2002年03月01日(金) |
第10回+少年と砂漠のカフェ、パトレイバー、ビューティフル・マインド |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※ ※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※ ※キネ旬の記事も併せてお読みください。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 今回も記者会見の話題からで、2月20日に行われた『ロー ド・オブ・ザ・リング』の俳優とプロデューサーの来日会見 の報告から始めることにしよう。 といっても製作情報を紹介しているこのホームページで、 完成作品の会見では報告することは余りないのだが、今回の 会見で、既に3部作の実写部分の撮影が全て完了しているこ とは何とか確認できた。これは当初から、3部作を同時に並 行して撮影するという計画の発表で一応了解されていたもの ではあったが、今回、俳優たち全員が撮影中のエピソードを 過去形で喋っていたことで確認することができたものだ。 それともう一つ興味深かったのは、アルウェン役のリヴ・ タイラーが、「もしもう1度この映画に参加して別の役を演 じられるとしたら何の役をやりたいか」という質問に対し、 「ビルの役」と答えていたことだろう。 実は、世界中で高い評価を受けているこの映画化だが、僕 は原作の読者として全く不満が無いという訳ではない。それ は原作に描かれたエピソードのいくつかがこの映画化で失わ れていることで、もちろんあの長大な作品を3時間足らずに 収めるために仕方の無いことは重々承知の上なのだが、今回 公開された第1巻で言えば、僕はリヴ・タイラーが言及した ビルのエピソードが失われたことが一番残念だった。 といっても完全に失われている訳ではなくて、このビルと いうのは、映画の中のモリアの坑道の入り口で「こいつなら 大丈夫だから」といって放される小型の馬のこと。そしてこ の台詞は原作にもそのまま書かれているもので、つまり脚本 も担当したピーター・ジャクスンは、この台詞を残すことで ビルのエピソードの存在を暗示してくれているのだ。 しかも今回の会見席でタイラーがここに言及してくれたこ とで、僕は映画の中にもビルがしっかりと存在していたこと を確認することができ、読者としてうれしく思えたという訳 だ。まあ、原作の読者のささやかの喜びということで、この 他の会見の内容は映画の公式サイトなどを見てください。 * * 以下は製作情報で、まずはスーパーヒーローシリーズ復活 の話題から紹介しよう。 78年から87年に掛けて4作品が製作されたDCコミックス 原作、ワーナー製作のスーパーヒーロー『スーパーマン』の 映画シリーズがようやく再開される気配になってきた。 このシリーズでは、78年の第1作で初の大役に抜擢された クリストファー・リーヴが、第4作では共同原案と第2班監 督も勤めるなどシリーズの顔となっていたものだが、87年の 第4作でシリーズが中断、その後、93年には原作コミックス でスーパーマンが死亡、さらに95年にはリーヴが落馬事故で 半身不随となって、元の体制でのシリーズの再開は不可能に なっていた。 しかし96年に、元々ワーナー製作の『バットマン』などを 手掛けていた製作者のジョン・ピータースがソニーを辞め、 フリーとなってワーナーに復帰。そしてこの頃から『スーパ ーマン』復活のプロジェクトが動き始め、一時はハンバーガ ーチェーンでのキャンペーンも決まるなどシリーズ再開は確 実とされていたものだ。 ところが、当初は原作コミックスで発表された“Superman Reborn”を映画化するとされた計画は、いくつもの脚本が作 られたものの決定に至らず、その間、監督にはティム・バー トン、主演はニコラス・ケージという体制になって、製作費 は1億4000万ドルにまで高騰。これにはいくらヒットが 約束されているとは言ってもリスクが大き過ぎるということ で見直しが要求され、これによりバートンは去り、ケージは 興味を残していると言いながらも98年末に計画は白紙に戻さ れていた。 