2002年01月01日(火) |
第6回+モンスターズ・インク、アメリカン・スウィートハート、タイムリセット、沈みゆく女 |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※ ※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※ ※キネ旬の記事も併せてお読みください。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願い いたします。 ということで、今回はまず新ネタから紹介しよう。 日本では『ブレードランナー』の原作者として有名なSF 作家の故フィリップ・K・ディックが、作家デビューの翌年 の53年に発表した7100語の小説“The King of the Elves” を映画化する計画が発表されている。 この原作は、昨年映画化されて日本先行公開となった『ク ローン』(原題“Impostor”)などと同じディックの初期の 作品群に含まれるもので、お話は、人付合いの下手なガソリ ンスタンドのサーヴィス係が、とある雨の日にエルフたちの 訪問を受け、彼らの王に選ばれる。そしてエルフたちのリー ダーとしてトロール族との絶望的な闘いに挑むというもの。 作者本人が、「これはSFではなく、ファンタシー」と称し ている作品だ。 そしてこの作品の映画化権を、ディズニーとジム・ヘンス ン・ピクチャーズが獲得し、その脚色を、『シンプソンズ』 を手掛けていたウォリー・ウォロダスキーが担当することが 発表されている。エルフだのトロールだのと言われると、今 の時期はどうしても“The Lord of the Rings”が思い浮か ぶが、ウォロダスキーはむしろ『シュレック』のような作品 を目指したいということで、夏公開の大作映画になるように 脚色が行われているようだ。 なお、ヘンスン・ピクチャーズでは、第3回で紹介したよ うに岩明均原作の和製コミックス『寄生獣』(アメリカ題名 “Parasyte”)の計画をドン・マーフィと共同で進めている が、一緒に紹介した“Astro Boy”(鉄腕アトム)の映画化 にも参加しているということだ。 そしてこの“Astro Boy”の映画化では、先に全てCGI によって製作されることが発表されているが、今回の“The King of the Elves”の映画化では、もちろんVFXは多用 されるがCGIによるキャラクターの製作はしないというこ とで、エルフたちも全て人間の俳優によって演じられるとさ れている。といってもヘンスン・ピクチャーズは、元々マペ ッツを手掛けてきた人たちなので、ここでいう人間の俳優と いうのがどういう意味なのかは未確認だ。 公開時期は未発表だが、早い完成を期待したい。 ところでこの記事は、Daily Variety紙に載ったジョナサ ン・ビングという人のコラムを基にしたが、このコラムでデ ィックの紹介が製作中の“Minority Report”で書かれるの は当然としても、過去の代表作が『トータル・リコール』に なっていて、日本では絶対人気の『ブレードランナー』には 全く触れられていなかった。確かに興行成績で見ると、『ト ータル』が1億1900万ドルに対して、『ブレード…』は 7500万ドル以下でその評価によるものかとも思えるが、 実はガイドブックの評価でも、『トータル』が星3つに対し て、『ブレード…』は星1つ半ということで、この2作に対 する日米の評価の違いが面白いところだ。 * * お次ぎは往年のシリーズ復活の情報で、人形アニメーター のレイ・ハリーハウゼン(『モンスターズ・インク』ではレ ストランの名前にもなっていた)が手掛けたダイナメーショ ン特撮による作品で、58年の『シンドバッド七回目の航海』 “The Seventh Voyage of Sinbad”、74年の『黄金の航海』 “The Golden Voyage of Sinbad”、それに77年の『虎の目 大作戦』“Sinbad and the Eye of Tiger”と製作されたシ リーズの新作の計画が発表された。 このシリーズは、「アラビアンナイト」の盗賊ヒーロー、 シンドバッドを主人公にしたもので、毎回「アラビアンナイ ト」に登場するいろいろな怪物がハリーハウゼンの人形アニ メーションで再現されて、人気を博していた。特に第1作の 『七回目の航海』では、クライマックスに登場した骸骨戦士 との剣戟シーンが素晴らしく、これが63年に製作されたハリ ーハウゼンの代表作『アルゴ探検隊の大冒険』“Jason and the Argonauts”の成功へとつながっていったものだ。 しかし人形を俳優の演技に合わせて一駒ずつ撮影し、合成 するダイナーメーション技術には途方もない時間と労力が要 求され、徐々にその技術は失われていった。ところが最近に なって、『ハムナプトラ2』のスコーピオンキングや、『ハ リー・ポッター』の怪物などに往年のハリーハウゼンを髣髴 とさせるシーンがCGIで再現され、同時にハリーハウゼン の業績への再認識が進んでいたようだ。 