Scrap novel
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2002年06月05日(水) |
Holy night (スミマセン、本のCMなの) |
『お兄ちゃんが好きなんだ・・・』
あの、まだ浅い春の日から、もうすぐ初めてのクリスマスがくる。 僕は6年生になり、新しい年が明けて、もう一度春がめぐってくれば、中学生になる。 お兄ちゃんは好きなバンド活動を少しずつセーブして、けれど、そう切羽つまることもなく日々を送っている受験生。 5年の時からのクラス替えはなく、持ち上がりのままの6年は、また大輔くんやヒカリちゃんたちと同じクラスだ。 京さんは中学生になり、伊織くんは4年になった。 一乗寺くんは、エスカレーター式にそのまま私立の中学へ進む。 みんな、それぞれ、そんなに大きな変化もないまま、1年が終わろうとしている。 父と母が仕事に多忙なのも相変わらずで、それでも連絡だけは取り合っているらしく、食事などもたまに一緒にするらしいが、復縁にはほど遠く、そして僕もいつのまにかそんなことは考えなくなっていた。 きっと今のこの距離が、2人にとっては一番心地よく、相手を思いやれる距離なのだろうと思う。
デジタルゲートは、あの最後の戦い以来、僕らの前に開かれることはない。
そして、 そして、僕とお兄ちゃんといえば。 あれからそのまま、相変わらずの『仲のいい兄弟』だ。 違ったことといえば、そう、キスの長さと深さが少し増えた、そのくらい・・・。
「なあ、ライブ、来いよ」 「うん・・・ でも、大輔くんと約束しちゃたし・・」 「俺の方が先に約束してたはずだぜ?」 「約束はしてないよ? 予定が入らなかったら行くって言っただけ。みんなでパーティするっていうんだもん。久しぶりにみんな揃うのに、僕だけ行かないのもつまんないでしょ」 「・・・わかったよ。じゃあ、パーティ終わったらウチで待ってな。せっかくのイブなのに、こっちも一人じゃつまんねえだろ」 「ん。わかった・・」 ヤマトのマンションの玄関で帰ろうとするタケルを引き止めて、腕を取ってヤマトが自分の方に振り向かせる。 その両手がタケルの冷たい頬を包み込み、そっと同じ色の瞳を見つめ合う。 ゆっくりと目を閉じてやさしいキスを待つと、ヤマトが小さく笑って、顔を寄せ、そっとふれるだけのキスをした。 それきりでは足りないというように、白い手が追いかけるように兄の首に回され、ヤマトの腕が、細い腰を抱き寄せると、熱い吐息とともに深い口付けが交わされる。 何度も何度も、合わせては離され、確かめるようにまた口付ける。 ふいにその唇が外され、ヤマトの手がタケルの白いセーターの下のカッターシャツの襟を開くように、鎖骨のあたりにもキスをする。 タケルが小さく声を上げて咽喉を反らすと、タケルの腰を抱く腕に力が込められ、そして、それは・・・。 何の前置きもなく、唐突に離された。 抱き寄せる腕が解かれ、タケルは解放されて、少しフラリとバランスを崩す。 それをヤマトの手が支えると、タケルはゆっくりと少し哀しそうに瞳を開いた。 「じゃ・・送ってくから」 「・・・・・・うん」 何事もなかったように微笑む兄に、タケルもそれを見上げて微笑みを返す。 コートを羽織って、そっと背中を促されて、温かい腕に肩を抱かれても、タケルはどこか寒さを感じずにはいられなかった。
「ねえ、タケル。結局、明日のイブはどうすることになったの?」 食事の後の片付けをしながら尋ねる母に、リビングのソファでテレビを見ていたタケルが振り返る。 「あ、大輔くんちでクリスマスパーティ」 「ヤマトのライブは行かないの?」 「うん・・・ あ、でも、パーティ終わってからお兄ちゃんち行ってもいい? プレゼントもらいに」 「なんだ。お兄ちゃんはもう卒業したのかと思ったら、やっぱりお兄ちゃん子なのね? タケルは」 笑いながら茶化すように言う母に、タケルがちょっと頬を赤くしてフイと顔を反らせてテレビを見る。 「だって、もらえるプレゼントはもらっておかないと。サンタさんは1つしかくれないからね、プレゼント」 「1つあれば十分でしょ。ああ、本当に新しいゲームソフトでいいの? 前に言ってた」 「うん。それで手紙書いておいて」 「わかった。サンタさんにね」 母が笑う。 サンタクロースなんていないことは、もう随分小さい頃に知ってしまったのに、母はそれを知っていて、それでも『今年はサンタさんに何をお願いする?』と聞く。 『手紙を書くから』というので、タケルも承知でそれに答える。 それでも、幼い頃は、母がサンタクロースに手紙を書いているものだと信じて疑わなかったっけ・・・。 でも、手紙には書けないものを、自分はずっとずっと願っていた。 もしかして、叶えて貰えるかと心で強く願ってみたけれど、それはついに一度も叶えられなかった。 サンタはやはりいないんだな・・と心の中で小さく呟いていた。 あれはいつの頃だったろう。 「けど、タケルがいないんじゃ、母さん、イブは家で淋しく一人なのかあ・・」 「あれ? 編集部のパーティは?」 「断っちゃった」 「行きたかったんじゃなかったの? 遅くなってもいいよ。だったら僕、お兄ちゃんとこ泊まるから」 「・・・・そう・・? じゃあ、そうしようかな。一人じゃつまんないし。 あ、でも、クリスマスの夜は、一緒にレストランにご飯食べに行こうね。フンパツするから」 「ん。オッケー」 母の言葉ににっこりと頷くと、母も嬉しそうに微笑んだ。 タケルの心が、そんな母への裏切りに、じわじわと疼くような痛みを訴える。 けれど、そんな痛みは無視して、タケルはとにかくやさしい母のいい息子でいたいと、ごく自然に見える笑みをつくって会話を続けた。
島根の祖母から、プレゼントは何がいい?と電話があった。 父からも同じように電話が入った。 たまたま母の不在の時の電話だったので、両方に「新しいゲームソフト」と答えた。 3つも同じものが欲しいなんてわけはないけど、誰かが忘れるかもしれないし、本当はどうしても欲しいものじゃなかったから。 本当に欲しいものは、願っても望んでも、どうやっても手に入ることはない。 本当に欲しいものじゃなければ他の何もいらないのだけれど、それはやさしい祖母や両親には言い出せず、適当なものを答えてしまった。 そんな自分が、自分で嫌になる。 けど、仕方ない。 サンタクロースは、もうどこを探してもいないのだから。
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てなことで、残り3冊になった「Tear2」の通販CMでござりました。 こんなとこで、スミマセン〜。 ここまでが冒頭で、あと20Pくらいはあったかと・・。 一応、色々あって、最後はめでたく「初夜」(・・・//////)を向かえるというお話でございますv さすがにもう刷らないと思うので、よろしかったら通販してやってくださいませv 送料込み、340円分の切手でお願いします。 送り先は、メールでお問い合わせくださいませ。 インフォメページもあわせて見てね〜v
てなことで、こんなとこで失礼いたしました。 マジメに更新せねばな。うむ。
■完売御礼!!(6/6) スミマセン、完売しました〜アリガトウございましたvvv
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