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2024年10月25日(金) ■ |
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菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール『天使乃恥部』Day 2 |
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菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール『天使乃恥部』Day 2@I’M A SHOW
昨日とは違う緊張感と開放感。新曲を完奏したときの高揚感!
--- 菊地成孔(sax/vo/cond)・大儀見元(perc)・田中倫明(perc)・林正樹(pf)・鳥越啓介(cb)・早川純(bn)・堀米綾(hp)・牛山玲名(1st vln)・田島華乃(2nd vln)・舘泉礼一(vla)・関口将史(vc) ---
1000年後も聴かれていたらいいのになーなんて昨日思っていたら、「一万年、二万年と続けていく所存です」「三万、四万」「永遠に」とMCの度に時間がふえるわかめちゃんで涙ぐんだ。「その前にテメエがくたばってるって話ですが」。そうだな、聴いてるこちらもくたばってる。それでもここにある音楽は永遠に聴かれ続けてほしい。そのときの光景を誰も観られない。
ここんとこ絶好調だったソプラノにちょっと違和感があった。ヴィブラートとは違う震えがある。曲間マウスピースやキーを確かめるように触っている。どうしたんだろう? 楽器から何かが落ちてギョッとする。牛山さんが拾って渡す。「昨日終わったあとスタジオ入って練習してたんですけど、そのとき倒しちゃって」「慌てて確認して、そのときは大丈夫だったんですけどね……」「ステージで部品が落ちるなんて初めて。牛山さんに拾ってもらうなんて初めて」「人間もそうですよね、転んだり倒れたりしたすぐあとは『大丈夫大丈夫』っていってたのに、2〜3日経ったらあちこち痛くなるの」。あらー…おだいじに……。楽器もプレイヤーも繊細なもの。
「練習してた」って話にときどきハッとするのだが、そうだよ練習するんだよ、プレイヤーはよ。後半「音楽家がそういうこと考えないで音楽をつくれるような時代」の話をしてたけど、『アリとキリギリス』のキリギリスだって楽器練習してたと思うのよね。それをプッパラプッパラただ遊んでたみたいにいわれるの、すごい腹たつわー。あんたたちその音楽を楽しんでたくせにー! 寒いなか放り出して見殺しにするのかよー! ウチらが昨日「あーいい夜だった、明日はまだ仕事あるし、ごはん買ってもう帰ろ」つってたとき演者は練習しにスタジオに向かっている。はーしみじみ感謝してしまった。
余談だが『情熱大陸』出た辺りだったか、演奏以外のあちこちで忙しかった頃 「演奏させてくれ!」といってたそうだしなあ。練習だいじ。
テナーはだいぶ安心して聴けるようになった。やってる方がどうかはわからないが、身体の扱いに敏感なひとだから、チューニングを体得していってるのだろう。声もめちゃくちゃ出る。同じハコの2日目ということもあってか、楽団もPAも昨日より安定していた印象(昨日は昨日で初演のいい緊張感があったが)。それでも田中さんと鳥越さんは2曲終わったところで揃ってジャケット脱いじゃうし、沸点に達するのが早かったように感じた。それに呼応して客席も、昨日の緊張を解放するかのような盛り上がり。
脱ぐといえば菊地さん、最後「天使乃恥部」を唄い乍らジャケットを脱ぎ、タイを解き、シャツのボタンをどんどん外していくので何するんだと思った。ストリップみたいで面白かったですね。PTAにおける菊地さんのストリップ度の高さについて考えたことはあるけど、具体的に脱がれるとは思ってなかった(笑)。
話が逸れた。あれだ、初日ってやっぱり聴く方も緊張するんですよ。どういう始まりなのか、どういう曲順でやるのか、楽曲についてだけでなく演者が何をするか。警戒している、怯えているといってもいいかも。うっかり手を出したら指喰いちぎられそうじゃん…この楽団は怖いんだよ……。
