加速する『人間消費社会』 “寵児”次々使い捨て大みそかまで、あと一週間余。今年も数々の「栄枯盛衰」のドラマがあったが、ふと、かつてないその速さに気づいた。ある人物が祭り上げられ、瞬く間に消えていく。ホリエモンも、刺客も「使い捨てられる」ように世論に消費された。振り返る間もない「人間消費社会」。それは何がもたらして、社会のどんな変化を投影しているのだろう。識者たちに、この現象の読み解きを託すと−。 東京地裁で二十二日に開かれた論告求刑公判で、堀江貴文被告はぶぜんとした表情で検事の朗読を聞いていた。慣れないスーツで被告席に座り、書面を食い入るように見つめている。ペットボトルの水を何杯も飲み干し、顔色は生気に満ちている。パフォーマンス色のない“本気”モードだ。 堀江被告は「時代の寵児(ちょうじ)」の名をほしいままにした。自ら率いた「ライブドア」は二〇〇四年六月、大阪近鉄バファローズ買収に名乗りを上げる。〇五年二月にはニッポン放送の筆頭株主となり、フジテレビジョンとの資本・業務提携に持ち込む。Tシャツ、ノーネクタイで直線的に行動する若者の姿は各種世論調査でも圧倒的に支持された。 しかし、衝撃の逮捕から十一カ月。二十二日の法廷では、傍聴席で居眠りする人もいた。九月の初公判では二千二人が傍聴を求めて抽選に並んだが、この日は百五十六人。倍率は二倍あまりしかなく、武蔵野市の大学生(20)は「とりあえず来てみたら、当たった」。 埼玉県新座市の大学講師(32)は「時々傍聴に来るんですが、傍聴者の関心は薄れていますね」と話す。審理の迅速化でわずか三カ月で論告を迎えたのに、事件の風化はそれ以上に速い。■ホリエモン 『刺客』 亀田選手… ボクシング世界王者、亀田興毅選手も「天国と地獄」を味わった一人だ。過激な言動で人気が沸騰し、今年八月の王座決定戦の視聴率は42・4%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)に達した。しかし「疑惑の判定」に世間のバッシングが加速。二十日の初防衛戦で勝利はしたものの、世間の注目度は格段に落ちた。 堀江被告も出馬した昨年九月の郵政選挙で当選した「小泉チルドレン」にも“使い捨て”感が漂う。「造反組」に対する「刺客」として自民大勝の立役者に。だが、来年の参院選を前に、選挙に強い「造反組」の復党が持ち上がり、立場が危うくなった。 チルドレンの一部は先月には議員連盟「復党問題を考える会」を結成、抵抗を試みた。しかし、翌日、頼みとしていた小泉前首相に「(造反組は)白旗を揚げて土下座した。それを駄目だという自民党であってはならない」と突き放され、結成わずか三日目にして総崩れになった。 このあまりに速い“人気者”のアップダウン。これは何を意味しているのか。 若手思想家で「愛と暴力の現代思想」の共著がある矢部史郎氏は「この現象は一種の見せ物小屋」とみなし、背景には市場原理主義による身分社会の復活があると分析する。 矢部氏は「天国と地獄を行ったり来たりする人の多くは各分野の二世、三世といった特権層ではない。堀江被告もそうだし『刺客』でもイジリやすい女性議員が対象になる。その乱高下が見せ物で、出演者は身分の低い人間が無難。同じ階層の観客たちがそのドラマを見て、うっぷん晴らしをしている」とみる。■『メディアが変化、過渡期』 メディアの変化から分析するのは東京経済大学の桜井哲夫教授(社会学)だ。 「人間が一つの『モノ』として消費されることは四十年前から言われていた。ただ、そのころはメディアといえばテレビだった。この十年間の一番の変化はネット社会の一般化。虚実入り交じりの情報が二十四時間発信できるようになった結果、情報速度が急激に速くなり、ネタの有効期間が非常に短くなっている」 桜井氏は誰かが急速に注目され、急速に消えていく原因は「ネタの作られ方」にあるという。ネットでの話題を検証する余裕もなく大手メディアがそれを後追いする。その結果、「新聞やテレビでワンテンポ遅れて話題を知る人は、突然目の前に出てきた話に飛びつき、やがて踊らされている気がして引く。メディアも目先の現象を追いかけるのが精いっぱいで、対象への距離の取り方が分からない状況。そのうち、真偽のほどが怪しくなって、その話は『おしまい』になる」。 好例はネット情報がうそか本当か分からず、振り回された民主党・永田元議員の偽メール騒動だという。 