Scrap novel
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「おい・・・・・」 小さく呼びかけると、゛う・・ん”と、少しだけ身じろぎした。 が、それでも依然目覚めようとしない弟に、俺はやれやれ・・と肩をすくめる。 「タケル・・」 べッドの端に腰かけて、枕に突っ伏すように顔を埋めているタケルの耳元に、今度はそっと囁くように呼ぶ。 ファンの女の子たちが聞いたら腰くだけにでもなりそうな、低く甘い美声なのに(自分で言うな)ささやかれた当の本人は、それでも構わず小さな寝息をたてている。 たしかに、夕べは遅かった。 土曜日の夜にマンションにやってきたタケルと、近所のレンタルビデオ屋に行って2,3本映画のビデオを借りて、リビングの明かりを消して一つ毛布にくるまって、オールナイトシネマを楽しんだ。 これで、タケルが高校生にでもなっていたらワインでも開けて(・・・え?こうこうせい?)もっと艶やかで、甘ったるいムードたっぷりの大人 の夜も楽しめるんだろうが。 何せ相手はまだ中学生になったばかりで、しっかりコドモなものだから、やれジュースおかわりだの、ポテトチップスが欲しいだの、あんまり色気はなかったのが。 まあそれはそれで、もちろん楽しかったし、よしとしよう。 それでも、映画の合間にふざけてキスをしてみたり、自分の足の間に風呂上がりでいい匂いのするタケルの身体を抱きしめたりしつつ、兄弟のスキンシップだけはしっかりとっていた。(・・・兄弟の・・・・?) どうも、最後に見た映画がちょっと怖かったのか、眠る時はそりゃもうしっかりと、俺の身体にしがみついてきて。 せまいシングルベッドで、抱き合うようにして眠った。 なんだか何とも言えず、わけもなくイケナイ衝動にかられそうになりつつも、肩口で安心しきった顔で眠る弟の寝顔を見つめているうちに、気がついたら朝になってしまっていた。 腕枕をさせられた腕が、心地よく痺れて。 なんか、天国とジゴクが同時にやってきたような、真夜中と明け方を過ごしたのだ。 そんなわけで、こっちは、とっとと朝は起きられたのだが、タケルの方はもう10時になろうかというのに、まだ安眠をむさぼっている。 日曜日の朝。 天気がいい。 布団を干したら、さぞかし気分がいいだろう。 平穏で満ち足りた朝。 カーテンから漏れる日差しはあたたかくてやさしくて、気持ちよさそうに眠るタケルを起こすのは何だか忍びない。 いつまでも、好きなだけ眠らせてやりたいが。 けど、困ったな。 もう朝メシできちまったぜ? おまえの好きな、トロトロのやわらかめのスクランブルエッグとフレッシュトマトにアスパラガス。 オレンジジュースもほどよく冷えてございます。 でもって、デザートのプリンは俺のお手製なんだけど。 うまいぜ、きっと。 ああ、トーストはお前が起きたら焼くから。 だから、起きろって。 思いつつ、指先で金色のやわらかい髪をそっと梳く。 指の間を擦り抜ける金糸が、なめらかに落ちていく。 まるで、天使のような金色だな。 硬質な髪質の父や母や自分にも似ていない、やわらかな天使の猫っ毛。 何度か髪にふれていると、伏せられた睫毛が微かに震えた。 長い睫毛だなあ。 女の子みてえだよな。 いや、女の子だって、ちょっといねえよな。こういうの。 睫毛まで少し金色がかっていて、その先に光がとまっているかのようだ。 頬はうっすらと桜色で、肌の色は透き通るように白くて。 でも病的なそれじゃなく、生まれつきの、みずみずしい白。(どんな?) 肌はやわらかくて、それこそ赤ん坊の頃と変わらないような。 頬から顎にかけてのラインに、まだ幼さを残している。 手の甲でそっと頬のあたりにふれると、くすぐったそうに小さく笑みをこぼした。 かわいいな・・。 こんな無防備な顔見せるのって、俺だけになんだろうな・・。 そう思うと、たまらなく嬉しい。 