Scrap novel
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放課後を待つかのようにして、ヤマトの携帯が鳴った。 <きっと自分の曲とかを着メロにしてるのであろう。この人のことだから・・笑> また、それを待っていたかのように素早くポケットから取り出して、それに答えながら教室の隅に移動する。 「俺だけど。・・うん。ああ、大丈夫だぜ? こっちから迎えにいくから、待ってろよ。・・いいって・・・。うん。・・・・・ん?なーに言ってんだよ、本当にバンドの練習ないんだって。じゃあ後で。帰りに、一緒に晩メシの買い物でもしてくか。・・・んー? おまえの好きなのでいいよ。うん。じゃあ・・・・校門とこにいろよ。誰かに声かけられても、ついてったりするんじゃねーぞ。わかったか? はい・・・じゃあなv」 電話を切ったところで、不審そうな顔で見ているクラスメートの視線にぎょっとする。 「なんだよ!」 照れ隠しに思わず一喝すると、ばらばらと散っていく。 鞄を肩に担いだ、隣の席の男子生徒だけが残って、ニヤリとして大きめのノートをほいと手渡した。 「お急ぎのとこ悪いけど。俺とおまえ、当番。ほい、日誌」 「えー? おまえ書いとけよ」 「何で俺ひとりで書かなきゃねーんだよ。適当に書いたら持ってくのは頼まれてやっから、おまえ書けよ」 ったく・・。と舌打ちしつつ机に向かってノートを広げるヤマトに、隣の席で椅子の上にしゃがむ様な坐り方でノートを覗きながら、男子生徒がにやにやとして言った。 「デートのとこ、悪いねえ」 「デートじゃねえよ」 似たようなもんだけど。 「カノジョだろ? さっきのデンワ」 「カノジョじゃねえって」 「じゃあ何だよ」 とろける様な顔でデンワしてたぜ?と言われて、思わず赤面する。 「弟」 「おとうとぉ〜!! おまえ、もうちょい、マシな嘘つけよー」 呆れるように言われてしまった。 「嘘じゃねえって」 「弟がわざわざケイタイにデンワしてくっか?」 「悪いか」 「いや、悪いとかどうとかじゃなくて。ブキミ・・・」 「あのなあ! 隣でごちゃごちゃうっせんだよ! 文句あんならおまえが書けっ!」 キレるヤマトに、わかったわかったと言いつつ、たしなめるように“いや、俺、字きたねーからさ”などと言い訳する。 仕方なく、再びノートに向かうヤマトに、ふぁあと欠伸を一つした後、ぼそりと言った。 「しかしなあ。弟なんて、俺、何日口きいてねーかなあ」 「なんだよ、喧嘩でもしてんのか?」 「してねー方がめずらしいけど。最近はお互い無視してんなあ。うっとおしいから」 うっとおしい? 考えられないという風に、ヤマトが首を振る。 「・・おまえんち、弟いくつ?」 「中1」 「なんだ、一緒じゃん」 「おまえんとこも?」 「ああ。けど、最近もお本当に生意気でさー。図体ばっかでかくなって。そんなことねえ?」 「そんなことない」 「そっかぁ? 妹とかいるのちょっと羨ましいけど、弟なんて憎たらしいばっかりだぜ。何かっちゃあ、絡んでくるし」 「構ってほしいんじゃねーの」 「はあ? そんな年かよ! だいたい人のもんは勝手にさわって持っていきやがるし」 「貸してやりゃいいじゃん」 「貸したら返さねーよ、アレは! 第一、さわられたくもねえし。口きいたら最後、喧嘩になるのがオチだし。その癖、親の前ではいい子ぶりやがんだよなあ。腹立つ!」 「おまえの前で本音出してるなら、可愛いと思えば?」」 「かか可愛いって! おまえ、あのムサ苦しい汗臭いののどこが可愛いってんだあ! いるだけで、ウゼェよ!」 なんだか、そうとう不満が溜まっているらしい。まあ、男兄弟なんて、大きくなればそんなものかもしれないが。 「そういや、この間もムカついて、思いっきり殴り合った挙句、テレビのリモコン投げつけてやったら目の上あたってスゲエ流血してさあ。母親にはどやされるわ、こづかい没収されるわ、最悪で・・!」 言い終わらないうちにギロッと横目でヤマトに睨まれて、男子生徒が思わず固まる。 