4つの季節を重ねながら

2001年11月01日(木) Bob Greene

おとといカブール・ノートについて書いたのですが、サイトの内容の多くは出版されることになって、もうHPでは見られないんですね。トップページの下のほうにあるイスラム・コラムやクエッタ・ニュースだけでもかなりおもしろいのですが、とても良質の情報だっただけにサイトから消えたのはちょっと残念です。この日記を見て、サイト内を探したかたには、時間を潰させてしまって、ほんとうにすみませんでした。



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今日のパリは今年はじめて、ぐっと冷え込みました。もうそろそろクリーニング店に預けっぱなしのコートを取りに行かなくてはなりません。ちょっと自慢なんですよ(笑)。焦げ茶のムートンのロングコート。5000円でした(苦笑)。教会のチャリティー・バザーにて。

以前、飛行機を降りるときに、隣の席にいたおじさんから「あんたのペットかい?」と言われました。席に座っていたときはお互い和やかに話していたのに、ムートンを見たとたんに強烈な皮肉。アイルランド人だったかテキサス人だったか?赤ら顔だけれど、確固たる信念を持っている人の顔でした。

わたしはにっこり無邪気に笑って、

"Yes! I love him very much. He is my partner and he protects me very well"

と嬉しそうに答えておきました。(笑) おじさんが皮肉を言ったときの周りの人たちの表情もさまざまだったので、なかなかおもしろかったです。

わたしがはじめて巴里(こう書くとちょっと格好良さそうかな(笑))に来た年は、マイナス18度までいっていたのです。長くて重くて分厚いコートは着ていてとても疲れたけれど、同時に本当によくわたしのことを守ってくれました。買ったときは、あまりに寒かったので仕方なく、といった気持ちだったのですが、いまではとても感謝しているし、大切に使っているつもりです。



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ここ数日、ずうっと以前に読んだ本がまた読みたくてしかたなくなっています。Bob Greene の "Be true to your school" 日本語では「17歳」というタイトルで文春文庫から出ています。わたしが初めて最後まで読み通せた英語の本。アメリカの有名なコラムニストが17歳のときに、「ジャーナリストになりたければ、まずは毎日日記を書くことだ。ジャーナリズムとは日記をベースに発展させたものなんだよ」とクラブの先生に言われて1年間つけていた日記です。

やたらと難しい前書きで早くも挫折しそうになって、本文に入るといきなり、1月1日、パーティで女の子とキスしている瞬間から始まります(笑)。軽やかで、やさしくて、暖かくて。受験で毎日のように「主語・述語」と習い、難しい単語を覚えて、カチカチの英語に接していたわたしにとっては、英語でも書く人によってはこんなに素敵な文章になるんだ!という大きな発見でした。1度だけ彼がアメリカの新聞に書いたコラムを読む機会がありましたが、そのときもこんなコラムが載った新聞なら毎日読みたいと思ったものです。

どうして今 それを読み返したいのか、というと、その本はわたしにとって、アメリカの良きものの象徴だったからかな、と思います。いままでそんなことを意識したことはなかったんですけどね。

そして、自分がこれからどちらへ進んだらいいかわからないときに、自分の人生がこれからどうなっていくかわからない、世界がどうなっているかなんてまったく見えていない 17歳の男の子が書いた日記は、もちろんコラムニストが後から多少の訂正を加えているとはいえ、いろいろ共感しながら読んでいかれそうな気がするのです。

はじめのうち、なにが書いてあるんだかよくわからないな〜と思いながら無理やり読み進めていったら、中盤を過ぎてから、いきなり数字が出てくるのは試験の点数の話だったんだとか、成績表の評定の話だったんだ、とか、わけのわからない単語はラジオの局名や曲名だったんだ、とわかったんですけどね(苦笑)。今度は2回目だから以前ほどは戸惑わないと思うんです。



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昨日は「13 デイズ」という映画を観てきました。パリで1番大きなシネコンのなかのおそらく1番小さなホールでした。

キューバにソ連が核兵器を配置したとわかってから13日間のJFKとアメリカ軍部との確執を描いています。核兵器は当然、ワシントンがぎりぎり射程距離に入るところに配備されています。JFK 45歳、弟ロバート・F・ケネディ司法長官(フランス語字幕では外相だった気が..) 36歳、そして大統領特別補佐官ケネス・オドネル 38歳。3人で彼らよりずっと年上のその他の政府高官や軍指導部の猛反対とマスコミからのプレッシャーに押しつぶされそうになりながら、なんとか戦争をしないで済むように、絶望に負けないように励ましあっていく姿が描かれていて、観ていて、もう少しで泣いてしまいそうな気分になりました。平日の昼間だというのにほぼ満席。

フランスの映画産業は映画制作の点では完全にアメリカに負けています。たとえアイディアがあったとしても、実現できる予算を集められることは少ないし、少数精鋭の国立の映画学校を出た監督達はたいていインテリ過ぎて、頭で考えるにはおもしろいけれど、こころにはなにも響かない映画を作っています。しかもその学校を出ていないと監督になるのはとても難しい。撮影技術に関しても、技術者のプロ意識は多くの場合アメリカに劣ります。フランス人は契約中でも気にくわなければ仕事を投げ捨てて帰りますから。(笑)

ただ映画界のなかでも、映画館の経営者たちのセンスは世界一なのではないかと思います。今の時期に、シネコンで「13 デイズ」を扱うセンス。9月11日のテロの後、1,2週間で急にポスターが貼られだしたのです。2000年の年末には年明けに「2001年 宇宙の旅」の70mm 版(通常のフィルムより画質がいいもので、もともとこれがオリジナルだった)公開の予告があったり、アルパチーノの映画が公開されると、「ゴッド・ファーザー」の3部作をすべて再上映する映画館があったり。日曜日に1,2,3の全てを観ると、チケット売り場で頼んだら、なぜか「じゃあ、1回分はタダ」と言われたこともあります。


日記で何度も触れた池澤 夏樹さんのコラムで、池澤さんが日本国憲法のもとになった英文から現代の日本語に訳し直すという作業をなさったことを知りました。おそらく最近の号の「中央公論」に出ているはずで、友人にコピーを送ってもらえないかどうか頼みました(忙しいのに、ごめんね)。 もし興味があったら、図書館かどこかで見てみてください。

現在の憲法ですら

第九条に「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」

とはっきり出ているのです。「戦争はいや」ではありません。あれが戦争であろうと、紛争であろうと、日本は参加「できない」のです。できるとしたらペシャワール会のような良心的なNGOの活動を国のお金を割いて支援することくらいでしょう。


できないし、してはいけないのだと、もっと声を大にして言っていいのです。



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