せきねしんいちの観劇&稽古日記
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2006年02月24日(金) |
富士見丘小学校 6年生を送る会「放課後の卒業式」本番その1 |
富士見丘の駅に8時に着いて歩いていたら、ふじみ学級の前原先生と会い、学校までお話しながら歩く。リハーサルが見られなかったとのことで、こんなところがすごいですよ!というところをおしゃべりする。 昇降口の前で低学年の子ども達に会う。僕の金髪がめずらしいようで、じーっと見ている。この間は、小さな声で「香取慎吾?」と言われた(!)。僕はこの一年、なるたけ、学校にいつもはいない「違う存在」としてここに来ようと心がけてきた。金髪もそうだし、ひげもそう。先生方と一緒になってしまうのは、とてもいいことだとは思うのだけれど、子供たちには、なにかひっかかるものを感じてもらいながら、つきあっていきたかった。「おはようございます」と挨拶して校長室経由、体育館へ。 元々の舞台の前面に置かれたひな段のへりに蓄光テープを貼っていく。田中さん、里沙ちゃん、それに扉座の研究生の安達さんも来てくれて、一緒になってわたわたと。伊藤さんと篠原さんは照明のチェック。 昨日の予定では、特活室に集合ということだったのだけれど、照明の入った体育館を見て置いてほしいということで、体育館に集合してもらう。 8時45分、子ども達がやってくる。客入れの照明になっている体育館を見て、「すごい」「すっげぇ」と声をあげている。よしよし。 全体の挨拶のあと、それぞれのチームで最終打ち合わせ。大きな問題が2つ。演劇授業チームの男の子が一人、風邪のため欠席。山本健翔さんと篠原さんで代役の相談。そして「未来の友情」チームでは、氷役のヒデキくんが遅刻との連絡があったそう。彼がいないと芝居ができないので、一瞬どきっとするが、きっと来ると信じて待つことに。 演劇授業チームに舞台を明け渡して、未来の友情チームは、丸くなって打ち合わせ。この期に及んでも、炎役のジュンヤくんに細かい演出のお願いをする。ここ数日、一日毎に違うことを追加でやってもらっている。それにきっちり応えてくれて、どんどんよくなっている彼だからこそのこと。 最後の場面の歌、「桜道(はなみち)」の背景で桜吹雪が舞台に降る。子ども達は、正面にいる高木先生を見ているのでうしろに降る桜は全く見えない。昨日から、「絶対に見ちゃだめだからね」と言っていたのだけれど、やっぱり見られないのは気の毒なので、この時間に一回降らせて見ることにした。今、見せてあげるから、本番は絶対に振り返らないよと話して。 伊藤さんの照明をあてて、田中さんが桜吹雪を降らす。すっごいきれい。子供たちのなかから歓声が上がった。よしよし。 それぞれのチームに分かれて打ち合わせているとき、竜崎役の彼が、「(小道具の)ランドセル忘れた!」と言って、教室に走っていった。子ども達何人かと体育館の外の入口のところで待つ。しばらくして校舎から出てきた彼に「走るのおせーよ」とか言っているようすは、芝居のなかの彼らとこれっぽっちも変わらない。 彼が戻ったあと、トイレに行きたくなって、外のトイレに入ったら、となりの個室から物音がする。用を済ませて振り返ったら、モップがにゅーっと出てきた。すぐにナオキくんが登場。いたずらされたらしい。「そんなひまあったら、練習する!」と言って出てくる。ナオキくんの出番は、演劇授業の即興劇「エレベーター」のBチーム。このノリならだいじょうぶと思いながら、なんだこの余裕は?と感心する。 2時間目は下級生による「6年生を送る会」なので、6年生はいったん特活室へ移動して、スタンバイ。でも、まだ打ち合わせをつづける。 と、ヒデキくんがやってきた。濃い色味のジーンズに同じ色のGジャン。それに白いセーター、光る糸が織り込んであって、とてもきれい。氷っていう役にぴったりだ。見ていたココちゃんが「お、気合い入ってるね」と言った。遅刻してドレスアップって、なんだかすごいなあと、妙におかしくもあり、頼もしくもなってくる。それを受け入れている側のみんなもね。 ヒデキくんを交えて、最後の打ち合わせ。そして、並んで入場する彼らを残して、講師陣は一足先に体育館へ。