コイツときたら、誰といても、いつもやわらかく微笑んでるクセして、反面、心は結構かたくなで頑固だ。 悩みも自己完結型。 俺にだって、何でも相談してくれるってわけじゃない。 つーか、どちらかって言うと、聞かなきゃほとんど話してなんかくれねーんじゃないか・・? そういうのが成長だと喜ぶべきなのかもしれないが・・。 正直、ちょっと、兄としては、淋しいんだぜ? なんでも、一人で抱え込むなよ。 もっと甘えろよ。 いくらだって、甘えさせてやるのに。 泣いたっていいんだ。 俺のとこで泣くなら、別に恥かしいことなんかじゃないんだぞ。 弟が、兄に甘えて悪いわけがない。 むしろ、あたりまえのことじゃねえか。 そういや、 おまえの泣き顔、しばらく見てねえぞ。 おい、こら。 意地っ張りの、 タケル。 指先で、さくらんぼのような唇をそっとなぞる。 くすくす・・と笑って、肩をすくめた。 「こら・・・・タケル・・・」 眠りが浅くなってきたのかと思い、脅かさないようにそっと呼んだ。 微笑んだ口元が、その声に、答えようとゆっくりと動く。 おにいちゃん・・・・と。 「う・・・・・ん・・・・・大輔・・・・・・ぅん・・・」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・がーん! お・・・起こさねば・・。 俺のタケルが、なんでまた大輔なんかの夢を・・・。 いや、でも、大輔の夢を見てるからって、こんなに気持ちよく寝ているコイツを起こすのも、なんだか大人気ないというか・・。 いや、しかし、いったい、夢の中で何を・・・・。 もしかして、あんな事やこんなことをしていたらどうする! やはりここは、兄の権限で、どうにか阻止せねば!(何をだよ・・) だ、だが・・・。 タケルの安眠を兄の権限だけで、いや、兄だからこそ、いや、それはエゴだ、いけない。落ち着け、ヤマト! ああ、しかし。くそおぉおお、大輔のヤツ・・・!
「はい、もしもーし、本宮でーす。あら、ヤマトくぅんv どしたのぉぉv え?大輔? はい、いるけど。・・・・大輔ー! ヤマトくんからデンワ」 「ヤマトさん?・・・・ちわっす、大輔ですけど・・・・ どしたんすかあ?」 『おまえなあ! 大輔!』 「・・はい?」 『勝手に人の弟の夢の中に出てくんな!!』 「・・・・・はあ?」 『今度出てきたら、ブッ殺すからな!』 「・・・はああ??? ちょちょっとヤマトさん! ヤマトさ・・・・・(がちゃん!) ツーツーツー・・・・ 」
「な、なんなんだ・・・・・今の・・・?」
END
ゴメン。大輔・・・・・・。 だって、ほら、兄、バカだから・・・。
オマケ。
「お兄ちゃん・・・機嫌悪い?」 「いや、別に」 「僕が寝坊したから怒ってる?」 「別に、そういうわけじゃ・・・」 「そう? あ、スクランブルエッグおいしいよv お母さんのよりずっと美味しいv」 「そ、そうか・・?v」 「ねえ、どうしたの?」 「お、おまえさ。なんか夢見てた? 起きる寸前」 「起きる寸前・・? なんだっけ・・・?あ・・・・ああ! 思い出した! 大輔くんがねえ」 「(ピク)大輔が・・・?」 「伊織くんとジョグレスしてね」 「はあ?」 「ナンデマタコンナモンになる夢」 「・・・・は・・・はあ??」 「すっごい面白かったんだよー。土偶と埴輪とトーテンポールを足したみたいなデジモンでねえ」 「はあ・・・・・」 「伊織君は、大輔さんのせいでこんなデジモンになっちゃったじゃないですか!とか言って怒るし、大輔くんは、オマエの方こそ、タケルとジョグレスしたって土偶だったじゃん!とか言って」 「は・・・はあ・・・」 「でねー」 「た、楽しい夢でよかったなあ・・・。は、ははは・・・・・(スマン、大輔・・・)」
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