旧の 美少女スターの共演の方に興味が曳かれた。特に、最近は脇 役で良い演技を見せているダイアン・レインに期待して見に 行ったと言うところだ。 で、お話は、交通事故で両親を亡くした高校生と小学生の姉 弟が、昔隣人だったグラス夫妻に引き取られる。その家はマ リブの高台にある総ガラス張りの豪邸で、そこでは豪華な食 事とプレステなどの遊び道具が待っていたのだが…。姉はグ ラス夫妻の謎に気づき、やがて両親の事故にも疑いを持ち始 める。しかし周囲には誰一人助けてくれる人はいない。 正直言ってストーリーは在来りだが、ソビエスキーの演じる 姉がやたら頭が良いというか勘が冴えていて、常に悪人の裏 を画いて行くところが小気味よく、予想より楽しめた。多分 アメリカで評判を呼んだ理由もその辺にあるのだろう。 僕は最早関係ないが、お台場でデートの途中に見るには良い 作品かもしれない。最初からそういう狙いの作品なのだろう し、少なくとも他の2本に予想されるようなえげつなさはな いから、これで彼女に嫌われることもない。興行もそういう 押し方を出来れば良いのだが。 <4月6日封切り> 『友へ チング』“親旧” 韓国で史上最高の興行成績を記録した2001年度の作品。 1976年、釜山。この町で小学生だった4人の少年が、1993年 までに過ごした日々を描いた青春映画。 2人は大学へ進学し、その内の1人は海外留学までするエリ ート。他の2人はやくざとなり、互いに抗争を繰り広げる。 前にも書いたと思うが、僕は基本的にやくざものというのに 興味が無く、以前に東京国際映画祭の特集で紹介した『レイ ン』にしても積極的な評価はしなかったし、昨年の秋に某映 画祭で上映された台湾の作品に対しては、周囲の評価は高い ようだが、僕は全く評価していない。 しかしこの作品については、特に台湾の作品との比較では、 主人公たちが決して頭が悪い訳ではなく、周囲の成り行きで こうなってしまうことの必然性が、上手く描かれていたこと は認めざるを得ない。 その意味では、特別なシチュエーションで描かれた青春映画 として評価することが出来るだろう。確かに脚本には2年を 費やしたというだけの緻密さがある。それに結末は予想以上 に厳しいもので、妙な感覚でやくざを賛美していないところ も良い感じだった。 それにしても、76年といえば『スター・ウォーズ』の前年で 僕はもう社会人だったが、その僕がこの映画の風景に、もっ と幼い頃のノスタルジーを感じるというのは、当時の日本と 韓国の文化の差がそれだけあったということなのだろうか。 今は完全に追い付かれてしまったようだが。 なお原題はハングルだが、映画の中で上記の漢字を当てるこ とが紹介されていた。これで「チング」と発音するようだ。 <4月6日封切り> 『ドメスティック・フィアー』“Domestic Disturbance” ジョン・トラヴォルタ主演のサスペンス・スリラー。 12歳の息子ダニーを妻の元に残して離婚したフランク。元妻 は2年前に町に現れた資産家のリックと再婚するが、息子は 再婚相手に懐かない。そして町に現れた謎の男が失踪し、息 子は義父が彼を殺すところを目撃したと主張する。しかし義 父との確執で問題児になっていた息子の、今や町の名士とな ったリックに対する嫌疑を誰も信用はしない。唯一人、実父 のフランクを除いては…。 最近は見事な活躍のトラヴォルタだが、この作品には、ブラ イアン・デ・パルマと組んだ初期の佳作『ミッドナイト・ク ロス』の頃を思い出させた。自分の耳だけを信じて謎を解い た20年前と、息子の証言だけを信じて犯罪を暴く今回の演技 に、その姿がダブったのだ。 上映時間1時間29分は1本立ての大作ではないと思うが、こ の作品にトラヴォルタ、ヴィンス・ヴォーン(義父)、ステ ィーヴ・ブシェーミ(謎の男)の配役はすごい。
|