Scrap novel
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6年生のリレーは大変な盛り上がりようだった。 この競技で紅白大接戦の決着がつくのだから、盛り上がるのも当然なのだが。 6年の子供たちにとっては、これが最後の運動会。 負けたくない気持ちはどの顔も同じだ。 赤組3チームと白組3チームの計6人ずつで、走りを競う。 大方の予想通り、大輔のいるチームとタケルのいるチームが1,2位を争っている。 「すげー、大接戦!」 抜きつ、抜かれつの接戦に、自然と異様なほど応援も白熱していく。 「アンカーまで持ち越されるんじゃねえの、この勝負! よぉし、はりきっていいトコみせねえとなあ! ヒカリちゃんにアッピールする最高のチャンスじゃねえかぁ〜 なあ、タケル!」 ばし!と背中を叩かれ“そうだね、頑張らないとね”と少し生返事をして、タケルは観客席に視線を泳がせた。 (やっぱり。来てないのかな・・・それとも騒がれて帰っちゃったのかな・・) 白熱するレースとは裏腹に、心は少し沈み気味。そんな表情だ。 バンドのライブの日と運動会が重なってしまい、最後のリレーにはなんとか間に合うようにライブを切り上げるからと兄は言ってくれたけど、客席に自分を見守ってくれるあの蒼い眼差しがないことが、タケルの心に影を落としていた。 せっかく、いいトコ見せたくてもその人がいないんじゃ・・・ 「おい、頼むぜ! タケル!」 同じチームの子に言われてハッとなる。もうすぐ自分の番だ。 とにかく最後の運動会なんだから、頑張って走らなきゃ。 お兄ちゃんのことばかり考えてる場合じゃない。後悔のないように頑張らないと! 自分自身に気合を入れて、女子のアンカーの順を確かめ、白線の中に入る。 タケルが最後の女子からバトンを受け取るのと、大輔がヒカリから受け取るのと、ほぼ同時に近かったが、ほんの僅かに大輔のチームの方が早かった。 タケルと大輔が走り出すと同時に大きな歓声が沸き起こる。 アンカーは広いトラックを一周だ。場内アナウンスの声も興奮して裏返っている。 ほぼ互角の戦いとはいえ、日頃サッカーで鍛えている大輔はやっぱり走りが違う。 短距離なら負けないのに!と、タケルが胸中で悔しげに呟く。 (でも、負けたくないっ!) 力いっぱい心の中でそう叫んだ瞬間、コーナーに差し掛かったタケルの足にズキンと鋭い痛みが走った。 黄色い歓声が、一瞬消えてシン・・となり、次の瞬間悲鳴に変わった。 振り返る大輔の驚いた顔が、スローモーションのように見えた。 (あ・・・・?) 「タケル!」 その声の洪水の中、たった一人の声がタケルの耳に届いた。 それが誰か、頭が考えるより早く、身体が驚く速さで反応する。 自分が転倒したんだと気づくより早く、猫のような俊敏さで一瞬にして起き上がると、瞬間的に怯んだ大輔を猛然と追い上げた。 その気迫に驚きながらも、あと僅かのゴールまで、大輔も歯を食いしばり全身の力を振り絞って走る。 ほぼ同時にテープを切ると、ピストルの音がゴールを告げた。 歓声が一際大きくグランドに響き渡る。 「同着?!」 本部席から声が上がった。 少し遅れて、残りの4人もゴールする。 それを横目で見ながら、身をかがめるようにして息を整えていた大輔がふとタケルの姿を目で探した。そして、それを見つけるや、ぎょっとしたような顔になる。 ゴールを通り越した20メートルくらい先で、タケルは兄の腕の中で息を整えていた。 「よく頑張ったな」 「もう・・・来てくんないのかと・・思った」 「来ないわけないだろ? これでもアンコール無視して一人抜け出してきたんだぞ」 「そうなんだ・・・ありがと、お兄ちゃん・・」 抱き合う、しかも人気者同士の兄弟に(兄弟と知らない生徒も多いだろうから、周囲は余計大騒ぎだ)女のコたちの黄色い声が飛びかい、タケルと大輔が同着だったことがアナウンスで告げられると、さらに大きな歓声となった。 「同着だってさ」 ヤマトの腕の中にいるタケルに大輔が、ふてくされたように声をかけた。 「絶対勝ったと思ったんだけどなぁ! チクショ〜、いいとこでコケっからだぞ、おまえが!」 「ゴメン。カッコ悪かったよね☆」 本当にそう思ってんのか?と大輔でなくても聞きたくなるような、とろけるような笑みに大輔がどっと疲れて溜息をつく。 「整列!」と声がかかり、タケルは名残惜しそうにヤマトの腕を離れた。 「一緒に帰れる?」 「ああ、母さんに夕飯さそわれたからな」 「本当! じゃあ待っててね!」 言って走ってくるタケルを待っていたかのような大輔が、あきれたように言う。 「おまえのブラコンは中学にも持ち越し決定だな!」 「大きなお世話です! けど、君との勝負も中学に持ち越しだね!」 「ああ、受けてたってやらあ」 「今度こそ、負けないからね」 「そりゃ、こっちのセリフだぜ!」 じゃれあうようにして走り去る大輔とタケルを、ヤマトが笑いながら見送る。
結局、紅白の勝敗は1,2位が同着だったため、3位以降の着順で決定し、僅かな差でタケルのいる白組優勝となった。 肝心なところで転んでしまったのは実際カッコ悪かったけど、クラスの女子はそれがまた可愛い〜vなどと盛り上がり、タケルの人気はなお一層不動のものとなって男子たちのブーイングを買った。
あの時。ヤマトの声が頭の中に響いた。 そして、無我夢中で立ち上がったその先に、ゴールの向こうで片手を差し伸べて待っているヤマトの姿が見えた。 まるで、そこだけ、しろいもやの中からくっきりと浮かび上がっているかのように。 だから、何も考えずに、そこだけに向かって走れたんだ。 お兄ちゃんの胸めざして。 さわぐ教室の中でタケルはひとりぼんやりと、シアワセそうに窓の外を眺めていた。
続き書くのを忘れてました。 そうそう、このお話では、タケルは6年生で大輔ともヒカリとも違うクラスということになってます。ちょっとダイタケっぽくもあり、でも結局はヤマタケv 兄弟ということを知らない人の方が多いだろうから、公衆の面前でひし!と抱きあう2人を見て、周りはどう思ったことでしょう? ナツコさんはきっと、またやってるわ、あのコたち、と思ってたに違いない(笑) ま、それすらも、2人にはどうでもいいことなんでしょうね、シアワセだからv
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