井口健二のOn the Production
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2001年12月15日(土) 第5回+囁く砂、グレーマンズ・・・、バスを待ちながら、バニラ・スカイ

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 前回は“Charlie's Angels”の情報を紹介したが、今回も
最初に、往年のテレビシリーズの劇場版リメイクの計画につ
いて、善し悪し含めていろいろな情報から紹介しよう。  
 まずは、65年から71年まで続いたコメディシリーズ『00
12捕虜収容所』“Hogan's Heroes”のリメイク計画に動き
が出てきたようだ。                  
 お話は、第2次世界大戦中のドイツ領内の捕虜収容所を舞
台にしたもので、比較的前線にあるこの収容所は、なぜか脱
走者が一人もいないというのが所長の自慢の種なのだが…。
その実体は、ホーガン率いる連合軍の部隊が地下に秘密基地
を設けて、スパイ活動などで後方から送られてきた兵士を連
合軍の領内に安全に逃がすための中継所となっている。そし
てシリーズでは、毎回秘密を守るためとドイツ軍をおちょく
るためのいろいろな作戦が展開されるというもの。因みに邦
題の『0012』というのは、当時放送したのが東京12チャ
ンネル(現テレビ東京)だったために付けられたものだ。 
 このシリーズを映画化する計画は、以前からワーナーやパ
ラマウントなどで進められ、当時はメル・ギブスンが主人公
のホーガンを演じるというのが有力情報として流れていた。
しかし現在レヴォルーションで進められているこの計画で、
ラッセル・クロウの主演が急浮上してきたということだ。 
 オリジナルに主演したボブ・クレインは、78年に強盗に襲
われて不慮の死を遂げているが、元々はDJとしても鳴らし
たというタレントで、最近伝記映画が製作されるなど注目を
浴びてきている。ということでその風貌はファンには印象深
いものがある訳だが、どちらかというと鰓の張った風貌で、
従ってギブスンもクロウも大体その系統の顔立ち俳優が選ば
れているようだ。                   
 製作状況は、すでにショーン・コネリー主演の『ネバーセ
イ・ネバーアゲイン』や『ザ・ロック』などを手掛けたディ
ック・クレメントとイアン・ラ・フレネイスのコンビによる
脚本が執筆されており、後は監督が決まればという段階にな
っているようだが…。                 
         *       *         
 お次は66年から67年に掛けて放送されたアクションシリー
ズ『グリーン・ホーネット』“Green Hornet”の計画で、過
去10年近くこの計画を進めていたユニヴァーサルが、ついに
断念を発表した。                   
 このシリーズは、元々はラジオ放送でスタートしており、
リムスキー・コルサコフの「熊ん蜂の飛行」の音楽に乗せて
ホーネットと空手の達人のカトーが活躍するヒーローアクシ
ョン。世間的にはホーネットは犯罪組織の一員ということに
なっているが、実はそれを隠蓑にして犯罪を暴くことを使命
としており、その秘密を知るものは数少ないという設定。従
って事件を解決した後も、警察にも捕まらないようにしなけ
ればならないという2重の構造になっている。      
 そしてこのシリーズをリメイクする計画では、一時はジョ
ージ・クルーニーとジェット・リーの共演という情報も伝わ
っていて、01年には『ユージュアル・サスペクツ』でオスカ
ー脚本賞を受賞したクリストファー・マカリーと契約して準
備が進められていたのだったが、この脚本の完成をリーのス
ケジュールに合わせることが出来ず、結局この撮影が流れた
ためにユニヴァーサルとしては、準備に1000万ドルを費やし
たこの計画に終止符を打つことになったものだ。     
 ということでオープンになった計画だが、実はその直後か
ら各社が相次いで引き継ぎを表明、最終的にミラマックスが
300万ドルをユニヴァーサルに支払って計画を買い取ること
になっている。なおリーは、オリジナルでブルース・リーが
演じたカトー役に熱意を持っており、製作会社が変わっても
参加の意志に変わりはないようだ。因にミラマックスでは、
傘下のディメンションで計画を進めることにしている。  
         *       *         
 もう1本は新作で、カートゥーンネットワークで最高視聴
率を誇るアニメーションシリーズ“Samurai Jack”を実写で
映画化する計画がニューラインから発表されている。   
 お話は、昔の日本の武士を主人公にしたもので、悪の魔法
使いに父親でもあるエンペラーを奪われた主人公が、鍛練を
重ね時空を超えて悪に挑むというもの。これを『ラッシュ・
アワー』のブレット・ラトナーの製作、監督で映画化しよう
というのだから、面白くなりそうだ。          
 因に、ラトナー監督で01年夏公開された『ラッシュ・アワ
ー2』は、全米で2億2500万ドルの興行収入を上げ、実写作
品では『ハリー・ポッター』に次ぐ成績を記録しているが、
今回計画されている“Samurai Jack”は、アクションとユー
モアを程よくバランスした作品ということで、ラトナー監督
にはベストマッチの作品とニューライン側は説明している。
 脚本は、テレビシリーズのクリエーターでもあるジェンデ
