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2021年08月22日(日)
『八月花形歌舞伎』第二部

『八月花形歌舞伎』第二部@歌舞伎座


きゃ、きゃわー! てなりましたよね。しかも舞踊劇、勘九郎さんが輝くに決まっとろうが。

たぬきが人間に恋をして。『仇ゆめ』は、歌舞伎座で以前勘三郎さんがやったときの舞台写真を見て知りました。確か他の部を観に行って買った筋書に載ってたんだな。これがまーかわいらしいたぬきでね、衣装も、化粧も、仕草も。深雪太夫は福助さんで。次かかったら絶対に観よう! と思っていたら、勘三郎さんが亡くなり、福助さんも長いお休みに入られた。地方の平成中村座ではかかっていたので、遠征してでも行けばよかった。その後中村屋兄弟の錦秋特別公演等にかかっていましたが、なんとなく歌舞伎座でかかるのを待っていました。そしてそのときがやってきた!


発表されたときはこんなテンションですわ。

久しぶりの歌舞伎座、感染対策も変わらずしっかり。まずは三遊亭円朝 口演より『真景累ヶ淵(しんけいかさねがふち) 豊志賀の死』、こちらも初見。おうおう悲しき怪談噺、今月は恒例の納涼歌舞伎ではなく花形歌舞伎と銘打っていますが、それでも夏らしい演目でにっこり。鶴松さんの新吉かわいい。で、鶴松さんと並ぶと児太郎さんのお久、大きい……体格のよい若者が女型を演じるときの悩みでもありますね。しかし身体をちいさく見せようとする所作の細やかさが感じられ、まあ昔でも高身長の女性はいたわよね、と思いなおすことも出来ます。円朝宜しく怪談を語る噺家さん蝶、勘九郎さんの軽妙な語りが光りました。しかしなんたって豊志賀、七之助さんの達者なこと。我儘エロババアの心根は寂しさで満ちている。幽霊への変化、お見事でした。

さて『仇ゆめ』。「ワタシ、たぬきです」ってな(いや正確にはこんないいまわしじゃないが)自己紹介から始まってもう笑顔。パステルカラーの拵え、かわいー! しかし終始ニコニコ……とはいきません。道ならぬ恋には試練がつきまとう、すなわちどうぶつぎゃくたい。揚屋の亭主ったら、「こらしめてやろう」じゃなくて「殴ってやろう」って笑顔でいうんだもんねー(泣)、扇雀さんいい笑顔ねー(笑)、ニンゲン怖い。「きゃあっ、獣の足跡がこんなに!」って場面には笑ってしまいましたが。気のいいたぬきは正体がバレているとは思いもせず、ニンゲンに踊りを教えて得意顔。深雪太夫の近くにいられてハートはドキドキ、しっぽはぴょこぴょこ。これらを着物の裾や袖を使って表現するのが巧い巧い、かわいいかわいい。

ほんで「千両箱」は中に千両入ってるから価値があるというのをわかっておらず(なにせたぬきですから)、箱そのものを探すってのがもう不憫で笑いを誘いますね。はーかわいい、はーかわいそう、はーかわいいそう。袋叩きの場面も鼓と笛による軽妙な音がつき、すっとぼけているのに哀れを誘うという、なんとも味わいのある演目でした。

一門での上演はもう何度もやっているので、満を持して歌舞伎座に持ってきたという感じでしょうか。阿吽の呼吸の舞踊劇、楽しいやら悲しいやら。七之助さんの女形二態も堪能。かたや嫉妬に狂う年増女の悲哀、かたや畜生に寄り添うやさしい太夫。恋が実らなかったたぬきに、自分の姿を重ねたのかもしれませんね。うぎゃーせつない!

この演目が中村屋ゆかりの、ということも納得。これは愛されますね。観られてよかった、また拝見したいです!

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・仇ゆめ(あだゆめ)┃清元曲辞典┃清元國惠太夫 OFFICIAL WEBSITE
今回の上演にも出演されている浄瑠璃方、清元國惠太夫さんのブログに『仇ゆめ』の解説と歌詞が載っていました。「畜生の身で 身の程知らぬと叱られましょうが」……拝読してまた涙

・一階の木挽町では作品にちなんだ地方のお菓子など売られており、休業している企業を応援しています。木挽町にはチケットなくても入れます、お近くにいらした方は是非……とはいいづらいにがまたつらい

・劇場側もキャパ50%で公演を続けているのでどれだけ利益が出るのかと考え込んでしまいます。歯ぎしりしたくもなる。なんとか踏ん張ってください