せきねしんいちの観劇&稽古日記
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2001年11月07日(水) |
録音 READING SESSION「桜の園」 朝までコース |
声のお仕事でお世話になる「Lavi Soft」さんへ、WEB上で公開する「コメント」の録音に行く。 すっかり遅刻してしまったので、ごめんなさいのおみやげに「茂助」の団子を池袋の東武で買っていく。 「茂助」は、築地の場内にある団子屋さんで、大昔に河岸でバイトをしてた時いらいのひいきだ。築地は遠いけど、デパートの中ではここでだけ売ってるので、時々、買ってくる。 録音は、2つのうちの1つが、あっという間に終了。もう1つは、僕の自己紹介なんだけど、もう一度、原稿を考え直して、来週にリベンジということにしてもらう。
その後、友だちのオカダさんと、サントリーホールの小ホールで「桜の園」のリーディングに。 企画自体は何となく知ってたんだけど、どうしようかなと思ってたのを、さそわれて、慌ててチケットをとった。 ほんと、行ってよかった。見て(聞いて)よかった。とってもいい舞台だった。
READING SESSION「桜の園」 サントリーホール・小ホール
作 :チェーホフ 訳 :神西 清 潤色:堀越 真 演出:金子こうじろう
配役 ラネーフスカヤ:山田五十鈴 アーニャ :田中美里 ワーリャ :島田歌穂 ガーエフ :三橋達也 ロパーヒン :市村正親 トロフィーモフ:高嶋政伸 ピーシチク :桜井大造 シャルロッタ :火田詮子 エピホードフ :稲垣雅之 ヤーシャ :尾崎右宗 ドゥニャーシャ:鳥居かほり 浮浪者 :神戸 浩 フィールス :内山恵司 語り :丹阿弥谷津子
原作の四幕の戯曲を1,2幕と3,4幕をくっつけて、全2幕の上演。 舞台は、客席に大きく張りだしたT字型。 手前から奥に向かって、三段の段が組んである。 一番上に、布張りの豪華な椅子が2つ。その左右に木の素朴な椅子が3つずつ。 一段降りたところに同じ木の椅子が2つ。もう一つ下にまた2つ。 音楽とともに暗転すると、オープニングに丹阿弥の語りが入る。 「今、私の庭にある桜の木は、あの桜の園にあった桜ではありません」 っていうような。 このホールの背景になってる、木の壁に桜のシルエットが浮かぶ。 聞きながら、僕は、「これはラネーフスカヤの回想なのね……」と思ってたんだけど、途中で年老いたワーリャの回想なんだってことがわかる。 これはとっても「やられた!」ってかんじだった。 「桜の園」っていう芝居全体が、ワーリャの回想の劇として再構成されてる。 語りが続く中、登場人物が順に登場してきて、椅子に座る。 一番上の豪華な椅子には、ラネーフスカヤとガーエフ。その下手側にアーニャとドゥニャーシャとヤーシャ。上手側に、ワーリャとシャルロッタとエピホードフ。 真ん中の段に、ピーシチクとフィールス。一番下に、ロパーヒンとトロフィーモフ。 これは、「階級の順」なんだね。上から順に。後から気が付いたんだけど。 ゆっくりすわった全員がシルエットで浮かび上がると、何だか、もうすごい迫力だった。 陰の語りの途中で、今、舞台にいるワーリャ、島田歌穂が語りを引き継いで終える。 一度暗転して、本編が始まる。 うまくできたオープニングだった。 本編ね、一言で言えば、「キャスティングの勝利」ってところかもしれない。 だって、こんなに見事なイメージキャストってちょっとないと思う。 みんながみんな「ぴったり」だった。 今回の企画は、リーディングをずっとやってた高島政伸が、山田五十鈴と市村正親の舞台を見てたら、二人のトークで「いつか『桜の園』がやってみたい」っていう話が出たんで、そのまんま楽屋に行って、「僕が企画しますので是非!」って言って、実現したんだそう。 すごいよね。 見直しちゃったよ、高島おとうと!! よくこれだけのキャストを集めたってかんじ。 山田五十鈴のラネーフスカヤは、往年の東山千栄子(小津の「東京物語」のおばあちゃん。俳優座に所属して、ずっとこの役をやってた)はこんなだったんだろうなって思わせる、おっとりした、「女王」のようなラネーフスカヤだった。 たとえばね、原作の二幕のピクニックの場面で、浮浪者がやってきて「おめぐみを!」って言うんだけど、いつものラネーフスカヤは、浮浪者におびえて、「銀貨がないわ。じゃあこれ」って金貨をあげてしまう。桜の園が競売にかけられるっていうくらい、お金に困ってる人なのにね。 山田五十鈴のラネーフスカヤは、ちっとも動じないんだ。浮浪者にね。 神戸浩さんの浮浪者は、とっても「異質」で、この人だけ、座ってないで、この場面で初めて客席のドアから登場する。 だけど、芝居をちゃんとするわけじゃない。 リーディングだから、本を持って、客席に向かって「おめぐみを!」って言うんだ。 すっごい迫力があるから、みんな「キャー」とか言ってるんだけど(ほんと)、山田五十鈴はちっとも動じない。 で、段の一番上で、「銀貨がないわ。