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2019年11月22日(金)
大駱駝艦 天賦典式『のたれ●』

大駱駝艦 天賦典式『のたれ●』@世田谷パブリックシアター


母は幕開けから死んだ存在だ。麿さんの出番は近作のなかではいちばん少なかったように思う。出て来ても舞台奥にいて、フィナーレ以外前方に出てこない。そのフィナーレでのソロがなんか凄まじくて……くるりと弧を描き、腕をすっ、と振る。シンプルで静かな動きのなかに時間と空間が生まれる。鳥肌がたった。

モチーフは種田山頭火。昨年麿さんが第一回種田山頭火賞を受賞したことから生まれた作品とのこと。放浪の俳人、煩悩に満ちた行乞にして「無駄に無駄を重ねた」一生。旅の途中にたちよるボロ宿は能楽堂を模している。そこに現れる死者たち。外では女たちが賑やかに朗らかに生きている。響くサイレン、近づく災禍。見ているうちにそれらが不思議と麿さんの人生にも見えてくる。サイレンを聴き、炎や降灰を不安そうな表情で見上げる登場人物たちはひとりひとり山頭火の句を詠みあげる。「けふもいちにち風をあるいてきた」「まっすぐな道でさみしい」「どうしやうもないわたしが歩いてゐる」……ひとつの命が路上にのたる。

麿さんの出番が少ないということは、それだけ艦員に任せられる実力があるということ。艦員=ダンサーたちの身体能力を思い知らされる。あの重心の低さ! 地面に張り付くような動き。腰と膝が、大地とまぐわっているかのよう。女性ダンサーたちの履いた下駄が鳴らすキュカキュカキュカ……という音が心地よい。我妻恵美子の下駄の歯が折れるというアクシデントがあったが、軽やかに乗り切っており見事。

ダンサーたちの体型=プロポーションは、日本に暗黒舞踏が生まれたときにはなかったものだ。腕、脚が長く膝の位置が高い。だんだん欧米のそれに寄ってきている身体による舞踏の行方に思いを馳せる。衣裳も華やか。腰布だけで踊る場面は皆無だった。世代交替、という言葉だけではくくれないが、新しいものが生まれてきているのは確かだ。今作の宣伝写真が荒木経惟ではなく大杉隼平だったことも、それを強く感じさせた。

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・第一回種田山頭火賞受賞 麿赤兒さんより喜びの声!┃春陽堂書店
「『賞』じゃなくて逆に『罰』だと思っています(笑)」。むちゃ読み応えあるインタヴュー

・開演前、SePTの方が「当劇場は音が大変響きます。携帯はバイブ音でもここ(1F前方)で鳴ると3F席迄聞こえます」といってた。具体例出すのはわかりやすいですね。ホントのところ音が響くとこじゃなくても電源切るのがあたりまえだけど、そういわないと伝わらないのだろうなあ、そして伝わらないことも多いのだろうなと思うとしょんぼりしますけど