「自分がやるよりどきどきする」と篠原さんと言い合う。 初めは、下級生による「6年生を送る会」。この会の最後が、下級生からのお祝いの言葉や出し物のお礼に6年生が披露する演劇、「放課後の卒業式」だ。 去年は盛りだくさんの演目で、クイズなんかがあったりしてとても盛り上がったのだけれど、今年は、6年生の演劇が長いので、とてもシンプルなものになったのだそう。 合奏や合唱、お祝いの言葉などなど、それでもまっすぐに届くものばかり。なかでも、5年生の出し物がおもしろかった。贈る言葉を全部リズムに乗せて歌う。歌詞は6年生にアンケートをとって作ったそうだ。なりたいものに「貿易商」なんてのがあって、一体だれが?と思ったりする。 とてもラップっぽいんだけど、すっごい「日本」なノリが底に流れていて。合いの手の「ある、ある」とか「そう、そう」とか「うん、うん」なんてのも、とってもユニーク。 で、6年生の舞台。本番1回目。僕は、保護者の方が途中入場してくる入口の暗幕を押さえて立っていた。本来のステージからは遠いけれど、フロア全体を使うので、ここからでもよく見える。 それまでの送る会の間は開けていたギャラリーの暗幕を閉めて、客入れの照明に変わる。体育館が急に全然違う空間に変わった。 全員で声を出す目覚まし時計の音で「放課後の卒業式」が始まった。 始まってすぐ気がついたのは、声がよく聞こえることだ。全校生徒が集まったせいで、反響が適度に吸われたのだろう。それに、出演している6年生も実際に伝えたい相手がいることで、格段にやりやすくなったにちがいない。 まずは、本舞台での朝の場面。雪の朝のいくつもの家族の風景。窓を開けて、雪を見る子ども達。親や兄弟とのとても自然なやりとり。 最後にコウヘイくんが「わーい、雪だ、雪だ!」といいながら、舞台を降りて、下手袖まで走る。今日は、ランドセルを振り回して、すごいのり。客席からも笑い声があがった。 あとで、下手袖のピアノの横に照明の卓にいた伊藤さんから聞いたのだけれど、笑いながら、下手に飛び込んで来るコウヘイくんの笑顔は、それは素晴らしかったとのこと。そして、ひっこんだあと、客席の反応を受けてのやった!という、また違った笑顔も、実によかったそうだ。 場面は変わって、教室。「高木先生、学校やめるんだって」という噂をみんなで話している。外では、2人の男子が雪合戦。窓を開けてのやりとり、そして、彼らも教室にやってきてのやりとりが続く。 もともとの台本では、この2人の雪合戦は実際に演じる予定ではなかった。でも、稽古中に2人が自主的に雪合戦を始めて、稽古場が体育館に移ってもそれは継続。ところが、教室でのやりとりが、遊ぶ2人の靴音に微妙に邪魔されてしますことがわかった。どうしたらいいだろうかと、大人たちは話し合った。で、思いついたのが、マットを敷くということ。体育館にあったマットを敷いてその上で雪合戦してもらう。体育用のマットのふかふかしたかんじが、雪の上で遊んでるのに近いかも。何より、音がしないし、色も白い! やってみたら、これはとてもいいアイデアだということがわかった。片付けるときに、いっそ、雪だるまをつくって、丸めてみたらという案も出たのだけれど、マットの裏は滑り止めのゴムがひいてあって、緑だったので却下。 マットを使っての初めての練習のあと、2人が「すっごい疲れた」と言っていたので、「途中で雪だるまつくってみてもいいんじゃない?(マットじゃなくね)」と提案したのだけれど、今日も2人は、最後まできっちり雪合戦をしつづけて、教室にかけこんできた。マットは、スタンバイしている他の場面に出演する子供たちが片付ける。 次の場面は、なんで学校をやめるのかということを高木先生に聞いてきた女子2名が、クラスのみんなに報告。「少し早い卒業式」をしてほしいと言った高木先生のために、「放課後の卒業式」をやろうという話をする。なんで卒業式なのか?という討論がずっと続く。クラスの子たちそれぞれのキャラクターが実におもしろい。 稽古の間、僕たちは、一度も「こうやりなさい」とセリフを言って指導したことはないと思う。だから、彼らは一人一人、全然違うスタイルでセリフをしゃべっている。スタイルという自覚もないかもしれないが、そのくらいみんなが一人一人特別で、自分としてそこにいるための努力をしたんだと思う。