初日 最新 目次 MAIL HOME


I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
kai
MAIL
HOME

2022年10月28日(金)
SQUAREPUSHER JAPAN TOUR 2022

SQUAREPUSHER JAPAN TOUR 2022@Spotify O-EAST


東京2日目(ツアー最終日)。

振替公演は、まず主催者が用意した申請フォームに希望振替日を入力送信することから。同時に、チケットを持っていたけどもう行かない/行けない人には払い戻しについてのアナウンスがあった。申請〆切日の翌日に、確定日のお知らせと、日時・整理番号が記された確認証画像の表示用URLが届く。結構いい番号だったので、振替の際変わっちゃったらヤダなーと思っていたけど、同じ番号のままだった。

さて当日、関所は3箇所。まずEASTの階段下で確認証画像を見せる→通常の入場口(階段上)でチケットをもぎる→ロビーでドリンクチケット購入。

最初のチケットが発売されてからかなりの時間が経っている。スマホの機種変更やアプリの更新忘れで電子チケット(Zaiko、スマチケ)を表示出来ない人や、振替日を申請することすら知らなかった人、果ては紙チケットを失くした人というのが一定数いた模様。振替日についてのアナウンスはしっかり行われていたと思うけど、それでも文句をいう人はいたようだ。2年半のブランクはやはり長かったなと思うが、ハード/ソフトが移り変わる早さも考えものだなと思う。都度対応していたスタッフの方々には頭がさがる。

今回は休みがとれなかったので(…)18:00の開場には間に合わず。18:15くらいになんとか入場、人波をかき分けフロアに向かうとまだ空き気味。18:30〜真鍋大度、19:00〜Hudson Mohawke、20:00〜転換、20:15〜Squarepusherとおおよそのタイムテーブルが周知されていたので、遅れて入る人も多かったのかも。最前(下手側端)を確保。ハッとしたのはフロアにバミリがなかったこと。後ろから押してくる人がいなくなったことはコロナ禍における数少ない好影響だけど、今回もバミリがないにも関わらず押されることがなかった。

入場BGMもクラブ仕様、この感覚久しぶり。思えばEASTに来たのは3年前の『WXAXRXP DJS』以来? このときTSUTAYAだったEAST、今ではSpotifyか……などと物思いに耽ったり、坂本龍一の「Rain」(『ラストエンペラー』ost)のリフをサンプリングしたミックスが流れて教授がんばれとしみじみしたり。ステージには既に要塞みたいなトム用のセットが置かれており、その前にDJブースが用意されている。トムのセット、お立ち台に沢山脚が生えたゴツいタチコマみたいだな…てか『ブルー・ソネット』のタランチュラだな……等と他人と共有出来なさそうなことを考える。この夏のフェス(Primavera Soundとか)から使っていたセットで、お立ち台が高いのでコーストのデカいフロアでも映えただろうな。

---

オンタイムで真鍋さんスタート。ブレイクビーツからアンビエントなサウンド迄、30分という短い時間で景色やストーリーが浮かぶような展開。起承転結のしっかりしたDJ。from Rhizomatiksなんだから自前のVJも使えばいいところ、オープニングを堅実に務めた印象だった。格好いい。ハドモが出てきて笑顔で真鍋さんの耳元で何か話し、ヘッドフォンを自分で繋いでから肩をポンと叩きハケていく。真鍋さん終了と同時に再度登場。律儀にマスクをしっぱなし。

この夏〜秋ホントよく聴いた最新作『Cry Sugar』からのナンバーを交えつつ、ハピコア通り越してバカコアみたいな展開でめちゃ面白かった。強制的に赤い靴履かされる感じ。Warpは変な子ばっかりいていいわね〜好き〜! VJも相当バカで、Aphex Twinからの引用かなというあの“顔”や、『Cry Sugar』アートワークのドラッギーな映像と速いBPMでアゲるアゲる。彼目当ての客も多かったと思われかなり盛り上がった。

余談。来日中のハドモのinstaストーリーズ面白かったな〜。呑みの画像は全てオールフリーや零ICHI等のノンアル、新幹線に喜び、富士山に喜び、買ったお菓子やら魚河岸に行ったのか水槽内の蟹を撮ってたり。トイレの流水音がRoland製だ〜! って動画も載せてた(笑・そりゃウケるよね……)。日本を離れた土曜には機内から「世界でいちばん高いタワー!」とスカイツリーを撮っていた。急遽決まったようだし結構無理してスケジュール入れてくれたんじゃないかなあ。楽しんで帰ってくれたのなら何より。

