井口健二のOn the Production
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2002年02月01日(金) 第8回+無問題2、マリー・アントワネットの首飾り

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 まずは新たな展開で、前々回紹介した“Sinbad”の記事の
中で挙げていた“The Argonauts”を映画化する計画が発表
された。しかも計画しているのは、前回報告した昨年の全米
興行成績で2億ドル突破の大ヒットを達成した『ハムナプト
ラ2』のスティーヴン・ソマーズ監督という情報だ。   
 といってもこの計画は、ハリーハウゼンの作品をリメイク
するというのではなくて、全く新たな物語を作り出すもの。
しかし前々回の記事でも『ハムナプトラ2』のスコーピオン
キングがハリーハウゼンを髣髴とさせると書いた通り、この
新しい計画でもハリーハウゼンが産み出したようなギリシャ
神話の怪物が大暴れするということで、この計画自体が、ハ
リーハウゼンにオマージュを捧げるものと紹介されている。
 物語は、第2次世界大戦前夜という世界情勢を背景に、ト
レジャーハンターのグループがギリシャ神話のイアソンたち
が乗り組んだアルゴ号の沈没地点を探し当てるところから始
まる。そして彼らは黄金の羊の皮などのアルゴ号に積み込ま
れていたはずの財宝の引き上げ目論むのだが、何時しか彼ら
自身がギリシャ神話の世界に迷い込んで、サイクロプスやミ
ノタウロスなどの怪物と闘っていたというもの。脚本は、ゴ
ールデン・グロウブ賞の候補にもなっている“A Beautiful
Mind”の脚色でアキヴァ・ゴールズマンに協力したというサ
イモン・キンバーグが手掛けたものだ。         
 なお今回の計画では、ソマーズと彼の盟友で映画編集者の
ボブ・デュクセイ、それにソマーズの初期の作品を手掛けて
きたジョン・ボールデッチらが製作を担当するが、元々はソ
マーズとデュクセイがハリーハウゼンタイプの作品を作りた
がっていることを知っていたボールデッチが計画を持ちかけ
たものだということだ。そして当初は、『ザ・メキシカン』
の製作者でもあるボールデッチがドリームワークスと契約し
て計画を進めることになっていたが、最近ソマーズとディク
セイがユニヴァーサルと包括契約を結んだために、最終的に
は2社の共同製作で行われることになるようだ。製作開始が
何時になるかは不明だが、順調に行くと04年の公開で、コロ
ムビア製作、ジョン・シングルトン監督の“Sinbad”とぶつ
かることになるかも知れない。             
 それにしても、立て続けにハリーハウゼン関連の話題が登
場しているが、彼は91年の第64回アカデミー賞で科学技術部
門の特別表彰を受けてはいるものの、彼の往年の作品は候補
にすら挙げられたことはなく(49年の受賞作『猿人ジョー・
ヤング』は実際には彼が手掛けたものだが、一般には『キン
グ・コング』のウィリス・B・オブライエンの作品とされて
ハリーハウゼンは受賞者にはなっていない)、ハリウッドの
表舞台からはほぼ完全に無視され続けていただけに、この突
然の再評価の高まりには長年のファンとして、嬉しさと共に
驚きを感じてしまうところでもある。          
        *         *        
 お次はちょっと奇妙な情報で、“Deathwatch”という全く
同じ題名のホラー映画の計画が2本発表されている。   
 その1本目は、ジョール・シルヴァが主宰する恐怖映画専
門の映画会社ダークキャッスルが製作する作品で、マイクル
・ウェイスという脚本家によるもの。内容は、10代の若者た
ちを主人公に、未来を予言する恐怖のウェブサイトを巡る物
語ということで、『ファイナル・デスティネーション』と、
ドリームワークスでリメイクが行われている日本映画の『リ
ング』を合わせたような作品だそうだ。なおこの計画では、
03年のハロウィン公開を目指して、ダークキャッスルの最優
先計画となっている。                 
 そしてもう1本はイギリスで進められている計画で、『リ
トル・ダンサー』のジェイミー・ベル主演による超常現象を
扱った作品。第1次世界大戦中の戦場の塹壕を舞台に、兵士
たちが見えない怪物に付け回されるという内容のもので、監
督はこれがデビュー作のマイクル・J・バセットが担当して
いる。因にこの作品の当初のタイトルは“Who Goes There”
というものだったようだが、これはSFホラー映画の名作と
言われるクリスチャン・ナイビー監督の51年作品『遊星より
の物体X』(ジョン・カーペンター監督によるリメイク作品
『遊星からの物体X』(82)もある)の原作となった小説の題
名と同じで、それではまずいということになったのだろう。
 先日行われた『アザーズ』のアレハンドロ・アメナーバル
監督の記者会見でも、「当初は“House ”という題名だった
が、別の作品が先にあったので変更した」という発言があっ
たが、今回はほとんど同時に両者の題名が発表されており、
その行方は一体どういうことになるのだろうか。     
        *         *        
 続いては、20世紀の大富豪ハワード・ヒューズを巡る話題
で、まずはヒューズの謎に包まれた生涯を映画化する計画が