そして今回、そのハリーハウゼンが手掛けた『シンドバッ ド』の再開が発表されたもので、ここではどうやらCGIを 駆使してハリーハウゼン・ワールドの再現が目指されること になるようだ。製作はハリーハウゼンの諸作のアメリカ配給 を手掛けたコロムビア。 なお今回の計画では、すでに脚本に“T3”のオリジナルを 手掛けたデッド・サラフィアンが契約され、監督は『ポエテ ィック・ジャスティス』などのジョン・シングルトンが発表 されている。シングルトンといえば黒人監督の代表格とも言 える人物で、その監督がシンドバッドとはちょっとイメージ が繋がり難いが、その辺の経緯が明らかになったらまた紹介 したい。公開は03年か04年の夏ということだ。 * * お次も続編の話題。と言ってもこれを続編と呼んで良いも のかちょっと悩むところだが、97年に公開され、オスカー脚 色賞と助演女優賞を受賞した『L.A.コンフィデンシャル』 の続編で、原作者のジェームズ・エルロイが92年に発表した “White Jazz”の映画化計画が発表されている。 この作品は、『ブラック・ダリア』に始まる「暗黒のLA 4部作」の最終話に当たるものだが、シリーズとしての映画 化権は設定されていなかったようで、今回の映画化は俳優で エルロイの親友とも言われるニック・ノルティが主宰するキ ングスゲイト・フィルムスとLAに本拠を置くインターライ トで行われることになっている。 従ってスタッフキャストも総入れ替えで、前作でケヴィン ・スペイシーとラッセル・クロウ、それにガイ・ピアースが 演じた刑事役は、今回は製作者でもあるノルティとジョン・ キューザックが演じることになっており、また相手役にはウ イノナ・ライダーが交渉されているということだ。 確かに原作では前作『L.A.…』の何年か後の話のようだ が、それにしてもノルティは、前作の3人とは20歳前後以上 も年上な訳で、一体どの役を演じるのだろうか。監督はロバ ート・リチャードスン。製作費には2800万ドルが計上さ れ、その資金の大半はドイツの製作会社が提供することにな っている。 またシリーズ第1作『ブラック・ダリア』の映画化権は、 監督のデイヴィッド・フィンチャーが持っているそうだ。 * * 続いては、またまた往年のテレビシリーズからの映画化の 計画で、74−78年に放送された『600万ドルの男』“The Six Million Dollar Man”を映画化する計画が発表された。 このシリーズは、グレゴリー・ペック主演で映画化された 『宇宙からの脱出』“Marooned”などでも知られるマーティ ン・ケイディンの原作“Cyborg”をテレビ化したもので、不 時着して瀕死の重傷を負った元宇宙パイロットが、現代医学 の粋と 600万ドルの費用を掛けてサイボーグとして甦り、備 わった能力を駆使していろいろな敵と闘うというお話。 この作品を映画化する計画は、95年頃からユニヴァーサル で進められ、すでにケヴィン・スミスによる脚本も作られて いるということだ。そして今回、この計画にミラマックス傘 下のディメンションが加わることが発表されたもので、さら に両社は、ケイディンが執筆した続編の“Operation Nuke” “High Crystal”“Cyborg IV”を加えた全4作の映画化権 を一括して契約し、シリーズ化を目指して映画化を進めると いうことだ。 なおこのシリーズでは、76−78年には女性版の『バイオニ ック・ジェミー』“The Bionic Woman”も放送されていた。 * * 後半は短いニュースをまとめておこう。 最初の記事でも“Astro Boy”のオールCGIによる映画 化について触れたが、この他にも各社からオールCGIによ る作品の計画がいろいろと発表されている。 まず最初はミラマックスからで、“The Cricket in Times Square”という計画が発表されている。この作品はジョージ ・セデン原作の児童書を映画化するもので、ニューヨークの 地下鉄駅に暮らすコオロギを主人公にした物語。人間との交 流を描いたコオロギ版『スチュアート・リトル』のようなお 話ということだが、実写の合成は行わず、オールCGIによ る映画化が予定されている。なお原作は、60年に刊行された 第1作以降、全6巻が発表されているそうだ。 もう1本はユニヴァーサルからで、長年検討されていた絵 本“Curious George”の映画化もオールCGIで進められる ことが発表されている。この作品は日本でも人気のある悪戯 者の猿を主人公にしたものだが、一時はスター俳優を主演に した実写での製作が検討されていた。しかし最終的にオール CGIによる製作が決定されたもので、監督には『モンスタ ーズ・インク』の共同監督のデイヴィッド・シルヴァーマン の起用が発表されている。なおこの原作も全7巻のシリーズ になっている。 この他、ユニヴァーサルからは、ジョン・ニックル原作の “The Ant Bully”や、モーリス・センダク原作の“Where the Wild Things Are”といった作品のCGIによる映画化 の計画も発表されているが、今回の発表でその先陣を“Curi ous George”が切ることが決まったようだ。 