せきねしんいちの観劇&稽古日記
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2006年02月25日(土) |
「放課後の卒業式」本番その2 3軒茶屋婦人会「女中たち」 写真撮影 |
最後は「未来の友情」。さあ、どうなるか?とどきどきしながら見守る。「放課後の卒業式」の机と椅子は、きれいになくなって、あるのは、グレーのカーペットの道だけ。何もない空間に、4人の子ども達が放り出されているようで、とても心細そうに見える。 でも、やりとりを重ねながら、だんだんその場にいるカラダになっていく彼ら。街の人たちのやりとりの中で、この場所の不思議さがだんだん見えてくるようだ。 最後の練習で、彼らにからむ4人の街の人たち役の彼らに、「どうして相手をしないのか理由を考えてごらん」と言った。今日の本番では、それぞれの理由がよくわかった。カツマくんは、腕時計を気にしながら、走り抜けていった。 この4人の役は説明をいっぱいしなくちゃいけないし、この街の雰囲気も出さないといけないしで、彼らはとっても悩んだんじゃないかと思う。暗い人なんだけど、ちゃんと言葉は伝えてねとか、僕は難しい要求をいっぱいした。 今日の本番では、このシーンを下級生の子たちが、楽しそうに笑いながら見てくれていた。話を聞かないかたくなさと、それをおいかける4人のやりとりが、シンプルにとてもおもしろいものになっていたからだ。 チカちゃんに細かくお願いした動きの演出も、4人が一緒になって動くことで、さらに彼女の中にとまどいが生まれて、さらにおもしろくなった。 氷の城の場面。ヒカルくんとマサミくんの門番二人がやっぱりおかしい。ぼけとつっこみの典型だ。 彼らと一緒に登場して、1人2本、木の板を持って立っている、とらわれている街の人たちの並び方がとってもきれいになっている。きっと打ち合わせしたんだろうなと、ありがたい。 氷が登場して、門番が2人を舞台上に追い上げるところ、そして、牢の中に閉じこめられた4人が、木の棒をつかんで「出せよ」と叫ぶところ、実際には全然リアルじゃない演出なんだけど、とてもよくわかる。 門番が去ると、街の人たちは「きみたちもつかまったんだね」と言って、木の棒を大きな音を立てて倒す。すごい音が効果的だ。これも、稽古のとき子供たちに「どうして倒すんですか?」と聞かれた。僕は「その方がかっこいいから」と答えた。納得してくれてありがとう。 街の人たちは、舞台のへりに一列になって腰をかける。牢の鉄格子はなくなって、ここは牢の中だ。4人の子どもたちは、彼らの後にいる。街の人たちは、正面を向いたまま、しゃべる。この場面も、さらに全然リアルじゃない。ここはどこだ? でも、こうした方がおもしろいし、よくわかる。練習しながら、僕が「こうやってみて」とお願いした。このあたりの演出は、理屈で考えると「リアルじゃない」ということで、ひっかかってしまうことばかりだ。でも、出演している彼らは、この「芝居の嘘と約束」に、軽々とのっかって生き生きといい芝居をしてくれた。 照明の卓がある下の舞台下からは、このとき舞台に並んでいる街の人たちがとてもよく見えるんだそうだ。伊藤さんから、後から聞いた話だと、この場面の彼らはほんとに「はんぱじゃなく気の抜けた顔」をしていたらしい。たしかに「一緒に逃げよう」と炎に言われて、「無理無理……」と手を振るマキトくんをはじめ、みんなやる気のない無気力な表情(そういう役だからね)。 ボールは取り上げられてしまったけど、遊ぶことはできると、炎を中心に「見えないボール」でキャッチボールを始める。まずは4人で、つづいて、街の人たちも加わって。 そうすると、それまでの牢屋はぐーんと広がって、というか、牢自体がなくなって、子ども達は、舞台からフロアに降りて、大きく広がってキャッチボールをする。これもまた「芝居の嘘」だ。さっき道を聞いたりした4人の街の人たちも合流してしまう。 にぎやかな声を聞いて、氷と門番が登場。炎は、氷に向かって「一緒に遊ぼう」と見えないボールを投げる。でも、氷は受け取らない。というか、「くだらない」と言って、見ようとしない。 僕は、この瞬間がとても好きだ。それまで見えることになっていたボールが、やっぱり見えないんだということに、観客が気がつく瞬間。それまで、登場人物と一緒にボールを見ていた観客が、ふっと、ボールが見えない氷の立場になる瞬間。