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2022年12月10日(土) ■ |
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小林建樹『冬のワンマン 〜UNERI〜』 |
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小林建樹『冬のワンマン 〜UNERI〜』@Com.Cafe 音倉
「あ、満月! だから今日『満月』やったのかな?」と一瞬思ったのだった。よく見たら欠けていた。定番曲だし、いつ聴けてもいいものなのだが、この日の「満月」は格別だった。いや、全ての曲が特別なものだった。暖かい会場を出てキリリとした冷気に触れ、夜空を見上げて帰る。なんて幸せなことだろう。しかもそれが、小林さんのライヴの帰り道だなんて。こうしたひとりひとりのちいさな幸せが、世界の平和へ繋がっていけばいいのになんてこと迄考えた。
「今年は、それはもう、ひどいことが沢山起こったでしょう。シャレにならないくらい。でもね、10年くらい経ったらあのときはたいへんだったねといえるときが来ると思うんです」。開演前、客席から程近い楽屋から発声練習が聴こえた。この日の声は、いつにも増しておおらかに、そして力強く響いた。
4月と8月のライヴ配信に続き、YouTubeチャンネルでの音声番組『ムーンシャインキャッチャー“R”』スタート、そして8年ぶりの有観客ワンマンライヴ。今年の春以降、驚く程(! それはもう驚く程! 二回いう程驚いてるわ)小林さんが活動的だった背景には、こうした「ひどいこと」に対して自分が出来ることを、という使命感があったのだろう。本人が「使命」を意識しているかは判らないが、自分が出来ることはこれしかないという、音楽家としての勘が働いたのだと思う。不安を抱えるひとたちに、少しの時間だけでも、幾ばくかの安らぎを。音楽にはそれが出来る。そして、それを行動に移せる者は決して多くない。
スクエアプッシャーのライヴを観たときにも思ったが、SNSに現れないからといって、音沙汰がないからといって、何もしていないなんてことはないのだ。彼らは日々音楽に向き合っている。リスナーの想像が及ばない地道な作業──努力といってもいいだろう──を、毎日コツコツと続けている。今の自分の身体が、かつての自分がつくった音楽をどのように鳴らせるか探求している。
単純にキーを下げるというが、移調は結構な手間がかかる。ギターはまだカポをかますという手があるが、ピアノは過去の手癖……というか、長年馴染ませてきた運指で弾くことが出来なくなる。6年前のライヴで話していたように、「オートマチックに演奏出来るようになる」迄、所謂“名もなき家事”のような細かい手直しを、ステージに上がる直前迄繰り返しているのだ。
星座のアルバムをつくっていると話していた。12星座をルールに則って分類し、そこへコードやリズムを充てていくという。一般的に知られている星占いだけでなく、自分で決めたルールによる分類もあるところがこのひとらしいが(星占いの知識かなりある方ですもんね)、そうした分析や実験を夢中になってやっていれば、そりゃすぐに日が暮れるし、気付けば何ヶ月も、何年も経っているだろう。音楽にどっぷり浸かっているだけで幸せなのかもしれないこの音楽家は、それでもステージに立つことにした。それは多分、人前でただ演奏したいという自分のエゴだけではない筈だ。
前半ギター、15分の休憩を挟んで後半ピアノの弾き語り。ステージにはアコギが2本用意されていたが、実際に使ったのはいつものグレッチのみ。一気呵成に演奏するので、集中力を切らさないため持ち替えないようにしているのかもしれない。ギターのときとピアノのときとで、ヴォーカルマイクのセッティングが違っていたようにも思う。ギターの弾き語りではキレのよいソリッドな返し、ピアノの弾き語りではエコーが若干強めで余韻の残る鳴り。
目を見開いて唄っている。珍しい。いつにも増して表情豊か。途中、顔がくしゃりと歪む瞬間があった。額の汗が目に入ったように見えたが、感極まって泣いているようにも見えた。あれは涙だったのだろうか。フロアを眺める、舞台袖へ何度も視線を送る。フロアはともかく、舞台袖に何が? と思っていたが、最後の挨拶で気がついた。あれはカメラを見ていたのだ。画面の向こうで配信を観ているひとたちへ笑顔を届ける。
うれしかったのは(まあどの曲もうれしいんだが)「Holy Night」をやったこと。以前ファンクラブの特典CDに収録されていた曲だ。歌に入った瞬間あちこちから息を呑むような声があがっていた。クリスマス前に粋なプレゼント。
