Scrap novel
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今日は、父は休日出勤だったため、いつもより早く帰宅している。 そこで、ひょっこりやってきたタケルと一緒に鍋を囲むことになった。 オトコ3人でおでんをつつく。 なんだか色気のない図だけれど、父は、日ごろ一緒に食事をすることがないタケルが一緒なので、酒の量もついつい増えて上機嫌だ。 「やー、でもタケルが一緒だとなんか食卓がぱっと明るいつーか、なあ。 ヤマトと2人だとどうも陰気臭くてなあ、こいつ、ほら、愛想がないから」 「悪かったな!」 「まあまあ、お兄ちゃん。あ、お父さん、僕がついであげるよ」 「おう、ありがとうな。いや、酒もうまいよなあ」 「オヤジ、呑みすぎだって」 「いいじゃねえか。たまのことだし。けどなー、おまえがウチに来た日はちゃんと父さん、わかるんだぞー」 「そうなの? どうして?」 「だってなあ、ヤマトの奴がやたら機嫌がいいし、飯もおかずの品数がいつもより3品くらい多いし、それになあ」 「・・・オヤジ!!」 上機嫌に真っ赤になる父と、酒を飲んでも無いのに真っ赤になるヤマトを見比べて、タケルが嬉しそうにくすくす笑う。 そして、ふと、ここにお母さんもいたらいいのにな、と心の中で呟きながら、鍋からタマゴを取り、少しぼんやりしながらそれをパクと口に入れる。 「タマゴ、中が熱いから気をつけろよ」 と、ヤマトが言うが早いか、たちまちタケルが口を押さえて立ち上がり、真っ赤になって涙目になる。 「〜〜〜〜〜〜〜〜!」 「ば、馬鹿! だから気をつけろって!」 「熱ぅ・・・」 それでもなんとかハフハフ噛んで飲み込んで、タケルが心配して傍にきてくれた兄を見上げて、舌を出す。 「やけどしちゃった・・」 「見せてみな」 「痛い〜」 「ああ、赤くなってら。じっとしてろよ」 「うん」 タケルが答えるなり、その頬を両手で包み込むようにして、そっとその舌の赤くなったところを、自分の舌でそっと舐める。 「すぐ直るからな・・・」 「うん、ありがと。お兄ちゃん・・・」 見つめあって2人の世界に入っていた兄弟は、ふと、それを凝視する目に気がつき、ハッとした。 「あ・・・オヤジ」 「あ・・・固まってる」 「あ・・・はは。こんなの舐めときゃ治るからな! 舐めるのが一番だよな。ははは・・・」 「う、うん。獣っぽいけど」 「そうゆうの好きだろ」 「え? やだな。そういうことじゃないでしょ」 ・・・・・・・・またしても墓穴を掘ったと2人して気がついたとき。 やおら、父が顔を真っ赤にして立ち上がった。 「ヤ〜〜〜マ〜〜〜〜ト〜〜〜」 「あ、あの、これは、オヤジ、別に俺たちは、だな」 苦しい弁解をしようとするヤマトをよそに、父はヤマトを通り過ぎると、いきなりタケルに抱きついた。 「ずるいぞ、ヤマト〜! タケル、父さんともチュウしよう! なっ、なっ」 「え?ええええ?」 「いいじゃないかあ、父さんもタケルにチュウしたいんだ〜」 「ちょちょっっと、ちょっと待ってよ、お父さん!やめてったら!」 「・・・・・・・完全によっぱらってんな、オヤジ・・・」 なおもタケルに抱きついてキスしようとする父に、怒りに拳をふるふるさせながらヤマトが呟く。 「てめえ、オヤジ、オレのタケルに・・・!」 「やめてって言ってんでしょうが!!」 思わず手近にあった本で張り飛ばそうとヤマトがするより一瞬早く、タケルが父を拳でゴンと殴り飛ばした。父はどたーっと倒れ、ぐおーっとイビキをかいて寝てしまった。その姿と弟を交互に見つめ、ヤマトがは〜っと溜息をつく。 「あ、ゴメン、父さん」 「今頃あやまっても遅いって」 呆れたようなヤマトの言葉に、タケルがちょっと怒ったような顔になる。 「だいたい、お兄ちゃんが舌なめるからでしょ。フツーしないよ兄弟で」 「けど、俺たち、フツーにしてるじゃん」 「僕たちにとってフツーでもフツーの兄弟にとってはフツー・・・?あれ」 ま、いいか、どうだって。とあっさり考えるのをやめて、それから困った顔で父を見下ろす。気持ちよく寝ているが、さてどうしたものか。 “起きるまで寝かしておいてやろう。それから、せっかくだし3人で飯食い直そうぜ”とヤマトが言い、タケルは結構父思いのそんな兄に、なんだか嬉しくてにっこりした。それから“母さんも呼ぶか。鍋は囲む人間の多いほうが美味いから”と言う。タケルが驚いて瞳を見開いた。さっき考えてたこと、わかってくれてたんだと 思うと、余計に嬉しい。 「お兄ちゃん・・・」 呼んで、その胸にそっと凭れる。 「電話してみろよ」 「うん!」 言ってタケルにケイタイを渡し、それを手に母と話すタケルが明るい顔をしているのを確かめると、床に寝る父に毛布をかけてやり、もう一度、タケルを振り返る。その声が弾んでいることを思うと、どうやら母がくるらしい。 よかったな。 しかし、母は父のようにはいくまい。きっと、ささいなコトでも気がついてしまうに違いない。母にバレた日には何が起こるかわからない。 とにかく、フツーにしなければ。いやでも、あれだって、フツーなんだ。俺たちにとっては。いや、だから、フツーの兄弟のフツーさでいいんだ。フツーの兄弟の。まてよ、フツーの兄弟ってどんなだよ? “じゃあ、何時頃来れる?”と楽しそうに話しているタケルを尻目に、既に普通の兄弟の定義がわからなくなっているヤマトは、一人パニックに陥っていた。 (ともかく、舌舐めるのはなしだな! 箸でア〜ンとかもダメだよな。それから、熱いからフーフーしてやるのは・・・コレはオッケーか?<チガウ!> えーとそれから・・・・・・)
混乱するヤマトをよそに、父は、元妻が来るのも知らず、ひたすら安眠を貪っていた・・・・。
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