本格的になってきそうだ。               
 ヒューズは05年テキサス州ヒューストンに生まれ、17歳の
時に亡父の跡を継いで地元の会社を経営するも、26年には自
己資金を使ってハリウッドに進出、映画製作を開始して48〜
57年にはRKO映画の実質的な経営者となり、ジェーン・ラ
ッセルやジーン・ハーロウらを映画界に送り出している。ま
た、ヒューズ・エアクラフトを設立して自らの操縦でスピー
ド記録に挑戦する傍ら、8機のエンジンを搭載した巨大水上
飛行機などを開発。さらに複数の航空会社やラスヴェガスに
ホテルを所有するなど華やかな暮らしぶりが話題になった。
しかし晩年は人前に姿を現わすことがなくなり、一説には薬
物中毒になっていたとも言われているが、76年にメキシコか
らのテキサスに向かう飛行機の中で亡くなっている。   
 このヒューズの波乱に満ちた生涯を映画化する計画は以前
から幾度も発表されていた。その中には、“Ali ”のマイク
ル・マン監督で、レオナルド・ディカプリオが主演するもの
や、監督のヒューズ兄弟とジョニー・ディップが『フロム・
ヘル』の前に進めていた計画などが報告されたが、なかなか
実現に向かわなかった。                
 その計画がようやく実現できそうになってきたもので、今
回発表されたのはリチャード・ハックが執筆した“Hughes:
The Private Diaries, Letters and Memos”という本を映画
化するもの。この本は、ヒューズの腹心と言われたロベルト
・マヒューが保管していた日記や手紙を基に執筆されたもの
だが、さらにマヒューは映画化に際してはハックの本に使わ
れなかった分の日記なども提供するとされている。    
 そしてこの本の映画化権をキャッスル・ロックが獲得し、
『メメント』で注目のクリストファー・ノーランの脚色、監
督、ジム・キャリーの主演で映画化する計画が発表された。
なおノーランは、現在はアル・パチーノ、ロビン・ウィリア
ムス共演による“Insomnia”という作品を監督中だが、出来
るだけ早く“Hughes”の脚色に取りかかり、早急に映画化を
進める計画だということだ。              
 そしてもう1本、ヒューズが関わった謎の事件の映画化の
計画も発表されている。                
 この計画は、“3 Miles Down”と呼ばれているものだが、
冷戦さ中の68年に、ハワイ北西 760マイルの海域で沈没した
ソ連の原爆ミサイル搭載潜水艦が発見され、この引き上げに
アメリカ海軍とハワード・ヒューズが関ったとされるもの。
しかし引き上げ自体の結果も明らかにされておらず、またこ
の直後からヒューズの隠遁生活が始まったという謎の事件を
巡る物語だ。                     
 そしてこの事件を映画化する計画では、99年にニック・フ
ァラッキとシェリル・ハートンの脚本を、『逃亡者』のアン
ドリュー・デイヴィスが監督するということで、“Cord War
Submarine Project”という仮の題名で発表されたことがあ
ったが、その後音沙汰がなくなっていた。ところが最近にな
ってこの事件を扱った“The Jennifer Project”という本が
クライド・バールスンという作家の手で執筆され、この本の
映画化権を獲得した製作者たちがデイヴィスを招請して再び
映画化が進められることになったというものだ。因に本の題
名は当時のヒューズが呼んでいた作戦の暗号名だそうだ。 
 なおこの計画は、9月11日の事件で延期されていた『コラ
テラル・ダメージ』の公開がようやく始まったデイヴィスの
次回作として急浮上することになりそうだ。       
        *         *        
 後は短いニュースをまとめておこう。         
 まずは続編の情報で、5月3日の全米公開が予定されてい
るソニー=コロムビア映画“Spider-Man”の続編の計画が早
くも発表になっている。これは主演のトビー・マクガイアが
2本の続編の出演契約書にサインしたというもので、その1
本目は03年1月に撮影開始の予定だそうだ。マーヴェル・コ
ミックスのスーパーヒーローの映画化は、これで少なくとも
3部作にはなるということだ。             
 お次も続編で、と言ってもかなり間が開いてしまったが、
82年に史上初の本格的なCG映画として話題になった『トロ
ン』の続編“Tron 2.0”が計画されている。監督は前作と同
じスティーヴン・リスバーガーが担当、すでにリチャード・
ジェフリーズの手になる2つの原案が上がっているというこ
とだ。ただしこの作品は劇場用ではなくて、直接DVDで発
売される模様だが、前作から20年が経って、進化したCGI
は一体どのような世界を見せてくれるのだろうか。    
 最後に前回報告した“Memoirs of A Geisha”の続報で、
監督に予定されていたスティーヴン・スピルバーグの降板が
発表された。理由は別の作品がすでに進行しているためとい
うことで、この進行している作品とはレオナルド・ディカプ
リオ主演の“Catch Me If You Can”のことのようだ。この
ため製作者は、前回報告したキャスティングのやり直しの前
に、まず監督の選考を行わなければならなくなった訳だが、
そのタイムリミットは4〜6週間の内ということだ。   
                           
