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2026年02月07日(土)
『いのこりぐみ』

『いのこりぐみ』@IMM THEATER

モンスターペアレントの「クレーム」を聞くべく学校にいのこっている教師ふたり。母親の要望をどこ迄聞き入れればいいものか……ミステリのフォーマットを使い、全体主義を生みかねない教育についてもひと刺し。息を呑み続ける1時間45分、めちゃめちゃ面白かった! 『いのこりぐみ』

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— kai (@flower-lens.bsky.social) Feb 7, 2026 at 22:07

終幕、暗転した場内のあちこちからはぁぁ……と感嘆のため息。リズムよく会話を進め、その言葉の端々に登場人物の背景が浮かび上がるホンの巧みさ。そして演者の、台詞に繊細な表情をつけるスキルの高さ。苦い話だけど後味は悪くない、その塩梅が見事。三谷幸喜の冴えた筆と、4人の出演者の力量による充実の舞台。

人当たりも要領もよい教師と、波風立たせず定年を迎えたい教頭。問題提起の表現が下手な母親と、その問題の本質をすり替え続ける担任教師。全員が子どもの教育というものに曲げられない考えを持っている。その考えは正しいのか。正しいとは何か。その引っ掛かりを決して見逃さず、一刻も早く帰りたい筈の「名探偵」は「クレーム」に向き合う。ジムに行きたいのに(笑)。「クレーム」を早く片付けたい教頭も、彼の訴えを見過ごすことはしない。ゴネてはいたけど(笑)。かつて教師とその教え子だったふたりに、教師たるもの、という矜持は確実に継承している。そのことに心が軽くなる。

子どもたちを味方につけている(と暗に示す)担任教師は、生徒全員を公平に、平等に、均質に育てることこそが教育だと思っている。人間なのでそのつもりはなくともえこひいきしてしまうかもしれない、という物言いの根には、「自分の思い通りにならない生徒を排除したい」という思いがある。自分のいうとおりに動き、その指導に疑問を持たず、付和雷同する子どもを育てたい。そうして育てた子どもたちに賞賛されたい。「教育」の恐ろしさを自覚している教師は今どのくらいいるのだろう? そして、その「教育」を教師に押し付けている親は? 教師という職業の過酷さが描かれる。そのことに心が重くなる。

登場人物は、いや、ひとは皆、完全無欠ではない。母親も担任教師も問題を抱えている。しかし、彼女たちを「正しくない、間違っている」と喝破出来るものだろうか? とはいえ、担任を慕う生徒たちのことを考えてしまう。TikTokを見ている子は多いだろう。汚部屋に置かれた「コースター」が何か、気付いた子もきっといる。そのとき彼らはどう感じるだろう。担任教師の罪を思う。しかし、「いのこりぐみ」のふたりはきっと解決策を見出してくれる筈だ。そう思いたい。そして、母親もこんな教師がいることを知り、彼らのことを少しだけ信じてみよう、「一心同体」の息子を安心して預けられると思ってくれればいいな。

母親役は菊地凛子、初舞台とは思えない貫禄。大仰な立ち回りや台詞回しに、理解者を求める切実さが滲む。三谷さんうまいことあてがきしたなあと唸る。そしてとても舞台に合ういい声! 母親を「あ〜めんどくせえ〜でも憎めねえ〜」と思わせてくれたのは声の力も大きい。声といえば、柔らかい声と恐ろしい声を使い分け、担任教師の闇深さを表現した平岩紙も素晴らしかった。教頭に目配せし、リズムを合わせ謝罪の言葉を並べる気持ちわるさといったらなかった。バランサーの教頭を演じた相島一之の、事勿れ主義に流されきれない真っ当さには心を動かされた。ただ真っ当であることが今どれだけ難しいことか。しかもそれにはユーモアがまぶされている。これも相島さんのニンが反映されたあてがきに感じる。

そして小栗旬。実は初舞台から観ているんだが(『宇宙でいちばん速い時計』。ミッシェルガンエレファントの解散ライヴとハシゴだったので忘れられないわ…おかげで短い感想しか書いてないわ……)「立派になって……」とおばちゃんはしみじみしましたヨ! 失礼な話、長年「とても舞台映えする容姿(姿勢や立ち姿含め)なのにイマイチ芝居のよさが伝わらない」という印象だった。舞台ではね。それが払拭されました。母親を言い負かした! とちいさくガッツポーズなんてしつつ、その母親の切実さを見逃さなかったのは彼だけだった。弁論大会(作文コンクールだったか? すみません失念)のエピソードといい、要領はよいけど曲げられない信念を持った教師像。これもあてがき……というか、三谷さんは小栗さんのことをそう見ているのだろうな。爽やかな能ある鷹は爪を隠すっぷりがとても魅力的な名探偵でした。

女性の闇深さを鏡に男性の連帯を描く三谷さんはいやらしいな〜(笑)とは思うものの、その女性を闇深いままで終わらせなかった。もはや大御所、成長なんて口が裂けてもいえないが、そこに三谷さんの変化を感じた。というか、こうやって変化していくところがすごいんだよな。常に自分に「これでいいのか?」と問い続けているのだろう。

立ち位置によって小栗さんより相島さんが大きく見える八百屋舞台は、恩師と教え子の関係が反映されているようだった(美術:堀尾幸男)。17時過ぎから19時前という時間経過を教室から差し込む外光で表現した照明(服部基)、録音機器の音のバランス(音響:井上正弘)、あ〜このひとこういう服着そう〜にドンピシャな衣裳(前田文子)と、充実のスタッフワークも堪能。職人のいい仕事を見せてもらいました。

今回の企画は、『鎌倉殿の13人』で小栗さんと菊地さんが共演したことからスタートしたとのこと。あんなに仲が悪かった(いや役が。てかあれは義時が一方的にダメだわな〜)小栗さんと菊地さんがこんな共闘を…! と胸が熱くなりました。ふふ、お芝居って楽しいね。

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よだん。

・シス・カンパニー公演だと思い込んでいて、当日トライストーンとディライト・エンタテイメントの制作だと知る。宣美の感じとかシスの雰囲気だったので……というか、シスが良質な演劇作品における制作のモデルケースになっているということなのかな。あとあれだ、スタッフ陣の人選な

・IMM THEATER、座席配置とかはとても見やすくていいんだけど、とにかく動線が悪い。ロビーが狭ッ狭なのに入場口付近で物販してるからがめちゃくちゃ混雑するのね……他にスペースがないから仕方ないのかもしれんが、ひとの流れを考えると物販は外でやった方がいいのでは〜と雪もチラつくこんな日に思ってしまった。劇場設計難しい