じゃあこれ」って金貨を投げてしまう。 その同時なさとおうようなかんじが、すごくてね。 すぐ後で、みんなに怒られるんだけど、これまたちっとも動じないで「ロパーヒンさん、後で貸してくださいね」なんて言う。 この場面で、僕は、全然OKになってしまった。 山田五十鈴は、歩くのも大変そうで、声も終盤になると、ちょっとかすれ気味になるんだけど、とにかくずっとマイクなしでしゃべってた。 いつもはだいたい日本髪のかつらのイメージなんだけど、今日は、金髪を結い上げてて、それもまた見れてよかった。 この頃は喜劇として取り上げられる「桜の園」なんだけど、これは、ほんとにオーソドックスな、どちらかと言えば「古くさい」演出がされてる舞台なんだけど、山田五十鈴っていう人をラネーフスカヤにしたことで、それが「失われていってしまう、なつかしいもの」のお話にちゃんとなってた。 他の役者もみんなよかった。 まず、市村正親のロパーヒンは、「たたき上げ」なかんじがちゃんとしてるのがいい。 もういい年なのに、劇中の「農奴のせがれで、子供の頃は棒きれでおやじになぐられてた」っていうセリフがあると、小さな子供の面影がちゃんと蘇ってくる。 これはすごいと思った。 前に「ラブレターズ」っていう朗読のお芝居のこの人を見てるんだけど、それは何だかお行儀が悪くてね、もっとちゃんとやって!ってかんじだったんだけど、このロパーヒンはほんとよかった。 山田五十鈴とのコンビっていうのもよかったんだと思うけど。 ワーリャの島田歌穂は、手堅い芝居をきっちりしてるし、アーニャの田中美里は初初しい。来年の一月には新国立で「かもめ」のニーナをやるんだってね。 高島政伸のトロフィーモフは、万年大学生の理屈ばっかりなところが、キャラクターにぴったりだった。 フィールスの内山恵司さんは、見事なフィールスだったな。神西清の訳なので、うちの「オープニング・ナイト」で登場するセリフがまんまラストのセリフなんだよね。どきどきした。 ヤーシャの尾崎くんは、とってもかわいくってね。昔の織田裕二みたいなの! フランス帰りの気取り屋のヤーシャがとってもいい出来だった。 彼がいつも座ってるのが、僕のちょうど正面で、かなり「堪能」しました(笑)。 休憩の挨拶を尾崎くんがして、ここから、ピアノとバイオリンとチェロの楽団が入ってきて、演奏を始める。 2幕が始まると、この人達は、舞踏会に呼ばれてきた「ユダヤ人の楽団」ってことになって、舞踏会の場面の音楽をずっと演奏する。 サントリーホールっていうのは、もともと音楽のホールだから、この演出も心憎かったね。 2幕の頭にもワーリャの語りがあって、「競売の当日に舞踏会をやると言って、お母様はきかなかった」って言うんだけど、これは、原作の戯曲にちゃんと書かれてないんだけど、とっても大事なことなんだよね。うまい脚色だと思った、ほんと。 競売から帰ってきたロパーヒンが「桜の園は俺が買った」っていうところは、やっぱりよかったな。市村さんは、リーディングなのに、ほとんど芝居だった。 僕は、この辺で泣けてきてしまってね。 今まで「桜の園」っていう芝居は何本も見てるんだけど、泣いたのは初めて。 最後、みんなが出ていった後(みんなが椅子から立って、客席に背中を向ける)、フィールスが一人残って、セリフを言って、本編は終わり。 ワーリャがこちらに向き直って、最後の語りをして、暗転。 おしまい。
拍手とともに、舞台が明るくなるとみんなこっちを向いていて、カーテンコール。 最後に、みんな引っ込んでいくんだけど、拍手は止まなくてね。 山田五十鈴はほんとに歩くのも大変そうで、市村さんと高島弟に手を引かれてるんだけど、もう一度戻ってきた。 客席の何人かは立ち上がって拍手してて、僕も立ち上がったんでした。 なんだか、ほんと、いいものを見たって気持ちです。 話はちょっと変わるんですが、僕はデビュー前の高島弟の舞台を見たことがあって、その舞台(別役実の「雰囲気のある死体」)で、彼は包帯でぐるぐる巻きにされてる病院の患者の役をやってました(セリフはなくて、ただ、うなってるだけ)。 今日の舞台で、エピホードフをやってたのは、その劇団にいた稲垣さん。 あれから、十何年って経ってるのに、まだこうやって一緒にやってるんだっていうのが、何だかうれしくって、やっぱり「いいやつ」なんだなあと思いました。 客席には、お母さんの寿美花代さんがいらしてて、さすが「芸能一家」ってかんじ。 あと、犬のぬいぐるみを抱いた星由里子さんも。山田五十鈴はぬいぐるみ大好きだそうなので、「ぬいぐるみ友だち」か?ってかんじ。
終演後、オカダさんと新宿に出て、ご飯、そして、アイランド→ココロカフェで「朝までコース」になっちゃいました。 おもしろい芝居を見て、芝居の話をたくさんして、とってもいい夜でした。 アイランドでは、西野浩司さんと会って、パレードの話をたくさんして、それもうれしかったな。
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