【フィギュア】羽生2位号泣!直前練習で激突流血、強行出場も5度転倒(スポーツ報知 11月9日)ソチ五輪金メダリストの日本のエース、羽生結弦(19)=ANA=がフリーの練習中に閻涵(ハン・ヤン、中国)と激突し、あごや頭から流血するアクシデントに見舞われながら2位になった。7日のショートプログラム(SP)で2位だった羽生は、もうろうとして臨んだフリーで5回も転倒しながら154・60の2位となり、合計237・55点。マキシム・コフトゥン(ロシア)が合計243・34点で優勝した。 頭に包帯を巻いて、羽生はリンクに立った。「オペラ座の怪人」が鳴り響くと、青ざめていた顔に血の気が戻った。 しかし、体は正直だった。冒頭から4回転ジャンプを立て続けに失敗。基礎点が1・1倍になる後半は、最初に予定していた4回転からのコンビネーションを3回転に変更した。合計8度のジャンプのうち5度も転倒したが、あきらめずに立ち上がり続けた。 約4分30秒の演技を終えると、日本から駆けつけたファンだけでなく、地元・中国の観客からも大拍手。得点は自己最高を38・81も下回る154・60点だったが、19歳は声を上げて泣いた。意地の2位。担架に乗せられ引き揚げる際は、穏やかな表情を見せていた。 アクシデントは最終組6人による6分間練習で起こった。中央に向かって後ろ向きに滑っていた羽生が振り返った瞬間、反対側から来た閻涵と正面衝突。体が衝撃で浮き、あおむけの状態で硬い氷に叩きつけられた。倒れたまま動けず、2人のスタッフに支えられて起き上がったが、あごから流れ出た血がのどを赤く染めていた。頭もクラクラしていたようで、足取りもおぼつかなかった。治療を受け、約7分後に姿を現したが、オーサー・コーチに声をかけられると涙をこぼし、顔を小刻みに震わせた。 オーサー・コーチは「羽生は演技したいと言ったが、脳しんとうなどの症状がないかを注意深く見て判断した。『ここでヒーローになる必要はない』と伝えたが、彼の意志は固かった。誇りに思う」と語った。 そもそも今大会は10月のフィンランディア杯欠場の要因となった腰痛のため、3日に1度の休みを挟み、練習を1時間程度に抑えざるを得なかった。腰をかばうことで体全体のバランスが崩れ、他の部分も痛みが出ていたという。欠場の選択肢もある中、「ファイナルに進むためにも出たい」と鎮痛剤を服用して臨んだ今季初戦だったが、不運が追い打ちをかけた。 これまでも東日本大震災や持病のぜんそく、多くの故障を乗り越えてきた。魂のこもった演技後は患部を縫合。オーサー・コーチによると、9日のエキシビションは欠場して同日中に帰国。日本で精密検査を受ける運びになった。羽生選手に「感動」するだけでよいのか? 誤ったスポーツ観が選手「生命」を奪う 脳震盪後、1日は安静に(Yahoo!ニュース 11月9日)内田良 | 名古屋大学大学院教育発達科学研究科・准教授羽生選手の姿に「感動」の問題点この週末(11/8-9)、スポーツ医学の中核を担う「日本臨床スポーツ医学会」の学術集会が東京で開かれている。脳震盪(のうしんとう)に関する調査研究がいくつも発表され、日本のスポーツ界において、脳震盪への対応が喫緊の課題であることを感じさせてくれる。 まさにその最中に、羽生結弦選手の事故が起きた。それは端的にいうと、(脳震盪であったとすれば)その事後対応は、多くのスポーツドクターが目を疑う光景であったといってよい。 フィギュアスケートのGPシリーズ第3戦。羽生結弦選手は、フリー演技前の練習中に中国の選手と正面衝突し、顔面からリンクに倒れていった。羽生選手は、一度は起き上がろうとしたものの起き上がることができず、リンクに仰向けになった。脳震盪の症状があったのではないかと疑われる。 なお補足までに言っておくと、「脳震盪」とは、意識消失のみを指すわけではない。頭痛、吐き気、バランスが悪い、めまい、光や音に敏感など、その症状は多岐にわたる。