「ハドモよかったー!」てなザワつきが残るなか、スタッフがどやどやと出てきて転換開始。基本のセットは出来ているので、DJブースを片付けたり配線を直したりする程度。このときのBGMも、よりどりみどりのブレイクビーツでよかった。誰が選んでたんだろう。いつの間にやらマスク姿のトムが出てきていて、こまごま自分でセッティングしている。フツーにふらっと出てきたので気づいてない人も多く、気づいている人はそっと見守っていて、歓声も起こらない。いつものことですね(微笑)。今回はお面もマントもプロテクターもなく、物販にもあったWarpのロンTを着ていた。

---

Rhizomatiksとのコラボ「Terminal Slam」MVのセンター街映像がステージ背面いっぱいに映し出されると大歓声。天井高いと映える! コーストがなくなったのは本当に残念だし、大型レイヴが出来る屋内スペースが減ったことも大きな痛手だが、「Terminal Slam」を渋谷で観られたことは本当に嬉しかった。まるまる流される映像にしばし見入っていると、猫背でベースをだいじそうに抱えた長身がスタスタと出てきた。マスクは外している。手をあげ「こんばんは!」(日本語)。応えるフロア。どよめきのなか四つ打ちのビートが繰り出され、ベースがビートを刻み……ここでトラブル、音が停まる。再度仕切り直すもやはり停まる。だ、大丈夫?

しかしこういうときのトムは強い。冒頭ツイートの通り手をあげ「two minutes!」と叫び、お立ち台からの階段をタタタッと駆け下りてステージ袖にハケていった。軽い足取りで戻り、階段を駆け上がる。ソフトの再起動を始め、「カウントダウンして! こっちは英語でいうから皆は日本語で!」(英語)と腕を振る。トムは「ten!」といい、フロアは「じゅう!」という。なんじゃこの光景……楽しい〜! しかし「1」迄いってもソフトは立ち上がらず。あちこちから「がんばれー!」の声が飛ぶ。

……やだエモい、これ、初来日のときと同じじゃないの。いや初来日行けてないけど(てかフジの2日目で観るつもりだったんでLIQUIDROOM Shinjukuの前夜祭は諦めたんだよ)このときの音源は結構出回っていて(今でもYouTube等で聴けます)、何度聴いたかってくらいなのでよく憶えているのだ。今でもよく聴くし。このときトムはフロアから飛ぶ日本語に英語で返事をし、アンコールで湧くフロアに「one minite, 」と応えてセッティングをしていた。このときもフロアから「がんばれー」と声が飛んでいた。その後もフジや『Ultravisitor』ツアーでも「がんばれー」といわれていたな…何故……このときの様子も『Do You Know Squarepusher』や野良音源で聴けるので、気になる方は探してみてほしい。

ようやくスタート。トラックを走らせてベースを弾く……てかベース? それはベースですか? ピアノの音がします。スネアの音がします。シンバルの音がします。最初はトラックの方だと思っていたが、どう見てもベースと音が同期している。

いやさ……サンプリングした音素材をベースで鳴らしてるといえば簡単だけどさ、ベースの音程と実際に鳴っている音程が一致している訳ではないのよ。何をやってるかはわかるけどどうやっているのかがさっぱり分からない。チューニングしてたけどその意味は?……ここでハタと気付く。ちょっと! これ正に「Come on My Selector」MVの「何台もの楽器をどうやって一度に弾くんですか?」を体現してるじゃん! エモい!!! おまえ…何をやってる……最高か!!!(泣)

あっこのリズムトラックよく使ってたやつ! 『Ultravisitor』で全編使われてたスネアの音! 『Burningn'n Tree』のリズムが入ってる気がする……これ超〜初期のじゃない? 『Male Pill』シリーズ? この頃ってテープ編集してたんじゃなかったっけ? これらの音素材をいちいちサンプリングしたの(いやマルチから拾えるのかもしれんけど)!? そもそもレコーディングに使った機材の音をライヴ用にわざわざベースに置き換えてその場で“演奏”するって、バカなの!?(褒めてる)

ベースを置いて卓に向かってからもそれは続く。音素材の断片は既知のものでも、使い方は全然違う。聴き憶えのあるフレーズやパーツはあるけど、曲の成り立ちが音源とは全く違う。そもそももう違う曲だろ。殆どがインプロだったと思われる。そんでずっとBPMが速い。「Chin Hippy」くらいの速さがずーっと続く。しかし4〜8小節毎にキチンと展開やブレイクがある。割れる。こういうところ、通り名を体現している。スクエアだし、フロアを湧かせたい、観客が騒いだり笑っているとうれしい、という思いが素直に感じられる。何度も叫んでフロアを煽る(客を休ませない/甘やかさないともいう)。ビートはますます強力になる。

かろうじて原型が残っていた(何の曲かの判断がついた)のは「Anstromm Feck 4」と再びベースを持ってからの「Oberlove」「Nervelevers」、アンコールの「Come on My Selector」くらいか。最新作『Be Up A Hello』からの2曲はBPMも落とし、メロディの美しさを際立たせるサウンド。超メロウ。トムのロマンティストな部分が垣間見られた。