その計画が復活してきたもので、今回はまず監督に『チャ ーリーズ・エンジェル』のMcGの契約が発表された。McGは 現在、シリーズ第2作の“Charlie's Angels 2: Halo”を 準備中だが、実はその前から計画していた“Dreadnought” という作品が、劇中でジェット旅客機が爆破されるシーンが あるために、9月11日の事件との関係で製作中止となり、ス ケジュールが空いたことからこの計画への参加が可能になっ たということだ。 一方、脚本には、メル・ギブスンとイライジャ・ウッドの 共演で映画化された『フォーエヴァー・ヤング』や、『アル マゲドン』の共同脚本を手掛けたJ・J・エイブラムスの起 用が発表されている。この2作はいずれもSF/ファンタシ ー系の作品だが、特に前者は心暖まる優しい物語で、その感 性がこの作品にも活かされることを期待したい。 なお現在のところ、物語の展開については全く決まってい ないということだ。従ってこれから物語の検討を行うことに なる訳だが、“Charlie's Angels 2”の撮影は今年の春から で、公開は03年の夏とされており、『スーパーマン』復活は それより後の、早くても04年の夏ということになりそうだ。 * * お次は、『ロード・オブ・ザ・リング』が絶好調のニュー ラインから、またまたイギリス製ファンタシー3部作の映画 化の計画が発表されている。 発表されたのは、“The Golden Compass”と“The Subt- le Knife”、それに“The Amber Spyglass”からなる3部 作。この3部作は全体を“His Dark Materials”と呼ばれ、 既に日本でも翻訳が出版されているが、3冊ともかなりの厚 みがあり、『ロード…』に匹敵する大型の3部作と言えそう だ。 物語はパラレルワールドに住む2人の子供を中心に、いろ いろな怪物や魔法が登場するということで、『ロード…』よ りは『ハリー・ポッター』に近い内容のようだが、善悪の対 決やモラルの問題などが、『ハリー・ポッター』よりもダー クに描かれているそうだ。そしてこのシリーズでは、第3部 の“The Amber Spyglass”が子供向けの本としては初めて イギリスの文学賞を受賞したことから注目され、各社が映画 化に名乗りを挙げて、一時はシドニー・ポラックとアンソニ ー・ミンゲラのミラージュが計画を進めていたこともあった ようだが、ここに来て、『ロード…』の勢いを買われたニュ ーラインが最終的な権利の獲得に成功したものだ。 なおニューラインとしては、『ロード…』に続けて今回の 3部作の映画化を進めたい意向のようだが、同社ではこのホ ームページの第5回でも紹介したように、『ロード…』の原 作『指輪物語』と並び称されるイギリスのもう一つの大河フ ァンタシー、C・S・ルイス原作の“The Chronicles of Narnia”(ナルニア国ものがたり)の映画化に乗り出すこと も発表しており、元々ワーナー傘下に納まるまではB級ホラ ーやSF映画で鳴らしていたニューラインが、いよいよ本領 発揮ということになりそうだ。 * * 後半は短いニュースをまとめておこう。 『オーシャンズ11』に続いて『惑星ソラリス』のリメイク にも挑むことが発表されているジョージ・クルーニーとステ ィーヴン・ソダーバーグから、もう1本のコラボレーション の計画が発表されている。今回発表されたのは、『ブレード ランナー』などのフィリップ・K・ディックが79年に発表し た“The Scanner Darkly”という小説を映画化するもので、 この原作は薬物に犯され、妄想に取り付かれた男を主人公に したディックの半自伝的な物語なのだそうだ。なおこの原作 に関しては、一時は『マルコビッチの穴』のチャーリー・カ ウフマンの脚色や、レオナルド・ディカプリオの主演などの 計画もあったようだが、今回の計画ではそれらは全てキャン セルされ、一からやり直されるということ。製作会社はワー ナーで、映画化にはCGIなどによるアニメーションと実写 の合成が検討されているようだ。 