本番では、この瞬間、低学年の子ども達から笑いが起こった。ちゃんと彼らはボールを見たり、見なかったりしていてくれた。すごいことだと思う。 続いて、氷は、「友情なんて信じない」という長台詞を語る。ここは、原作者のオオタくんが書いたセリフのまま。オーディションのとき、同じセリフで観客をうならせたヒデキくんのハレの舞台。途中、声が心配になるところがあったけど、ちゃんと伝わる声で語ってくれた。 その言葉を聞いて、4人の子ども達の間に動揺が生まれる。それでも「友達はだいじだ」と、炎が歌い始める。「大切な友情」。 ここでこの芝居は急にミュージカルになる。みんなで書いた詞、みんなで作った曲。まずは炎役のジュンヤくんのソロから始まる。仲間たち、街の人たちと歌う人はどんどん増えて、それまで、客席で見ていた他のチームのメンバーも、立ち上がって、歌い始め、フロアに移動して、氷に向かって歌いかける。「泣く前に笑おうよ、友達となら笑いあえる」「友情は見えないけれど、一緒ならば笑いあえる」。 ここもまたすごいスペクタクルになった。舞台上に立つ氷1人に対して、残りの全員(今日はお休みが2人なので、72人。門番は、いつのまにか武器の棒を置いて、街の人たちに合流している)がユニゾンで歌う「大切な友情」。 歌が終わると、炎は氷に背を向けて、体育館の後まで駆け出す。そして、一番遠くから、舞台上の氷に向かって、見えないボールを投げる。今度は受け取る氷。みんな拍手! ここのジュンヤくんはほんとにかっこよかった。そして、氷も炎に見えないボールを投げ返す。また拍手! この場面は、はじめ、舞台前のエリアでやりとりしていたのだけれど、本番直前に、健翔さんからアイデアをもらって、大きく距離をとってやってもらうことになった。彼らが見えないボールを見る視線と同じに、見ている下級生たちもボールを目で追っていたのがうれしい。この芝居全体のクライマックスだ。 「友達になってもいい」と話す氷。「やった!」と喜ぶみんな。と、地震が起こる。これも「ここだけは効果音入れたほうがいいかね?」と篠原さんに話したところ(稽古中)、「足音でいい、足音で」と言われ、「やっぱ、そうだよね」と決めたところ。街の人全員で足を踏みならしてもらった。今日の半番では、見ている下級生たちも一緒になって足踏みしてくれた。で、この「放課後の卒業式」という芝居全体の中で、唯一の暗転。次の場面のため、4人の子どもたちは、フロアのまんなかに横たわり、他の全員は、舞台前のひなだんに整列する。 と、ほんとに真っ暗になってしまった。照明は、伊藤さんにおまかせ。暗転中の移動は基本的にないから、最初の板付き以外、場当たりのような稽古は一度もしてない(照明が入ったのは今日が初めてだし)。フロアで見ていた、僕たちは青くなった。健翔さんも、篠原さんも、「点けて!」と叫ぼうとしたそうだ。でも、明かりは点かなかった。真っ暗闇の中、子ども達は、パニックを起こすこともなく、移動していた。 これは、あとから伊藤さんに聞いた話。彼も、初め、しまったとおもって点けようと思ったんだそうだ。でも、暗がりのなか、位置を確認しながら、慎重に移動するこ子ども達のようすが見えたので、あえてそのままにしたとのこと。 僕は、今でも、この瞬間のことを思うと、胸がいっぱいになる。練習もしてないのに、子供たちは、蓄光テープを頼りにして、正確な自分の位置に暗闇のなか移動した。お互いに助け合いながら。見えないけれど、ほんとにすばらしかった。 暗転のトラブルでやけに時間がかかるというようなこともなく、当たり前のように明転すると、整然と並ぶ子ども達、それに、床に倒れていた4人が起きあがる。 「ここはどこ?」「学校じゃん」と指さすライアンくん。彼は、ちゃんと体育館の壁を見てしゃべってくれた。これで、不思議な街が、まさに今ここ、体育館になる。 ひなだんの子ども達のまんなかにいる氷が、立ち上がって、さっき取り上げたボールを投げ返す。投げたあと、するっとまた座るヒデキくん。 空から落ちてきたボールを受け取って、今度はまた見えないボールにそれぞれ氷へのメッセージを書いて空に投げる4人。遠くのボールを見送って、終わり。 ひなだんも前に一列に並んでお辞儀して、彼らもひな壇に上がっていく。 で、「卒業証書授与」。高木先生への卒業証書を、みんなで読み上げていく。といっても、卒業証書自体はない。みんなで前にいるだろう高木先生に向かって、言葉を伝えていく。