ィ・タートフスキーが担当。なおタートフスキーは、この他
にもカートゥーンネットワークの“Dexter's Laboratory”
や“The Powerpuff Girls”などを手掛けており、この内後
者は、ワーナーで劇場版リメイクが計画されているそうだ。
         *       *         
 リメイクの情報はこれくらいにして、続いては続編の情報
を1つ紹介しておこう。待望の『ターミネーター』の第3作
“T3”の計画がいよいよ本格的になってきた。      
 この計画では、すでに正式題名が“T-3:Rise of the Mach
ines”と発表され、監督のジョナサン・モストウと、主演の
アーノルド・シュワルツェネッガーの準備もOKということ
で、02年の春から夏に掛けての撮影の準備は万端整ったとい
うところのようだが…。                
 お話は前作の10年後、再び現れたターミネーターとジョン
・コナー(エドワード・ファーロング再演)は、未来から送
られてきた女性型殺人サイボーグ、ターミナトリックスと闘
うというもの。脚本は、テッド・サラフィアンのオリジナル
から、モストウと彼の永年の協力者のジョン・ブラッカトウ
とマイクル・フェリスが8カ月掛けてリライトしたものだ。
 ところがこの計画では、実は史上最高額となる製作費1億
6500万ドルのリスクを負うアメリカでの配給会社の決定が遅
れている。因みにこの製作費の高騰の原因は、まずシュワル
ツェネッガーの出演料が3000万ドル、さらにモストウの監督
料が 500万ドルということだが、シュワルツェネッガーは97
年の『バットマン&ロビン』で2500万ドルを達成しており、
今回は主演ということでは当然と考えられているようだ。ま
た、難航しているアメリカ配給権については、製作費の全額
という訳ではなく、テレビの放映権及びヴィデオの権利も含
めて最低5000万ドルあるいは配給収入の50%ということで、
これも比較的妥当な線といえるようだ。         
 ということでこの配給には、一時はユニヴァーサルが有力
と伝えられていたが、03年夏に予定される公開時期は、自社
作品の“The Hulk”がぶつかるということで配給ができない
ことになり、現在はワーナーと交渉が行われているようだ。
なお日本公開は、東宝東和の配給が先に契約されている。 
 最近、シュワルツェネッガーの交通事故の話も伝わってい
るが、撮影までには大丈夫のようだ。          
         *       *         
 お金の話のついでに前回紹介した“Charlie's Angels 2”
で、交渉のまとまったキャメロン・ディアスの出演料は2000
万ドルを突破、これは女優では、『エリン・ブロコビッチ』
でのジュリア・ロバーツに次ぐ記録になったということだ。
一方、製作も兼ねるドリュー・バリモアは先に契約が済んで
おり、ルーシー・リューの再登場もほぼ決まっているという
ことで、これで続編の製作に向けての障害は無くなったと前
回書いたのだが、考えてみたらもう一人のレギュラー出演者
ボスレー役のビル・マーレーが残っていた。前作では撮影中
にマーレーと女優たちの間でトラブルがあったという情報も
伝わっているが、今度はどうするのだろうか。      
         *       *         
 最後に短いニュースをまとめておこう。        
 まずは前回紹介したドン・マーフィ製作の“Astro Boy”
は、オールCGIのアニメーションで製作されることが発表
された。当初の計画ではアトムだけがCGIの『スチュアー
ト・リトル』のような映画ということだったが、計画が変更
されたようだ。公開は04年の夏の予定になっている。   
 日本でも大ヒットしている『ハリー・ポッター』の第2作
“The Chamber of Secrets”は予定通り02年の公開だが、第
3作の“The Prisoner of Azkaban”の公開は、1年遅れて
04年の秋になることが発表された。その理由は、03年には、
同じワーナー配給で『マトリックス』の2本の続編“The Ma
trix Reloaded”と“The Matrix Revolutions”の5月と11
月の公開が決定され、当初03年の11月に予定された“ Azkab
an”の公開にぶつかることになったためのようだ。まあ原作
の第5部の刊行も遅れているようだし、この際、映画製作に
も少し余裕が持てるのも良いことかも知れない。     
 ただし、同じくワーナー系のニューラインで製作公開され
ている“Lord of the Rings”の方は当初の予定通り、03年
に第3部の公開を行うということだ。          
 一方、ニューラインからは、『指輪物語』に並ぶイギリス
のもう一つの大河ファンタシーで、C・S・ルイス原作によ
る“The Chronicles of Narnia”『ナルニア国ものがたり』
の映画化にも乗り出すことが発表されている。この原作は、
魔法が使える異世界ナルニアを舞台にしたもので、物語の順
番では『カスピアンの王子』に始まる7部作だが、発表され
た計画では、第2部で最初に発表された“The Lion, the Wi
tch and the Wardrobe”(ライオンと魔女)からの製作にな
るようだ。なおこの原作は過去にBBCでミニシリーズ化さ
れたことがあるようだが、本格的な映画化は初めてになる。
                           