続いてはファンの人には興味を引かれる作品だと思うが、 フォーミュラー1の自動車レースを作り上げた人物とも言わ れるイタリアのスポーツカー製作者、エンゾ・フェラーリの 伝記映画の計画が発表されている。この作品は、ブロック・ イェツが91年に発表した“Enzo Ferrari:The Man,the Car, the Race,the Machine”という本からインスパイアされた 作品ということだが、実はこの計画は、『アリ』のマイクル ・マン監督が93年にロバート・デニーロの主演で進めたこと があるということだ。しかしその時は実現せず、今回マンは、 自分は製作に下がって映画化の実現を目指しているものだ。 なお製作には他に、シドニー・ポラックとアンソニー・ミン ゲラも参加している。製作総指揮はイタリアのセティ・ゴリ で、監督は未定のようだが、脚本は現在、95年にポラックが 監督したハリスン・フォード主演の『サブリナ』を手掛けた デイヴィッド・レイフィールが執筆中だそうだ。 最後に、今年の夏に『ニューヨークの恋人』が公開される メグ・ライアンの主演作品の計画が2本発表されている。 その1本目は、俳優のチャールズ・ダントンが初監督する “Against the Rope”という計画で、この作品は、ジャッ キー・カレンという女性初のボクシングマネージャーを描い たもの。彼女は周囲との軋轢の中で4人のミドル級チャンピ オンを育て上げたということで、その内の一人ジェームズ・ トーニーは、マイクル・マン監督の『アリ』にジョー・フレ ーザー役で出演しているそうだ。 そしてもう1本は、ジェーン・カンピオン監督による“In the Cut”という作品で、スザンナ・ムーア原作のエロティ ックスリラーを映画化するもの。実はこの作品は、元々ニコ ール・キッドマンが原作を気に入って、自ら映画化権を手に 入れていたものだが、今回の計画では彼女自身は出演せず、 製作総指揮を担当することになっている。なお、撮影はこの 作品が先に7月からニューヨークで予定されており、その後 の11月からダントン監督の作品の撮影に入るということだ。 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを公開に合わせて紹介します。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 今回は3月封切りの作品から紹介します。なお、今回の作品 はいずれも3月30日の封切りが予定されているものです。 『少年と砂漠のカフェ』“Delbaran”(英語題名) 『キシュ島の物語』などのイラン人監督アボルファズル・ジ ャリリの最新作。 砂漠の町デルバラン。アフガニスタン国境に近いこの町には 1本の道路が走っていて、その道路沿いに1軒のカフェがあ った。14歳の少年キャインは戦火のアフガンを逃れ、そのカ フェで働いている。 そこには流刑になっている政治犯や、アフガンから出稼ぎに 来ている道路工事の労働者などが訪れる。そして違法に入国 する難民を捕えようとする刑事も。毎日を身を粉にして働く キャインは、実は違法入国者だったのだ。 ジャリリは砂漠地帯を描く映画のロケハン中に、実際にアフ ガン難民の少年キャインと出会い、彼を主人公に物語を変更 してこの映画を作り上げたのだそうだ。そしてこの映画に主 演した少年キャインは、9月11日の事件の後にアフガニスタ ンに戻り、アメリカの攻撃で一時は行方不明だった(その後 イランに戻ってきた)という。 映画の内も外も、揺れ動く世界の一断面が見事に描き出され た作品だ。 それにしても少年が砂漠の中を走る走る、素人の少年に演じ させるのだから、これは演出上のテクニックの一つでもあっ たのだろうが、その走りっぷりが少年の健気さを見事に表現 していた。 なお、映画の製作資金の一部はバンダイとオフィス北野が提 供しており、イラン+日本の合作映画となっている。 『WXIII PATLABOR THE MOVIE 3』 88年から94年に製作された『機動警察パトレイバー』の8年 ぶりに製作された劇場版第3作で、原作はコミック版の『廃 棄物13号』とその続編の『STRIKE BACK(逆襲)』。