このことさえ、一般にはまだよく知られていない。話を戻そう。羽生選手は、倒れてから10分後には練習に復帰した。そして、さらに本番にも登場した。本番は転倒をくり返しながらも、幸いにしてなんとか演技を終えることができた。 さて、ここで最大の問題は、その姿を、マスコミや観客、視聴者は、「感動した」「涙が出た」とたたえたことである。羽生選手側にもさまざまな事情はあっただろう。今回はそのことは置いておくとして、この事案から、脳震盪の怖さと日本のスポーツ文化のあり方について考える必要がある。 「魔法の水」の時代はもう終わった「魔法の水」という言葉をご存じだろうか。ラグビーの試合中に選手が脳震盪で倒れたときに、ヤカンに入れた水(=魔法の水)を選手の顔にかける。選手は水の刺激で気を取り戻し、競技に復帰する。観客はそれを、拍手でもってたたえる。 いま、プロの公式戦でそのような姿をみることはなくなった。なぜなら、脳震盪の症状があらわれた場合には、試合を続行してはならないという考えがスポーツ医学の常識となったからである。「魔法の水」の時代は、もう終わったのである。 なぜ、試合を続行してはならないのか。 脳震盪について考えるときには、交通事故による脳震盪とスポーツによる脳震盪のちがいを認識するとよい。その決定的なちがいというのは、スポーツでは脳震盪を含む脳損傷が、「くり返される」可能性が高いということである。交通事故をたびたび繰り返す人はそういないが、スポーツの脳損傷はくり返される。そしてそうした脳へのダメージのくり返しが、致命傷になりうることがこの数年、脳神経外科医の間ではもっとも重大な関心事となっている。 しかも恐ろしいのは、脳へのダメージがくり返されるときには、2回目以降の脳への衝撃がそれほど大きくなくても、致命傷になりうるというのである。字義どおりの、選手「生命」の危機である。 柔道事故からの教訓脳へのダメージがくり返されることが致命傷となる。 その危機感を可視化させたのは、2009年頃から話題になった柔道による重大事故であった。柔道では学校管理下だけでも過去30年に118件の死亡事故が起きている。この数年を振り返ってみると,たとえば、2011年には名古屋市内で、柔道で投げられて頭部を打ち付けて,「頭が痛い」と言っていた高校1年の生徒が、数週間後にまた頭を打ち、そのまま頭痛を訴えながら,3回目の頭部の受傷により命を落とした。 また今年の3月には、沖縄県の町道場でも小学3年男児が同じような事故に遭った。男児は柔道の練習中に、頭が痛いと感じそれを指導者に訴えたものの、最終的には男児が練習を続ける意志をみせたため、練習を継続。その後男児は、意識を失い倒れる。急性硬膜下血腫を発症し,重大な後遺症が残る事態となってしまった。 このような事例は,まだまだある。これらは率直に、指導者が、くり返しの脳損傷に敏感であれば、明らかに「防げた事故」である。 脳震盪後、24時間は競技に復帰すべきではないスポーツ時に脳震盪が生じたときには、それをくり返さないことがとても重要なことである。それゆえ、「競技復帰」には慎重を期すべきである。 脳震盪問題に早くから取り組んできたラグビー界は、この競技復帰のあり方について詳細な取り決めをおこなっている。日本ラグビーフットボール協会(JRFU)では、国際ラグビー評議会(IRB)の規定にならって、医師が状況を管理してくれる場合は「受傷後最低24時間」、医師により管理されない場合には「最低14日間」は競技に復帰すべきでないという方針である。 この基準に照らし合わせると、仮に羽生選手が脳震盪であったとすれば、羽生選手は、医師の管理下にあったと考えられるため、それでも「受傷後最低24時間」は安静にすべきだったということになる。 羽生選手の側には、本番をこなさなければならない事情もあるだろう。ファンの声に応えたい気持ちもあっただろう。