せきねしんいちの観劇&稽古日記
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2001年11月05日(月) 「夜曲」稽古初日 自転車

 11月30日初日の「夜曲」の稽古初日。
 「夜曲」というのは、僕が所属する劇作家の集団「作劇舎」のメンバー山崎哲史くんの戯曲。大がかりじゃなくてもいいから、自分のかいたものをさくっと上演できるといいねという話をしていたところ、7月にフライングステージが稽古場発表会をやった、新宿の鍋茶屋コンフォール劇場が、規模的にぴったりということで、話がどんどん決まった。
 で、「いいから、やっちゃいなよ。やりたいと思ったことはやらなきゃだめ!」とあおった僕が、演出を引き受けることになった。
 男と女の二人芝居で、出演は、桜澤凛さんと丁田政二郎くん。
 桜澤さんは、僕の円の養成所時代の同期で、作劇舎の例会で「読み手」として協力をしてもらっているという縁からの出演。今彼女は、声優の仕事をしている女優さん。
 いつかいっしょに芝居をしたいと思ってて、「ひまわり」が今のような形になる前、「普通のホームドラマ」として構想してたときに、「寅さんのパロディをやるんだけど、僕の母親役をやってくれないかな」と話をしたことがあった。たしか「陽気な幽霊」の再々演の芸術劇場小ホールだったと思うけど。
 「ひまわり」はご存じの通り、あんなふうに芝居の構造が変わってしまったので、その話は「なんとなく」流れてしまっていた。
 今回、ようやく一緒に芝居ができることになった。もっとも、僕は演出のみなんだけど。
 丁田くんは、僕が昔通ってた朗読のワークショップ「舌体舎」からの知り合い。「舌体舎」は演出家の川和孝さんの主催する会で、出来たばかりの両国のシアターΧで何度かワークショップ公演を行ったりしてる。
 僕が、参加したのは、ちょうど今から十年前で、僕は芝居をやめてた頃だった。友だち(やっぱり円の養成所の同期)が一人で行くのは何だからと僕を誘って、僕は、「どうせやるなら、ゲイだってカミングアウトして、芝居をしよう。そうじゃないと、もう一度やる意味がないから」、そう思って、また芝居を始めたんだった。
 舌体舎では、新しく参加したメンバーに「私の俳優としての適性について」という作文を書かせて、それをみんなの前で「朗読」させるというのが、しきたりだった。
 僕は、自分がゲイだとカミングアウトして、「僕は、自分じゃない何かにはなりたくない。僕はどこまでも自分でいたい。それが僕にとって俳優になるということだ」と書いた、今思うと恥ずかしいような作文を読んだ。
 それを聞いたみんなは、川和さんを含めて、僕を受け容れてくれた。
 フライングステージはその直後に始まってる。
 あの「決意表明」がなかったら、今の僕はきっといなかったと思う。
 その「舌体舎」のメンバーだったのが丁田くんだ。
 彼は、テアトルエコーの養成所の研究生だった。卒業後、声優の勉強をしていて、今はプロダクションに所属している。
 NHKの「大人の試験」という短い番組で声優の大塚明夫さんと一緒にアテレコの勉強をしているのが、彼だ。
 この間まで、中村玉緒さんの舞台に出演して、明治座から、スタートして日本全国を回っていた。
 稽古は、今日がはじめてなんだけど、1ヶ月ほど前に、一度だけ読み合わせをした。
 1ヶ月のブランクは、丁田くんの度公演のスケジュールのせいだったんだけど、上演時間も短い二人芝居なので、まあ、のんきにやっていこうと思ってた。
 セリフも覚えて来なくていいからと言って……。まあ、それには別の目論見もあったんだけどね。

 稽古場は沼袋なんだけど、高円寺の事務所からは、とっても曖昧な遠さ。
 どのルートをたどっても電車とバスを乗り継ぐか、新宿経由で延々と電車に乗るかっていう、めんどくささ。
 自転車があったらなあ……と思ってたんだけど、なかなかコレというのがなくて。
 ところが、今日、たまたま、ずっとほしいと思ってた「折り畳み自転車」がセールになってるのを発見。半額以下というのに惹かれて、衝動買いしちゃいました。稽古場に行く途中の駅前で。
 もう暗くなってたので、あわててライトも買って、電池はついてないとのことで乾電池も買って、いざ出発。
 こぎ出してから気が付いたのは、自転車に乗るのが、エライ久し振りだってこと。
 葛飾にいた頃は、がんがん乗ってたんだけど、越ヶ谷に行ってからは、駅まで徒歩15分だったのに「雨の日がめんどくさい」と徒歩通勤。以来、全然乗ってない。
 自転車って、いろんなことを同時にしなくちゃいけないのねと気が付く。
 ペダルを漕ぎながら、前を見なきゃ行けないし、どっちに行くのか決めなきゃならないし(道がよくわかってなかったので)。
 暗がりで、久し振りの自転車乗りは、正直とってもこわかったです。
 だって、人はどいてくれないし、向こうから走ってくる自転車はみんな無灯火だし。
 それから、驚いたのは、坂がすごく多いこと。
 特に沼袋の駅から新青梅街道までの道は、いつもバスで通ってたのに、あんなに急な坂道だとは気が付かなかった。
 こないだ、上野から新宿まで歩いたと時とは違って、「坂=疲れる」があからさま。
 六段変速のギアもまだうまく切り替えられなくてね(笑)。
 でも、折り畳みの自転車の小さい車輪の割には、とっても快適。
 稽古場まで20分ほどでたどり着きました。

