2006年01月11日(水) |
「赤ちゃんは?」という言葉の威力。 |
突然ですが。
高校からの友達でキリネという子がいます。同じTM好きで気が合って仲良くなって、大学は違いましたが一緒にライブに行ったりしてずっと仲良くしてました。でも、数年前に彼女のちょっとした一言で私の心の中にわだかまりが出来てしまい、それ以来ちょっと疎遠になってる子です。
キリネは4年ぐらい前に結婚して、3回の流産と不妊治療の末無事妊娠、今は1歳半になる男の子のママです。
そのキリネからの年賀状にこんな一文が。 『夏ぐらいにはもう1人家族が増える予定です。今はつわりと戦いながら、なんとか頑張って注射で育ててます』 おや、2人目ですか。長男を産んだ後、まだ治療を続けてるとは知らなかったのでちょっと驚きました。でもまぁ無事妊娠できたんなら良かったじゃないか。
・・・・・・と思いつつ、引っかかったのはその後に小さく書かれてた一言。
『どう?同級生(笑)』
・・・・・・・・・・・・・・・・・深い意味はない・・・と言うか、キリネはそれ程深い考えがあって書いたわけじゃない。それは判ってます。でもね?
キリネにはまだ言ってなかったけど、私も妊娠してますよ。幸い、今のところ順調です。でも、妊娠してすぐの頃は大変だったわけですよ。一度は 「胎児が見えない。育ってないのかも」 なんて言われましたし、(年末の日記には書きませんでしたが)その時実は 「もしかしたら、胞状奇胎とか子宮外妊娠とかの異常妊娠を起こしてる可能性もあります。その時はちょっと大変な事になりますから」 とも言われてたんです。無事胎児が確認できてからも、原因不明の出血が続いて『切迫流産』の診断を下され自宅療養を余儀なくされ、つわりもひどかった。
もし、ですよ。
縁起でもない話だけど、もし、その時流産してしまってたら。
このキリネの一言はとんでもなく辛い一言だったはずです。
悪気はないとわかっていても、正直 「随分不躾な事を書くんだなぁ」 と思いました。
これを、別の友達が書いてたらまた印象は違ったと思います。結婚したと言ったらかなりの確率で 「じゃぁ次は赤ちゃんだね」 とか 「早くできるといいね」 なんて事を、世間話のような軽さで言われるものですから。
でも私は、そういう事って本当はそんなに軽々しく言っていい事じゃないと思うんです。
この日記にも時々出てきますが、私にはカツミという親友がいます。彼女はもう結婚して・・・・6年、7年目になるのかな?でも子供はまだです。結婚も出産も早くしたいと昔から言っていた彼女ですが、結婚前から非常に妊娠が難しい体である事がわかっていました。個人でできる治療はすでにやってましたし、結婚してからは旦那であるキュウさんと2人で頑張っています。もちろん、キュウさんはその事を承知で結婚しましたから、キュウさんの実家や親戚から何か言われても徹底的にカツミの味方になってくれてます。
カツミの大変さを見ていて、私は 「赤ちゃんは?」 と人に気軽に言えなくなりました。ただ単に本人がまだ望んでなくて、まだ妊娠してないのだったらいいんです。でも、もしかしたら本人はすごく望んでて、でもできなくて辛い思いをしてるのかもしれない。不妊治療だって頑張ってるのかもしれない。もっと悪ければ、妊娠できても流産しちゃった事があったりするかもしれない。そう思ったら、相手にひどく辛い思いをさせてしまうかもしれないそんな質問を、軽々しく、まるで天気の話でもするように口にしちゃいけないと思ったんです。
考え過ぎだという人もいるかもしれません。でも実際に、カツミはそれで辛かった。できにくい体なんです、なんて自分から言いたくはありませんから、カツミだって最初の頃は義両親や先方の親戚には黙ってました。でも、キュウさんは本家の長男で。義両親や、盆正月に集まる親戚に無造作に 「赤ちゃんはまだなの?」 と言われる事が辛くて辛くて、ついに彼女は体を壊し、精神までも壊れかけました。見かねたキュウさんが彼女の代わりに周囲に話し、 「今後一切、自分達にその話題は振らないでください。カツミは充分頑張ってるし、誰よりも自分達が一番、子供を望んでるんです。これ以上カツミを追い詰めないで下さい」 と宣言した事で、カツミは本当に救われたんです。