手首を骨折してからのトムがベースを弾くのは初めて観たので(一昨年のはDJセットだったから)まずはちゃんと(というのもアレだが)演奏出来ていたことに安心する。今回使用したベースは1本のみ、初めて見るもの。手首に負担がかからないように新調したものだろうかなどと思いつつ観ていたが、あんま関係なさそう…今のモードに合わせて自分で(ここだいじ)カスタマイズしたやつだな……と考えなおす。こことか後から見てトリハダ立ちましたよね……怖い! こんな魔改造したベース、2本はいらんだろう。

暴力的、破壊的と評されることも多いが、その裏にはこうしてベースを改造したり、コツコツプログラムを書いたりと、地道で緻密な作業がある。コロナ禍によるロックダウンがあったから、家にいる時間が長かったから、というだけではないだろう。いつでもトライアンドエラーを繰り返し、実験を重ねている。享楽的でもなく、破滅的でもない。

前述のハード/ソフトの話じゃないが、目まぐるしく更新していくエレクトロニックミュージックのシーンにおいて確固たる個性を持ち続ける。強烈なリズムトラックの創り手、優れたメロディメイカー、剛腕のベースプレイヤー。こんな音楽家、他にはいない。10代からレイヴの現場で育ち、ハタチそこそこでデビューし、膨大な作品を世に出してきたキャリアは伊達じゃない。

今のモードで『Big Loada』からのナンバー聴けたのもエモい(こればっかり)。「これまでにやってきた己の強みを再構築したデッキバトルという感じであまりにも強い。」というこの方のツイートに深く頷く。トムはいつでも“今”を見せてくれる。『Be Up A Hello』からのナンバーだって、延期されずに一昨年やっていたら全然違うものになっていただろう。

ライゾマのヴィジュアルもよかった。ハレーションギリギリなのに色飛びしないグリッチ。ビートと完全に同期していた照明との相乗効果も抜群。トムの音をガッツリ視覚化してくれた。当初とは違う会場で仕様諸々の変更もあったと思うが、素晴らしい仕事ぶり。

「ありがとう、東京!」(日本語)と叫び、マイクを持って真鍋さんを呼び込み(英語。ハドモはいなかったのか呼ばれなかった)、深いお辞儀を何度もし、大きく手を振り、フロアに手を拡げ、胸に手を当ててうんうんと頷き、最後は投げキッスもいただけました。手でハートマーク作ってた気もするがそれは幻覚かもしれん。前述したように今回はほぼ普段着、自然体に見えた。でも自然体でこんな音を繰り出し続けるって、恐ろしいことだよ……。は〜どっから切ってもトムだった。有難う! 有難う! エモが過ぎる! 気の早い話だけどまた来てね!

-----

・SQUAREPUSHER - JAPAN TOUR 破壊的なアンサンブルにフロアは爆発! テクノロジーを意識し、レイヴの狂騒にジャズ・ベーシストとしての技巧を重ね、エレクトロニック・ミュージックをライヴのダイナミズムで増幅!┃BEATINK.COM
BEATINKさん、ときどき惹句が煽りすぎ(笑)。
「過去曲のフレーズや初期のアシッド・ハウスを彷彿とさせるパーツを挿入する場面はあったものの、懐古的な印象はまったくない。テクノロジーを意識し、レイヴの狂騒にジャズ・ベーシストとしての技巧を重ね、エレクトロニック・ミュージックをライヴのダイナミズムで増幅させる稀有な存在であることをあらためて見せつけた」
駒井憲嗣さんによる1日目のレポート

・Squarepusher - @渋谷 O-EAST┃ele-king
「もうひとつ、さすがだなと思ったのは、おそらく大半の曲が未発表か、もしくはその場で生成したものだったこと。(略)スクエアプッシャーはあくまで前を向いている」
小林拓音さんによる1日目のレポート

・トムさんはSNS等に積極的ではないので、主に真鍋さんのinstaから動向を知っておりました。大阪は初日を終えての詰めがあったのか音沙汰なしでしたが、名古屋、東京は終演後呑みに行った模様。てか真鍋さんちょこちょこアップしてくれて有難う……(手を合わせる)。全てを終えての打ち上げでは座敷でくつろぐトムと、笑顔でスニーカーを手に座敷に上がろうとしているハドモの姿が。笑う

・てか靴を脱いで家にあがる日本式に戸惑って「靴下も脱ぐのか?」といっていた22歳が打ち上げの座敷でくつろぐ47歳に…感慨深い……いい加減自分が気味悪いが待った分いわせてくれ!

・いやそれにしても、ほんとBEATINKさんがんばってくれた。SMASHさんにも感謝、感謝です。これからも素敵な音楽を届けてください。足を運びます!