「個人のレベルでさまざまな物事への対応の仕方が分からなくなってしまっている。今はメディアの過渡期。新旧メディアがせめぎ合いながら騒ぎを繰り返している。この先、どこへ行くのか。一つのポイントは地上波がデジタル化する二〇一一年になるだろう」 思想家で文芸評論家の吉本隆明氏は「若い人は持続性や根気のいることが好きでない。『どうせ社会は良くならない』としらけている。文学でも、短距離、瞬間的な作品が大勢を占め、そうでなかった人も引きずられている」と話す。■『都市化でサイクル短く』 では、そうした傾向の原因はどこにあるのか。吉本氏は情報社会の進展による「都市化」を指摘する。 「生産から消費までのサイクルはコミュニケーションの発達した大都市ほど短い。いつもそわそわ過ぎていくのが都市の時間で、その傾向が強まっている」 情報が多く、便利になるほど、道徳、倫理は下落していき、ただ、目立つことに飛びつきたがるという。 「文学ではコミュニケーションにならない言葉がたまってくるほど、いい作品ができる。有名とか無名というのは見ている人の問題で、当人にはあまり関係ないこと。自分の考えることをやるのが第一だ。だが、現在は(目立つことが社会の尺度となるため)好きなことを書くという作業が難しくなっている」 関西学院大の野田正彰教授(精神病理学)は登場人物の浮き沈みの激しさを「その人の世界が広がれば、見聞きする出来事は当然多くなる。あらゆる事件が、すぐ次の事件に消去される。そうした情報化社会の歴史の中で起きている現象だ」と位置づける。 ただ、情報洪水によって、その根底にある問題が見えなくなるという弊害が起きているという。「税制や格差社会の問題を知らない状況で、どこかで人が殺されたといった事件に引きずられる。亀田選手の試合も本来何の意味もない」。スキャンダルも、それとは逆の評価も体制維持のために消費されているとみる。 「こうした状況は安倍首相も小泉前首相時代もそうだが、政治権力にとってはやりやすい。本当に重要なできごとが報じられず、イベント的な情報が目くらましに利用されている。刺激が繰り返されると、心理的にまひしてしまうのは動物実験でも明白な現象だ」■今年、人気の大波に揺れたこのほかのキャラクター 永田寿康元衆院議員 2月の衆院予算委で武部勤自民党幹事長(当時)と堀江貴文被告の金銭疑惑を取り上げたが、証拠のメールがニセと分かり自滅 カー娘(むす) 2月のトリノ五輪にカーリング女子で出場した「チーム青森」。一時、アイドル並みの扱いだったが、11月の大会では観客激減 くぅ〜ちゃん 消費者金融大手アイフルのCMに出演していたチワワ。うるんだ瞳でブームを呼んだが、4月の同社業務停止で姿を消した 畠山鈴香被告 亡き娘の死因究明を訴える悲劇の母から一転、その娘、さらには隣家の少年の殺人事件で被告へ。メディアスクラムも発生するが、すでに忘れ去られつつある くまぇり アイドル志望の女性が連続放火事件をブログで公開。自作自演がばれ、「有名になりたい病」の根深さを世間に印象づけるも、記憶のかなたへ がけ犬 11月に起きた野良犬の救助劇。全国から30件以上の「引き取りたい」という申し出が殺到。保健所で処分を待つ数多くの犬の存在が指摘され、一気に下火へ<デスクメモ> 緊張に満ちた社会になった。個々人の憤怒はこけた人、弱い者に向けられる。前者が「刺客」、後者が「いじめ」だ。言葉はナイフ。刺されどころが悪いと死に至る。その集団リンチの典型が「2ちゃんねる」だが、その毒が社会全般に広まっているのか。毒を覆い隠す「美しさ」は百害あって一利なしだが。 (東京新聞 12月23日 )-----------------------------(引用終了)----------------------------『人間消費社会』の典型はTVや活字メディアでしょう。まず、部数や視聴率を稼げるなら、これでもかこれでもかと取り上げ、部数や視聴率が落ちる、要は飽きられれば、その話題とオサラバして、次の獲物を探し出すか、TV・活字メディアや会社と(例えばエイベックス)と広告会社の共同でスターを作り上げて国民に提供する。それ釣られて踊る大衆。今度は部数や視聴率のさらなるアップにメディアが、踊らさせていた大衆に逆に寄り添う形になっているように、メディアは大衆が一番望むことや喜びそうなことを提供したり追従するという相互依存が発生し、それが飽きられれば次の獲物という繰り返し。