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介します。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『モンスターズ・インク』“Monsters,Inc.” 『トイ・ストーリー』などのピクサー製作、ディズニー配給 のCGIアニメーション最新作。 モンスターが子供を脅かすのは、実は子供の悲鳴を集めて彼 らの世界のエネルギー資源として使うため。ところが最近は 子供たちが恐がらなくなり、モンスターの世界は慢性的なエ ネルギー不足に見舞われていた。 そんな中でも、毛むくじゃらの怪物サリーと目玉の親父のよ うなマイクのコンビは、悲鳴集めのナンバーワンの成績を上 げていたが…。ある日、彼らの世界に人間の子供が紛れ込ん でいるのを発見してしまう。それはモンスター世界にとって は存亡の危機だったが、実はその裏にはとんでもない陰謀が 隠されていた。 『シュレック』の製作者のジェフリー・カツェンバーグは、 来日記者会見でディズニーアニメを子供向きと決めつけてい たが、この作品では背景にエネルギー問題があったり、主人 公の父性が扱われたり、かなり大人向きと言えないこともな い展開になっていた。 しかもピクサーお得意のスピード感あふれる映像は、大人に も充分楽しめる作品になっている。これで、来年のアカデミ ー賞から新設される長編アニメーション部門の初の受賞作の 行方が本当に判らなくなった。 物語の中では、ハリーハウゼンという名前のレストランが登 場し、そこの店主がタコというのは55年製作『水爆と深海の 怪物』“It Came from Beneath the Sea”へのオマージュだ と思うが、その店がジャパニーズレストラン(寿司屋)とい うのは一体どういう意味なのだろうか。 『アメリカン・スウィートハート』 “America's Sweethearts” ビリー・クリスタルの脚本で、ジュリア・ロバーツ主演によ るラヴ・コメディ。 理想のカップルと呼ばれ、共演作は大ヒット連続のスターカ ップルが、ある作品の共演後に妻の浮気が発覚、夫はノイロ ーゼになり、以後バラバラに出演した作品は失敗の連続。し かも切っ掛けとなった共演作品はカリスマ監督が編集権を独 占し、編集が終わるまではプロデューサーも見ることができ ない。 そんな監督から完成の連絡があり、もう失敗の許されないプ ロデューサーはラスヴェガス郊外のホテルを借り切ってのマ スコミ披露を計画、スターの2人も再浮上のチャンスとばか りそこに現れるが…。 ロバーツの役柄はそんなスター女優に振り回される実の妹で 付き人。クリスタルは狂言回し的な宣伝マンを演じる。そし て理想のスターカップルに扮するのが、キャサリン・ゼタ= ジョーンズとジョン・キューザックなのだから、これはもう ハリウッドを見事に凝縮した作品だ。 映画ファンには、ジャンケットと呼ばれるマスコミ披露の裏 側や、我儘言い放題のスター女優、なりふりかまわぬ宣伝工 作に、カリスマ監督に振り回されるプロデューサーなど、い ろいろなハリウッド事情がパロディになっていて楽しめる。 そうでなくてもこの豪華な共演者は、それだけで堪能できる 作品だろう。 なおロバーツは、『オーシャンズ11』の撮影と同時進行で、 この撮影に参加していたそうだ。 『タイムリセット』“Ta Fa Likit” 01年の東京国際映画祭で上映されたタイ国映画『レイン』の オキサイド・パン監督が97年に発表した第1作。 家族公認の恋人同士のジァップとワーン。ところがある日、 ワーンが原因不明の病で意識不明となり、僧侶に助けを求め たジァップはワーンが前世で5人家族惨殺の罪を犯し、その 報いと知らされる。 その運命から逃れる術は、ジァップがこれから死ぬ運命の5 人の命を救うこと。そしてジァップの手には未来を教える白 紙の新聞紙が握られる。 話自体はどこかにありそうなものだが、CF出身のパン監督 はこの物語をスピーディー、かつ丁寧に作り上げている。 事件が解決して新聞記事が消えるときに『バック・トゥ・ザ ・フューチャー』みたいだと言わせたり、ユーモアも適度に あって飽きさせず、結末も期待以上の良さがあった。 この監督は注目しておく必要がある。 『沈みゆく女』“Suspicious River” ローラ・カシシュケの原作を女流監督リン・ストップケウィ ッチが映画化したカナダ映画。 川沿いにあるモーテル、そこのフロントに勤める主人公レイ ラは密かに泊まり客に特別なサーヴィスを提供していた。 その土地で生まれ育ち、生活に不自由がある訳ではない。し かし漠然とした不満が彼女をそのサーヴィスへと向かわせて いたのかもしれない。 そんなモーテルに、噂を聞きつけた一人の男がやってくる。 そして男は言葉巧みに彼女を誘い出す…。 女性のこうゆう行動というのは、僕には理解しがたいものが あるのだが、さすが女性監督ということもあるのか、何とな くその気持ちが伝わってくるような感じもした。 どんよりした冬空の風景は何処となく『ツイン・ピークス』 を思い出させた。内容的にも近いものもあるが、描き方は女 性らしくしつこさもなく、良い感じだった。
|