そして、カツミとキリネは友達です。元々接点がなかった2人が私をはさんで知り合い、偶然にも不妊治療という共通項でもって交流を深めました。どんな治療をしたとか、今回はうまくいくかもとか、やっぱりダメだったとか、一時期は私なんかよりよっぽど2人の方が密に連絡を取ってたぐらい。
そういう辛さを知ってるはずのキリネが、なんでこんなに無造作に 『どう?同級生(笑)』 なんて書いちゃうのかなぁ、と思ったんです。言わないだけで、私も同じ辛さを味わってるかもしれないとか、そういう可能性は少しも考えなかったんだろうか。まったくの健康体で、何の苦労もなく当たり前のように妊娠して出産した友達ならともかく、自分もそれですごく辛い経験をしたはずのキリネが、なんでハガキなんていう誰の目にも触れる場所でそういう事を話題にできるのかなぁ、って。
お正月にカツミも含めて友達と集まった時、私はキリネの年賀状の件はカツミに言いませんでした。キリネ自身が知らせてるかどうかわからない事を私から言う必要はないと思ったので。
でも先日、別件でミヅキとメールのやり取りをしてた時に、ミヅキが送ってきました。 『そういえば、キリネちゃんの妊娠の話し、聞いた?おめでたいね。でもキリネちゃん、カツミにも知らせたみたいで。正直、私としては“余計な事言ってくれたな”って感じだったよ。カツミがかなりショック受けててさ』
・・・・・・・・知らせてたのか。
『うん、私にも年賀状に書いてあった。だから私の妊娠も一応知らせたけど・・・・カツミにも言ってたのか。キリネとしては“隠すのも白々しいかな”って思った結果なんだろうけど、そうしょっちゅう会うような感じでもないんだから律儀に知らせてくれなくてもよかったのにね』
『私もそう思った。辛さを知ってるからこそ、もっとよく考えて欲しかったよ。そういうつもりはないんだろうけど、第三者として見てると“ただの自慢?”とまで思えちゃって』
今、キリネとカツミがちょっと疎遠になってるのは、やはりキリネが先に妊娠・出産した事が原因です。でもそれはカツミが心が狭くてそれを受け入れられなかったわけではないんです。むしろカツミは、キリネの成功を心から喜ぼうとしてました。
でもやっぱり、自分より後に治療を始めたはずのキリネが先に妊娠した事は辛かった。しかもそれに追い討ちをかけるように、キリネは検診の度に胎児の様子を知らせたり、産まれてからも他の用事のついでに意味もなく子供の写メールを送ったりして、それがカツミを疲れさせてしまったのです。
多分キリネにしてみれば、 「妊娠した事で変に遠慮したり、わざとらしくその話題に触れないのも却って傷つけるだろう」 と思っての事だったんだと思います。でも、不運な事に、それが完全に裏目に出てしまったのです。カツミは 「悪気がないのはわかってるんだけど、なんかやっぱり自慢されてるような気分になって辛い」 と言って、自分からキリネに連絡するのを控えるようになりました。
カツミは今県外に住んでるので、キリネと会う機会はほとんどないはずです。私達だって年に2〜3回しか会えないのに。最近のあの2人がどれぐらいの頻度で連絡を取ってるのかは判りませんが、正直、わざわざ言わなくても良かったんじゃないかな〜と思わずにはいられません。
じゃぁ自分はどうなんだ?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが・・・・
私の妊娠は、比較的早い段階でカツミにも知らせました。まだ出血が止まらなくて自宅療養してた頃、ミヅキから 「今度遊びに行っていい?」 という連絡が来ました。でも元気なフリをして会える状態ではなかったので、正直に 「実は妊娠したんだけど、切迫流産の状態で自宅療養中なの」 と話しました。
そしてその時に、ミヅキに話すのならカツミとマキにも一緒に話そうと思い、メールをしたのです。カツミの返事は 『おめでとう!!早く出血が止まって、無事に赤ちゃんが育ってくれるといいね。北九州から祈ってるよ!』 というものでした。それは中学時代からの、実に人生の半分以上に渡る付き合いという土台があったからこそ信じて話せたし、本当に喜んでくれたのだと思います。