この、教室の場面では、それが特に感じられた。 「何をやろうか?」「合奏?」「花束贈呈」とアイデアがいろいろ出る中、最後に「演劇がいいと思います」という意見が出る。 この意見を出すのはリョウタくん。そっと手を挙げて、ミカコちゃんに「さっきからカリヤくんが手を挙げてます」と言われて(この場面は、黒板の前に司会と書記がいる、学級会の形式だ)、おそるおそる話しだす。そのかんじのうそのなさ。意見を言ったあと、片足を椅子の脚にひっかけて、すっと引き寄せて座るスムーズさと一緒に、大好きな場面。 演劇をやろうということになったあと、教室の装置(机と椅子×12セット)は出番を待っている子ども達によって片付けられる。口々に、「演劇だって……」などと「好きなこと」をいいながら、わらわらと出てくる子ども達。元々はただ片付けるだけだったのが、生き生きとおもしろい場面になった。(午後の上演では「冬のソナタがやりたい」なんて言ってる子もいた) ここからは高木先生の「放課後の卒業式」になる。体育館のカーペットの先にいる高木先生に向けて、挨拶し、解説をしながらすすむ。 まずはダンス。全員が登場して踊る。49秒。ダンス自体もかっこいいが、この「全員が登場する」というのが、ほんとにかっこいい。スペクタクルだ。全員が登場して、踊って、さあっと退場する。 つづいて「演劇授業」。エレベーターが止まってしまい、乗り合わせた人たちがさあどうするか?といった即興劇。前期の永井さんの授業でやったことを元にした創作。即興のおもしろさは活かしながら、流れはほぼ決めて、全員でつくりあげていった。 Aチームから。10Fまでしかないはずのビルのエレベーターが、100Fまで行ってしまう。ドアが開いて、降りてみると、そこは不思議な世界。彼らはとっても小さくなってしまって、元のままの巨大なクラスメートとやりとりをする。 はじめに外に出される小柄なコウスケくんが、「この白いのなんだ?」と指さしたら(それは実は消しゴム)、客席の最前列に座っていた一年生が、一斉に指さす方を向いた。小さなこどもは、実に素直にこの「見えないもの」を見てくれた。そして、今回の1時間強の上演時間、彼らは、この想像力を使わないといけない、出演者と一緒に見えないものを見なければいけないこの芝居に、ずっと集中して、とても楽しんで見ていてくれた。 Bチームは、エレベーター型タイムマシーンで3000年経ったらどうなるかという実験だったということが最後に明かされる。右往左往していた人たちは、最後、サルになったり、ロボットになったり、妖怪になったりしてしまう。 エレベーターは、図工で作った木の板(棒)を四隅の柱に見立てた。2つのチームは、エレベーターの位置を、フロアの全然違うところに設定した。これは、子ども達が、自分でどこでやったらいいかを話し合った結果だ。最後に登場する科学者たちの話す位置も同様に。 「演劇授業チーム」は、即興劇ということだったのだけれど、練習を積み重ねるうちに、だんだん「こんなかんじ」というふうにゆるやかにお話が決まったものになっている。本当の意味での即興ではないのだけれど、彼らが発する言葉とそれを受けている聞き方は、とても嘘がなくて、書かれた設定でセリフをどうしゃべるかということとは、全然違うものになっている。何より、彼らが楽しそうにやっているのがいい。 続いて、「世界の子供たち」。戦争や内戦で苦しむ世界の子供の子供たちの手紙を、みんなで語る。「ここにいない人のことを思ってみよう」という授業でやったことの発表だ。舞台と、客席の後側、体育館全体を使った演出。「たすけて」とか「殺さないで」といった叫びが、稽古のときは、なかなか叫びにならなかった。今日はきっちり聞こえてくる。 一人お休みしてしまった子の代役はナオキくんが台本を手にして読んだ。朝から、代役の可能性をさぐっていろいろ試した結果、やっぱり台本を持とうということになった。本番は、そのことで損なわれたものは何もない結果。朝、健翔さんを中心に、演劇授業チーム全員は、ぎりぎりまで、真剣に打ち合わせをしていた。その姿が、ひとつの成果と言えるんじゃないかと思う。 (翌日の日記に続く)
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