 で、稽古。
 今日、作者の山崎くんは、バイトで遅くなるので、桜澤さんと丁田くん、それに舞台進行の上村くんの4人。上村くんは、山崎くんと同じ「作劇舎」のメンバー。
 最初に、ストレッチ。
 フライングステージと同じで、日替わりで誰か一人にリードしてもらうようにする。
 今日は、桜澤さん。
 彼女はずっとバレエをやってたので、体の線がどこか「バレエ」してる。
 丁田くんは、ストレッチでアキレス腱を伸ばしたりしてると、ものすごく腰が決まってる。
 「何か武道ってやってた?」と聞いたら、ずっと柔道をやってて、2年前から空手を始めたんだって!! しかも「極真」!! 決まるわけだわ。
 続いて、これもまたフライングステージでやる、拍手を回すゲーム。それから、しりとり。
 こないだ桜澤さんがフライングステージの稽古場にきて、しりとりのできなさに落ち込んでたけど、「今日は負けないわよ」って顔してたね。
 ともあれ、4人のしりとりは忙しい。やっぱり、みんな慣れてないもんだから、すぐにつまってしまう。不思議なモノで、慣れてるはずの僕までもが、いつもとは勝手が違う。チームってそういうもんなんだよね。
 それから、マッサージ。二人組になって、おしゃべりしながら。丁田くんと桜澤さん。僕と上村くん。
 上村くんと、こんなにしゃべるのは初めてだったかもしれない。しかもマッサージ付きでね。
 次には、「粘土」のエチュード。
 相手を、ある形につくりあげていく。粘土役は、自分から動いちゃいけない。「喜び」と
「驚き」をそれぞれつくる。
 で、今度は、こないだフライングステージでやった(って、そればっかりだけど、いいの。確信犯だから)いったん寝転がった粘土を立ち上げるっていうやつ。
 これは、時間がかかることが予想できたので、僕と上村くんはおやすみ、て言うか、実況中継。丁田くんと桜澤さんが交替でやってみた。
 さすがに最初の稽古、なかなかうまくいかない。自分ではできることが、なんで相手にはさせられないんだろう?って二人とも、かなり悪戦苦闘してた。でも、最後にはできたんだけどね。
 それから、また別のゲームをやろうとしたんだけど、4人ではできないことが、初めてみてから判明。しかたないので……というようなかんじで、台本にとりかかる。
 まず、一度通して読んでもらう。何も言わずに。
 で、その後、10行ほどのセリフをその場で覚えてもらって、二人で言い合うっていうのをやる。
 僕と上村くんもついでに、覚える。この頃、山崎くんが登場。
 で、発表してもらう。男と女が言い合う場面。さて、どっちが勝つか?
 最初、言葉が全然相手にかかっていかない。
 それをだんだん相手にかけていってもらうように、あれこれいろいろやってみる。
 一番大事なのは、自分が勝とうと思ったら、相手に勝たせないといけないということ。
 その兼ね合いの難しさと面白さだ。
 テンポは変えないで、相手のセリフのオシリを必ず食っていってもらう。
 二人とも、経験は豊富なので、僕の言ったことは、ちゃんと自分なりに解釈して、すぐにやってみせてくれる。
 今日の稽古は、相手と芝居するってことの練習だ。
 一人でやるんじゃなくてね。
 次回の稽古のために「覚えておいて」という宿題をたくさん出して、今日はここまで。

 外に出ると「大雨」!!
 どうしようかと思ったんだけど、自転車を押して、みんなで駅前の「つぼ八」にながれる。
 芝居の話をいっぱいして、外に出ると、雨が止んでる。と思いきや、ちょっと小降りになっただけでした。
 駅でみんなと別れて、傘をさして、自転車に乗ると……、ライトが点かない! さっきスイッチを入れたまんまにしてたんでした。
 仕方ないと走り出すと、雨はどんどん降ってきて、びしょぬれになりながらの自転車漕ぎ。
 もうコワイものないです。
 坂とか、そんなのなんでもない。自転車通勤はすっごい快適なはず。雨が降らなきゃね。
 高円寺に着いて、いざ、折り畳んでみる。が、なかなかうまくいかない。
 結局、「そのまんま」でエレベーターに載せて部屋まで連れて行き、部屋で畳む。
 今、自転車は、この部屋で畳まれてる。
 だけど、眠ってる枕元に自転車のタイヤがあるっていうのは、どんなもんだろう。
 ちょっと考えないとなあ。


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