せきねしんいちの観劇&稽古日記
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2001年12月17日(月) グリング「3/3(サンブンノサン)」 フライングステージ稽古

 東京芸術劇場小ホール1に、グリングという集団の「3/3(サンブンノサン)」という芝居を見に行く。
 橋口亮輔監督の「ハッシュ!」の舞台版。
 もっとも、これは映画を「原作」にしたオリジナルの舞台。
 「ハッシュ!」はエキストラでちょこっとだけ出てるせいで、試写を見せてもらったんだけど、とってもいい映画だ。
 ゲイのカップルに、子供を生みたいと言ってくる女の子の話。
 いや、ちょっと違うな。
 子供を産むことで、自分がまだ人とつながれるってことを確認したい女の子の話。
 まあ、それ以前に、この映画の中で、描かれるゲイの姿は、そのカップルとしてのありようにしても、一人一人の生き方にしても、とっても「今」だ。
 映画は、その「今」なかんじを、ムリに作り上げるのではなく、さらっと見せてくれているところが、とっても心地いい仕上がりになってる。
 橋口亮輔監督の映画の中では、一番好きだなあ。
 で、グリングの「3/3(サンブンノサン)」。
 場面は、病院の待合室の一杯道具。
 時間もリアルタイムの1時間45分。
 肺ガンで今にも死にそうな父親の見舞いに来ているゲイのカップルの片一方。
 遺産相続の放棄のための書類に捺すハンコを持ってきてほしいと連絡して、パートナーを呼ぶ。
 もちろん父親にも家族に彼は、カミングアウトしてないんだよね。
 この役は映画では田辺誠一がやってる。この舞台では、円の石井英明。
 彼の高校の同級生の女の子が、入院している。子宮筋腫でね。映画の片岡礼子の役。舞台では、円の高橋理恵子。
 病院には、彼女の父親の同僚のタクシー運転手が入院してたりして、そのへんから、いろいろな情報が明らかになってくる。
 全部が、病院内のうわさ話としてね。
 このへんがうまいとおもったな。
 無理矢理、リアルタイムの一杯道具に詰め込んだっていうかんじがしなくって。
 で、原作通り、彼女は、「子供が産みたい」っていう話をする。
 カップルの片一方はもちろん反対。映画では高橋和也がやってたこの役は、蔵澤満っていう役者さんがやってる。僕は、はじめてなんだけど、とってもよかったねえ。
 そこに、なんだか追い詰まっちゃってる看護婦だとか、父親の見舞いに来てる兄夫婦とか、なで入院してるかわからない、子供が産みたい女の同室にいる太った女とか、その女の夫とかがからんでくる。それから、病院の向かいにある食堂のおばちゃんとか。
 通常の使い方とは違って、真ん中に演技エリア=待合いスペースをはさんで客席が対面式になってるのもおもしろかったねえ。
 役者さんたちは、みんな、ちっともおおげさなことをするんでなく、それでも、リアルな1時間45分のなかで、とっても大きな事件が、淡々とすすんでた。
 初めは反対してたカップルの片一方が、「少しだけ」歩み寄るっていうのが、変化といえば変化なんだけど、そのへんがとっても微妙だよね。
 リアルな1時間45分の中で、いったいどれだけ、変わっていけるのか。
 でも、この芝居の中では、そのかんじがとってもちょうどいい。
 「少しだけ」なところがね。
 一番の見どころは、高橋理恵子が(ゴメン、今、役名がわからないので)、自分がどうして子供を産みたいのかを、ゲイの兄嫁(佐藤直子)に話すところ。
 この芝居は、どこでもそうなんだけど、みんなが、自分の言葉を、紡ぎ出してしゃべってるようすがとってもよかった。
 この場面の、高橋理恵子の、言葉を、そして思いを探ってるかんじは、よかったなあ。
 結果出てきた言葉が、相手にちゃんと伝わってるのかどうか、それもわからない。でも、言わずにはいられない。そんな言葉にならない想いがね。
 芝居がおもしろいのは、言葉ではない何かが伝わってくるからだ。
 だから、今、僕が、言葉に直そうとしてるのは、とっても意味がないことなのかもしれない。
 だって、ほんの一瞬の間に、どれだけ書いても書ききれないほどのものがそこにはあったんだから。
 兄嫁役の佐藤直子も、よかったなあ。映画では秋野暢子がすっごい良かったんだけど、全然違うキャラクターが、ちゃんと成立してる。
 今日中に相続放棄のハンコをもらってよ!っていうこだわりも、せこいんだけど、納得がいくしね。
 この芝居の中では、もしかすると一番、振り幅の大きいかもしれないこの役を、とってもきちんとやってた。
 あと、おもしろかったのは、ずっと明るいフラットな照明の中でみんなが芝居してるせいか(ラストで微妙に変わってってたけど)、役者さんの顔色が変わるんだよね。興奮すると赤くなったりして。それがとっても新鮮だった。笑って真っ赤になったり、しろーくなってったりね。
 タクシー運転手のセリフの「新宿2丁目ってあるでしょ。ゲイのサファリパーク」なんていうのに大笑いしながら、多くを語らないで、今のゲイのありようをちゃんと見せてくれてる、作、演出、そして、役者たちに、僕はとっても感動して帰ってきた。
 うん、いい芝居だったよ。とってもね。
 負けてられない。またしてもそう思った。
 夜は、フライングステージの稽古。
 映画「犬神家の一族」をもとにした「贋作・犬神家の一族」。
 同じ「映画をもとにした芝居」でもスタンスが全然違う。
 何しろ、こっちは「パロディ」だからね。
 映画の「スタイル」と「ディテール」を、遊んでしまおうとしてるわけだから、一幕一場なんかには絶対にしない。
 今日は新しい場面の台本を持っていった。
 佐武殺しの犯行現場がわかって、そこの現場検証。そして、珠世の尋問。
 再現シーンで、二人が展望台で出会ってた場面が繰り返される。
 それから、佐清の手型合わせの場面。
 珠世役のアルピーナさんがいないので、軽く読んで、できるところを立っていく。
 最後は、小夜子役の早瀬くんが珠世に「佐智さんを選んだら怨むわよ!」というところまで。
 遺言状の公開の場面から、ここまでで30分弱かかった。
 全部で60分におさめないといけない。でも、なんとかなるだろう。

 ああ、でも、いつかまた、一幕一場の芝居やりたいなあ。
 そんなことを思った、今日の観劇&稽古なんでした。


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