この卒業証書のなかみは、みんなに書いてもらったものを篠原さんが構成したものだ。印象的なフレーズがいくつもある。カイくんが書いてきた「リストラされんなよ!」も、ちょっとていねいな言い方になって、ちゃんと生きている。 「卒業おめでとうございます!」と全員で言って、最後の歌「華道(さくらみち)」が始まる。「大切な友情」もそうだけど、誰に歌ってるのかがちゃんとわかる歌って、なんて心に届くんだろう。子供たちがみんなでつくったメロディも、畑先生の編曲もすばらしい。 歌が終わって、終奏になると、子ども達は体育館を出ていった高木先生にむかって走り出す。「全員が」じゃなくて、行きたい人だけ。きっちり並んだひなだんの列から、降りていくのは、簡単なことじゃないのに、彼らは当たり前のようにやってのけた。手を振り、声をあげながら。そして、最後のピアノの音と一緒にゆっくりと暗くなっておしまい。 僕は、体育館入口で暗幕を押さえながら見ていたので、子ども達が手を振る姿を正面から見るかたちになった。特等席だ。 子供たちは、全員がいったんひな壇にもどって、下級生にお礼の言葉。そして「送る会」は終わった。午後には、保護者向けの発表が、もう一回ある。 昼休み、校長室で、給食をいただきながら、感想を言い合い、確認をいくつか。「未来の友情」の暗転の話は、ここで聞いた。「じゃあ、今度はどうする?」という話になったのだけれど、「さっき、できたんだから、今度もだいじょうぶ。彼らを信じよう」とそのままで行くことにした。 午後の発表と、その後のシンポジウムに向けて、劇作家教会のみなさんが、続々来校する。横内さんとごあいさつ。 午後、舞台の確認をしてから、特活室に集合。みんなと最後の打ち合わせ。さっきの感想を伝えて、最後の「作戦タイム」をチームごとに。「未来の友情」チームでは、午前中の感想を言い合ってもらった。いいこと、よかったことがたくさん出たほかに、「あそこが困った」というのもいろいろ。セリフが出ないと思ったので、先につづけたら、あとから言われて困ったという話。言われたライアンくんは、「どこ忘れたの?」とよくわからないようす。「作戦タイム」の時間が終わって、集合するまでの短い間に「僕、どこ忘れた?」と聞かれた。僕も「あそこだよ」とちゃんと言ってあげられなかったので(ごめん)、「もし、また間違えてもだいじょうぶ。さっきと同じように、みんながたすけてくれるから。覚えたことをそのままやってごらん」と話す。 彼は、僕に「セリフってどうやって覚えればいいんですか?」と聞いたことがある。日本語のセリフを、しかもあんなにたくさん覚えるなんて、僕が同じ立場だったら、とてもじゃないけどできないと思う。でも、彼はほんとによくがんばった。彼のがんばりが、みんなのやる気に火を点けたと思う。 午後の発表は、保護者のみなさんと、来賓のみなさんの前で。 今度は、さっきと反対側の客席の上手側奥、子供たちがスタンバイしているあたりに立ってみさせてもらう。 二度目ということもあり、のびのびとしたいい芝居になった。大人たちを前にしてみると、午前中の下級生のノリがどんなののびやかですばらしかったかがよくわかる。保護者のみなさんは、ちゃんと見ていてくれるけど、反応がおとなしめ。花道をはさんで反対側に座った劇作家教会のみなさんは、笑い声をあげながら見ていてくれて、子ども達はどれだけ、やりやすくなっただろう。そして、無事終演。 終演後、シンポジウムの前に、特活室で最後の挨拶。見に来てくれた扉座のみなさん、シンポジウムより子供たちに会いたいと来てくれた、永井さん、えり子さん。えり子さんは、「大切な友情」を目の前で力一杯歌っていた子の姿に涙がとまらなかったそうだ。「高木先生がうらやましい」と言っていた。永井さんは、「こういう感動を見ている人に与えたくて、芝居を始めたんだということを思い出しました。ありがとう」と子ども達に話してくれた。 講師と先生方が、一人一人挨拶をして、解散。僕たちは、シンポジウムに参加。といっても、後のほうでお話を聞くだけ。今年も多くの保護者の方が残っていてくださった。パネラーとして登壇していたマツムラくんのお母さんから、マツムラくんの話がきけてうれしかった。 終了後は、後かたづけ。寒いなあと思った体育館だけど、照明機材を片付けようとギャラリーに上ったら、とっても暑かった。やっぱり熱気は上にいくんだ。 