使い捨ての現象を作り出しているのは、まずメディア(特にTV)が提供者であり、消費者は国民です。提供する存在がない限り、消費者は飛びつきません。先に消費者の間で話題になり、メディアがそれに飛びつくこともありますが、どちらかといえば、それは稀です。この記事で名前を挙げられている堀江被告や亀田にしても、亀田は2ちゃんねるやブログでは、初期の頃から批判している人のほうが多かったと思われます。最初からタイ人買収八百長ボクサーだのなんだのと馬鹿にされていました。しかし、メディアは「浪速の闘犬」だの「平成の辰吉」だのとべた褒めで、否定的な意見はほとんど出てこずブームを作り上げていましたが、8月の試合で、表に出てこなかった声が一気に噴出しました。堀江被告は、球団買収に乗り出した頃から賛否両論で、虚業で成り上がったとか拝金主義者と批判する声もあったのに、TVメディアが、キャラクターとしては美味しい堀江被告が出れば視聴率が取れるので、勝手に「時代の寵児」と持て囃し、各社こぞってバラエティまで出して、逮捕前までは異様に持ち上げていました。ところが逮捕されたら持ち上げていたことに対しての反省もなしに、むしろこちらも被害者というように、掌を返し徹底的に糾弾するので、メディアは本当に節操がないと感じたものです。人間消費社会なんて造語を作るのであれば、この場合の使い捨てとされるのは、韓流スターやカーリング娘や一発屋の歌手やお笑いタレントといった一時にチヤホヤされる人物にこそ当てはまります。これらは売り上げ欲しさによる作られた現象で単なる商業主義的なものであり、堀江被告や亀田は最初からメディアとの相互依存ありきなので、使い捨てという被害者のような立場ではありません。>…本当に重要なできごとが報じられず、イベント的な情報が目くらましに利用されている。そうした嘘を暴くのが、マスメディア本来の役目ではないでしょうか。それを省みずして、イベント的な情報が世間一般に蔓延していると言うのならば、公器たる新聞はまったく「無力」であり、その存在意義すら既にない、と公言した様なもの。教授の言葉を何も思わずに載せているのでは、報道する新聞社として使命感が希薄して終わってしまっていると思います。>「2ちゃんねる」は集団リンチの典型これは否定できません。2ちゃんねる以外も、爆発的に普及したブログなんかもそうですが、健全な批判ならば良いのですが、感情論というか、ただバカにしてるだけのがほとんどで、言ってしまえば何も残さない単なるゴミばかりで、読むに値しないものの方が多いのは事実です。ネットは匿名性なこともあり、本音と建前の本音が言いやすいツールですが、最近では「死ぬ死ぬ詐欺」とか酷い内容のものが多く、人間として大切なものが欠けています。本音と言えど踏み越えてはいけないラインがあるのではないでしょうか。やはり情を忘れてしまってはいけません。とこのような日記を書いている私が言っても、まったく説得力がなく 正に「お前が言うな」とモニターにつっ込んだことでしょうが。 ネット以前は発現の場がなかったものが、ネットの普及で、一億総評論家のように大衆でもものが言えるようになり、ネットメディアの消費社会的な現象も加速しておりますが、ネットの声は匿名性もあり“しがらみ”やタブーがほとんどありません。マスメディアは、権力や利権、思想の“しがらみ”や“旧弊”を打破できず、物言えぬ体質のマスメディアには、旧弊を取り払う(消費する)力はあまり期待ができません。在日利権、同和利権は少し旧弊を取り払いつつありますが、創価学会、ジャニーズ事務所、吉本興業、エイベックス、電通、トヨタ、経団連、サラ金、パチンコ、和田アキ子、細木数子など・・・といったこれらにはまだタブーを設けてほとんど批判すらできません。少なくとも日本の新聞テレビだけでは取り上げられない問題がある以上は、ネットメディアは今後も必要とされ続け、既存メディアとネットメディアの消費社会的現象と相互依存の関係もより増してくることでしょうが、どちらも成熟せずこのままの状態が続くと思います。↓エンピツ投票ボタンです。 今日の日記は良かった思った方は押してくださると嬉しいです。エンピツ時事/社会ランキング エンピツ総合投票ランキングMyエンピツ追加