                           
                           
                           
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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介します。       ※
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『囁く砂』“Pasir Berbisik”             
1960年頃、反乱軍が民衆の生活を脅かしている時代を背景に
したインドネシア映画。                
主人公の母親と娘のダヤは最初は海に近い村に住んでいた。
薬の行商を営む父親の行方は知れず、母親はダヤを呼ぶとき
には、ただ「娘」と呼んで厳格に育てている。      
その村が反乱軍の焼き討ちにあい、母娘はそこに行けば安全
に暮らせるというパシール・プティ(「白い砂」の意味)を
目指して旅に出る。しかしその地は遠く、母娘は途中の山里
に小屋を借りて住み始める。だが、その山里も安住の地と呼
ぶには程遠かった。                  
インドネシアというと熱帯のイメージがあったが、ここに登
場する山里は荒涼とした砂漠の中にあって、時折は白い息も
見える。そんな予想外の風景に驚かされた。       
混乱の時代だからこそ、娘を厳格に育てようとする母親。し
かしそれに反抗する娘との確執は、いつの時代にも変わらな
いテーマのようだ。                  
                           
『グレーマンズ・ジャーニー』             
             *“Journey of the Gray Men”
旅回りで音楽人形劇を見せる老人たちを描いたイラン映画。
いろいろな経緯から昔チームを組んだ3人の老人が数10年ぶ
りに再会、彼らが出会った町に向けて人形劇を演じながら旅
をして行くことになる。そこは1人にとっては故郷であり、
1人にとっては兵役の場所であり、1人にとっては政治犯で
服役した場所であった。                
その旅の間で、いろいろな人との出会いや、革命や大地震の
傷跡が描かれ、アフガン難民などイランの抱える問題が浮き
彫りにされて行く。                  
映画の巻頭で監督が、観客に向かって自分の父親についての
映画を、素人の俳優を使って撮影していることを告げる。実
はこれがちょっとした仕掛けになっていて、映画は途中でス
タッフが登場したり、成りゆきでシナリオを改訂したりと、
ドラマとドキュメンタリーを綯い交ぜにした構成になってい
る。                         
しかしこれがなかなか巧みで、ちょっとあざといところもあ
るがなかなか面白かった。               
原題はアラビア語で、その発音がどうかは知らないが、英語
題名の「グレーメン」は、主人公たちが音楽人形劇を演じて
いることからして、多分「ブレーメンの音楽隊」をなぞった
ものだろう。                     
                           
『バスを待ちながら』“Lista de Espera”        
最近話題作が続くキューバ映画の1編。         
舞台は、ハバナとサンティアゴに向かうバスの待合所。古び
た建物の中はバスを待つ人々でごった返している。しかしよ
うやく来たバスには空席はなく、人々はいつ来るとも判らな
いバスを待ち続ける。                 
待合所には故障したバスがあり、所長は修理して運行しよう
とするが、不調のエンジンの修理は難しい。そして人々が諦
め顔になり、所長が待合所の閉鎖を提案したとき、主人公の
男がバスをもう一度修理しようと言い出す。その輪が人々の
中に拡がって…。                   
後半は、思わぬユートピアが実現してしまうというファンタ
スティックな物語になって行くところがこの映画の面白さだ
ろう。しかしその間に、キューバの現状や、人々の閉塞感の
ようなものが見え隠れする。その辺の巧みさに、この映画の
作者の才能を感じた。                 
                           
『バニラ・スカイ』“Vnilla Sky”           
前回『アザーズ』を紹介したアレハンドロ・アメナーバル監
督の『オープン・ユア・アイズ』を、トム・クルーズが自ら
権利を買い取り、キャメロン・クロウの監督で、ハリウッド
でリメイクした作品。                 
クルーズ演じる主人公は、若くして父親が始めた出版社を引
き継ぎ、成功を納め、彼自身も容姿に恵まれて、キャメロン
・ディアス演じるモデルの女性を恋人に優雅な独身生活を送
っている。しかし周囲には彼から会社の支配権を奪おうと画
策している連中もいた。                
そんなある日、彼に自宅で開かれたパーティにペネロペ・ク
ルス演じる女性が現れる。彼はその女性に魅かれ、彼女の家
まで送って行くが、それ以上のことには至らない。    
ところが彼女の家を出たところに待っていたのはモデルの女
性で、彼女は主人公を自分の車に乗せると、街中を暴走し、
ついに陸橋から落下、彼女は死亡し、彼は顔面に大怪我を負
ってしまう。                     
その怪我は手術で修復されるのだが…。その日から、彼の周
囲の世界に変化が生じ始めた。             
実は『オープン・ユア・アイズ』を見落としていて、オリジ
ナルとの比較は出来ないのだが、物語が全く同じだとすると
『アザーズ』との共通点が見えて面白かった。      
これ以上は何を書いてもネタばれになってしまいそうで、紹
介しづらいのだが、結末には救いがあって僕は好ましく感じ
た。                         
パーティシーンの招待客にも注目。           


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