「小鳥たちのために II」で堀米さんと林さんが叩き出す天使の鉄槌のような和音に慄き、「キリング・タイム」で田中さんと大儀見さんのセッションと、そこに展開のカウントを挿入する菊地さんのやりとりに涙する。そう、なんか泣いてしまった! そこには音楽しかない、あまりに美しい情景でな……伝われ〜! 美しいといえば菊地さんと早川さんと鳥越さん、田島さんと関口さんのユニゾンも。「アンリ・ルフェーブル」のユニゾンのスリリングなこと。これ完奏したときの、緊張のリリースっぷりがすごかった。DCPRGで「Circle/Line」を初めて完奏したときってこんな感じだったのかなあなんて思ってしまった。
新譜が出ない間、現在の編成でレパートリーに磨きをかけた。新音楽制作工房設立が、新しい風を吹き込んだ。これから新曲を磨いていく。ますますエレガントに、獰猛になるときが来た。馴れ合うことなく、「プライベートとか全っ然知らない」演者たちが、一堂に会したときにしか現れない音。そこに居合わせられるのは、決して当たり前なことではない。同じ時代に生まれてよかった。やがてこの楽団は消え、聴衆も消えてしまうのだ。しかし、音楽は残る。それを目撃出来る人間は誰もいない。永遠という言葉は、なんて残酷で甘美なものなのだろう。
この日の謝辞。まず、タキシードを誂えてくれた CLORK ROOMのテーラー、島田正史氏。続いて新音楽制作工房の面々(「アンリ・ルフェーブル」作曲者・丹羽武史氏、「闘争のエチカの歌」共作者・高橋大地氏、PTAに電化をもたらしたSatō氏。皆若い!)。そして、全ての始まりとなったブエノスアイレスの旅をセッティングした編集者・小谷知也氏、撮影者・在本彌生氏。菊地さんがこちらに手を差し伸べるから何? と思ったら真後ろの席のふたりが立ち上がったのでビックリした(笑)。クスクス笑ってらした。小鳥みたいだった。
告知含め沢山話すことがあったので、アンコールは1曲。「おやすみなさい」に続く全ての言葉に胸を衝かれる。全てのひとが安らかに、幸せに眠りにつくことを祈り乍ら、おやすみなさい。
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setlist
01. 闘争のエチカの歌 02. 京マチ子の夜 03. 私が選んだ貴方への頌歌 04. 小鳥たちのために II 05. アンリ・ルフェーブル 06. 嵐が丘 07. 色悪 08. キリング・タイム 09. ルぺ・ベレスの葬儀 encore 10. 天使乃恥部
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・菊地成孔さんからの手紙。┃Esquire編集部より。 ログ残ってた、全てのはじまり
・加入した頃は学生みたいだった早川くんの髪に白いものが混じり始めたのを見て時間を感じたみたいなこといってたなあ。しみじみ
・背後に天才(鳥越)がいる恐怖について。見えないところで色々やり出す、そしていつ何やるかわからないから怖いと。視界に入らない(背後なので)ためメンバー紹介を忘れる。客席から「鳥越さん!」「鳥越さん忘れてる!」と声が飛ぶ。一触即発なステージと客席で、たまーにこういうやりとりがあるところにちいさな幸せ
・新曲には関口さんのソロだけでなく、関口さんと田島さん、関口さんと舘泉さんのコンビネーションもフィーチャーされていたように感じました。「ガン○ム景気で雇用出来た、全員小学生の」(嘘)カルテットが楽団に加わってもう7年というところか。それ迄入れ替わり立ち替わりだったストリングセクションが、彼らによって定着した。新曲は彼らのために書き下ろされた曲ともいえるかな
・週末の銀座はどこも激混み。コリドー通りってこんなにチャラ箱あったんだ、昼間に通っても気づかないものだわ(笑)。結局ひと駅分歩き、新橋駅前ビル1号館の呑み処 圭で打ち上げ。ここ旨かったな……旨いところに鼻が利くひとがいる有難さよ
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