そして 脚色をとり・みきが担当している。 正直言って日本製のアニメはほとんど見ない方なので、この 原作にも一応設定のインフォメーションは持っている程度で 思い入れは何にもない。そういうスタンスでこの作品を見る と、実に良くできたうまい作品だと思って見てしまった。 ところが思い入れのある当時のファンにはこれが全く不評な のだそうで、配給元ではあわてて短編の『ミニパト』3本を 発注し、併映作品として上映することになっている。しかし この短編が面白いテクニックは使っているものの、画質が荒 くて走査線はやたら目立つし、とても商業作品とは言えない ような代物で、あきれ果てた。 実際、試写からの帰り道でも、周囲からは、この短編が余り にひどい過ぎるという意見が聞こえてきたのだが、試写室で はこれに馬鹿笑いしている連中が何人かいたのだから、結局 そういう連中相手の商売のようだ。 それにしてもこの本編のどこが悪いのだろう。確かにパトレ イバーがほとんど出てこないのは問題だろうが、物語は実に うまくできているし、アニメーションの作りも丁寧で、演出 の水準もかなり高く、こういう日本アニメならもっと見ても いいと思ったのだが。 『ビューティフル・マインド』“A Beautiful Mind” 94年度のノーベル経済学賞を受賞した数学者ジョン・フォー ブス・ナッシュJrの半生を描いた作品。といっても、映画の 原作には彼の伝記が挙げられてはいるが、ゴールデン・グロ ーブ賞でも脚色ではなく脚本賞が与えられているという、見 事に映像化された作品だ。 プリンストン大学の大学院に奨学生として学ぶ若きナッシュ は、MITのウィーラー研究所を目指していたが、そのため に必要な論文が完成しない重圧に苦しんでいた。しかしルー ムメイトのチャールズの励ましの下、ついに彼は、後のノー ベル賞の対象となる「非協力ゲーム理論」を創造する。 これにより念願の研究所に入れたナッシュだったが、周囲か らの期待はさらに彼に重圧を与えて行く。そんなとき彼のも とに国防総省からの依頼が来る、それはソ連から傍受した暗 号無線の解読への協力だった。 その暗号を見事に解いてみせたナッシュは、次に黒いコート に身を包む謎の男パーチャーの訪問を受け、全米で発行され る雑誌の記事に隠されたソ連スパイへの暗号文の解読を要請 される。それは直感だけが頼りの過酷な任務だった。 こうして国家の安全保障を担う秘密任務に従事することにな ったナッシュだったが、聴講生のアリシアと知り合い、任務 のことは秘密のまま結婚し子供が生まれる。しかしその頃か ら、彼の周囲に謎の男たちが現れ始める。そして恐怖に怯え るナッシュは、ついに精神に異状を来してしまうのだが…。 何といってもドラマの作りの上手さが、この映画の全てとい える。確かに47年間を演じ切るラッセル・クロウやジェニフ ァー・コネリーの演技も見事だが。主人公の精神的な動揺を 見事に映像化させてみせた、アキヴァ・ゴールズマンの脚本 の素晴らしさが光った。 この他、 3月2日封切りの『ぼくの神様』は第3回、 『モンスターズ・インク』、 『アメリカンスィートハート』、 『タイムリセット』は第6回。 3月9日封切りの『ヒューマンネイチュア』は東京国際映画 祭の特集。 3月16日封切りの『寵愛』は第2回。 3月30日封切りの『羊のうた』は東京国際映画祭の特集 にそれぞれ紹介があります。 なお、前回紹介した『シッピング・ニュース』について、再 度試写を見る機会があったのだが、2回目に見ても新たな発 見があり、ますますこの作品が好きになってしまった。この 作品がアカデミー賞で全く無視されてしまった理由はよく判 らないが、多分、アメリカの製作会社が他の作品の方に力を 入れたためだろうということで、せめて日本での興行は頑張 ってもらいたい。 それから『羊のうた』についても2度目の試写を見たが、こ の作品も良くできている。特異な状況を扱っているので感情 移入はし難いが、正面からしっかりと描いているところが素 晴らしいと思う。何とかこの作品にも頑張ってもらいたい。
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