とりとめのないいつものMC。ひとと会わない話。箱買いしたリンゴをひたすら食べ続けていたら口内炎が緩和した話(しかし薬を飲み続ける程痛い口内炎がずっと出来てるってどんだけ)。笑い声が何度も起こる。有観客ライヴでしか起こりえないやりとり。しかしそこかしこにハッとする言葉が潜んでいる。6年待ってる間に死んでしまうかもしれないじゃないかと怒られた。人間の土台はそのひとの過去でつくられると思っていたが、そうではないと気がついた。未来によってつくられる。未来に楽しみなことがあると、それだけで気分が明るくなる。そういうことでひとは変わっていく。そして今ここ。この瞬間の積み重ねで土台がつくられていく。「イチゴ」の話をする。一期一会。
次回のライヴ告知があったことも驚きだった。しかもそれが来月、高橋徹也さんとのツーマン! あちこちから悲鳴にも似たどよめきが起こる。6年前、『1972』以来のツーマンじゃないか。同い歳、同じ1月生まれ。そしてふたりとも左利き。この6年の間、あちこちで「また共演してほしい」という声を聞いた(というかSNSで見た)し、私もまたいつか実現すればいいなあと思っていた。簡単にそうならないことは分かっていた。その原因は主に小林さんだということも(笑)。
そんなこちらのやきもきした気持ちを知ってか知らずか、ふたりが連絡を取り合い、企画を練っていたと思うと胸が熱くなる。ダブルアンコールの前に「高橋さんとのライヴ、今曲順考えてて」とポツリ。「ひとと会わない」小林さんは、未来のために、今を積み重ねるために、ひとと会い音楽を届けようとしているのだ。
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setlist(☆ワンマンライブ感想と演目☆┃風の発光体 diary参照)
Guitar: 01. 素晴らしい日々(『リバース 〜Private Covers〜』) 02. コスモス(『Music Man』) 03. 約束(『Window』) 04. Mystery(『Mystery』) 05. Sweet Rendez-Vous(『曖昧な引力』) 06. 絵になる大人(『曖昧な引力』) 07. ピカレスク(『Music Man』) 08. カナリヤ(『Nagreboshi Tracks』) 09. ジョニークローム(『SPooN』) --- Piano: 10. Replay(『Blue Notes』) 11. イチゴ(『Rope』) 12. 満月(『曖昧な引力』) 13. ヘキサムーン(『Music Man』) 14. 祈り(『Rare』) 15. Holy Night(『Holy Night』) 16. 歳ヲとること(『曖昧な引力』) encore 1 17. 目覚め(『Music Man』) encore 2 18. String(『曖昧な引力』)
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「世界が激動している、うねっているということから今日のライヴのタイトルに『UNERI』ってつけたんです。『鳴門海峡』でもよかったんですけどね(笑)」というMCがあったのでした。「徳島に行ったの、おみやげ〜」とこのお菓子出されたときマジで変な声出たし笑ったわ……おいしかったです
・外が寒かったためか、会場のドリンク交換は暖かいゆず茶が大人気。「ゆず茶お願いしまーす」「もう一つ、いや二つ、ゆず茶大人気です!」。和むオーダーを飛ばすスタッフさんに、あちこちから笑い声。配信があるのは勿論うれしいし有難いけど、こうした記憶も“ライヴ”なんだよなあと改めて実感
・2023年最初のライブはツーマンです。┃風の発光体 diary 来月のおしらせ。「なぜか文豪がエレキギターを持って唄っている。しかし文豪なので少し俗物から浮いた言葉を使う。」!!! 何この斬れ味。最高か
・2023年、新年最初のライブが決定┃夕暮れ 坂道 島国 惑星地球 対して高橋さん、「勝手なイメージですが小林さんには妙な親近感も持っているので共演を楽しみにしています。」6年(年明けてからだから7年?)ぶりの共演、楽しみです!
・てか告知含め制作面で高橋さんがついてると助かるというか安心というか…かつて高橋さんにおける山田稔明さんがそうだったような気もする……そもそも小林さんと高橋さんが共演をきっかけにうっすら交流を始めたのって、山田さんを交えての[monologue]がきっかけでしたね(来年で10年!)。山田さんと鹿島達也さんにはホント頭上がりませんわ
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