そのことは個別の問題として置いておくとしても、どうしても気がかりなことがある。それは、脳震盪に対する関心の低さと、脳震盪(の疑い)を乗り越える姿が美談化される日本のスポーツ文化である。日本のスポーツ文化は、根性で危機を乗り越える場面を、拍手でもってたたえる。そこには感動の涙が溢れている。 脳震盪の可能性が疑われるのであれば、どうか今回の出来事を機に、考え直してほしい。そうした「拍手」や「感動」は、選手の生命をむしろ危機に追いやる可能性があるのだということを。【鈴木明子の目】羽生に無理してほしくなかった(スポーツ報知 11月9日)フィギュアスケート GPシリーズ第3戦・中国杯最終日(8日・上海) 6分間練習の際、選手は集中していて、あの衝突は、どちらが悪いということはありません。棄権すると思いましたが、2人とも出場したのは信じられませんでした。 羽生選手の周囲は止めたと思いますが、最終的には本人の決断でしょう。気持ちが強いとは思いましたが、2人とも若く才能、素質がある選手。この試合がゴールではないので、選手生命を考えると無理してほしくなかった。私自身、体を壊して滑れない時期がありました。だからこそ、スポーツは健康な体があってこそだと思うのです。昨日の衝突シーンから本番で演技する一連の流れに、テレビの実況アナなどメディアは「感動した」と盛り上がっていましたが、私は顔色の悪さとふらふらした羽生選手の姿に心配の気持ちが強く感動なんて気持ちは湧き上がりませんでした。そして、これは周囲の大人が強引に止めるべきだったのではないかとも感じました。治療を終えて練習に出てきた羽生選手は顔色が明らかに悪く、これは演技ができる、いや、していいレベルではないだろうと、きっと棄権を選ぶのだと思っていたのですが、羽生選手としては演技をするという意思が強く棄権する選択肢は選ばなかった、そしてふらふらながらも4分もの時間を滑りきった、その意思と頑張りに感動する人が居てもいいと思いますが、これを大々的に美談にしてしまうのはちょっと待てよという気持ちが強いです。これを美談にするのは、高校野球の連投や猛暑の中での試合を美談にしてしまうことぐらいの気持ち悪さがあります。事故などによって大きな怪我をしたりと突発的なショックの大きい出来事に遭遇したときに、人間の脳内では大量にアドレナリンなどが放出され一種の興奮や覚醒状態になります。羽生選手はアスリートでもあり人並み外れた集中力や闘争心もそこに加わっているわけですから冷静な判断が出来なくなって一種のハイ状態でもあったと思うので、本人は「大丈夫」と感じていたと思いますが、時速25キロほどのスピードで衝突し勢いよく転倒し氷のリンクに叩きつけられたことで、出血のような目に見える怪我以外にも肉体的ダメージは相当なものだったことでしょう。そして、多くの人がテレビを見て心配した脳震盪の疑いも強いのですから、回転したりジャンプして着地したときの衝撃や転倒したときの脳への衝撃を考えれば、脳震盪による後遺症の恐ろしさもあるのですから、彼はまだ若く今後の選手として活躍できる時間の長さを考慮して、本人の意思を尊重せずに周囲の大人達が、今回は無理やりに止めるべきだったのではないかと思うわけです。また、羽生選手を棄権させず演技をさせたことで、今後ほかのスケート選手やスケート選手を夢見る子供が試合前や練習中などに怪我した際に、羽生選手はあれでも頑張ったのだから、お前も出来るはず、と無理をさせてしまう根性論の悪しき前例を作ってしまったとも思えるので、だからこそ、これを美談にしてしまってはダメだと考えています。このような事態になってしまったのは、スケート連盟がほかの競技に比べ対策が遅れていることによる悪しき結果によるものなので、こういうことは今後も起きる可能性があるわけですから、ラグビーやサッカーなどほかの種目を参考にして、スケート連盟は脳震盪や大きな怪我に関してのガイドラインを早急に作るべきではないでしょうか。