「な、なんだよ」 「おまえ、弟殴ったりするのか!」 「へ?」 「最低だな」 「はあ?」 「もっと大事にしてやれよ! 兄貴が殴ってどうすんだ!」 「どどどうすって、普通だろ! 兄弟なら、殴り合いくらいすんだろーが!」 「しないね!」 「いや、おい、ちょっと」 書き終わった日誌をぱし!と叩きつけるように手渡して、ヤマトが憮然として鞄を肩に担ぎ上げる。 「持っていっとけ」 「いや、持ってはいくけど」 呆然とする男子生徒を置いていきかけて、くるりと振り返ってヤマトが言う。 「あのな中嶋! よーく覚えとけ! そりゃおまえの弟は、ガタイもでかくてムサ苦しくて汗臭くて、ちってもかわいくねえかもしれねえけどな。うちの弟は色も白いし、身体も華奢で、そんなことしたら壊れちまうし、第一、殴らなきゃならないような可愛げのないことなんか言ったりしねえんだよ! 性格も素直でやさしいし、けど他のヤツの前じゃいつも色々気持ち我慢して無理してて・・。でもそういうの、誰かのせいにしたりしないし卑屈になったりしないから、余計ツライ想いばっかするのに、アイツそういうの全部自分の中に溜め込んじまうんだ。とにかく俺がそばについてて守ってやんないと、アイツは、タケルは・・・!」 「あのう・・・・」 弟についての熱弁は延々とそれから続き、中嶋くんは、それから数十分後にやっと、自分がふってはならない話題を彼にしてしまったことに気づくのだった。 (・・・・・・・ブラコンだ・・・・・。こいつ・・・)
「おまえのせいで遅くなったじゃねえか!」 「俺のせいにすんなあ! 40分もしゃべりたおしてたのはおまえだろうが!!」 言い合いながら、職員室に日誌を届けて、校門に急ぐヤマトに中嶋がこそこそとついていく。 さすがに、ああまで言われれば、どんな弟か見てみたくなるのが人情(?)ってもんだろう。 どうせ、鼻たらした小汚いガキか、色の白いモヤシみたいな病的な・・・。 思いつつ、ヤマトに追いついてその肩に手を置こうとした瞬間、校門からひょこと顔を出した影に思わず固まった。 「お兄ちゃんv」 (か・・・) 呼んで、甘えるような表情でヤマトを見上げる。 (か・・・) その金髪をくしゃっと撫でて、ヤマトが「遅くなってゴメンな」と笑いかける。 後ろにいるので表情は見えないが、きっとにやけているのに違いない。 兄の背後にいる中嶋に気づいて、タケルが問うように兄を見上げる。 ヤマトが気づいて振り返って「なんだよ、いたのかよ」と忌々しげに見、いかにもしたくなさそうにタケルに紹介する。 「いっしょに当番だったんだ。隣の席の中嶋・・・。これが俺の弟のタケル」 「コンニチワ。兄がいつもお世話になってますv」 笑顔で言って、ぺこりと頭を下げる。そのしぐさが何とも・・・・。 (か、か、可愛いィィぃい〜〜vvv) 「な、な、中嶋!ですっ」 思わず、ぼ〜と見つめる中嶋に危険を感じたのか、ヤマトがタケルの背にさっと手を回し、「待たせて悪かったな」と促すように歩き出す。 じゃあと軽く会釈して兄に並んで歩き出すタケルが、嬉しそうにヤマトを見上げて、掴まるようにその腕に軽く手を添える。 ヤマトの手が、またくしゃくしゃとタケルの髪を撫でた。
一人取り残された中嶋くんは、呆然と校門に立ちすくんでいた。 そして、ナルホド。と思うのだった。 (そりゃあ・・・。ブラコンにもなるわ・・・・。あんな可愛い弟じゃあ・・・)
ああ、俺もあんな可愛い弟なら欲しい・・・。 そして兄バカと呼ばれたい。 いや、兄バカつーのはちょっと・・。 しかも、弟よか、できれば妹のが。 連れ歩いて自慢するにゃ、やっぱ妹だわな。 けど、 いや、待て。 あんな可愛い弟なら、やっぱいっそ弟でも・・。 つーか。 いいなあ、ヤマト。 あああ、俺もああいう弟なら欲しいぜえええ。 ああ、いっそウチのと取り替えてくれい!
END
と思ったかどーかは知らないけど(笑)
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