そしてまた、(こういう言い方は良くないかもしれないけど)私とカツミでは状況が違うという事もあったでしょう。
結婚前から治療に励んでいたカツミと違って、私は婦人科系の病気になった事もなければ流産した事もありませんでした。カツミにしてみれば、 『咲良は健康体だから、いつ妊娠してもおかしくない』 という対象だったはずなのです。その私の妊娠と、同じように不妊治療に励んでいたキリネの妊娠とでは、カツミの受けた衝撃の度合いも違ったのだと思います。
私は、知らせた後も、自分から必要以上に妊娠に付いては話題にしないようにしています。カツミがメールや電話で 「赤ちゃんの調子はどう?」 と聞いてくれた時だけ、 「もう○週になったよ。こないだ検診行ったら胎児が▲▲cmになっててビックリした」 と話す。知りたがってくれた時だけ知らせればいいと思うのです。知りたがってくれるという事は、今のカツミなら聞いても心穏やかでいられるからこそなのだろうなと思うので。
以前読んだエッセイの中にそういう話がありました。女性の作家で、結婚してもうずいぶんになるんだけど子供はまだいない。でも妊娠は神様の領域だと思うので不妊治療とかはしたくない、という人です。
その方が飼ってる猫が、ちょっと前に妊娠して、でもダメになってしまったんだそうです。しかも子宮の中で胎児が死んでしまったので、胎児ともども子宮を摘出するという大手術をしました。
それからしばらく経った頃に来客があり、雑談をしている所にその猫が来ました。お客さまは 「かわいいですね」 とか言いながら猫を抱き上げ、その時に言われました。 「赤ちゃんはまだですか?」
それまで全然そんな話しはしてなかったし、猫を抱き上げながら言われたので、当然その作家さんは猫の話しだと思いました。そこで正直にこう答えます。 「あ、こないだ妊娠したんですけどねー。ダメになっちゃったんですよ〜」 お客さまはうろたえ、 「そ、そうですか・・・・でも1回出来たんならまた次も期待できますしね」 と言われたので、また作家さんは軽ーく答えます。 「いやーそれがですねぇ。なんか子宮の中で胎児が死んじゃって腐り出しちゃったんで、子宮ごと摘出したんです。だからもう子供はダメなんですって」
その会話の後、あきらかにお客さまは居心地が悪そうな感じになって、話も早々に逃げるように帰っていって・・・・はて、なんであの人あんなにオドオドしちゃったんだろう?と考えた作家さんは、しばらくしてから気付くわけです。
・・・・・もしかして、最初の『赤ちゃんはまだですか?』は私の事だったのかな?その後の一連のやりとりも、猫じゃなくて私の事だと思われたのかも。
・・・・・・・・・・・それは居心地悪くなるよなぁ。彼女にしてみたら、とんでもない事を聞いてしまったと思ったんだろうなぁ。
その章の結びで、その作家さんはこんな事を書いてました。 『世間話のように軽く口にされる事だけど、本当はそんなふうに話題にしてはいけないのではないだろうか。今回はたまたま猫の話しだったからよかったようなもので、もし実際に私が“妊娠したけど流産して、しかも子宮を摘出しなきゃいかなかった”なんて経験をしてたら、最初の“赤ちゃんはまだ?”という質問だけでひどく傷ついていただろう。
良く考えてみたら、とてもデリケートでプライベートな話題だよね』
私がそう考えるようになったのは、カツミの事だけじゃなくてこの人の影響も大きいです。
考え過ぎだと思う人もいるかもしれません。でも、よかったらほんの少しでもいいから、考えてみて欲しいのです。女性にとって、『赤ちゃんはまだ?』の一言が、恐ろしい威力を持ってその人を傷つけるかもしれないという事を。
口にする方は、大抵の場合そこまで深く考えずに言ってる事です。でも、だからこそ、言われた方はより深く傷ついてしまう事があるのです。
もちろん、そこまで考えてない女性もたくさんいると思います。 「赤ちゃんはまだ?」 と言われて、明るく 「まだなのー。早く欲しいんだ〜」 と笑って答えられる人もたくさんいます。
でも、たとえわずかでも、その言葉で辛い思いをする人がいるかもしれないという事を、心の隅っこに置いておいて欲しいのです。
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