                           
                           
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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを公開に合わせて紹介します。※
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今回は2月封切りの作品から紹介します。        
                           
<2月9日封切り>                  
『無問題2』“無問題2”               
ナイナイ岡村主演の香港映画第2弾。          
2年前の第1作は見ていないのだが、撮影中に骨折などのア
クシデントがあり、岡村本人が不満足だったそうだ。   
その思いを注ぎ込んだ第2弾だが、相手役に往年のクンフー
スター=ユン・ピョウと、現在香港映画で若手人気ナンバー
1といわれるサム・リーを招き、特にユン・ピョウは、現在
はカナダ在住で香港映画への出演はほとんどないというのだ
から、これは注目だ。                 
そして内容は、前作ではアクシデントのためにほとんどでき
なかったというクンフー・アクションがふんだんに盛り込ま
れて、特に中盤から後半に掛けてのアクションシーンはかな
り見られるものになっている。             
といっても岡村がやるのだから限界はあるのだが、『グリー
ン・ディスティニー』のパロディにもなっているワイアー・
ワークのシーンなどは結構様になっていた。       
まあ全体はお笑い映画で、岡村=関西と香港コメディのノリ
でやるのだから、それはかなり疲れる部分もあるが、これは
多分、岡村のファンには堪らないものなのだろう。    
映画のパロディも今更という感じのものも多かったが、中で
修業でペンキ塗りをするシーンがあって、ユン扮するクンフ
ーマスターが「良いものは何処からでも取り入れる。これは
ハリウッド映画からだ」と言ったのには笑えた。今時、『ベ
スト・キッド』を覚えている人なんて…。        
                           
<2月16日封切り>                  
『マリー・アントワネットの首飾り』          
              “Affair of the Necklace”
フランス革命の引き鉄になったと言われる「王妃の首飾り事
件」を描いたコスチュームプレイ。           
この事件のお話は、デュマの『王妃の首飾り』や池田理代子
の『ベルサイユのばら』でも有名だが、これらの作品のよう
にフィクションを交えたものではなく、1786年に高等法院で
判決の下された実際の事件の記録に基づくもの。といっても
この裁判自体が真実を伝えているものかどうかは判らないと
いうことだが…。                   
この物語には、ダルタニアンもオスカルも出てこないが、替
りに登場するのはジャンヌ・ド・ヴァロアという女性。彼女
は王位についたこともあるヴァロア家の末裔と称して(真実
だったらしい)王室に接近して行く。その目的は、生家ヴァ
ロア家を再興すること、そしてその目的のためには手段を選
ばないと決意するジャンヌだったが、その目的とは裏腹に事
件は進行し、やがてそれは革命の引き鉄となって、王妃を断
頭台へと送り出してしまう。              
まあこれだけの事件を2時間弱の作品にまとめてしまってい
るので、背景などはあまり詳細には描かれていないが、それ
でも裏で動き回る宮廷大臣が、結局は民衆の不満を煽り立て
てしまう辺りは、何だか最近のどこかの国の政治のどたばた
を見ているようで面白かった。             
といっても当時の民衆にとっては飛んでもない話な訳で、18
世紀のフランスではこれで革命が起こってしまうのだが。 
                           
 この他、                      
2月2日封切りの『ジェヴォーダンの獣』は第1回、   
        『地獄の黙示録』は第2回、      
        『オーシャンズ11』は第3回、     
        『マルティナは海』は第4回。     
2月9日封切りの『化粧師』は東京国際映画祭の特集、  
        『恋ごころ』は第4回。        
2月16日封切りの『沈み行く女』は第6回。       
2月23日封切りの『ヘドウィク・アンド・アングリー・インチ』は第4回
にそれぞれ紹介があります。              


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