先生方もみなさんで片づけを手伝ってくれる。その間に、知らなかった子ども達のようすをいろいろとうかがう。「絶対、振り返っちゃだめだからね」と言った最後に振る桜を、高木先生にむかって駆け出しながら、うまく振り返って見た子がいたとか。「すっごいきれいだった」って言ってたそうだ。 暗くなるまでかかって撤収終了。雨の中、打ち上げの席へ流れる。先生方一人一人の感想をうかがう。とてもいい時間。最後に若林先生と握手してご挨拶した。 帰り、伊藤さんが車で途中まで送ってくれるとのことで、同乗させてもらう。「どこまで?」と聞かれ、「今日は気分がいいから、どんな遠回りでも平気」と答える。「俺も」ということで、結局、はるばる西日暮里まで送ってもらった。道中、僕の知らない子ども達のようすをいろいろ聞く。照明卓からでないとわからないあれこれ。卓はピアノの横、下手側のひな壇の奥にあった。コウヘイくんの笑顔もマキトくんの表情も、暗転中の子ども達の様子も、このとき教えてもらう。 卓の前には座ってはいけないと言ったので、居場所のない子供が、卓の後の壁際にまわりこんで座っていたそうだ。でも、そこからは舞台の様子は何も見えない。午前中の一人目の子は、しかたないので、座ったまま「ピアノをなでていた」。午後の二人目の子は、ピアノの下にもぐりこもうとしたのだけれど、それはまずいと思い、結局、ピアノの脚を自分の足でかかえこんで体育座りをしていたそう。「同じ子じゃないんだ?」と聞いたら、「うん、一度、来た子は二度と来ない」と。なるほどね。 伊藤さんと別れてからも、とてもいい気分のまま、地下鉄に乗り、帰ってくる。 ほんとにいい日、いい夜だった。みんな、どうもありがとう。
(あまりにも長文だったので一日分にアップできませんでした。読みにくくてすみません。ていうか、長すぎてごめんなさい。書きとめておきたいことがありすぎたもので……)
2月25日(土)3軒茶屋婦人会「女中たち」 絶対王様写真撮影
3軒茶屋婦人会「女中たち」@本多劇場を見に行く。篠原さんと劇場で待ち合わせ。篠井英介さん、深沢敦さん、大谷亮介さんの出演。 青井陽治さんの新訳で、すっきりとわかりやすい、エンターテインメントになっていた。豪華な装置が、実は吊られたもので、壁がぐらぐら揺れるとか、登場の前に舞台前のスペースをゆっくり歩くシーンがあったり(銀橋みたい!)、おもしろい工夫がいっぱい。 大谷さんのソランジュは、無骨なかんじが、ぴったり。篠井さんのクレールは、奥さまごっこでの気品と、うって変わって、地のクレールのときの下品なかんじの変化が見事。姿勢、特に足の開き方がすごい。場末の女郎のような、だらしなくゆるんだかんじ。 深沢さんの奥さまは、ぽっこりしたお腹とそれを強調するようなドレスからして、もうチャーミングで、いるいるこういう人!なかんじだった。 終演後、チケットをお願いした深沢さんにご挨拶。「みなさん、男前でとってもステキでした」とお話しする。 篠原さんと、富士見丘の次年度の打ち合わせを喫茶店で。打ち上げから一足先に帰った篠原さんに昨日の様子と、それをふまえての感想を言い合う。 先生と全校の生徒に僕たちが協力してつくった昨日の舞台。まるで「劇団富士見丘小学校6年生」ってかんじだと話す。1年から5年生までは研究生。大人たちはそれぞれ違う、関わり方で6年生を支えている。
夜、絶対王様のオープニングCG用の写真撮影。東北沢の稽古場にて。小林くん、トシくん、アルピーナさんと、待ち合わせ。笹木さんたちとも一緒になって、歩きながらおしゃべり。 無事に撮影が終わったあと、一足先に失礼して、帰り道、アルピーナさんとフライングステージチームで打ち合わせ。衣装の相談を中心に。アルピーナさんに、候補の衣装の画像を見せてもらう。ほー、なるほどね。だったら、僕はどうしようか?と考える。 夜、演出助手の寺谷さんから、お願いしていたアプルの舞台のあれこれ(回り舞台のことなど)や、装置についてのメールをいただく。イメージしていたことの実現がやや無理そうなことが判明。あっさり捨てて他のプランを検討する。
セブンアンドワイに読んでおきたい本を注文する。アマゾンと違って、手数料、送料無料で近くのセブンイレブンで受け取れる。普通にありそうなのに、探すのが大変な本が、ほんとに簡単に手に入るようになった。
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