好きなマンガ家は多くいますが、特に好きなマンガ家を挙げるとなると水木しげる先生と島本和彦先生です。水木先生はゆるい作家なら島本先生は熱い作家で全く正反対なのですが、島本作品と出合うキッカケとなったのが、徳間書店発行の『月刊少年キャプテン』に連載されていた『逆境ナイン』です。もともとは『強殖装甲ガイバー』読みたさに雑誌を買っていたのですが、連載がスタートした『逆境ナイン』の第1話を読んで雷に打たれたかのような衝撃を受けまして、それ以降は島本作品の熱さと笑いのセンスにどっぷりハマり、これまでに発売された単行本(復刻版も含めて)からコミケで発売している同人誌まで全て購入して本棚1つが島本和彦専用本棚になっています。それほどまでに私が大好きな島本先生が今年マンガ家生活30周年を迎えまして、30周年記念本『熱血時代 アオイホノオからの30年』が小学館から発売されました。島本先生がデビューするきっかけになった雑誌投稿作品から現在の作品に至るまで、30年に渡る執筆作品の全てが先生の人柄溢れる熱くて面白いインタビューと共に振り返ることができ、そして『炎の転校生』(雑誌復元版で掲載されているので貴重です。)や『逆境ナイン』『燃えよペン』『吼えろペン』など先生の代表作から、『オンセンマン』や『大熱言』のようなマイナー作品のもっとも盛り上がった熱い話もセレクトされて掲載されていますし、『新・吼えろペン』で作画前のネームの段階では編集部からOKが出たので、執筆を初めたところ編集部から突然に電話がかかり、「この話を掲載するとマズイことになるから違う話にしてくれ」と言われて、違う話を描き直すはめになり、当時は封印されていた真の最終回も掲載されていて、最初から最後の1ページまで熱い情熱が詰まったまさに、これを読めば島本和彦が理解できる1冊になっています。先生自らが語る昔の作品解説を読みながら、今ならネットがあって連載や新刊の発売など活動状況が自宅に居ながら簡単に知ることができる時代になりましたが、昔は自分で努力して情報を集めなければいけない時代だったので、中学生の時に『逆境ナイン』を読んで島本作品の虜になってからは本屋へ行くたびに、新刊が発売されてないか新しい連載が始まってないか、と先生の作品を必死で探して、見つけては嬉しくなって購入するということを繰り返していました。特に私がハマりだした90年代頃の先生は児童誌・少年誌・青年誌はもちろんのこと、麻雀専門誌やパソコン専門誌に至るまで幅広く多くの雑誌に執筆されていたこともあって、特に専門誌に連載されたマンガは想定外だったので、コミックスになってから、その存在を知って感動するといった具合に、それはそれで楽しかったといろいろ懐かしく感じましたし、そして、この本を読んで改めて思ったのは、島本先生はあらゆるジャンルの作品に挑戦し、また実験的な作品も数多く残しているので、手塚治虫先生や石ノ森章太郎先生のように本当にマンガを描くことが好きで好きでたまらない、生活の全てをマンガに捧げている情熱の塊であるということです。それ故にインタビューを読むと、一時期はマンガ家を辞めようと思っていた話や、連載中に担当編集者が変わることの苦労、新創刊の雑誌から連載依頼を受けて1話を描き終えたら雑誌の廃刊が決まった話など、ご苦労も多かったみたいで、どのような人であっても紆余曲折や浮き沈みがあってこそ、今に繋がっているんだなぁと感慨深くなり、今やノリに乗って一番多忙な時期よりも、月の原稿執筆枚数が過去最高になっている島本和彦先生のこれからの作品も楽しみでいられません。