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2022年07月16日(土)
ジャンル・クロスII『導かれるように間違う』

ジャンル・クロスII『導かれるように間違う』@彩の国さいたま芸術劇場 小ホール


車椅子に、流れる血を表す赤いリリアン糸。さい芸の備品か、蜷川演出で使われていた小道具がちょいちょい出てくるのにニッコリしました。

作品そのものはシンプルなのです。カフカの『城』は入りたいのに入れないでいる測量士が描かれましたが、今作の主人公は、退院を告げられた病院から出たいのに出られない。気づけば彼を診ている医師も看護師も、実は患者のようで……?

作・松井周、演出・振付・美術:近藤良平。“ジャンル・クロス”の第二弾。諦観のなかの些細なもがきを描く松井さん、どん詰まりの日々のなかにささやかな幸せを見出す近藤さん。どちらの色も出ていますが、それが…うーん……足し算にも掛け算にもなっていないような印象を受けました。演者もいい人材が揃っているのですが、身体表現と台詞の狭間でもがいているようにすら見えてしまった。

こちらが観たタイミングが悪かったともいえる。現実に起こったばかりの凄惨な事件と、その背景が明らかになっていく過程のさなか。作品との符合を考えずにはいられず、そしてその現実はフィクションを凌駕するものだ。後ろ姿の“フィクサー”の肖像画(あれ、近藤さんですよね・笑)を見つめる。導かれ間違った道を歩んでいる観客は、国民は、足を止めることが出来るだろうか?

ピアノとトイピアノ(近藤さんならでは♡)と潮騒。サウンドスケープ(音楽:森洋久、音響:金子伸也)がいい仕事をしていました。スピーカー配置の妙も相俟って、高低差の大きいさい芸小ホールが開放的/閉鎖的な空間に変化する。聴こえるのは波の音だけど、森にいるようだった。

不条理こそが世界の本質。徳弘正也の『狂四郎2030』で(そうか、あの世界迄あと10年を切っているのだ)描かれたディストピアを思い出す。狂四郎たちが見出した解決策は「自分と自分たちの仲間を守れる場所へと逃げる」ことだった。暗黒へ堕ちてしまったひとを助けることはもう出来ない。権力から逃れ、徒党は組まない。個人で立つ。ジャンキーを助けることは出来ないと語る、フィリップ・K・ディックの『ヴァリス』の世界でもある。それはアナーキズムを意味するんだろうか?

「戰爭に反對する唯一の手段は、各自の生活を美しくして、それに執着することである。」この吉田健一の言葉は有効ではないという意見がある。これに続く言葉が「過去にいつまでもこだはつて見た所で、誰も救はれるものではない。長崎の町は、さう語っつてゐる感じがするのである。」だからだ。吉田健一は、現時点で国葬された唯一の総理大臣経験者・吉田茂の長男。過去に拘るか、過去から学ぶか。そんなことも考えた公演だった。

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・コロナ陽性者が出て数公演中止になっていました。今では珍しくないことだけどやはり残念だし、カンパニーのコンディショニングも難しいだろうな